神秘「ギルガメッシュ」   作:聖杯くん

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 毎日1話投稿の予定だったのですが、少し早めのクリスマスということで



天地乖離す開闢の星

「さて、原初の理を見せてやろう」

 

 圧倒的な数の武具を内包する神秘、王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)

 その最奥から取り出したという武器の名を、シッテムの箱は乖離剣エアと呼称した。 

 

 黄金の鍔と柄、剣身の部分は三つに分かれた黒い円筒状の形をとり、その上には赤い回路のような紋章が刻まれていた。

 シッテムの箱はこの武器を剣だと表示したが、私には槍や杖にも見える。

 

 話は変わるが、キヴォトスは文字通りの銃社会だ。

 これは、アメリカのように警察などが所持することで、銃が抑止力として機能する社会という意味ではない。

 キヴォトスの生徒は銃に撃たれても、普通の人が拳で殴られたくらいの怪我しかせず、喧嘩は銃弾を浴びせ合っても普通の範疇だと認識している。

 

 だが、そんな世紀末ものでしか見ない世界観のキヴォトスでも、剣が用いられることはない。

 その理由なんてものは、銃と爆弾の飛び交う世界大戦のことを思えば明らかだ。

 どこか日本を思わせる地域、百鬼夜行自治区にでさえサムライはいないし、忍者を目指す少女たちも、携帯しているのはクナイではなく銃である。

 

 それでも、ギルガメッシュは乖離剣こそが至高の財だと言い張った。

 ならば、考えられる可能性は一つ。

 乖離剣は、王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)を遥かに超える力を持った武器である。

 

 その予想を肯定するように、可愛らしいAI少女の声がモニターから聞こえてくる。

 

『あ、あれは一体何なんですか!? 宝物庫の鍵の方は何とか解析と演算が追いつきましたが、あの武器に関しては情報を読み取ることさえ出来ません!!』

 

「アロナ、どういうこと?」

 

『宝物庫の鍵も、何故か毎秒増える貯蔵数に合わせて、情報が変化する鍵なんて意味の分からないシステムでしたけど、あの剣については、本当に何もかもわからないんです!!

 ありとあらゆるアプローチを試みても、解析不可能としか返ってきません!!』

 

 幼い見た目と年相応の態度から忘れがちになってしまうが、アロナと彼女がOSを務めるシッテムの箱は、最高峰のシステムが搭載された端末だ。

 どんな端末へのハッキングも易々成功させ、逆に外部からのありとあらゆる干渉を防ぐ。

 さらには、戦場のありとあらゆる情報を読み取って、プロも顔負けな戦闘指揮を行う優れもの。

 

 そのアロナが解析不能と匙を投げるあの乖離剣は、果たして一体何なのか。

 

 答えを知るのはきっと、剣の持ち主であるギルガメッシュのみ。

 あるいは、それを元々知識として持っている者だろう。

 

「――まさか、あの剣は」

 

 木の人形の姿をとる奇怪な男、マエストロの体が震えていた。

 感嘆の息を漏らし、ヒエロニムスを出現させたときの熱量と同等、或いはそれ以上の興奮と共に語りだす。

 

「それは、かの叙事詩の再演か……?

 天地開闢以前、星があらゆる生命の存在を許さなかった地獄。

 生命の記憶の原初であり、この星の最古の姿を宿す武具だと?」

 

 相変わらず、こちらに理解させる気のない解説をするおかげで意味は分からない。

 だから、その凄まじさを心から理解できたのは、乖離剣の権能が振るわれたその瞬間だった。

 

 シッテムの箱が、突如として警鐘を鳴らす。

 

「!? ギルガメッシュ、危ない!!」

 

 再び蘇ったユスティナたちが、ギルガメッシュにその銃口の全てを向ける。

 対して、ギルガメッシュは乖離剣を手に持つだけで、構える様子すらしない。

 シッテムの箱を使って王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)を動かそうにも、モニターには何故か使用不可の文字が表示される。

 

 絶体絶命、ユスティナたちの一斉射撃がギルガメッシュに襲い掛かる。

 

 そして、私たちのいる空間が悲鳴を上げたのはその直後だった。

 

「一掃せよ」

 

 もしも、私がこの目で見た出来事が間違っていないのなら。

 ギルガメッシュの声に応えるように、乖離剣の三つに分かれた黒い剣が回転を始めて。

 乖離剣の回転は周囲の空気を巻き込んで、赤い竜巻にも似たエネルギーを生み出し、その冒涜的なエネルギーを爆発させた。

 

 爆発の直後、シッテムの箱に搭載された機能の内の1つである、所有者の命を奪いかねない攻撃から自動的に守ってくれるバリアが展開される。

 同時に、ユスティナたちが放った弾丸は、この世に存在した痕跡を残すことすら許されずに、その一切が消滅させられた。

 

 それだけではない。

 放たれた暴虐の風は、弾丸だけでなくユスティナ聖徒会にも破壊を(もたら)す。

 やがて、乖離剣の回転が治まる頃には、ユスティナたちは自らが放った弾丸と同じ結末を辿っていた。

 

『な、何ですかこれ!? ただの回転運動で、どうしてこんな破壊力が!?

 こんなの、剣なんかじゃありません!! もはや戦略兵器ですよこれ!?』

 

「凄い……。これが、ギルガメッシュ真の力?」

 

 ユスティナ聖徒会を一方的に殲滅し、ヒエロニムスを押さえつけていた王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)

 それ以上の破壊力を、僅かな力の一端で叶えてしまう乖離剣エア。

 

 最初、大人のカードの奇跡がキヴォトスの生徒をたった1人だけ呼び出したと知ったときに、心のどこかで抱いていた不安はどこにもない。

 むしろ、胸の中を占めるのは、これ程の力を引き寄せられる”奇跡”への恐怖。

 そして、これから繰り広げられるであろう、乖離剣の真価への畏怖だった。

 

 

「――裁きの時だ。世界を裂くは我が乖離剣」

 

 

 ギルガメッシュが、世界に宣告する。

 

 振り上げられた乖離剣が、再び回転を始める。

 空間が――、否、今度は世界そのものが悲鳴を上げる。

 

 シッテムの箱のモニターは、乖離剣によってもたらされる破壊の規模に警鐘を鳴らし、やがて完全に沈黙してしまった。

 直前に見えたメッセージによると、残った全リソースをバリアにだけ集中させなければ、私が無事では済まないと判断したらしい。

 

 前の一撃が竜巻なら、今は台風と比べても遜色ない暴威の嵐が、乖離剣を中心に渦巻いていた。

 その圧倒的な力の権化を、私たちは見守ることしかできない。

 

 それは、ユスティ聖徒会もヒエロニムスも同様で。

 

 ただ1人、マエストロだけを除いては。

 

「なるほど、間違っていたのは私だった!!」

 

 芸術家は叫ぶ。

 事ここに至って、黄金の輝きに見出した崇高を。

 

「人類の叡智、その集積体たるそなたの宝物庫!!

 語り継がれる記憶には無くとも、我々の遺伝子に刻まれた星の姿(乖離剣)!!

 人類の歩みの始まりと、積み重ねられた歴史そのもの(宝物庫)に比べれば!!

 我が作品など、”芸術”と呼ぶのもおこがましい!!」

 

 きっと、マエストロの頭がマネキン人形などではなく、普通の人間の頭部をしていたら。

 それはさぞかし素敵な、満面の笑みを浮かべていたに違いない。

 

 それだけの歓喜が、彼の声には込められていた。

 それだけの悲願が、彼の声には秘められていた。

 

「そなたこそ我らゲマトリアの、いや、”私”こそが求める崇高の形!!

 肉体の檻から解き放たれ、不滅へと手を伸ばし、有限が無限へと至り得る証明!!

 黄金の裁定者よ、どうかそなたの輝きを見せてくれたまえ!!」

 

「……ますます使う気が失せてくるな。

 全く、()が良すぎるというのも困ったものよ」

 

 熱に浮かれるマエストロの言葉に眉をひそめながら、ギルガメッシュの深紅の瞳は、ただ真っすぐに敵を見据えていた。

 

 不死身の軍勢――ユスティナ聖徒会。

 調印式をアリウスと共に制圧し、何度倒されようとも永遠に蘇る戒律の守護者。

 

 人工天使――ヒエロニムス。

 王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)の攻撃を幾度受けても倒れることのない、埒外の怪物。

 

 これまで散々猛威を振るってきた2つの脅威は、今や(マエストロ)とは対照的に沈黙を貫いていた。

 まるで、自らの終焉を悟り、裁定を待つ罪人のように。

 廻る乖離剣を中心とした、地下から地上へと届くスケールの暴虐の嵐を見つめながら。

 

 もし仮に、今攻撃を行ったところで、乖離剣に何もかもかき消されるのが理解できるから。

 

 全てを無へと帰す渦を掲げながら、ギルガメッシュはかく語る。

 

「エアよ。貴様も不本意であろうが、相応しき舞台はいずれ用意してやる。

 今宵はこの一撃をもって、これより始まる決戦の幕開けを謳うがいい」

 

 そして、裁きの鉄槌は振り下ろされた。

 勇者の一閃が魔王を切り裂くように、ギルガメッシュの一閃は世界を切り裂く。

 

 ユスティナ聖徒会が跡形もなく消えてゆく。

 ヒエロムニスが粉々に潰されていく。

 崩壊は古聖堂をも巻き込んで、僅かな痕跡さえこの世に留まることを許されない。

 

 終焉をもたらす、天上の地獄に与えられし名前は。

 

「いざ仰げ―― 天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)を!!」

 

 

 

 ☆☆☆☆

 

 

 

『――心から感謝しよう。先生』

 

『――不完全な姿でお見せしてしまったことは汗顔の至りだが、すぐに完成させてみせる』

 

『――芸術は無限へと至れることは、かの王が証明してくれたのだから』

 

『――では、先生。そなたに会える時を、心待ちにしている』

 

『――また、夢の中で』

 

 

 私と、アズサと、ギルガメッシュと。

 僅か3人だけが残された古聖堂で、最初に口を開いたのは。

 

『先生。マエストロさんの反応が消滅しました。

 直前に正体不明の力を観測したので、恐らくそれで逃走したのだと思います』

 

 アロナのシステム音声が、シッテムの箱越しに届く。

 しかし彼女の声は、なぜか端末の所有者である私にしか聞こえない。

 

『先生。ギルガメッシュさんは一体何者なのでしょうか……?

 いえ、先生を助けてくれたから、危険な人ではないと思うのですが、どうしても気になってしまうことがあって』

 

 シッテムの箱の画面に映されたのは、一般人の私には読み取るのがとても難しいグラフの数々。

 多分、ミレニアムあたりの賢い生徒たちなら理解できるのだろうが、残念なことに、私はそんな頭脳を兼ね備えていなかった。

 

『乖離剣エアと、その最大出力であると思われる天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)

 あの時観測された現象は、決して風の刃なんて単純なものではありませんでした。

 先生。あの時生み出されていたのは、時空断層というものです。

 空間の繋がりと時間の流れを切り裂くほどの力を持つ乖離剣。

 そして、その持ち主であるギルガメッシュさんは、あまりにも未知数と言わざるを得ません』

 

「ほう。そんなに(ワタシ)のことが気になるか?」

 

「――え?」

 

 いつの間にか乖離剣を宝物庫に戻していたギルガメッシュが、まるでアロナの言葉が聞こえていたかのようなタイミングで、私たちへと話しかけてきた。

 

 確かに、ヒエロニムスとユスティ聖徒会を撃退し、マエストロが撤退して安全が確保された今、改めて彼女が何者だと気になってくるのは、何もおかしい話ではない。

 

 例えば、大人のカードの事情を知らないアズサから見たギルガメッシュはどうだろうか。

 

 シャーレの先生の呼びかけに応じて、エデン条約やアリウスと何の因縁がないのにも関わらず、出自不明の出鱈目な強さで助けてくれた経歴不明の生徒。

 優しい彼女のことだから、改めてお礼がしたいとか、そんな理由で彼女のことを知りたくなってもおかしくはない。

 

 私にしたって、アロナから疑問を提示されなくても、同じ理由で彼女のことを知りたいと思っただろう。

 

 だが、今この瞬間のギルガメッシュの瞳には。

 明らかに狙ったような、そんな意図のような何かを感じるのだ。

 

「ギルガメッシュ、アロナの声が聞こえるの?」

 

「何も驚くことはあるまい。そもそも、王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)をその愉快な端末で扱えと指示したのは誰か忘れたか?」

 

 果たして、予感は的中する。

 

 そして、言われてみれば確かにそうであるが。

 しかし、根本にある疑問は解決していない。

 

「そもそも、どうしてシッテムの箱にアロナがいることを知っているの?」

 

(ワタシ)は万物を見通す裁定者だからな。

 単純に、そういう力を持っているのだとでも思えばよい。

 他にもいるであろう? 摩訶不思議な力を持った人物は」

 

 思い浮かぶのは、これまで関わってきた幾人かの生徒たち。

 

 ありとあらゆる料理を、ゲテモノに変える給食部部員。

 どんな端末の暗号も、いとも容易く解いてしまう元生徒会役員。

 さまざまな未来を、夢として見ることのできる生徒会長の1人。

 

 そのどれもが特殊能力と言っても差し支えなく、原理不明の力は確かに存在する。

 だから、そうだと言い張られてしまえばこれ以上追及することは叶わない。

 

「まぁ、最初の質問には答えよう。(ワタシ)が何者かについてだが……。

 そうさな。先に貴様のカードが、いかなる奇跡をもたらすかについて語る方が早かろう」

 

「――!?」

 

 予想外の言葉に、私は大きく目を見開いた。

 どんな状況をも覆す、奇跡をもたらす大人のカード。

 しかしてその実態は謎に包まれていて、その手の類に精通してそうな、マエストロたちゲマトリアさえ不可解だと匙を投げる代物。

 

 そんなブラックボックスの正体を、ギルガメッシュは知っているのだと言う。

 カードによってここへ来た生徒だからか、或いは特殊能力によって知ったのか。

 それとも、その両方が合わさったからなのか。

 

「そのカードは、貴様の縁を呼び水として、望んだ未来へ至るために必要な力を引き寄せる。

 具体的には、貴様が顧問を務めるシャーレの名簿が、縁を繋ぐ触媒として機能しているらしい。

 その中で相応しい生徒が自動的に選ばれ、時空を超えて霊体として貴様の元へ駆けつける。

 そして、奇跡をつなぎ止めるための縁は、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 明かされた奇跡の無法ぶりに、今日何度目かもわからない衝撃を受ける。

 空間どころか、時間すら捻じ曲げて、使用者に勝利をもたらす理外の力。

 

 そしてもう1つ、彼女の言うことが本当に正しいとするのならば。

 

「つまりギルガメッシュは、未来で私と出会う生徒だってこと……?」

 

 カードの力が、過去も未来も問わないのなら。

 呼び出される生徒が、連邦捜査部に所属している、あるいはいつか所属する人たちに限られているのであれば。

 これまで名前すら聞いたことのない彼女が、この窮地に駆けつけてくれた理由は、それ以外には有り得ない。

 

 ギルガメッシュは無言であったが、それこそが答えなのだと確信があった。

 しかし、全くもって想像がつかない。

 他の生徒とは一線を画した力を持つ黄金の少女。

 

 一体、どんな経緯があって私は彼女と知り合うことになるのだろうか。

 

色彩の嚮導者(プレナパテス)

 

「……?」

 

「もし貴様が奴を超え、その遺志を継ぐというのなら。

 運命に立ち向かう意思と共に、ウルク考古学校を訪ねるがいい。

 その時には、(ワタシ)と貴様の因縁が立ち塞がるだろうとも。

 ではな。それまで暫しの別れとしよう」

 

「あ、待って……!!」

 

 背を向けて、ここから去ろうとしたギルガメッシュに手を伸ばす。

 しかし、瞬きの間に彼女の姿は消えていた。

 まるで、最初からこの場にいなかったように。

 

『……どうやら、カードの奇跡の効果が切れたみたいです。

 恐らく、強制的に元居た時代に戻されたのだと思います』

 

「そっか……ありがとう、アロナ」

 

『ギルガメッシュさんが、未来で出会う生徒ですか……。

 それにしても、肝心の力の由来などに関してはぼかされましたね。

 なんだか、言いたいことだけ言われて逃げられた気がします』

 

「あはは……、確かにそうだったね」

 

 映像越しに頬を膨らませるアロナに、私は苦笑いで言葉を返す。

 ギルガメッシュと未来で出会うという情報のインパクトがあまりにも大きかったから、そのことをすっかり忘れてしまっていた。

 

「それにしても……」

 

『先生? どうかしましたか?』

 

「いや、ね? 未来も前途多難なんだなって思ってさ」

 

 私とギルガメッシュに待っているという因縁。

 あくまで予感に過ぎないが、何かとてつもない試練が待ち受けているような気がする。

 例えばそれは、あのギルガメッシュでさえ、単独では解決できないような敵だとか。

 

 それに、ギルガメッシュのことを除いても、まだまだ未来に待つ不穏な影はたくさんある。

 

 どこかへ去ってしまった、アリウススクワッドたちに待つ未来。

 マエストロから(ほの)めかされた、彼女たちを凶行に走らせた悪い大人の存在。

 各地に散らばる、神名十文字(デカグラマトン)に付き従う予言者たち。

 謎な部分が多い、ゲーム開発部の彼女の過去。

 

「そもそも、私は乗り越えられるのかな?

 生徒たちに降りかかる脅威を全てしりぞけて、ギルガメッシュと出会う未来に、私は――」

 

「先生」

 

「……ん、どうしたのアズサ?」

 

 たどり着けるのだろうか、未熟な私に。

 そう口にする前に、アズサが私の服の袖を少し引っ張った。

 

 サオリたちの時と同じように、こちらを心配してくれているのかと思ったが、それは違った。

 今のアズサは、ユスティナたちに挑むと決めた時と同じ、前に進む決意をその目に秘めていた。

 

「あまり賢くない私には難しい話は分からない。

 だけど、間違っていなければ、いつかギルガメッシュには会うことになるのだろう?」

 

 それについては、アズサの言う通りになるはずだ。

 でなければ、カードの奇跡によってギルガメッシュが呼ばれることは決してないのだから。

 

「この先の未来で、先生は多くの敵と戦うことになるのだと思う。

 外の世界を知って、私は幸福がこんなにもたくさんあることを知った。

 だからきっと、幸せと同じだけ、アリウス以外にもこの世界に潜む悪意はたくさんある」

 

 その言葉に、どれだけの思いが込められていたのだろうか。

 希望を抱くことを許されず、憎悪だけが許された世界(アリウス)

 想像を絶するほどの暗い世界に生まれて、それでも抗い、希望を抱いて生きると決めたアズサだからこその言葉の重みが。

 

 そして、絶望に屈しない意志の強さが、彼女の瞳に込められていた。

 

「でも少なくとも、ギルガメッシュと会うまでの敵に、未来の先生は勝っているはずだ。

 プレナパテスが、誰でどんな存在かは分からないけれど、先生ならきっと超えられる」

 

 だから、前を向いて生きようとアズサは言う。

 手を差し伸べて、どんな言い訳も諦める理由にはならないと口にして。

 

 

「だから、未来で待っている彼女を迎えに行こう。

 そして、今日助けてくれたお礼をするために」

 

 

「……あぁ、それは素敵な考えだね」

 

 誰よりも眩い彼女の手を取って、古聖堂の地下を後にする。

 

 まずは、地上で戦ってくれたみんなに会いに行こう。

 決着がついたことを伝えて、互いの無事を祝って。

 そして、これからの話をしよう。

 それが、果たしていつになるかは分からないけれど。

 

 

 ――いつか訪れる未来を、きっと迎えに行くために。

 

 




 次回、序章エピローグです。
 
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