神秘「ギルガメッシュ」 作:聖杯くん
『生徒たちを……よろしく、お願いします』
――その声に、私は応えた。
☆☆☆☆
「せーんせ、今日も来ちゃった」
今日は金曜日、そして時刻は夜の8時。
最近シャーレによく来てくれるのは、トリニティの杏山カズサという生徒。
放課後スイーツ部という部活に所属している彼女は、差し入れと思わしきケーキの箱を持って事務所を訪れてくれた。
「こんばんはカズサ。トリニティの様子はどう?」
「いつも通りって感じかな。空が赤くなったあの日が、まるで嘘みたい」
空が赤くなった日。
それは、このキヴォトスをとある強大な敵が襲ってきた日の出来事だ。
本当に、文字通りに空が赤く染まり、これまで私が戦った脅威たちを模倣した存在が、キヴォトス各地に出現し、侵略を始めた厄災の日。
つい数日前、キヴォトス中の全生徒が手を取り合って守り抜いたあの戦いは、何があっても忘れられそうにない。
「そういえば、あの時はみんなと一緒に戦ってくれてありがとう。
話は聞いたよ? まるで中学生の頃に戻ったみたいに大活躍だったって」
「なっ!? まさかナツのやつ、先生には言わないでって言ったのに……!!」
ところで話は変わるが、カズサは中学生の頃はスケバンだったらしい。
今は引退して、スイーツ部の皆と共に普通の日常を過ごしているが、当時はキャスパリーグなんて異名で恐れられる実力者だったとのことだ。
なお、本人はそのことを非常に気にしていて、心から隠したがっている。
そのため、カズサの推理通り、同じくスイーツ部の密告犯でもある柚鳥ナツは、後で彼女から締め上げられることになるだろう。
「でも、みんなを守るために戦ってくれたのは事実でしょ?
過去を見せたくない君が、それでもその実力を見せて戦ってくれたんだから、お礼くらい言わないとね」
「……ほんと、そういうとこだから」
何がそういうところなのかは、いつも決して口にしてくれないためわからないが、頬を少し赤くして恥ずかしそうにしているあたり、一旦怒りは収まったのだと予想。
せっかくだし、彼女とゆっくり話したいなとも思っていたので、一度、デスクの上に広がった本日最後の仕事に取り掛かる。
「先生、それは? なんか、どこかの学校のパンフレットっぽいけど」
「これ? 実は明日、この場所に視察に行くことになっててさ」
「え、嘘。土曜日なのに休みじゃないの?」
「これが、社会人の辛さだよね……休日出勤バンザイ」
パンフレットに載せられていたのは、まるで何千年も前に時間旅行をした気になるような光景。
他の自治区との交流を避け、自分たちの文化を守り続けた独特の世界。
その自治区の名は。
「ウルク考古学校」
『もし貴様が奴を超え、その遺志を継ぐのなら。
ウルク考古学校を訪ねるがいい。
その時には、
脳裏に蘇るのは、エデン条約の調印式の日に古聖堂で巡り合った彼女の姿。
あの時の奇跡を最後に、運命が交わることはなかった黄金の少女。
ギルガメッシュのことを、忘れたことは一度もない。
キヴォトスの空が赤く染まった日、
「どこそれ。私、聞いたことないかも」
「鎖国ってわかる? 他の自治区とは、物資のやり取りぐらいの最低限の交流しかしてなかったみたい。だから、かなり知名度の低い場所らしいよ」
実際、私もちゃんと調べるまではその名前を聞いたことがなく、自慢のサポートAIに調べてもらって、ようやく少ないながらも情報を得られた程度。
机の上に広げられたパンフレットに至っては、とある生徒に協力してもらって、ブラックマーケットと呼ばれる闇市経由で、自治区の生徒にしか配られないそれを、ようやく入手できたなんて経緯を持つ。
故に情報収集が中々進まず、本当はいつか
それからしばらくの時が経ち、情報が集まり、特別に自治区への入国許可をなんとか手に入れて、ようやく最低限の準備が整ったのが今日というわけだ。
「ふーん。でも、なんで急にウルクって所に行こうと思ったの?」
「……それはね」
思い出すのは、カズサが今日シャーレに来る少し前のこと。
『結末から言います。ギルガメッシュさんは、私たちの世界のシロコさんと同じ。
つまり、神秘が反転している可能性が高いです』
神秘の反転、あるいはテラー化。
それは、キヴォトスの生徒が深い絶望に堕ちることで陥る不可逆な現象。
生徒の力を反転させ、絶大な力を与える代わりに世界を破壊するための活動を強制させる力。
そう。この現象は、深い絶望によって引き起こされるのだ。
『これまでテラー化が確認された生徒のお2人は、元々戦闘力の高い生徒でしたが、反転によって、単独で世界を滅ぼしうる力を手にしていました。
ギルガメッシュの強さの理由も、これであれば説明できるかと』
『…………』
『私たちが襲撃した時以外で、テラー化を引き起こす”色彩”の出現は確認できませんでした。
ゆえに、何も起きていないと考えていましたが……』
『”色彩”でなくても、反転が起きてしまうことが分かってしまった』
大切な人を失くし、その贖いすら出来ない絶望に、一時的にとはいえ反転しまった生徒がいる。
彼女は無事に反転した状態から元に戻ることが出来たが、今重要なのはそこじゃない。
今この瞬間にも、私が知らない間にどこかで、誰かが絶望に呑まれて反転する可能性がある。
いや、もしかしたら既に、絶望が彼女を深い闇に堕としているかもしれない。
ならば、私のするべきことはたった1つだけ。
「――私は、生徒の力になりたい。世界を壊したくなるような絶望から、絶対に守ってみせる」
『生徒たちを……よろしく、お願いします』
そうだ、私は
キヴォトスの生徒を守り、いつか卒業の日を共に過ごすために。
「そっか、先生だもんね。
また、生徒のために無茶しに行くんだ」
「――カズサ?」
カズサの声が、甘い香りが、暖かな体温が至近距離で存在を主張する。
今、私はカズサに後ろから抱きしめられているのだと気付いたのは、数秒間の思考のフリーズからなんとか脱した後だった。
「今振り向かないで。さすがに、ちょっと恥ずかしいから」
「え? あ、うん……」
「先生が悪いんだよ? 今、どっか遠いところに行ってしまいそうな顔してたんだもん」
それは、果たしてどんな表情なのだろうか。
抱きしめる力が強くなるのを感じながら、私は耳元で囁かれるカズサの言葉を受け止めた。
「空が赤くなった日、先生が他の生徒を庇って宇宙に取り残されたって聞いてすごく怖かった。
D.U地区でデモが起きた日、先生が巻き込まれたんじゃないかってすごい心配した。
先生にはヘイローがなくて、銃弾一発で死んでもおかしくなくて、無茶なんてしてほしくないのに、生徒ためにって理由だけでどこまでも走って行っちゃう」
その声はどこか震えていて、カズサの不安や心配が強く伝わってきて。
「でもね、大事なこと言うよ?
先生は大人だけど、神様じゃない。
1人で無茶をして、キヴォトス中の生徒を救おうだなんて思わないで。
そんなの、シスターフッドが信じる本物の神様にでも任せておけばいいんだよ」
「……それでも、私は”先生”だから」
「むぅ。全然理解してくれないじゃん……」
大きなため息を吐きながら、カズサは私の首筋に顔をうずめる。
触れてしまっている猫耳の感触や吐息やらで、ちょっと変な気分になりかけるので切実に止めてほしい。
「なら、せめて今度も無事に帰ってきて」
「――え?」
それは、本当に小さな声だった。
まるで、一滴だけこぼれてしまった涙のような悲しい声。
だけど、私から離れたカズサの顔を振り返って見てみれば、そんなものを一切感じさせないような、いつもの
「先生がウルク考古学校での仕事を終わらせたら、2人でケーキ食べに行こ!!
今日持ってきたやつの、お店の中でしか食べれない味があってさ!!」
心配を隠しているのがわかる。
無理をしているのがわかる。
私の至らなさを、突きつけられる。
「……分かった。約束ね」
誰もかれもを救ってあげられる、そんな人間になれたらなと思う。
そうすれば、これまで力になってあげられなかった生徒たちは。
憎悪に身を焦がすしかなかった、アリウスの皆は普通の日常を送れただろうか。
世界を救うために、それ以外を敵に回すことしかできなかった、ミレニアムの元生徒会長は友情を育めただろうか。
後悔は積み重なるばかりで、それでも過去は変えられない。
ならばせめて、
未来前夜。
いつか迎えに行くと決めた未来の前の日の夜は、深く、深い闇夜に沈んでいった。
☆☆☆☆
■■■■■■は
ある時は、反転した死の神が全ての命を奪う結末を。
ある時は、目覚めた王女が世界を蹂躙する結末を。
ある時は、贄を取り込んだ大人が崇高へ至る結末を。
ある時は、ある時は、ある時は、ある時は――。
キヴォトスがいずれ辿り着く結末は、そのどれもが滅亡に続いている。
まるで、この世界そのものが滅びを望んでいるかのように。
(……今となっては懐かしいものだ)
■■■■■■は、かつて
そう。
”色彩”の影響を少なからず受けた今となっては、予知能力はせいぜい人より勘が良いだけの体質にまで弱くなった。
それは、エデン条約でのシャーレの先生の活躍。
アリウスのテロによってエデン条約が破壊され、世界が滅ぶ結末を何度も見ていた私は、その日まで未来を生きることを諦めていた。
けれど、先生は文字通りの奇跡を起こした。
いくつもの絶望を乗り越え、未来は捨てたものではないと身をもって教えてくれた。
だから、かつて見た
視界いっぱいに映る絶望が、そんな安寧を嘲笑うかのように広がっていた。
(……これはまさか、新しい予知夢?)
なぜ、失われたはずの予知能力が戻っているのか。
なぜ、今になって新しい
間違ってもこれが、かつて見ていたものを、もう一度夢で見返しているものであるはずがない。
何度も見せられ続けた、多種多様な終末。
滅びの形は千差万別なれど、物心付いた頃から見続ければ、いくつも『ダブり』が発生する。
単純な話、繰り返し見たものはその分記憶に刻まれる。
そうでなくても、世界の滅びなんて凄惨な映像は、一度見ただけでも中々忘れられない。
しかしこの予知夢を、■■■は決して見たことがないと断言できる。
きっと、この”男”を一度見れば、まず間違いなく忘れることは出来ないだろうから。
「――起きよ、エア」
黄金の逆立った髪と、全てを見通すかのような赤い瞳。
鍛え上げられた肉体を堂々と見せつけ、黄金の鎧を身に纏う姿は本物の王のようで。
「――原初を語る。天地は分かれ、無は開闢を言祝ぐ」
黄金の男が手にしていたのは、武器と呼ぶにはあまりにも歪なものだった。
持ち手は剣の柄のように見えるが、剣身はなぜか筒状になっている。
あれでは精々、棍棒のように打撃武器としてしか使い道はないだろう。
しかし、それでも■■■は一目見て、この武器こそが世界を滅ぼすのだと
「――世界を裂くは我が乖離剣」
剣が回転を始める。
それに応えるように、世界が悲鳴を上げる。
「――星々を廻す臼、天上の地獄とは創世前夜の祝着よ」
空間が壊れる。世界が崩れていく。
振り上げられた剣を中心に、銀河を模した莫大なエネルギーの渦が生み出される。
あぁ、それは確かに、今まで見たどんな滅びよりも一瞬で、絶大なものになるだろう。
――その直前だった。
「……さて、貴様がどこから見ているかは知らぬが」
黄金の男が、
途端、夢の中にあるはずのない全身が、恐怖で凝り固る。
それはかつて、夢の世界を彷徨っている間に、悪しき大人の集まるゲマトリアの会議を覗き込んでしまったときと同じ。
夢の世界で、■■■は余りにも無防備だ。
以前は脱出不可能な空間に囚われるだけですんだが、この男がその程度で済ませるとは到底思えない――!!
「――いや、今更貴様を害するつもりなど欠片もないわ。
されど、預言の大天使よ。この結末を超えるのなら、その目に焼き付けておくがいい」
返ってきたのは、想定とは異なる言葉。
■■■を認知すれど、干渉は行わず。
自ら滅びを引き起こしながら、それを超えてみせろと告げる。
その真意を■■■は理解できなくて、その解にたどり着くには時間が余りにも不足していた。
夢の滅びは、今訪れる。
「――故に、夢想なれど拝して征け。
我が
瞬間。降り下げられた剣から崩壊の嵐が吹き荒れ、そして――。
「――
いずれ、このキヴォトスを滅ぼす者だ」
ここまで読んでいただいた方に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございました!!
序章完結をもって、毎日更新は一旦お終いになります。
そして、これからの更新についてなのですが、実は私、このまま物語を書き進めてよいのか非常に悩んでおりまして。
正直に言いますと、読者の皆様がこの作品に求めているものと、自分が書こうとしている物とがどこかズレている気がしています。
良ければ、その点についてアンケートに答えていただけると幸いです。
改めて、ここまで読んでいただきありがとうございました!!
最後に、高評価やお気に入り登録、感想など頂けると幸いです!!
本作にどんな物語を求めていますか?(リメイク版の投稿も検討しています)
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このままでOK
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オリ主視点の無双もの(王の財宝完全開放)
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ギルガメッシュ本人がキヴォトスで活躍