Wish Upon a Star 100周年の幻覚 作:空っぽのティーポット
森の中にある小さな小屋
そこに住むロサス王国の住民アーシャは
「願いの力!なんて素晴らしいの!」と心から思っている少女だ
彼女は今夜が待ち遠しくて仕方がなかった
◆◇◆◇◆
「楽しそうだねアーシャ、なにか良いことでもあるのかい?」
「ううん、別に何でも」
何かを隠している様子のアーシャに
彼女の祖父、ザビーノのは気がつくも深く詮索することはなかった
何故今夜が待ち遠しいのか
それというのも今夜には『願いの儀式』と呼ばれる
ロサス王国で月の初めに催されている一大イベント『願い』が叶えられる日なのであった
なぜ彼女が 二ヶ月後である自分の『願いの儀式』ではなく
今夜が待ち遠しいのかそれは彼女の御年100歳になる祖父の誕生日だからであった
「うん、かっこいい」
祖父の節目の年
彼の身支度を手伝っていたアーシャはザビーノのケープをバッジで止めると満足そうに言った
今度は自分の身支度を済ませるべく立ち上がり姿見の前で回った
腰まである長髪を三つ編みにし肩から流すと
紫色の上下一対、ゆとりのある外衣、ワンピースを翻した
160前後の身長で一回転するその姿は見る人によっては一目惚れするだろう
それほどまでに華やかであった
「立派に育ってくれて」
「何よお祖父ちゃん、しんみりしちゃって」
そんな姿を見てザビーノは優しく微笑んだ
◆◇◆◇◆
そんなアーシャは月に一度の『願いの儀式』について”とある噂”を耳にした
その内容というのが『近頃行われる魔法使いの弟子に選ばれることで温情がある』と言ったものだった
そんな眉唾を本来アーシャは信じはしないが
今回ばかりは状況が手伝って、一抹の不安を払拭するためにこれに縋ることにした
「お誕生日に願いの儀式があるのは偶然じゃない。今日、願いを叶えてもらうのに誰よりもふさわしいのは」
自室を訪れたアーシャはメモをポケットに入れると
気分の高揚を抑えきれず今にも踊りだしそうな足取りを取り始める
「愛に溢れてて」
自室の棚に置いてある写真を手に取る
そこには『まだ幼いアーシャを大事に抱える初老の男性とハンサム』
三人とも眩しい笑顔をしており、幸せに溢れていた
「優しくて、ハンサムなザビーノお祖父ちゃん」
そんな思い出の一枚をアーシャは大切そうに抱くと机に戻した
感傷にふけるアーシャの足元から彼女が聞き慣れた鳴き声がして我に返った
黄色のつなぎを着た小さなヤギ、バレンティノが『メ゙ぇ』と鳴いていた
「あ、いけない!」
アーシャは急いで自室を後にした
◆◇◆◇◆
「あら、アーシャもう行くの?」
「あ、うん、ごめんなさいお母さん」
「いいわよ、アーシャが決めたことだもの」
急いだ階段を降りるアーシャを見かけた女性
アーシャの母親、サキーナは優しく返した
それというのもサキーナとアーシャは
ザビーノの誕生日には決まってケーキを焼いていたのである
「なんか怪しいわね、何を企んでるの?」
「え〜、あ、もう行かないと」
言い淀み、口ごもったアーシャにサキーナは悪戯に問いただしたが
話題を強引切るとアーシャは玄関へと向かった
「おや、アーシャもう行くのかい?」
「いってきます、ザビーノお祖父ちゃん」
玄関に向かうアーシャにざビーノが声を掛けるが
思惑が”バレて”欲しくないアーシャはザビーノの頬にキスをすると足早に玄関へと向かう
そんな様子を感慨深く眺めるサキーナとザビーノ
そして今夜起こることに思いを馳せながらアーシャは玄関に手をかけた
力を入れれば簡単に回るドアノブがこの時
アーシャにとってこれ以上ないほどに重く、そして固く感じた
「ザビーノお祖父ちゃん、サキーナお母さん」
アーシャはふと、感じた寂しさを振り切るように
二人に振り返ると
「愛してるわ、願いの儀式で」
そう言ってドアノブを力強くひねると飛び出していった
よく晴れた、とてもいい天気の青空のもとへと