異世界転生すると美少女になれるって本当ですか!?   作:DENROK

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本編(転移前~転移直後)
異世界転生すると美少女になれるって本当ですか!?


 

 

 

 

 綺麗な土地。汚い土地。そんなの関係ない。皆が居て、何らかの繋がりがあり、歴史は続いていく。

 誰もが夢見る勇者になっても、英雄として血で染められた旗を掲げても、全てが許された。

 敵を作れば(夢を語れば)居心地が悪くなり、味方を得れば(歴史を語れば)誰かを泣かせることができる。

 

 歴史は続いていく。その日が来るまでは。

 

 

 


 

 

 

 あの日の君が欲しかったものを、棚に並べる。

 血と汗で錆びついた道具は、今でも手に馴染むようだ。

 

「さあさあ、今日だけ、なんとこの装備が10億金貨だ!神器級(ゴッズ)のランスだよ!」

 

 喧騒を祭り囃子にして人々が行き交う街路の脇で、露天に立った店主が手を叩いて囃し立てる。

 行き交う人々は、この店に並ぶ商品と比べても全く引けを取らないだろう見事な武具を、それぞれが携えて歩いていた。

 

「まあ、いらねーよな」

 

 分かっていたかのように、店主は空を仰ぎ見る。

 

「でも、あたしは欲しいものがあるのよね」

 

 何の前触れもなく耳元から聴こえた声に、思わず店主は悲鳴をあげた。

 

 

 

 

 簡素な店先の商品棚を越えて、店主が立つスペースに乗り込んできたのは少女だった。パーカーのフードを頭に被せて、もじもじと指を突き合わせている。それ以外の衣服は見当たらない。パーカーの裾でギリギリ隠された足元に店主の目が行ってしまうのは、男の性だろう。

 

「実はちょっと、うちのギルド長、リーダーにプレゼントがしたいのよ」

 

 いじらしい話である。可愛らしい声で語られる内容に、店主は件のリーダーとされる人物に軽い嫉妬を覚える。自分のギルドはもう崩壊して久しい。

 

「羨ましい話だな。いったいどこのギルドだ?というかその姿。なんか覚えがあるぞ」

 

 店主は今日は特別な日なのでやってきたわけだが、前回から年単位で日が空いていた。この世界についての記憶も日々の生活に忙殺された結果すっかり摩耗している。

 

「あのね。うちのリーダーって、結構ものしりだし、よくわからないアイテムとか、集めてるのよ。あんまり使うことには興味はないみたい」

「ほーん」

 

 そのリーダーとやらの感覚を別に珍しいとは思わない。この世界には珍しいものは沢山ある。使い道がなくとも物珍しさを好む気質も店主には分かろうというものだ。

 この少女が仲間のために特別なアイテムを探す気持ちも褒められこそすれ、邪険にされるようなものではないだろう。

 

「モモンガって言うんだけど」

()ね」

 

 店主は全力で少女を突き放す──突き放そうとして、顎に固いものを押し当てられた。

 

「お、お前、DQNギルドじゃねーか!ちょっと感心してたのに!」

「いいからよこせって言ってるのよ。あんた。世界級(ワールド)アイテム、持ってるでしょ?」

 

 店主は両手を開いて頭より上に上げる。これは降参ではなく、顎に銃を押し当てることで起こる効果だ。自動的に対象の手を上げさせて動きを封じるのである。

 

「ここで攻撃して生きて帰られると思うなよ!お、おまわりさーん!助けてくださーい!警備兵!ちょっとー!」

「防犯ブザーでも鳴らす気?残念だけどこの拠点に警備兵はいないし治外法権よ」

 

 回りを見れば、慌てた動きをしてる者は一人もいない。詰め所から駆けつける兵士の姿も見えない。魔法が飛んでくる気配もない。

 

「は?なんで?」

「いつの話してんのよ、こんな都市の警備に金出すやつがまだ残ってるわけないじゃないの」

 

 ここは有名な人間種の拠点だ。有名だった。昔は。

 今は瓦礫が目立つ、手入れも碌にされていない。放棄された街である。

 

「はい、逮捕ね」

 

 店主の腕に輪っかが嵌められる。輪っかは2つあり、それらを鎖でつなげたものだ。要するに手錠である。

 

「俺は何もしてない」

 

 ネタアイテムではない。必要な条件を満たした場合。手錠は文字通り拘束効果を発揮する。英雄でも罪から逃れられない。背中から刺されるのは歴史が証明している。

 

「俺は何もしてない!なんだこれ!?外れないぞ!?」

「今あんた。あたしの身体触ってるでしょ。はい現行犯」

「お前が触ってるんだろうが!?俺は何もしてないぞ!!」

 

 少女の身体のかなり際どい部分に店主の手の甲が触れる。手錠の効果で動きが振り払えないので、無理に押し付けられるとこうなるのだ。

 

「おい!?なんか警告が出てる!おいやめろ!BANは嫌だ!嫌だああああ!!」

「あ~残念だわ。その前にあんたが隠してる物を出してくれたら、この鍵と交換してあげるわ」

 

 パーカーのジッパーを上げると、収まり切らない豊満の間に深い谷間が生まれる。そこに鍵を落として、少女は悪魔の取引を持ちかけた。

 

 

 

 

 

 


 

 

 化け物の巣窟は清潔で、人払いがされていて、そしてとても寂しかった。

 

「すいません。ちょっと今日は体力の限界なので、もう落ちますね」

 

 相手は淀んだ汚水に寒天を混ぜて造られたような姿で、そんな言葉を述べてくる。丁稚奉公に精魂が染まりきった声音は、常ながら力がない。

 そんな相手の事情を知り、自らも似た様なものなので、返す言葉は決まっているも同然だった。

 

「……はい。今日は話せて良かったです。お体に気をつけて下さい。ヘロヘロさん」

「そうしたいところです。では失礼しますね。モモンガさん」

 

 一瞬の間断もなく、相手の姿が掻き消えた。それだけ切羽詰まっているのだ。しっかりと布団で寝れているならば、まだ救いがあるが、もしかすると話していた姿勢のまま座って寝ているのかもしれない。

 

「さて……」

 

 己もまた。椅子から立ち上がる。そうして、視界を占める円卓から身体の向きを変えて床に飛び込んだ。

 

「もっと話したかった!くそ!これもリアルのせいだ!眠いのは俺も一緒ですよヘロヘロさーん!」

 

 本人には言えない本音を床にならぶちまけられる。

 

「まあいいか、話す機会ならまだあるだろう」

 

 椅子に座り直すと、次の来訪者を期待して待ちの姿勢だ。

 

「サトルちゃん?」

「ひょ!?」

 

 背もたれに寄り掛かって一息ついていたら、気配なく耳元に声である。何か生命の根源的な恐怖を呼び起こされる。

 

「ああ、はい。なんでしょうか?」

「どんな感じ?」

 

 肩に乗せられた少女の小さな手をはたき落として、モモンガは正直に答える。

 

「まあ数人ですよ。ははは……」

「数人()じゃないの?」

 

 全力で少女の顔面に手を押し当ててつっかえ棒の如く引き剥がす。

 しかし魔法職のモモンガではパワーが足りない。腕の骨から木材が軋むような音が鳴り、ホラー映画の幽霊に接近された心地になる。

 

「なによ~この手は」

「誰か助けてくれ!皆!誰か来てくれ!」

 

 洗濯板のようなむき出しの肋骨にグリグリと黒髪を乱して頭皮を擦り付けられる。

 これが逆の立場だと問答無用でアウト判定になるが、そこら辺の機微を完全に理解した所作であった。

 この姿勢だとパーカー一枚の防御力だと色々見えるが、謎の光が完璧な防御を実現する。*1

 

「ちょっと寝る」

 

 円卓の上に寝そべって、少女は動かなくなる。

 睡眠状態は不可能だが、目を瞑ってじっとしている程度なら接続は維持されるのだ。

 

「ここで寝るなよ……」

 

 問題はモモンガの膝の上に座って円卓に少女が突っ伏していることである。

 上等な衣服で厚着した骨格模型と簡素な薄着の少女の組み合わせは一種の神秘性を感じられるかもしれない。

 

「なんかお尻にゴツゴツしたのが当たってるんだけど」

「それはたぶん恥骨ですね。俺、骨なんで」

「ち◯この骨?」

「きっとそうですね」

 

 少女がフードに隠れた顔を後ろに向ける。

 

「小さくない?」

「おっと、そう来ましたか」

 

 ちなみにち◯この骨はないので、世界からの判定はギリギリセーフである。

 

「今日寝てないのよ。このまま運んで」

「へいへい」

 

 お姫様だっこ。ではなく両肩の上に人を横向きに担ぐファイヤーマンズキャリーで少女を運ぶ。男女アバターの場合は、お姫様だっこはエッチなので有罪なのだ。

 問題は運ばれる側が薄着すぎてこれはこれでかなり際どい当たり判定が発生することだが、モモンガはそこは慣れており、自らのローブの装飾部分で支えることで警察の目を欺いている。

 

「モモンガモモンガ、あたし、世界級(ワールド)アイテム、ゲットしたわよ」

「すごいですね」

 

 絨毯を骨の身体で踏みしめて進む。暗くて湿っぽくて、でも清潔感がある。計算された汚れ。

 造られた人の痕跡が、この場には満ちている。沢山の思いが籠もっているのだ。

 

「ほしい?」

「はい」

 

 足音からとても骨身とは思えないほどに重厚感を感じる。一歩の踏み込みも普段より短く感じた。目的地に辿り着きたくないのだろうか。

 

「今身に付けてるから脱がしていいわよ」

「まじかよ」

 

 なんか妙に重いと思ったら、コイツ、完全装備じゃねーか。

 

 

 

 

 

 プレイヤー同士で衣服を脱がすことは可能である。これは一種のフレーバー要素だ。最初期からある要素であり、パワードスーツなどの機械文明系の要素が追加されてさらに拡張されたという歴史がある。要するに一人では着脱が困難な西洋の全身甲冑の系譜に対して、フレーバー的に従者役のプレイヤーやNPCが着脱補助をするという遊び要素だ。

 そして少女は一種の全身甲冑の系譜を利用するビルドだ。つまりお医者さんごっこができるわけだ。

 

「インランさん。寝ないで下さい。あと少しですから」

 

 椅子に座らせた少女はぐったりしている。

 

「ん~ここどこ?」

「玉座ですよ。ほら足をあげて下さい」

「ん」

 

 外装統一を解除して、身につけていた装備が可視化されている。

 

「で、どれが世界級(ワールド)です?」

「ぜんぶ」

「ファッ!?」

 

 

 

 

 


 

 

「ってお前はインランじゃねーか!?生きてたのか!?」

「うっす。来たわよ。ひさしぶり」

 

 今では貴重となった。完全な姿を残す街並。最盛期を過ぎて分かったのは、街にとっての最大の敵は外敵などではなかった。時間である。

 人が居なくなり、原動力たる金が集まらず、膨大な拠点が歴史の闇に消えていった。

 しかし、この拠点は今でも金食い虫の結界が機能している。維持費が工面できているのだ。金の巡りが滞りがちな世界の中で、例外もあるということだろうか。

 

「マスター、いつもの」

 

 この酒場は歴史があり、店員もずっと同じだ。

 無言で頷くと、カウンターの下に隠された瓶を引き出して差し出してくる。

 注文した少女は、中身を小さなコップに注ぐと、手に持って丁寧に口に運ぶ。

 

「ふ、やはり酒は一番高いやつに限るわね」

「味も香りもしないぞ」

「気分って言葉知ってる?ほらこの、何?色とかいいじゃないの」

 

 フレーバーではあるが、金銭取引はあり、きっちり街の維持費に回されるのだ。要するに高額な酒はそれだけ大量の寄付金という意味になる。

 

「ねえ、なんか人少なくない?」

 

 少女がスツールを回して周囲を見渡せば、席が余っている。

 席に座っている男は、トレンチコートを着て、自分も美味そうに紹興酒を呷ってから、返事を返す。

 

「俺は探偵だからな。金払ったら答えてやるよ」

「これでもまだ多い方なんでしょ?それくらいは分かるわ」

「あの告知があったからな」

 

 肩を竦める男に対して、椅子を回して少女が身体を向ける。

 

「本気で依頼したいことがあるわけよ。分かる?」

「内容次第だが、それは本物の(・・・)仕事ってことでいいのか?」

「まあそうね。前金と成功報酬って感じでどうよ」

 

 探偵気取りの男は、姿勢を正した。

 

「聞こう」

「知りたいのは、アイテムの持ち主よ。まず──」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 なんだか頭が冴える。さっきまでの自分は何をしていたのだろうか。

 

「すーいませんでしたたたたた」

 

 骨を折りたたみ正座の姿勢。

 下げた白い頭に少女のおみ足を乗せられ揺さぶられる。

 

「変態」

「いえ、それは」

「変態」

「もうしわけないっす」

 

 パーカー一枚しか着ていないのに、そんな格好で相手の頭を踏めばどうなるのか。

 顔を赤く染めて(・・・・・・・)そっぽを向きながら、足の指で頭を踏みつけてくる姿が、不思議な気分にさせる。

 

 いい加減夢から覚めないかな。

 

 

 

 

 

「長い夢だな……」

 

 夢はまだ覚めない。

 

「サトルちゃん!ちょっと聞いてよ!」

 

「ねえ聞いてるの?」

 

「ギルド長~!モモンガー!」

 

 これ夢じゃないな。

 

*1
課金型の消費アイテム。一方的に覗き見されても残数が消費されるので、地味に索敵にも使える




 やはり書くのは楽しい。
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