異世界転生すると美少女になれるって本当ですか!? 作:DENROK
インランは、パーカーのフードを後ろに降ろした。
フードに隠していた黒髪が溢れる。黄色いリボンで彩られた二房のテールが、ゆったりと姿を現す。
その目はモモンガに向けられており、反応を探っているようにも見えた。
「大丈夫っすか?」
「うん」
ジッパーは一番上まで上げた。
パーカーの丈に不安を抱くのは初めてである。
「起きたらガツンと言ってやればいいんすよ」
「うん」
赤髪のメイドに返事を返すしかできない。
床に大の字で倒れる頭がない白骨死体を中心に、明かりが吸い取られるように薄暗くなっていく中で、傍に佇んでじっとしていた。
「やはりころすか」
抱いたことのない恐怖と、名状しがたい感覚に頭が混乱する。
「ヒェ……」
その何色でもない瞳に宿っていく何かは、感情を読むスキルに長けたルプスレギナをして茶化すことを憚る何かだった。
「やべーっすよ。滅茶苦茶キレてます。やはり強姦はだめっすよ。強姦は!」
「ちょっとルプー!なんてこと言うの!?至高の御方がそんなことするはずないでしょ!」
反論に対して、ルプスレギナは冷ややかに微笑む。
「でも、本当は皆もそう思ってるんでしょ?」
今回は余りにも慌ただしすぎた。至高の御方の命が掛かっている以上は当然だが、一体何が起きたのか皆が知りたいのだ。
となれば、噂が広まるのは仕方ない面がある。事件が玉座の間で起きたのも良くなかった。目撃したメイド複数人からの証言が広まるまであっという間である。
「玉座で眠るインラン様にムラムラして、モモンガ様が襲ったのよね?」
「そうらしいわね」
「じゃあズドンといったのは正当防衛?」
「いや~!これは荒れるっすよ~!」
姦しいメイドの集団の中で、特に赤髪のメイドは物凄く楽しそうに燥いでいた。
「統括殿!至高の御方がお目覚めになられました!」
嗄れた声で干からびたミイラの様な人影が叫ぶや、周りから一斉に歓声が上がる。
「……なんだ?」
肘を立てて軽く身体を起こす。慣れ親しんだ骨の身体だ。若干、首の座りが悪い気もするが、気にする程でもない。
「起きたのね」
「インランさん」
よく知る声の方を向く。何か違和感を感じる。
パーカーのフードを後ろに落としているから?フードがない分いつもより照明が当たりやすいのか、美貌も際立っているように思える。
腕を組んで、顔をこちらに向けない。服もいつも通りのパーカーだが、無理にジッパーを上げているせいで豊満な身体の輪郭がクッキリと浮き出ている。
顔もどこか赤く紅潮しているし。顔も仕草も、何かを我慢しているのかもじもじと小刻みに動いている。
「ん?顔?」
「何よ」
横を向いたまま目線だけこちらに流してくる。眉を下げながら、いわゆる流し目である。
それに、立ち姿が、おとなしい?覇気がない。内股になっているし。
「なんだ夢か」
たまにこういうの見るんだよな。欲求不満なのかな。
「治療に当たった者を労わねば。此度の働きはナザリックを守ったも同然です」
「そうね。本当に肩の力が抜けたわ。至高の御方を失わずに済んだのだから」
本来ならすぐにでも話を伺いたいが、今は同等の立場の御方が話をされている。主の邪魔をするなど下僕としてありえないことだ。
「お世継ぎができる可能性があることはとても喜ばしいのです。しかし。今回の出来事は問題なのも事実。何か我々にできることはないでしょうか」
アルベドが俯いていた顔を上げる。その金色の瞳には今までにない輝きがあった。
「私には腹案があるわ」
「なんと、それはどのような?」
同じ知恵者として、デミウルゴスはアルベドに一目置いている。この力の漲りよう。余程の自信と見た。
「我慢する必要がなく、何をしても問題ない相手を充てがえばいいのよ。そう、私のような……」
悪くはない。悪くはない案のはずなのだが、なぜか手放しに称賛してはいけない気がする。
知恵者デミウルゴス。女の情念には疎い。ウルベルト・アレイン・オードルが悪い。