わが君よ、願わくばなお一条の光を   作:川に揺蕩う論理の箱

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トーマス・スミス……ホロウの研究員。小説家。種族はライオンのシリオン。数々のホロウに関連した作品を作り上げる。フィクション、ノンフィション、ホラー、幅広いジャンルを書き上げた。なかでも彼が出版したホロウについての研究についてまとめた『ホロウ辞典』は10万部も売れ、大ヒット作となる。研究員としても優れ、生前に出したホロウについて考察はあとの研究者にも影響を与えた。


トーマス・スミス『ホロウ辞典』よりエーテリアスについて、また彼の生前最後の音声について

 

 

   

  エーテリアス

 

 われわれが生きる世界では必ず、自律し動き増幅する存在、つまり生物がいるというのはもはや常識ではある。よってホロウ(14p)という別世界にもその環境に適応できている生物もいるのも当然考えるべきことであろう。そこに住む生物、それがエーテリアスである。エーテリアスがはじめて文献として書き残されているのは『ニオベー氏の日記』第4書で、そこではエーテリアスとは頭はまるで花のようで、その中央にはブラックホール(あるいは)日食に似た球形がある、体は人のようだが、背中部にはワニに似た突起が立ち並び、片手は欠損していて、もう片方に黄色い剣に似たものが生えている、と描かれている。もちろん、今はこのような形態をしたものばかりではなく、多くの種類のエーテリアスが存在するが、これがはじめて確認されたエーテリアスの個体である。

 

 彼らの生態系は謎に包まれ、我々の叡智のはるか先にいるが、ひとつだけ彼らの繁殖方法が確認されている。それはエーテル適性がないものがホロウ内へ入ることである。エーテル適正がないものは侵蝕症状と呼ばれる体調不良を起こす。これは最初は軽症(吐き気や頭痛など)であるが、やがて重症(記憶障害・歩行困難・失神)となり、これを超えるとエーテリアスとなる。われわれの生命を及ばす化け物のひとつは人の成れの果てなのである。

 

 エーテリアスはさまざまな作家や映画家によって作品化されている。その中でもエーテリストホロウの解釈としておもしろいものがある。それは次のようなものである。

 

 ……………ホロウとは外なる神々が降臨したところである。あたりまえだが神はそこでも姿を表すことはなく、彼らはそこで普段は眠り、あるいは起きて自身の棲家を広げようとしている。その棲家を広げるのを手伝う下僕、または配下がエーテリアスである。そして、そのホロウ内部に入ったものは神に寵愛を受けることになる。それを受け入れたものがエーテリアスとなる。しかし、まれにその寵愛を拒むものがいる。それがホロウ調査員である。エーテリアスはこの神の寵愛を拒んだものに怒り、いわば彼らにとってのインベーダーを殺そうとするから、彼らはわれわれを見かけたら襲うのである。………………

 

 ニオベー氏はあとに悲しい結末を迎えるが、彼女の勇気ある行動によってホロウ内部に一部の特性が判明したことがわかった。この功績は讃えるべきことであろう。

 

 

 

 

 

 

 

 https://hollowarchive.org/thomas-smith-final-audio

 

  タイトル: 「彼の生前最後の音声」(とあるボンプの記録から抜き取ったもの)

  記録日: XXXX年7月15日

 

 

《音声開始》

 

 しばしのノイズ、その音には歩く音、風が吹く音、小さいものがぶつかる音、激しい息遣いが混じっている

『驚くべきことがおきた』

 2秒の沈黙、激しい息遣いは絶えずする

『今日の日付は────(雑音がひどくここは聞こえない)、天気は砂嵐、時刻は夜』

 ため息が聞こえる

『今日も変わらない』

 歩く音がしばらく聞こえる。

『記録は、残そうとは、思っていた。しかし、なにしろあんなことが起きたあとだったから、時間が取れなかった、だが───よしここにしよう』

 地面に座る音が聞こえる。ここで小さいものがぶつかる音は消える

『ちょっと待ってていてくれ、今から火をつけるんだ、ああ、くそ死ぬほど寒い』

 1分ほどの物音 

『よし、ついたぞ、ハハハずいぶん慣れたものだ、最初は本当にひどかった』

 安心するようなため息

『よし、さて、いいぞ、ありがとなチャティ、いつも助かるよ」

 数回の咳払い。その咳はひどく苦しげな様子

『大丈夫だ、大丈夫だ、チャティ、わたしは大丈夫だ。それより、これまでの記録をしないといけない』

 3秒の沈黙

『まずはじめにわれわれはいま人類の命運に、いや世界の崩壊に立たされている。旧文明の文献でラグナロクと呼ばれる伝説があるらしいが、いまがまさしくこのときである。エリー都はすべては崩壊し、火もあちらこちらについている。この世は地獄と化した。あるいは神の罰を受けた地というべきか?』

 5秒ほどの沈黙、そのあいだ何かをぶつぶつとつぶやく声が聞こえる

『やはり彼の解釈が、つまりアレックスの解釈だ。あれは正しかったのだろうか? 外にいる大いなる神々が降臨し、われわれを排除しようとしているのだろうか? 否、われわれを仲間にしようとするのではないか? 彼の言葉を借りるならば、われわれは外なる神の使徒となり、彼の幸福のため、彼の利益のために働く奴隷と化するのだろうか?』

 五回ほど咳の音

『わからない、わたしは長年、人類の可能性を信じてきて、同時に無神論者であったが、いまわたしには人間の可能性や神の不在というものを信じれなくなってきた。あれほど強固だと思ったエリー都は一夜にして滅んだようにわたしの価値観もあの日で崩れ落ちた。いまでもあの日を覚えている。いつもの日だった、目を覚まし、トーストを焼き、そこにバターを塗る、ベーコンエッグを作り、オレンジジュースを入れる、そして、ニュースをみる、すると、どうだ、ジャーナリストが深刻そうな顔を浮かべ、ご注意ください、ご注意ください。ホロウ災害が迫っています。エリー都市民の皆様は………… といっていた。わたしは大丈夫だと思っていた。ここからは警報が聞こえなかったし、なによりエリー都には数々の戦線をくぐり抜けた猛者がいたからだ。しかし、』

 何かの液体が地面に散らばる音 何度も咳をする音

『────ああ、くそっ、時間がない、やめよう、とにかくエリー都は滅んだ、ホロウに完全にエリー都はつつまれ、わたしたちは逃げた、バラバラに逃げるもの、集団に逃げるもの、………わたしは前者であった。ひとりで、まあチャティ君はいるが、逃げ、そうして、わたしはここにいる。それがこれまでの経緯だ』

 数秒の沈黙

『すでに気づいていると思うが、わたしは侵蝕症状にかかった、ステージとしてはⅢぐらいだろう、もう間も無くわたしは記憶障害や歩行困難を起こし、この身は滅びるだろう、しかし安心してくれ、エーテリアス化はホロウ内でしか起こらない、だから安心してくれ、どこかの────(雑音)が────(雑音)を信じて、殺したことがあったが、それは根っこからの嘘だ、迷信だ、どうかこれを聞いたものはこのことを知ってほしい』

 咳の音、ンナ、ナナと心配する声

『いいんだ、わたしはこれを伝えないといけないんだ。それにしても、まさかわたし自身がニオベー氏のようになるとは。人生とはまさかに複雑怪奇だな、まあいい、いいか、諸君、わたしは『ホロウ辞典』というものを出版し、それが爆発的に売れた、そのなかでわたしはただホロウについて事実と面白い解釈などを書いたが、ここではわたしなりのホロウの考察について言おう。

 まずは、大前提から話そうと思う、ホロウとはある日突然出現した異次元世界、すべてを飲み込む超自然災害だ。おおよそ、そこはわれわれが住む世界の法則は通じず、あそこに満ちるのはエーテルと呼ばれるエネルギー物体と化け物だ、知的生命体はエーテル物質に長く触れることでエーテリアスと呼ばれる化け物となる。それ以外にも細かいところがあるが、まあこれぐらいでいいだろう、なにしろ時間がないんだ。知っている人もいるかもしれないが、わたしはホロウについて長く調査を進めてきた、虚狩りのひとり、ホロウの特性についてさまざま明かしたアーチ教授と比べたら、まあそこまですごい人ではないだろう、しかし、わたしは腐っても研究者だ。研究につれてホロウのひとつの見解が調査によって浮かんだ。

 それは──────

 

 ここからは不自然な雑音でひどく聞こえない。雑音は何分も続き、やがて音声終了となった。

 

 《音声終了》

 

 

 




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