つらかった
今日は満月だ。こんな日には月を見上げながら一人酒をあおるに限る。
店の裏に建ててある小さな家の縁側に一人座って、以前萃香からもらった酒の瓶を傾ける。
青い硝子で作られたグラスに満月が映り込んでなかなかに風流だ。
「つまみがほしい…」
この辛口のきっつい酒をただちびちびと飲んでいるだけではすぐに喉が別のものを求めて疼いてしまう。そういえば一日寝かした方がおいしいので明日のために寝かせておいたチーズケーキがある。多く作りすぎてしまったぐらいなので、少しぐらい食べてしまっても問題はないだろう。
思い立ったらすぐ行動だ。甘酸っぱいラズベリーのレアチーズケーキと日本酒のコラボは一見変に見えてとてもあいそうだ。
いったんグラスをわきに置いてたちあg「こーんばーんわーーー!!!!」
「どわぁっ!?」
いきなり聞こえてきた大声にびっくりして後ろにひっくりかえりしたたかに頭を打ったのだった。
「わわっ!!すいません!!大丈夫ですか?」
心配そうに声をかけてきたこの子は幽谷響子、軽いウェーブのかかった緑の髪に犬のようなたれ耳を持つ山彦の妖怪だ。最近このあたりにできた新しいお寺に住んでいて訪れるたびに元気な挨拶をしてくれる。
「やはり君は面白いね。さっきまで落ち着いて酒をあおっていたとは思えないほどのいいリアクションを見せてくれる。」
クスリと笑いながら奥から出てきたのはネズミの妖怪ナズーリン、背丈は小さいながらも、その灰色の目の中に光る余裕を持った瞳は彼女が相当な切れ者であることを思わせる。
彼女もやはり命蓮寺に住んでいて、そこにいらっしゃる毘沙門天の化身の従者をしている。
じつはその命蓮寺が復活するときに自分も少しかかわっており、僧侶の聖白蓮さんに気に入ってもらえたらしく、しばらく体験入門と言って仏教の世界を体験させてもらうことができた。お店のことがあるので入門はできなかったが、とても良い体験になったと思っている。実はその中で少し悩みがあり、そのことについて悩みを聞き、解決してくれたのがナズーリンだった。それからよく話すようになり、今では大切な友人の一人だ。
「うるせぇナズーリン、まさかこんなサプライズがあるとは誰も予想つかないだろうが。」
「君は本当に馬鹿だな。いつもそのくらいは覚悟していないとこの世界では生きていけないぞ?」
「そんなハードモードな世界ねぇよ。そういうお前だってこの前飛び上がった直後にスカートを枝に引っ掛けて破いて涙目になりながらワタワタしてたくせに、注意力が足りてないのはどっちだよって話だよなぁ?ねー響子ちゃん。」
「なっ!?その話は忘れろと何度もなんっどもいったはずだよ。女の子のそんな話を持ち出すなんて本当にデリカシーがないね。今ここで死にたいのかい?なー響子」
「女性として扱ってほしいのなら、死にたいのかなんて言ってないで少しは恥じらいを覚えた方がいいとおもうよなー響子ちゃん」
「え...あの...その...うぅ」
響子ちゃんがさすがにかわいそうになってきたのでナズーリンに目で合図して言い争いはここまでにして2人分のグラスと三人分のチーズケーキを持ってくる。
一人で飲むのもいいがこういうのもいいかもしれないな...
Sideナズーリン
「すごいです!今まで食べてきたものの中で一番おいしいです!」
そんな声が聞こえてくる。
その声を聴きながら彼の運んできたチーズケーキを口に運ぶ。驚くほど濃厚なチーズの味がするのにラズベリーのおかげでさっぱりとしていていくらでも入りそうだ。酒を一口に含むとさっぱりとした辛口で口の中を洗い流してくれた。
そっと横目で彼の方を見る。響子は彼にすごくなついていて今も彼のチーズケーキを絶賛して頭をなでてもらったらしくなでられたところをそっと触りながらえへへと小さな声でつぶやいている。正直うらやましい。
「明日客に出すものをこんなとこで出していていいのかな?」
「いいからだまって食えお前チーズ好きだろうが。」
違う!私が言いたいのはこんなことじゃないのに!昔はこんなんじゃなかったのに!
彼と出会ったのはまだ聖が復活した直後のことだった。
聖やご主人は彼のことをひどく気に入り、いつも体験入門にきている彼のことを気にかけていた。
二人からほぼつきっきりで説明を受けたり修行をする彼。
美人に囲まれて男としてはこれ以上ない天国だろう。
「聖の復活を助けただかなんだか知らないけど幸運な人間だね。」
この時の私はこのぐらいのことしか彼についての印象を持っていなかった。
ある意味当たり前のとこだったと思う。
だが彼の瞳が時々映すかすかな曇りのようなものが気になっていた。
「君はどうして不満そうな眼をするんだい?復活を助けた恩人として皆から感謝され、修行をしていれば、美人がいつも気にかけてくれる。これ以上何を望むんだい?」
気になって彼を一人呼び出し聞いてみる私、すると彼は少し周りを気にした後静かに話し出した
「自分は復活を進んで手伝ったわけではありません。たまたまかかわってしまっただけなんです。それなのに皆さんは感謝してくださいますし、復活したばかりで他にやることも多いでしょうに聖さんも星さんもただの体験者の俺を気にかけてくださって...そんなことで罪悪感を感じてしまって修行にも専念できない自分にも嫌気がさして...」
正直びっくりした。彼の瞳を濁らせていたのは不満ではなく過ぎた思いやりだったのだ。
助けたことに変わりはないのに、馬鹿な人間だともおもった。
だが、この時私は確かに、
「気にすることはないさ、それに君がそんなことを気にしていたら彼女たちの親切も無駄にしてしまうよ?それに息が詰まりそうになったら私の所へ来るといい。私ぐらいは気のおける話し相手になってやるさ。」
目の前にいる彼に小さな好意を抱いたのだった。
それからはあっという間だった、彼と話すうちに、彼のことをたくさん知っていき、好意は募る一方だった。
それと同時に私の心はどんどん素直じゃなくなっていき、気付けばこんな関係になっていた。
賢将が聞いてあきれる。結局私は素直になれない臆病者の鼠だ。
グラスの中をのぞく、そこ広がる水面に素直に彼に甘える自分が写っている気がして、それをかき消すように酒をのどに流し込んだ。
Side葵
響子はもう柱に頭を預けてねてしまった。あとでナズーリンに持ち帰ってもらおう。
そのナズーリンはさっきから無言でグラスを傾けている。いつもはこんなに飲まないのにな、何か嫌なことでもあったのだろうか?
「あおいー きみものんでるかい?」
そういって顔をぐっと寄せてくるナズーリン。目はとろんとしてて焦点が合っていない。相当に酔っ払っているようだ。そのまま寄りかかってきた、酒のにおいがする
「...撫でろ」
「へ?」
つい間抜けな声が漏れた
「だから~、私を膝にのせてそのままなでろと言っているんだ!」
そういっておぼつかない動きで膝の上に登ってくるナズーリン
しかし彼女がなでろとは...よっぽど深刻な悩みでもあったのだろうか
「は~や~く~!!」
普段のイメージとはかけ離れた様子で足をバタバタさせる彼女、かかとが脛にあたっていたい。仕方ないので彼女の髪をすくような感じでゆっくりと撫でてやる
「えへへ...普段から君はそうやっていればいいんだ。」
ずいぶん上機嫌な様子で後頭部を擦り付けてくる。
賢いおかげで普段は隠れているが今の彼女は、まぎれもなく幼い少女だった。
周りから頼りにされている彼女は、誰かに頼るということに慣れていないのかもしれない。
それはとてもつらいことだろう。
「お前が昔俺にしてくれたように、悩みがあるなら俺が一緒に考えてあげるからな?
少しぐらい誰かに頼ってもいいんだぞ?」
そういって髪をくしゃくしゃと強めに撫でまわす。
「君は本当に...ばか...だな...」
彼女はそういうと全体重をこちらに預けてうつむいた。それでも小柄な彼女の体は驚くほど軽い。
どうやら今日は帰るのは難しそうだ。二人をベットまで運んでイスで寝よう。
でもその前に...
「だいたい君はだな.......................................」
目の前の彼女が眠るまではそばにいて撫でていてあげようか
響子ちゃんがなんか引き立て役みたいになって申し訳ない
今度メインで描くから...たぶん
S君とKさんに幸あれ