救世主転生 ~死にたくなかったので、勇者覚醒イベントの攻略不能ボスを倒して勇者を救おうと思います!~   作:嵐山田

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第二十六話 ユメの過去

『あれはもう、あまりにも昔のことじゃ』

 

 ぽつりぽつりとユメは語りだす。

 

『当時ここは魔族による魔物の研究施設として使われていたのじゃ。あの頃は活気もあって賑やかじゃった』

 

 真剣な声音のユメに俺も無言で続きを促した。

 

『だが、ある一人の研究者が魔物の増殖実験を無断で行ったのじゃ。その結果爆発的に魔物は増加し、魔族は研究対象に踊らされるような状態になった。その時に苦肉の策として用いられたのが、魔物に転移魔方陣を覚えさせて勝手に何処かへ飛んで行ってもらうという方法じゃ』

 

 !?

 グレムリンの転移魔方陣はそういう経緯があって使えるようになったのか……。

 ということは俺がここに飛ばされたのは単なる偶然?

 

『だが、それでも焼け石に水じゃった。ゴブリンやオークなどはあり得ないほどの勢いで増加していき、この地はやがて戦場となった。それからは魔物も魔族も血を流し続ける地獄の戦いじゃった』

 

 ユメの刀身が怯えるかのように微かに震える。

 それでも語る口は止めなかった。

 

『特に死線を生きようとする魔物の成長力はすさまじく、ゴブリンレッドキャップやオークロードと言った最上位種と呼ばれる魔物が誕生するようになっていった。そのまま激化した戦争を見かねた邪神がこの地に溢れ、死んでいった魔族や魔物の魔核を用いて作ったのがワシなのじゃ……』

 

 ……こいつ、調子のいい奴だとか思っていたけど相当な過去を背負ってるんだな。

 

『邪神がワシを一振りするとこの階層と他の階層のつながりが切れた。さらにもう一振りでこの階層に残っていたすべての命が終えた。そして戦争は両者の敗北という形で終結し、この地は半ば封印されたような状態になったという訳じゃ』

 

 まさか、魔族と魔物が争ってそれを沈めたのが邪神、しかも直接手を下して、だったとは。

 ここが6階層ということが事実なのかという話からだいぶ飛躍しているが、それがこのダンジョンの歴史であり事実なのだろう。

 

「お前は邪神に作られたのに、俺の刀になっていいのか?」

 

 過去の話しには、何を言っても安い慰めにしかならないだろうと思い、俺は次の質問をした。

 

『お前じゃない!貴様がワシに呼び名を付けたじゃろう!』

 

 なんて思ったが、余計な気遣いだったかもしれない。

 呼び名をつけてやったことが余程嬉しかったのだろうか?

 ユメからはすでに確かな信頼を感じる。

 

「そうだな、ユメ。なぁ、ユメ?実はこの呼び名、相当気に入ってるだろ?」

 

『な、なんじゃと!?……そ、そんなことないわっ!ワシにはれっきとした夢幻刀陽炎と言う名が……』

 

「じゃあ、そう呼ぼうか?」

 

『む、むぅ……貴様!意地が悪いぞ!』

 

「はははっ、ユメは可愛い刀だな。それと俺はロティスな?」

 

「なっ……」

 

 そう言いながら鞘越しに刀身を撫でてやると、恥ずかしさ半分嬉しさ半分と言うような温かい感情が流れ込んできた。

 

 ◇

 

「なあ、ユメ」

 

『なんじゃ、ロティス?』

 

「ここから出るにはどうしたらいいんだ?」

 

 他にも今すぐに聞きたいことはあったが、さっきこの神殿に入ってくる前にユメは2日経っているというようなことを言っていた。

 その場合、ミリアが全力で俺を探している可能性がある。

 ミリアの実力なら4階層までは問題ないかもしれないが、もし勢いそのまま5階層に突入しようものならさすがのミリアでも危険だ。

 だが、それも危険な状況の最たるものではない。

 

 最も危険な状況はエモニがダンジョンに来てしまっている場合。

 これは本当にまずい。

 あの勇者の力は絶対に危険な力だ。

 トリガーが俺の生存な以上、それが不明確な場合何が起きてしまうかもわからない。

 そうならないためにも、俺は一刻も早くここを脱出する必要があった。

 

『何かと思えばそんなことか。それなら簡単じゃ』

 

 そう言うと、握れと言わんばかりに刀の柄が淡く光る。

 光る柄を握ると最初に持った時以上にすごくよく手に馴染んだ。

 

『ロティス。ワシを振るえ。ワシの銘は陽炎。揺らぎを断つ刀じゃ。断絶されたこの空間とお主が居た所をつないで見せよう』

 

「そんなことができるのか?」

 

『ワシは数千、数万の魔核で作られた妖刀じゃぞ?そのくらい造作もないわ』

 

「なんだユメ、かっこいいじゃんか。じゃあ俺もとっておきの刀術を見せてやろう」

 

『ほう?』

 

 親父、全く役に立たないとか思っててごめん。

 この刀術こっちで役立てるよ。

 

 親父の指導を思い出しながら、刀を振るう自分を想像する。

 左手で鞘を持ち、腰を落として柄に手をかけ集中する。

 

「魚谷流刀術『空刃』」

 

 周りの音が耳に入らなくなった瞬間にその刀を抜いた。

 横薙ぎに一閃。

 高速の抜刀術は触れていない物までを音もなく切り裂く。

 

『これは……!?』

 

 俺の切ったその先の空間が裂け目のようになって口を開き、その先には見覚えのある空間が見えていた。

 

「ふぅ……衰えてはいないみたいだ」

 

『ロティス……お主……修羅の国の出身か?』

 

 この時のユメからはぽかんと口を開ける姿が容易に想像できた。

 

 ◇◇◇

 

 空間の裂け目のようになった場所を通ってみると、あの時転移魔方陣を受けた戦いの跡の残る一階層に出た。

 いつも通りの不気味なところだが、六階層の幻覚を見たあとではここはだいぶ過ごしやすくも感じられる。

 

 魔物の死体はなくなっているが、魔核はそのままになっているようで、どうやらあれからはまだ誰も入ってきていないらしい。

 

 『ここが、外の世界なのか……悪くないな』

 

 そうか、ユメは邪神に二度振るわれてからずっとあの場所に居たのか……。

 

「何言ってんだ。ここはまだダンジョンだ。外はもっとすごいぞ!」

 

『そうなのか!早く、早くいくぞロティス!ワシは外の景色が見たいのじゃ!活気のある街並み、夜の賑わいそういったあやふやな記憶は魔核を通じて感じ取ることができるのじゃが、如何せんみたことがなくてのう』

 

「ああ、いくらでも見せてやるさ」

 

 そう言って歩き出す。

 とりあえず、一階層に落ちたままになっていた魔核を全て拾い集め、変装の指輪をもう一度発動した。

 

『む?ロティス、その姿はなんじゃ?』

 

 名前を呼ばれた瞬間、変装が解けてしまった。

 認識されると解けるというギルドマスターの話しは本当だったみたいだな。

 

「ああ、実はこの格好に変装してダンジョンに来てたんだ。そういえばユメは姿を一時的に隠しておくことってできるか?」

 

『無論、できるが?見えない方がよいのか?』

 

「ああ、ロティスとさっきの変装は別人ってことになってるからな。俺があの変装をしている時は姿を隠して、話しかけるときも『ナル』って呼んでくれ」

 

 再度、変装の指輪を発動する。

 

「ふむ、なんだかめんどうじゃな……じゃが、まあいいだろう。これで良いか?『ナル』」

 

「ああ、完璧だユメ。それじゃあ、今度こそ外へ行こうか」

 

 なんとか戻って来ることはできた。

 ギルドマスターの件やミリアやエモニの様子など気になることはたくさんあるが、すべては街に戻ってからだ。

 俺はダンジョンゲートを目指して走り出した。

 

 ◇

 

(ついにワシを連れ出す者が現れた。ロティス……お主が救世主なら今度こそ……)

 

 はじめて見る景色に胸を躍らせながら、さらに期待も募らせる。

 ロティスならやってくれるという正体不明の安心感があった。




魔法はもちろん好きなんですけど、やっぱり日本男児の浪漫は刀ですよね~。
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