救世主転生 ~死にたくなかったので、勇者覚醒イベントの攻略不能ボスを倒して勇者を救おうと思います!~   作:嵐山田

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第三十五話 成人の儀

 覗き込んだ教会の中は妙に冷たく、湿った空気が漂っていた。仄暗い光の中に聖神像が鎮座しているはずだったが、視界に映るのは見るも無残な破片ばかり。

 ステンドグラスから漏れ出る光がより儚さを助長している。

 

「ね、ねぇロティス。これって私たちのせいだったり……しないよね?」

 

 驚きで顔を引き抜いたエモニが外から声をかけてくるのが聞こえる。

 

「ああ、それは問題ない。俺の空刃じゃあんなふうに粉々には出来ないからな」

 

 答えてからもう一度ゲートに顔を入れて見ても状況は変わらなかった。

 

 実際に俺もあの像を切ろうとは思っていなかった。

 像の上に空間をつなげて、そこから土属性魔法なり火属性魔法でさっきの状態のように破壊するつもりだったのだ。

 

「ロティス。そろそろゲートが閉じる。頭を抜くのじゃ」

 

 ユメに言われて急いで顔を抜く。

 一体どうなっている?あの像が怪しいと思ったのは前世の知識とこれまでの経験が急につながったからだ。

 俺以外の人があの像を怪しむことなんてあるのか?

 

「ロティス……どうする?もう、聖神像壊れてるみたいだけど……」

 

「そうだな……」

 

 でも予想通りなら、像が壊れてさえいれば、街にヒルウァや魔物が召喚される恐れもないはず。

 なら俺がその次にやるべきことは……。

 

「もし、急いですることがなければさ。ちょっと街を回ろうよ!せっかくの成人の儀で特別な日なんだし、街のいろんなお店の人も割引とかサービスしてくれるらしいよ!それに……今まで修業とか訓練ばっかだったし、今日も何かが起きるかも……なんでしょ?」

 

 像も壊れて居たし……と、尻すぼみに自信を無くしていくような調子のエモニの言葉を聞いてハッとした。

 

 もし、ゲーム通りだったらエモニとロティスの関係はもっと普通の幼馴染らしいものだったのだろう。

 今日何が起きるかも知らずに無邪気に成人の儀という特別なイベントを楽しんでいたはずだ。

 それに比べて今はどうだ。

 未来を知っている俺はともかく、エモニは訳の分からないまま、それでも俺と一緒に居たいからと一緒に訓練をするようになり、10歳の頃から森で危険な目にもあってきた。

 エモニの笑顔を守りたいと思っていた俺が、エモニから笑顔になれる機会を奪ってしまっているのではないか?

 

 俺はなんて愚かだったのか。

 先が見えるあまり、身近な大切なものを見落としていたとは……。

 

 パンっと自分の頬を叩く。

 ジンジンとする痛みと熱が本当にやるべきことを教えてくれる。

 

「そうだな。久しぶりに街を見て回ろうか!エリアさんにも挨拶しなきゃな」

 

「……えっ!?!?挨拶って!?」

 

「ん?成人するんだから、今まで面倒をかけましたっていうお礼と今後もよろしくお願いしますっていう挨拶だよ」

 

「あ、ああ、なるほど。そうだよね……」

 

「ロティス、お主。出会った頃より鈍感になっておらんか?」

 

「何言ってんだユメ。今の俺なら目を閉じたままこの光り閉ざす森を走っても、一回も躓くことなくダンジョンゲートまでたどり着けるだろうぜ?」

 

「ほれみろ、そういうところじゃ」

 

「?」

 

「あはは……」

 

 乾いた声で苦笑いを浮かべるエモニと呆れ顔のユメを見るも理由は分からず、結局そのまま街へ戻ることになった。

 

 

 ◇◇◇

 

「あら、エモニちゃん!なんだか久しぶりね!これ持っていきな!」

 

「いいの!?おばさん!ありがとう!」

 

「ふふ、いいのよ。成人おめでとうね。ほれロティスくんも持っていきな」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 街に戻ってから色々なお店に顔を出してみたが、毎度こんな調子だ。

 こっちに来たばかりの時にミリアに連れ回されたときも思ったが、この二人は街のアイドル的存在なのだろう。

 それにエモニは家の手伝いで顔も広く、本当に多くの人に可愛がられ愛されていた。

 

 そうだよな。だって俺たちは今日、ようやく15歳になったばかり。

 地球で生きていた頃なら、一日中ゲームしたり、友達と遊びまわったり、テストの点数に嘆いてみたり、一丁前に恋愛してみたり、そんな当たり前の生活を送っているはずの年齢なんだ。

 

 隣を歩くエモニを見る。

 朝は守らなきゃとしか思わなかったこの横顔が、もっと大切なものに見える気がした。

 

「のう、ロティス。ワシも食べたいのじゃ」

 

「大丈夫だよユメちゃん。ユメちゃんの分もほら、ちゃんと買ってあるから」

 

「おおっ、嬉しいぞエモニ!」

 

「んじゃ、どっか座れる場所探して落ち着いて食べようか」

 

 俺は『絶望勇者』の世界に来た。

 それは間違いない。

 だが、ただ来たのではない。

 ロティスとして生まれ変わってここに来たのだ。

 なら、前世の俺の目的のためだけに生きるのではなく、この世界でのロティスとしての生も大切にしなければ。

 

「ロティス!エモニ!ワシは腹が空いたのじゃ」

 

「はいはい、ちょっと待ってね」

 

「んぅっ!なかなか美味なのじゃ!さて、こっちも……んんっ!こっちも負けておらんのう!」

 

「ほらユメ、落ち着いて食べろよ?食べ物は逃げないんだからな」

 

「無論じゃ、ワシは子供ではないからなっ!!」

 

 強くなることだけを考えて生きて来た今日まで。

 こんな当たり前の日常の良さを忘れてしまっていたなんて……。

 

 このまま何も起こらずに穏やかに過ごしていければ……

 

 そんな穏やかな日々に思いを馳せようとした時だった。

 

 少し離れた場所から今までに感じたことのないほどの魔力の波動を感じる。

 肌を突き刺すようなその魔力は、全身の血が逆流するような圧迫感を伴い、立っているだけで膝が崩れそうだった。

 

  さらにその力は地面を揺らすほどのもので、この世界に来て初めて地震というものを体感した。

 当然地震の存在を知らない街の人々は――

 

「きゃあぁぁぁぁ!」

「なんだこれ!?世界が揺れてる!?」

「お、おいっ!何がどうしたって言うんだ!?」

 

 阿鼻叫喚の地獄絵図となっている。

 建物の倒壊が起こっていないことだけはまだ幸いか。

 

「ロ、ロティスっ!!これ、何!?」

 

「地震だ。この気配……やっぱり、光り閉ざす森ダンジョンの方だな」

 

「ロティス……この気配。ただの魔族ではない。三年前のアインとも別格じゃ。間違いなく高位魔族じゃぞ」

 

 ユメの言葉に神妙な面持ちで頷く。

 

「地震?魔族!?ちょっと待って……ってことは……」

 

 混乱していたエモニも魔族という言葉ですべてを納得したようだ。

 

「ああ、やっぱり何事もなくとはいかなかったみたいだ」

 

 喋りながら、身体強化魔法を全身に行き渡らせる。

 

「ロティス、行くの?」

 

「ああ、ミリアが居ない今、この街で一番強いのは俺だからな」

 

 不安そうにするエモニ。

 事前に何かがあるかもと話してあったとは言え、内心ではまだ混乱しているのだろう。

 

「じゃ、じゃあ私も行くっ!ロティスが一番なら、二番目は私でしょ?」

 

「ああ、そうだな。だけど……いや、だからこそ一緒に来ちゃダメだ!」

 

 確かに、エモニが来てくれた方が勝率は上がるかもしれない。

 しかし、この状況でエモニまで街から話してしまう訳にはいかなかった。

 

「な、なんでっ!?私じゃ役――」

「違うっ!そうじゃないさエモニ。この街の状況を見てくれ」

 

 役立たずと言おうとしたエモニの言葉を遮り周囲を指さす。

 

「どこもかしこも大混乱の状態。誰かが一体を落ち着けてどこかに避難する必要がある。そしてその誰かこそ、エモニだ」

 

 今日改めてエモニと一緒に街を歩いて、街にとってのエモニの大きさを知った。

 この状況をどうにかして街を守れるのはエモニしかいない。

 

「でも、ロティスがっ……ロティスにもしものことがあったら私……」

 

「何言ってるんだよエモニ。俺が負けるところなんて想像できるのか?」

 

 まっすぐにエモニの綺麗な水色の瞳を見つめニカっと笑って見せる。

 この瞳を真っ赤に塗りつぶさせるつもりはない。

 

「……わかったよ。でも、街を落ち着けたら私もすぐに行くから!」

 

「ああ、じゃあ、街のことは任せるぞ」

 

「ねぇ、ロティス。私――」

「ロティス!あの魔力の主がこちらへ向かうとしておるっ!もう猶予がないぞっ!」

 

「ああ、分かってる。行くぞユメ!エモニっ!街を頼む!もしどこかでミリアを見つけたら、俺は先に行ったって伝えてくれ!」

 

 俺はそれだけ言い終えると、地面を蹴るような勢いで跳躍し、風魔法で加速することで疑似的な飛行魔法を作り出し、街を飛び出した。

 

「ロティス……私……」

 

 最後に何か言いかけたエモニは飛んでいくロティスを見つめていたが、ロティスが見えなくなる前に首を振ると、自分に言い聞かせるように口を開いた。

 

「私は、私にできることをやって、ロティスを手伝いに行く。大丈夫、ロティスは強いから」

 

 そう自分に言い聞かせると大きく一度深呼吸をする。

 ロティスを信じる。そしてロティスが信じてくれた自分を信じる。

 そう思うと不思議と自信が湧いてくる。

 私は辺りの人に声をかけながら、街を走りだした。

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