救世主転生 ~死にたくなかったので、勇者覚醒イベントの攻略不能ボスを倒して勇者を救おうと思います!~   作:嵐山田

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第三十七話 救世主

 これだけ距離が離れてしまっていると俺にはもう叫ぶことしかできなかった。

 ミリアへと迫っていく凶刃を見ていることしかできない。

 

 「なんなのじゃ、あの斬撃は……。どうして……」

 

 ユメが異様なものを見たとでも言いたげな声で呟いている。

 

 だが、俺はそれどころではなかった。

 少しでも何かできないかと、ミリアの元へ急ぐ。

 

 しかし、それは無駄なあがきに終わった。

 

 ザシュッという、ものが断ち切れるときの耳障りな音が響く。

 

「ミリア……?」

 

 ミリアの身体が宙を舞っている。

 目に映るのは深々と刻まれた、爪痕の傷。

 

 目の前で起きた現実を受け止めることができない。

 俺の顔に生温い液体が飛んでくる。

 

 なんだよ……これ……。

 俺は何のために……これまで……

 

「ロティスっっ!奴が来るのじゃ!!」

 

 ユメの言葉でなんとか()()()きた俺は、迫ってきていたヒルウァの凶爪をユメで受け止める。

 

「ぐぅっ……」

 

「ほう、まだ抵抗するか。ここで仲良くやられておけば楽に死ねたものをっ!」

 

 ヒルウァは地に倒れ伏したミリアを一瞥すると、すぐに興味を無くしたように顔を逸らし、俺への追撃を開始した。

 

 ミリア……ミリア……どうすれば助けられる……俺はどうすれば……。

 

 この世界に来てから、こうなるかもしれない未来は何度も想像してきた。

 しかし、それが実際に起こってしまうと想像以上の焦りや不安に襲われる。

 

「ロティスっ!正気を保つのじゃ!こんなひどい太刀筋、お主らしくないぞっ!」

 

 案の定ユメに叱られてしまう。

 気の迷いは太刀筋に如実に表れる。

 剣士にとって精神を整えることは一番初めに習うことであり、一番最後まで修めることが難しいことでもある。

 異世界転生なんてとんでもない経験をした俺は、そこそこ精神面での成長もしていると思っていたが、まだまだ達人の段階にはほど遠いようだった。

 

「すまない……ユメ……」

 

「謝っておる場合かっ!!集中しなおすのじゃ!それに……ワシの見立てじゃが、ミリアはまだ死んでおらぬっ!」

 

 え……?

 

「何に謝っているのかは知らんが、謝っている場合か?それとももう抵抗は諦めたのか?」

 

 ユメの言葉は聞こえていないが、俺の様子を見て挑発的な言葉で、さらに俺の精神をかき乱そうとするヒルウァ。

 しかし、そんな口車には乗せられない。

 

「ユメ……それは確かか?」

 

 ユメの発言で閉ざしかけた心に希望の光が差し込んだ。

 

「うむ!ワシはかの高名な夢幻刀陽炎じゃぞ?万に一つも間違いはなかろうて!」

 

 脳内に響くのはいつもの自信家な彼女の声。

 

「そうだよな……それに、ミリアがそう簡単にやられるはずがない……きっと今は気を失っているだけ」

 

 その声で自分の感情が落ち着いていくのが分かる。

 

「そうじゃ……あれだけ執着心を持つ者がそう簡単に死ぬものか!じゃからロティス!いつも通りワシを振るえ!」

 

 段々とヒルウァの攻撃を受ける自分の太刀筋が整っていくのを感じる。

 刀と対話しろなんて冗談だと笑っていたが、まさか実際に励まされる日が来るとはな。

 あとでユメにはたくさんお礼をしてやらないとな。

 

「よしっ、反撃開始だ!」

 

 振り下ろされた凶爪を大きく弾き、納刀しながらバックステップで間合いを整える。

 

「ほぉう……今の打ち合いのうちに戦士の顔付きになるとは。さすが救世主と言ったところか」

 

 今に拍手でも始めそうな様子のヒルウァ。

 情けない姿を見せたせいかずいぶんと舐められているようだ。

 

「その余裕を崩してやる」

 

 軸足の左足を強く踏み込む。

 腰を落とし、抜刀の体勢。

 

「魚谷流刀術『空刃』」

 

 ユメの能力と合わさって、空間さえ切り裂く刃がヒルウァを襲う。

 

「ヌウゥッ……!」

 

 そんな俺の刃をヒルウァの爪が迎え打つ。

 重たい競り合い。

 しかしこの斬り合いの軍配は俺に上がった。

 

「なっ!?私の魔爪がっ!?」

 

 激しい剣撃が鳴り響き、醜く捻じれた凶爪を俺の刃が斬り砕いた。

 

「どういう訳かは知らぬが、貴様のその爪には魔族の魔法と聖神の魔法が込められておるな。そんな無理やりな魔法が歪まないはずがなかろうて!ワシは歪みを断つ刀じゃ!そんな爪ではワシを持ったロティスを止めることは出来ぬ!」

 

 どうじゃ!と言わんばかりの調子のユメ。

 

「ほう、貴様の剣は魔剣の類か……。それにこの魔法の性質まで見切るとは」

 

 だが、そんなユメの言葉を歯牙にもかけず、何故か満足げに高笑いをするヒルウァ。

 

「もう、お前の爪は怖くない。次で決める」

 

 聖神の魔法がどうこうやら魔法の歪みやら気になることは多いが、気にしている場合ではない。

 極限まで集中力を高める。

 

「いいだろう、貴様の全力を見せて見ろ!」

 

 どういう訳か受け止める気のヒルウァに少し違和感を覚えるも、自分の一太刀に集中する。

 

 この三年間の修行で新たに生み出した刀術。

 ユメと俺でしか実現できない俺達だけの奥義。

 

「魚谷派生流『絶空』」

 

 ユメの歪みを断ち、歪みを開く能力をさらに発展させ、空刃の勢いを身体強化魔法と風魔法の応用でさらに早くして放つ神速の一撃。

 断光よりもさらに早く、空刃の威力をそのままにした一太刀。

 斬られた対象は開いた歪みに葬り去られるという必殺の一撃。

 

 俺の必殺の一太刀は間違いなく命中した。

 しかし――

 

「ほほう……悪くない一撃だ。だが……聖魔法『ミネルヴァ』!!!」

 

 俺の必殺の一撃はただの一太刀に終わる。

 ヒルウァの腕に深手を負わせ、確実にダメージは与えた。が、空間を斬るときのような歪みを開くとき特有の感覚はなく、『絶空』が失敗に終わったことを悟る。

 

「なっ!?魔族が完全な聖魔法じゃと!?」

 

「ハハハッ、驚くのも仕方あるまい。私は魔族で唯一聖属性の魔法を使えるのだからな!!」

 

「どういうことじゃ!?聖魔法は聖神が人間に与えた力のはずじゃ!なぜ魔族の貴様がっ!?」

 

 見たことのないほど取り乱したユメが理解できないといった声で叫ぶ。

 

「私は『魔将』という呼び名のほかにもう一つ呼び名があってな、それが『人語を介する魔族』というものだ。これが何を意味するか分かるか?」

 

 俺は全く話についていけないが、ユメの反応から尋常ではないことが起きていることだけは分かる。

 

 そんな俺は置いてけぼりにユメとヒルウァの会話は続いた。

 

「まさか……貴様!元人間かっ!?」

 

 元……人間?

 ユメの口から飛び出した衝撃の一言に俺は耳を疑わずにはいられなかった。

 

「ハハハッ!その通り、私こそ力を求めて人間から魔族になることに成功した数少ない実験例であり、魔王様より魔将の号を授かりし、魔将ヒルウァである!」

 

 人間から魔族になっただと?

 そんな、種族を超えるようなことが――

 そう考えたところで俺の思考は中断された。

 

「っと、久しぶりに話の分かる者に出会って少し話過ぎてしまったか。賢い剣の使い手にして今代の救世主よ。せめてもの報いだ。貴様の命、私の最強の一撃にて散らせてくれよう」

 

 ヒルウァが言葉を発すると同時に感じたことのないほどの魔力の高まりを覚える。

 

 ……いや、俺は一度だけこのレベルを超える魔力を感じたことがあったか。

 

 絶望的な状況の中、思い起こされたのはエモニの赤黒い魔力。

 

 俺が故意にぶつけられた魔法で体勢を崩しハイオークの攻撃を受けたとき、エモニから溢れだした魔力の奔流。

 あの時の魔力はきっとゲーム内で勇者の力として振るわれていたもの。

 そしてきっとあの力の発動トリガーは絶望だった。

 そう考えたとき、先の戦闘中に何度も聞いたある言葉が脳裏に浮かんだ。

 

『救世主』

 

 まるで絶望の対極にいるようなこの言葉。

 もし、この状況を逆転する術があるのなら……俺が救世主だというのなら……

 それはきっと希望の、救世主の力なのではないか。

 

「これが私の、最強の一撃。聖魔融合『ルキフェル』」

 

 放たれたのは下位魔法程度の規模のエネルギー弾。

 しかし内包されるエネルギーは見たことのないレベルだ。

 魔法が使えるものが見たなら、その瞬間に絶望し、死を悟るであろうこの魔法。

 だが――

 

「俺は、諦めないっ!自分の命も、エモニの闇落ち展開もっ!全部、救って見せる!!」

 

 ヒルウァの魔法に真正面から立ち向かおうとしたその時――

 

『それでこそ救世主。よくぞここまでたどり着いた。さあ、貴様の思うようにその救世の力を振るうがよい』

 

 時が止まったような感覚と、聞き覚えのある尊大な声が頭に響き、全身から力が漲って来た。

 

 気付けば自分から銀色の魔力が溢れている。

 

「『救世主《ヘラクレス》』」

 

 思い浮かんだままにその名を呟き、その魔力を全身に行き渡らせれば、先ほどまで感じていた絶望感の一切がなくなった。

 

 その銀色の魔力をユメに纏わせて、ルキフェルに当てる。

 するとまるで何の抵抗もないようにあっさりと、その魔法を切り裂くことができた。

 

「ハハハッ、よもやここまで私を楽しませるとは」

 

「これが、救世の力……さすがは救世主、さすがはロティス、ワシの相棒じゃな」

 

 魔力を纏いっぱなしにしているというのに魔力が減るどころか増えていっているような感覚がある。

 これなら……いけるっ!

 

「第二ラウンドだっ!魔将ヒルウァぁぁ!」

 

「良いだろう!来いっ!世界の希望、救世主よっ!!!」

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