救世主転生 ~死にたくなかったので、勇者覚醒イベントの攻略不能ボスを倒して勇者を救おうと思います!~ 作:嵐山田
「勇者を覚醒させる計画だと?なんだそれは?」
勇者覚醒……身に覚えがありすぎる言葉に反応せずにはいられない。
「そのままですよ。勇者とは人の危機に際して現れるものですから、ヒルウァ様に侵攻される街で勇者覚醒が起こると考えまして……。ヒルウァ様も支配力に使わされるままより、戦場で自分の意思で最期を……と仰っていましたし」
……これがどこまで本当の話なのかは分からない。
でもゲームでの正史ならこいつの計画は全て上手くいっている。
人の危機だったかは定かでは無いが、俺が死んだことでエモニは間違いなく覚醒し、ゲーム内では魔王だって倒している。
だが、今回ではそうなっていない。
……エモニの力を思い出してみる。
あの力は本当に勇者の力だったのだろうか?
なんというか実際に見てみると勇者と呼ぶにはおどろおどろしい力のように感じたが……。
俺の救世主の方がよっぽど勇者っぽい力だった。
「でも、結局勇者覚醒は起こってないだろ?俺の力は覚醒したけど……」
「そうですね。ですが、救世主は史実上でも一人しか確認されていないほど稀有な力。だからこうして私が頭を下げに来ているのです」
「……それで魔王を救うって何をすればいいんだ?」
勇者覚醒と聞いてつい話が逸れてしまったが、俺はようやく本題に触れることにした。
「ダンジョンを攻略してください」
ひとつ大きく息を吸うと、アインはこれまでにないほどの真剣な顔でそう言った。
「ダンジョンを?いったいどうして?」
思ったことがそのまま口からこぼれる。
だが、アインの方はその質問を待っていたと言わんばかりに話しだした。
「キミも知っている通りダンジョンとは魔族の領地がこちら側に顔を出している場所だ」
こちら側?顔を出す?
全然知っての通りではないのだが……どうにも突っ込める様子ではない。
「そして各ダンジョンの最高層にはその領地を治める魔貴族が住んでいる。キミにはダンジョンを攻略し、彼らとの協力を取り付けて欲しい」
……?
話が飛躍しすぎていないか?
「待て待て、話が見えない。ダンジョンを攻略する、ここまではまあ、わかる。だが、それがどうして協力に繋がるんだ?そしてそれがどうやったら魔王を救うことになるんだよ?」
「おっと、活路が見えて少し興奮してしまいました」
俺がツッコミを入れると咳払いをして前傾気味になっていた姿勢を戻すアイン。
……こいつと話していると、時々本当に魔族なのか疑いたくなる時があるな。
そんなことを考えながらより詳しく話を聞いた。
「魔族の特に貴族にはですね、強者を尊重するという風習があるのですよ。なので例え邪神を侵攻しない人間であっても自分の領地までたどり着いた者は尊重されるはずです。そこでさらに力を示せば話を聞いてもらうことができるでしょう」
よくぞここまで来たな人間よ!ってことか?
ちょっとゲームっぽいな。
「そこで魔王様に会えるだけの力をつけてください。貴族の信認を得る、そうすれば魔王様の支配力に抵抗する力が得られるはずです。支配力に抵抗できなければ魔王様の前に意思を持って立っていることは出来ないでしょうから」
「なるほどな……わかった。そこまでは理解した」
「おお!それでは――」
俺はそこでヤツの言葉を遮るように立ち上がった。
「だが、魔王を救うって何なんだ?なんでわざわざ魔貴族の信認を得てまで俺を行かせようとする?お前の言う救うってまるで魔王を俺に倒させようとしているように聞こえるんだが?」
ずっと引っかかっていたアインの救うという言い方。
こいつを相手に婉曲的な言い方は不利だと考えて単刀直入に聞いてみることにした。
「……実際にその通りだからね。私の、魔王様を救ってほしいという依頼は要するに今の魔王様を倒してほしいということだから。そもそも勇者を探す理由なんてどんなおとぎ話でもそういうものだろう?」
確かに、そう言えば勇者を覚醒させようとしてたんだもんな。
「……その理由は?」
「それも話した通り。今の魔王様はどうにもおかしい。だけど、我々ではどうすることもできない。最高戦力の魔将は支配力に抵抗できず、抵抗の頼みの綱である魔貴族たちも魔将たちの被害に遭って死んでしまう可能性が高い。だからもう、頼れるものに倒してもらうしかないということです」
なるほど……別にロティスとしては聞いてやる義理はないが、『絶望勇者』廃ゲーマーとしては追加コンテンツシナリオを放棄するわけにはいかない。
それにまた勇者を覚醒させようとさせられてエモニやミリアが被害を受けないとも限らないしな。
「いいだろう。その依頼、俺が請けよう」
「ロティス!そんな安請け合いをして良いのかっ!?」
さっきまで俺の隣に座り、足をぶらぶらと遊ばせながらも黙って話を聞いていたユメが正気か?とでも言いたげな声で止めてくる。
「まあ、いいんじゃないか。ユメだってもっと外の世界を見てみたいだろ?」
俺がそう言うとボッと音が出そうなほど頬を朱に染めるユメ。
「わ、ワシは別に……」
「ハハッ!俺もこの街以外のところにも行ってみたいと思ってたんだ。そのついでに魔王も救ってやろうぜ?」
三年前から少しも変らない身長のユメの頭を撫でながら、俺はアインに向き直った。
「まずはどこに行ったらいいんだ?ダンジョンなんて、端から回れる数じゃないだろ?」
「ハハハッ、救世主は豪胆ですね。私の依頼請けていただきありがとうございます。そうですね……まずは王都付近の魔族侯爵ルギアの治めるダンジョンへ行っていただくのがよろしいかと。なるべく高位の魔族からの信認の方が力は強いですし、王都から一番行きやすいダンジョンでもあるはずです」
魔族侯爵ルギアか……王都近くにある四大ダンジョンの一つを治めている魔族だったはずだ。
ゲームでは名前以外出てきた記憶がないが、どんなやつなのだろう?とルギアのことも気になるがもう一つ気になることがあった。
「魔族侯爵か、分かった。そういえばお前はどうするんだ?ヒルウァはもういないだろ?またどこかに潜り込むのか?」
もう一つの気になること、それはこのアインのことだ。
身近にいて欲しくはないが、計画に乗る以上定期的な情報のやり取りは必要になるだろう。
このまま消えられては面倒だ。
「私ですか?ああ、そうですね……まあ、取り合えずキミがルギアのダンジョンを攻略するまでにその辺も落ち着けておきましょう」
「……まあ、このまま消えないならいい。さすがに情報がなさすぎるからな」
「ハハハッ、さすがの私もこんな依頼を投げたままにはしませんよ。それでは、今後もよろしくお願いします。では、失礼します」
そう言ってしっかり玄関から出ていくアインを見送った。
◇◇
「どうやら、厄介ごとが舞い込んだようじゃな」
厄介ごとだと言いながらも、少しうれしそうにからからと笑って言うユメ。
「ハハッ、そうだな。でも、王都か……」
王都……サンシャイン。
ゲーム内では――
「のう、ロティス」
「ん?どうした?」
「その……じゃな……ワシの願いを覚えていてくれて……その……嬉しかった、のじゃ」
「ハハハッ!愛刀であり、俺の頼れる相棒だからな!これからも頼むぜ」
「う、ウム!ワシは凄い刀じゃからの!」
◇
「む?今、私のポジションが脅かされる気配が……」
ロティスたちが絆を深める中、離れた地で何かを察知した愛刀が居たことは誰も知らない。