救世主転生 ~死にたくなかったので、勇者覚醒イベントの攻略不能ボスを倒して勇者を救おうと思います!~   作:嵐山田

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第七話 厄介ごとは鳴りを潜めず

「ここまではあっさり来れたな」

 

 家を出てからなるべく人目に付かない道を選んで約1時間。

 ついに俺とクラリスはスーパームーンの目の前までやってきていた。

 

「そうだね!普段ならこんな風に誰かと二人だけで街を歩くなんてしないから楽しかった!デートってこんな感じなのかな!」

 

「ハハッ!本物のデートはちゃんと好きな人としたらいい。クラリスはまだ若いんだから」

 

「……そうだね。そうなったらいいね」

 

 俺がクラリスの冗談を笑い飛ばして見せると、どうしてかクラリスの表情が曇ってしまった。

 

「クラリス?」

 

「あ、ううん!何でもないよ!また私を年下扱いしたでしょ!むぅぅぅ、同い年だって言ったのに!」

 

 クラリスは誤魔化すように首を振ると、その表情をさらに奥へと隠すように今度こそ冗談めかしてそう言って見せる。

 でも、それを見逃す俺ではない。

 

「……そうだったな。でも、まあ、気休めにでもいいから自分だけは何とかなるって思っておけよ。何事もな」

 

 今度は紛れもなく年長者としての言葉。

 精神年齢はただの年齢の積み重ねではないと思っているが、前世と合わせれば合計で40年は生きているからな。

 

「……!そっか……。そうだよね。ありがとロティス!なんか少し気が楽になったかも」

 

 俺の言葉を聞いて、いつもの明るい顔を見せてくれるクラリス。

 

「ああ、それなら良かった。じゃあ、スニーキングミッションの最終工程に取り掛かろうか」

 

「うん!」

 

 二人で一緒にスーパームーンの方を見る。

 俺とクラリスの視線の先には厳重な警備体制の敷かれたスーパームーンの入口が映っていた。

 

「……あれ、無理じゃない?」

 

「クラリス様をお見かけしたか?」

「いえっ!こちらにはいらっしゃらないご様子であります!」

 

 そんな会話が聞こえてくる。

 

「このミッションはクラス5想定だな……」

 

 予想以上に警備が出ている。

 

「あはは!もういいよ。どうせ、私を怒れる人もいないし。このまま私が出ていけば丸く収まるから」

 

 あっけらかんと笑って見せるクラリスだが、どうにも自然な笑顔には見えない。

 

「そういう訳にはいかないさ。クラリス自分で言ってただろ?息苦しいところは嫌だって。今、クラリスが出て行ったら余計に居心地が悪くなること間違いなしだ。だから何としても、『私はずっとここにいたけど?』な状況を作る!」

 

「ふふっ、優しいねロティス」

 

 そうそう、その笑顔だ。

 出会って二日目だが、この子にもエモニと同じでちゃんと笑っていて欲しいと思ってしまった。

 そう思ってしまったからにはもう俺は最善を尽くすしかない。

 

「のう、ロティス。ワシを使えば万事解決なのではないか?」

 

 そう思ったとき、これまで無言で俺の横についていたユメがそんな提案をしてきた。

 だが――

 

「確かに、ユメで空間を繋げれば楽に行けるかもしれないが……俺、この宿の中に入ったことないから無理なんだよ」

 

「うーむ、そうじゃったか……確かに見たことのある場所じゃないとできないと言っておったのう……」

 

「ロティス、見えてればいいの?」

 

「ん?ああ。見えてれば何とかなると思うぞ」

 

「そっか!じゃあ、こっち」

 

 急に俺の手を取るとスーパームーンの裏手側に走り出したクラリス。

 

「お、おい!どこに行くんだ?」

 

「いいからいいから!」

 

 そう言うクラリスに連れられて、さっきいた所よりも少し離れた場所までやって来た。

 だいぶ街の裏手側で人の気配も全く感じられない。

 

「うん!ここなら見えるね」

 

 クラリスはどこか上の方を指さしながらそう言った。

 

「ん?見えるって?」

 

「ほら!あの一番上の階のテラスだよ!私の部屋あそこだから!」

 

 ……ん?

 …………んん??

 

「……えぇっ!?スーパームーンの最上階っ!?」

 

「え、うん。そうだよ?」

 

 何かすごいことなの?とでも言いたげな顔のクラリス。

 だが、考えて見て欲しい。

 高位貴族御用達の宿でテラス付きの最上階におそらく一人で泊まっているんだ。

 もしかしなくてもクラリスは侯爵家以上の家柄の出身なのかもしれない。

 いや待て、もし公爵以上なら……王族関係者ということにならないか?

 

 ………………

 とんでもない子と知り合ってしまったかもしれないと、今更ながらに気付く。

 

「ンンッ!いや、そうか。確かにあそこならいけそうだな。ユメっ!」

 

「まかせい!一仕事するかの」

 

 俺の呼びかけと共に腰へ姿を現すユメ。

 

「クラリス、ちょっと危ないから下がってろよ」

 

「う、うん!」

 

「魚谷流刀術『空刃』」

 

 速さや威力ではなく、あくまで繋ぐ先だけを意識した一太刀。

 いつもより緩やかにそして音もなくサラリと振られたユメで空間に歪みが生まれた。

 刀を納め、スーパームーンの最上階のテラスに目をやると向こうにも同じような歪みができていることが確認できた。

 

「よし!さすがはユメ。今回もばっちりだぞ」

 

「フン!ワシとロティスにかかればこの程度造作もないのじゃ!」

 

「ロティス、このもやもやは何?」

 

 言われた通りに少し下がったところで俺達を見ていたクラリスが、ユメの作った歪みを不思議そうに見ながらそう言う。

 

「このもやもやに入れば、あのテラスまで飛べるって言う……まあ、ゲートみたいなものだな」

 

「ゲートって!?あのダンジョンの入口みたいなものってこと!?」

 

 今度はクラリスが驚く番だった。

 まあ、そりゃあそうだ。

 ユメのこの力はあまりにも便利すぎるし、悪用しようと思えばいくらでもできるからな。

 

「そうそう、すごいだろ。これが俺の愛刀ユメちゃんの力よ」

 

 人の姿になったユメの頭にポンと手を乗せながら説明する。

 

「ユメちゃんすごい!」

 

「フン!!!そうじゃろう、そうじゃろう。ワシはすごいじゃろう!じゃが、これもロティスの刀術あってのものじゃ。つまりすごいのはワシらということじゃな!!」

 

 まるで手品を始めて見せられた子供のようにはしゃぐクラリスと得意げに胸を張るユメ。

 うん、どう見てもこの二人は小中学生にしか見えないな……。

 

 そんな二人を傍目に俺は歪みに顔を突っ込んで実際につながっているかを確認する。

 

「クラリス!大丈夫だ!ここから戻れるぞ!」

 

 顔を突っ込んで、向こう側を見てみると前世でも見たことがないくらいに豪華絢爛な部屋がそこには広がっていた。

 

「ほんと!?入りたい入りたい!」

 

「ゆっくりな。向こうに戻ったら、ずっと部屋に居たで通せよ?」

 

「うん!色々ありがとねロティス!」

 

「何言ってんだ。これから王都にも行くんだろ?念のためクラリスの方からも俺達に指名依頼ってことで依頼を出しといてくれよ」

 

「そっか……そうだね!わかったよ!じゃあ、また出発の日に!」

 

 ゲートの前で手を振っていると、ゲートに一歩足を踏み出そうとしたクラリスが不意に振り返った。

 そのまま、俺の背に手を回しギュっと抱き着いてくるクラリス。

 

「ロティス、またデートしてね!」

 

 そしてそれだけを言い残し、クラリスはパッとゲートを通って行ってしまった。

 

 ………………。

 

「……エモニとミリアに報告じゃな」

 

「ま、待ってくれよユメ。今のは不可抗力だろ!?」

 

「フン!」

 

 より厄介なサブミッションを残して、俺は今回のスニーキングミッションを達成した。

 より厄介なサブミッションを残して………………。(諦め)

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