救世主転生 ~死にたくなかったので、勇者覚醒イベントの攻略不能ボスを倒して勇者を救おうと思います!~   作:嵐山田

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第九話 本当の魔法

 街を出てすぐのところに3台の馬車が止まっていた。

 ミリアがこの街の貴族様の指名を受けて馬車の護衛をするときに何度か見たことはあったが、その時に見たどの馬車より、今回止まっている3台が豪華絢爛なものだった。

 

「うおぉ……これまた、すごい馬車だな」

 

 エモニの手を引いたまま思わず声が漏れてしまった。

 だが、さっきまで寂しそうな顔をしていたエモニもこの馬車には驚きを隠しきれていない。

 

「すごいね……というか、クラリスちゃんっていったい何者?」

 

 それは俺も思っていたことだ。

 でも、この馬車を見て王族関係者なのでは?という思いがより強まった。

 

「さあ、皆様の馬車はこちらです」

 

 案内されるままに馬車の前までやってくる。

 

「そっか、今回は護衛じゃないから私も馬車に乗るんだ。ちょっと楽しみかも!」

 

「ミリア、馬車には乗ったことなかったの?」

 

「そうね、ないわ。だって護衛なのにお貴族様と同じ馬車に乗るって……」

「ああ、なるほどね」

 

 苦い顔をして見せるミリアを見てなんとなく察する。

 どこもお偉方とはそういう物だ。

 ミリアが直接的な被害に遭ってないのであれば、いちいち腹を立てるだけ時間の無駄である。

 

「おい!ちょっと待て!」

 

 俺達がそんな他愛もない会話をしながら、馬車に乗り込もうとすると背後から怒気を含んだ声で呼び止められた。

 

「なんだ?」

 

 足を止め振り返るとそこにいたのはあのユーリというコントラクター。

 見るからにイライラしている。

 

「お前ら!クラリスをどういう風に誑かしたのかは知らないが身の程というものを知れ!なぜこんな辺鄙な街のクラス4程度のコントラクターなどをわざわざ……」

 

 ああ、そう言えばライがクラリスに話しかけようとしたときもこんな風になってたっけ。

 クラリスが居心地悪い理由の大半がこいつなんじゃないだろうか。

 

「そんなもの、クラリスに聞いてくれよ。俺達は依頼を受けてここに来ているんだから」

 

「おいっ!お前ごときがクラリスの名前を呼び捨てにするな!クラリスがどんな立場の人間かわかっているのか!?」

 

 喋るたびに大きな声で……うるさい奴だな。

 

「知らないけど、偉そうなんだなとは思ってるよ」

 

「なっ!?分かっているというのにその反応をしているのか?……僕はお前らを認めない、断じて認めないぞ!」

「ちょっと、ユーリ。あんた何をそんなにキレてるのよ」

 

 俺達の言い合いが見えたのか、それともユーリの声が馬車の中まで響いていたのかクラリスが乗っていると思われる馬車から長身の女性コントラクターが半身を出して話しかけた。

 

「ああ、ヒナ。すまないが僕は彼らをどうしても認められなくてね……。クラリスには目を閉じて耳を塞ぐように言っておいてはくれないか?」

 

「……勝手にしたらいいけど、あんたクラリスに嫌われても知らないわよ?」

 

「何を馬鹿な!僕がクラリスに嫌われるはずがないだろう?だって僕たちは婚約者なのだから!!」

 

「……あーはいはい、そうね。そうだったわね」

 

 それだけ言い残すと、ヒナと呼ばれた女性はまた馬車の中に戻った。

 身体を引くために一度大きく開けられた扉の中に見えたクラリスは、あの時と同じようにメガネをしてうつむいていた。

 

「おいおい、お前ってクラリスの婚約者だったのか?」

 

 言いながら、ユーリの方に向かって歩き出す。

 そんな俺をミリアとエモニは「仕方ないヤツ」という顔で見ていた。

 

「なんだ?僕のことが気になるのか?」

 

 婚約者と聞いたときにちょっと街を歩いただけで楽しそうにはしゃいでいたクラリスのことを思いだした。

 そして同時に思う、こいつはダメだ、と。

 

「いや、婚約者という割にはクラリスのことが分かってないと思ってな」

 

「なんだと?お前こそクラリスの何が分かるって言うんだ!」

 

「少なくともお前よりは分かるつもりだ。なぁ!クラリス!!」

 

 馬車の中に聞こえているかは分からないが、明確にクラリスの方を向いてユーリを煽る。

 

「だから呼び捨てにするなと、言っているだろうっ!!!」

 

 すると耐え切れなくなったユーリが俺に飛びかかって来た。

 ロングソードを腰から引き抜くと、全身に強化魔法を施して向かってくる様子から少なくとも魔法はライ以上の強さであることはうかがえる。

 

 だが、だから何だと言うのか。

 こんな奴にはユメも無限も使う必要すらない。

 

 俺は右腕に強化魔法を発動し、振るわれる剣を受け止める。

 

「いきなり飛びかかって来て、どの程度かと思ったがこの程度なのか?こんな実力でクラリスの護衛……じゃなくて婚約者だったか?が務まるのか?」

 

「お前ぇ!バカにしやがって!目にものを見せてやるっ!火属性上位魔法『スルト』!!」

 

 剣を俺に止められたユーリは意外にも力をうまくいなし、反動を使って後ろへ大きく飛び下がると火属性の上位魔法を放ってきた。

 

 こんなところで上位魔法まで使うとは……クラリスや他の馬車を巻き込んだらどうするんだよ。

 しかも、火属性なんて……能力はさておいても、判断はとてもクラス4以上のコントラクターだとは思えない。

 

「……お粗末な魔法だな。風属性中位魔法『マルファス』」

 

 水の魔法で打ち消すことも考えたが、火属性上位魔法ほどの熱量の物体に水なんてかけたらそれこそ大惨事だからな。

 風の魔法で吹き消してやる。

 

 俺が起こした風で馬車3台を軽く飲み込みそうな火球は姿を消し、その熱風を上空へ向けて逃すことで被害を最小限に抑えた。

 

「な、なんだとっ!?僕の上位魔法を中位魔法で打ち消した!?」

 

「上位魔法とは言っても、お前の魔法はただ魔力量が多いだけの下位魔法だろ。はぁ……王都のコントラクターもこの程度なのか」

 

「なっ!?貴様、いったい何者……」

 

「何者かって?俺はただの辺鄙な街のクラス4コントラクターだが?……そうだな、お前に本当の魔法を見せてやるよ」

 

「なにをふざけたことを!」

 

「そこで見ておけ。水風複合上位魔法『ペルセポネ』!」

 

 俺は水と風属性を合わせた魔法で作り出した氷を上空に向けて打ち出した。

 

「複合!?魔法で氷だと!?」

 

「まだだ。これが本当の火属性の上位魔法だ。火属性上位魔法『スルト』!」

 

 氷が一番高くまで上がったところで二つの魔法がぶつかるように調整して火の上位魔法を放った。

 

「ミリア!エモニ!クラリス!見てろよ!」

 

 俺の声に瞬時に反応する二人は馬車を飛び出して上を見上げた。

 クラリスとヒナも釣られてか馬車から上を見上げている。

 

 そして、氷の塊に圧倒的な破壊力を持った火の上位魔法がぶつかった。

 すると氷は溶けながら粉々に砕け散り、夕日に照らされてキラキラと輝く欠片になった。

 

「わぁぁぁぁ!」

「うふふっ!さすが、私のロティス。幻想的ね」

 

 氷と火属性魔法を合わせたこの魔法、イメージしたのは前世の花火。

 火薬の配合とかは分からないので色は夕日だよりだが、娯楽のほとんどが存在しないこの世界ではこれでも相当珍しいはずだ。

 

 エモニとミリアは空を見上げながら喜んでくれている。

 クラリスも馬車の窓に張り付いて、俺の起こした疑似花火を凝視していた。

 

「分かったか?これが本当の魔法だ。お前の上位魔法じゃこうはいかない。権力者なのかどうかは知らないが、その力を振るうなら、それに応じた実力も必要だと俺は思うぞ」

 

 そう言ってユーリに背を向ける。

 自分の馬車の方に向かって歩き出した俺に駆け寄ってくる二人。

 そして背後からは剣を落としたような音が聞こえた。

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