救世主転生 ~死にたくなかったので、勇者覚醒イベントの攻略不能ボスを倒して勇者を救おうと思います!~ 作:嵐山田
「どうして僕が……どうしてだっ!!」
賓客用に用意された広い客間に一人、その男は荒れていた。
床にはいかにも高級そうな家具の残骸が広がっている。
「僕はルシール公爵家の次男でクラリスの婚約者なのだぞっ!だと言うのにあの男は!!」
彼の目に浮かぶのは圧倒的な魔法で自分を下した男、ロティス。
その目には嫉妬と復讐の炎が灯っていた。
「フフ、あれは使えそうかもね」
そしてそれを意味ありげに見る視線がひとつ……。
◇◇◇
「この部屋、結構いい部屋ね〜ギルドハウスって基本的に寝るだけの場所だからこんな広々とした部屋は初めてよ」
俺たちが通された部屋は前世で言うと家族旅行で親と子2人ずつが泊まれるくらいのビジネスホテルのような部屋だった。
「そういえばみんな同じ部屋で寝るのって意外と初めて?」
「確かに……子供の頃はミリアに連れられて寝たかと思えば、何故か朝にはエモニも合流してるなんてことはあったけど、ユメが来てからはそういうこともなかったもんな」
「うむ。ロティスはワシに感謝するといいぞ。そこな2人は度々お主の寝所に潜り込もうとしておったからの……何度ワシが阻止したことか」
「え?」
「あ、あれってやっぱユメちゃんの仕業だったの!?」
「おかしいと思ってたのよね。ロティスを抱きしめて寝たと思っても朝になったら自分の枕だったり……」
えぇ……俺の与り知らぬところでそんな攻防が起きていたとは。
「フン!ワシの夢幻の力を以てすれば容易なものじゃ!」
……そういえばユメの幻影魔法には俺も随分手を焼かされたっけか。
そんな話をしていると部屋にノックの音が響いた。
「皆さん、クラリスです!」
「ああ、どうぞ」
やって来たのは先程までの王女前とした格好のクラリスではなく、あの日ウチにやって来たようなラフな格好に着替えたクラリスだった。
俺たちがクラリスを迎え入れるとトトっと言う効果音がしそうな軽い足取りで、俺が腰を掛けているベッドまでやって来て隣に腰掛けた。
「あ、クラリスずるい!」
「クラリスちゃ〜ん?どうして真っ先にそこに行くのかしら?」
「そうじゃそうじゃ!椅子でもなんでもあるというのに!」
その行動に女性陣からは非難轟々、だがクラリスはそんな非難でさえ心地良さそうな顔をする。
「クラリス?」
「……いえっ、皆さん私の身分を知っても以前と同じように接してくださるので……」
「何言ってんだクラリス。そんなの当たり前だろ?」
エモニたちを見ながらそう言えば、彼女たちも俺の言葉に大きく頷く。
「皆さん……いえ、みんなっ!ありがとうっ!」
ぎゅっと俺に横から抱きつくクラリス。
「ああっ!?」
「ちょっと!?」
「こやつ、一瞬足りとも気が抜けんわ……」
「フフっ……ほんとにみんなありがとう。大好きっ!」
いっそう強く抱きしめられる俺。
いっそう強くなる視線……。
いや、これは……
「「「離れろ〜!!!」」」
いつも通り、揉みくちゃにされましたとさ……。
◇◇◇
「そういえばマルクスが好きな時に食事していいって言ってたよ。食べに行く?」
クラリスが何事もなかったかのように姿勢を正し提案をしてくる。
やはりこの子は大物だ。
「うーん、今日は訓練もしてないからあんまりお腹空いてないね……」
「でも用意してもらってるなら悪いし、軽くいただこうか」
エモニの言う通りそこまで空腹は感じなかったが、用意してもらっていると言うならそれはありがたくいただくのが礼儀というもの。
それに、俺のこれは前世からのものだしな……。
なぞに旅先では腹が減らないんだよな……食べられないという訳ではないのだが……。
◇
「おおっ!これはなかなかなのではないか!のう!ロティス!」
食事をすることをギルドハウスの管理人に伝えると体感で10分程で食堂のようなそこそこ大きな部屋に通された。
今はクラリスが居ることを考えてかこのギルドハウスの利用者は俺達だけであるため、だいぶ過剰なスペースに感じる。
「ああ、バイキング形式か!王族と聞いてからテーブルマナーはどうしようかとか思っていたから正直ありがたいな」
食堂には好きなものを好きに食べてくれと言わんばかりに様々な料理が並べられていた。
「喜んでもらえてよかった!実は私がお願いしたの!喜んでもらいたかったのと私がこういうご飯を食べたかったからなんだけど……」
なるほどクラリスが……もしかしたらそれで俺達の部屋に自分で来てくれたのかもしれない。
こういう一面を見れば見るほど妹感がすごいんだよな……クラリスは。
「せっかく準備してもらったんだ!好きに食べようじゃないか!」
俺がそう言うとユメがいの一番に料理を取りに向かい、なんだかんだお腹が空いていないと言っていたエモニも普段はなかなか見ない料理などに手を付けていた。
提案者のクラリスも楽しんでいるようだし、ミリアも同じくだ。
厄介な依頼も、こういう一幕があると頑張れるよな。
俺は飲み物だけを貰い、そんな賑やかな4人を見て楽しんだ。
◇◇◇
「おい!魔族!あいつらはどうだった!」
苛立ちを抑えきれないと言った様子の男はソレを荒々し気に呼ぶ。
「フフ、ユーリさん。そうお怒りにならずに。予定通り彼らは食事を摂っていたようですよ」
「それで……本当にうまくいくんだろうな?」
「それはもちろん!薬で魔力が上手く扱えなくなったところに我々の手のものをけしかけ、それをユーリさんが助ける。さすればあのクラリスという少女もユーリさんのことを見る目が変わるでしょうとも!」
「フフッ……フハハハハ!いいぞ!やるじゃないか魔族の!」
「ハハッ!それから私のことはジーンと、そうお呼びください」
怪しげな笑みを浮かべるジーンを復讐心に憑りつかれたユーリは特に疑うこともなく信用した。
だが、ここに居たのがユーリでなければ、その笑みの奥には何か別の思惑を含んでいるように感じたことだろう。