救世主転生 ~死にたくなかったので、勇者覚醒イベントの攻略不能ボスを倒して勇者を救おうと思います!~ 作:嵐山田
マイア村を出てから数日、ユーリが大人しくなったおかげか魔物との遭遇は非常に少なく、王都に到着した。
テントでの野営にクラリスとユメが大興奮して、その声に魔物が寄ってきたりはあったが……。
「広……すぎない?」
王都に入りその全貌を初めて見たエモニの一言だ。
正直気持ちは分かる。一応ゲームで訪れたことはあったがゲーム内では活気がなく、空虚感が蔓延していたここは今では国で一番の都市であるということが疑いようのないほどの盛況ぶりだった。
町行く人々の身につけているものも月の街とは違い、最先端を感じさせるファッションや、なぜか全身に包帯を巻いたマミーみたいな人も見受けられる。
さすがは王都、文化の最先端は違うな。
「皆さん、長旅お疲れさまでした。お城ではあまり気が休まらないかもしれませんが、あと一日だけお付き合いお願いします」
そんな王都の街並みを見ながらやって来たのはこの国の中心であるサンシャイン城の一室。
入口の扉の横にはおそらくクラリスの護衛の騎士が立っている。
豪華は豪華な部屋なのだが、それ以上に荘厳さを感じさせる造りでとてもクラリスが暮らしている場所とは思えない。
いや、こんなところで暮らしていたから息苦しさに耐えかねてお転婆娘になってしまったのかもしれないが。
「クラリス、俺達にそんなに気を使わなくていいよ。そもそも依頼だったわけだし……そういえば王都に着いたわけだし、そろそろ依頼の内容を聞かせてもらえる?」
なんだか旅行気分で来てしまったが、ここには仕事をしに来ている。
クラリスの依頼に合わせて、銀翼も攻略しなければならないのだ。
まあ、銀翼の方はショートカットの指輪を貰っているから、そこまで焦る必要もないのだけど。
「はい。もちろんです。もうすぐ――」
俺の言葉にはにかんだクラリスが言いかけた所で部屋の扉が開いた。
入口の横に立っていた騎士が敬礼をする。
「おお、クラリス。息災だったか?」
その顔を見て目を見開いたクラリスが一言。
「お父様!?」
………………ん?
その人物の顔に固定されてしまった視線を今一度落とし、足先から頭頂部までしっかりと確認する。
うん……間違いない。
いや、実子であるクラリスが言っているのだから違っているはずはないのだが。
俺達が通された部屋に自らやって来たのはまさかのこのサンシャイン王国の国王であるディバン・モナーク・サンシャインその人だった。
急いで椅子から立ち上がりその場に跪いた。
俺に少し遅れる形でミリアとエモニも続く。
クラリスちゃんはクラリスちゃんだったから良かったが本来ならこのように接するべき相手なのだ。
「貴殿が救世主か。此度はわざわざここまで来てもらったこと感謝するぞ」
「はっ!陛下がお呼びとは知らず、ご挨拶に出向く前にご足労いただき大変失礼いたしました!」
正直他の貴族ならここまで固くなる必要はない。
この世界における高クラスコントラクターはそのレベルの権力を手にする。
だが、その相手が国王となれば話は別だ。
さすがに国王相手ではクラス8だろうが同じ対応になるだろう。
「ハッハッ。そう固くならなくとも良い。貴殿らはフィネレが必要だと判断し、クラリスがここまで連れて来たのだからな。二人とも余の大切な娘であり、そのクラリスが大切に思う者であればそれは余にとっても重要である」
「お父様っ!!」
……重要ですか、大切ではなく。
顔を上げてよさそうな雰囲気になっているが国王の発する圧力に中々顔をあげられなかった。
◇◇◇
結果から言ってしまえば国王は非常に接しやすい人だった。
俺達と同じ卓について、今回の依頼についての話をしてくれた。
「つまりだ、フィネレの星詠によると近いうちにこの王都が滅びるらしくてな。そしてそれを何とかできそうなのが貴殿、救世主ロティスだったという訳だ」
……忘れていたわけじゃないけどそうだよな。ここってあの『絶望勇者』の世界なんだ。
王都の一つや二つ、簡単に滅ぼされるくらいのことは当たり前だ。
ヒルウァを倒してから少し気が抜けていたみたいだ。
思いだせ、俺は前世でどれだけやってもエモニを幸せにするルートを開拓できなかった。
用意されていなかったなんて諦めるつもりはない。
実際にヒルウァを倒すことは出来たのだ。
今一度気合いを入れて、この世界に向き合わなければ。
軽い調子で俺達にそう告げる国王とは裏腹に俺は改めて気合いを入れなおした。
「それはまた……一大事ですね。原因などは見えていたりするのでしょうか?」
とはいえ、国王の相手を気合いだけで乗り切るわけにもいかず、微妙な距離感の対応を図る。
大丈夫、明らかに釣り合わない企業の役員とも交渉をしてきたブラック戦士の俺なら問題なくこなせるはずだ。
「原因……か。そうだな、これを原因と呼べるのかは分からないが――」
いったいどんなことを言われるのだと、隣に座るエモニが生唾を飲み込むのが分かった。
ミリアも真剣そのものの表情で国王の言葉を待っている。
「なんでも、余が死ぬらしいぞ。それも圧倒的な魔に体を乗っ取られて」
………………
………………
………………
「「「は?」」」
あっけらかんと言い切って見せた国王を尻目にクラリスは申し訳なさそうな顔をしている。
うん、納得した。
懐に入った途端、天真爛漫お転婆お嬢様になったクラリスは間違いなくこの国王の子なんだ。
今は申し訳なさそうな顔をしてるけど……。
「ハハハッ!驚くのも無理のないことだ。当然余も疑ったのだがな、フィネレになんど見てもらってもそうなるらしい。よって救世主ロティスに余が依頼するのは、魔となり果てた余を討つことだ」
……おいおい。
おいおいおいおい!ここは本当に絶望勇者の世界なのか!?それ以上だぞ!?
さすがにあのゲームでもエモニに人殺しはさせなかった。
……いや、魔となり果てる前に何とかしろってことか?
うん、きっとそうだ。
どこに自分を殺せと言う国王がいるというのだ。
「なるほど。とりあえずその魔というものに心当たりはおありですか?」
「無論。圧倒的な魔と言えば一つ。魔王のことだろうな」
……なるほどね。
でも魔王なら何とかなるかもしれない。
シリアスな内容はよりコメディに……。
国王ディバンは王だけあって大物ですね。