救世主転生 ~死にたくなかったので、勇者覚醒イベントの攻略不能ボスを倒して勇者を救おうと思います!~   作:嵐山田

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第二十一話 交渉の奥義

「ちょ、ちょっと待ってくれよクラリス!婚約も相当だが、まず爵位の授与ってどういうことだよ!」

 

 とんでもない状況に焦り、思わずクラリスの肩を掴んで聞き迫ってしまう。

 しまったと思い、すぐに手を放すもクラリスは全く動じていなかった。

 その佇まいは王族たる者としてふさわしい態度だった。

 そして、俺が一呼吸つくとクラリスは話し始めた。

 

「私は救国の英雄たるロティスへの報酬が金銭だけで済まされるべきではないと考えました。そこでお父様に相談してみた所、ユーリの件もあり叙勲して婚約者にすればいいと言われました。ですが、私は仮にも王女ですので、当代限りの騎士爵や領地を持たない男爵位ではさすがに婚約という訳には参りません。ということでロティスに王家が所有する物件を売り、そこをロティスの領地として認めることですべてを解決しようと思い、現在に至っているわけです」

 

 ……大変名誉なことなんだろうが、正直俺にとって爵位は必要ない。

 とは言っても、ここまで言わせて断るのは流石に……男としてダメだ、と思う。

 婚約はともかくとして、爵位の方は受けておくか。領地もここだけなら管理の必要もないだろうし……と思い返事をしようとしたときだった。

 

「まあ、わかっ――」

 

「クラリス?それは……ダメだよねぇ???」

「クラリスちゃん?ふふふっ、ふふふふふ」

 

 やばいオーラを発しまくるエモニと笑いが止まらなくなってしまったミリアが間に入って来た。

 ユメはどさくさに紛れて俺の腕に抱き着いて威嚇している……癒される。

 

「お二人には申し訳ないとは思っています。ですが――」

「ですが?違うよねクラリスちゃん。確かにお姫様との婚約は名誉なことかもしれないけど、報酬なら爵位授与で十分だよね?平民が子爵になるなんて王国の歴史をひっくり返しても、前例はないだろうから」

「そうだよクラリスちゃん。なし崩し的に婚約まで進めようとしているのはもはや明白。私のロティスだけならそれで騙せたかもしれないけど、私たちの目まで誤魔化せるとは思わないでね?」

 

 ひぃぃぃ。

 とてもとても怖い。

 いつもならユメも加わっていそうだが、今日は詰めるのを二人に任せて俺を守る役に回っているっぽい。

 ヒナさんは我関せずと言った表情で俺の拇印を食い入るように見つめていた。

 ……いったい何をしているんだ?

 

「くっ……さすがにガードが堅いですね」

「あ、認めた!ねえ、ロティス聞いた?クラリスってかわいい顔してとんだ女狐だったみたい」

「うふふふふふふふ」

 

 ……な、なかよくしよぉ。

 

「ンンッ!あ、あークラリス。爵位の件は国王ディバン様からの名誉を否定するわけにもいかないから謹んで受けさせてもらう。でも、婚約をするわけにはいかないんだ」

 

 俺は意を決して明確な答えを口にした。

 

「そんなっ!?」

 

 クラリスの顔が暗い色に染まっていく。

 

「俺はコントラクターだ。それにどうやら救世主なんて大層な役割も背負っている。正直な話し、俺はいつ死んでもおかしくない。そんな不安定な男が誰かと婚約をするわけにはいかないんだ」

 

 ……帰ったら結婚するんだは死亡フラグだしね。という建前はともかく、これが俺の本音だった。

 

「ロティス……そんなこと言わないでください……」

「そうよ、ロティスがいなくなったら私は……」

「死、ぬ?ロティスが?いやだいやだいやだいやだいやだ」

 

 あ、あーこれは選択を間違えた。大いに間違えた。

 つい弱音が出てしまった。

 クラリスは悲嘆にくれた顔になっちゃったし、ミリアは傍から見ても危ないと一目でわかる雰囲気を纏っている、エモニに至ってはあの力が出てきちゃってる……。

 俺の腕にしがみつくユメの手も震えていた。

 

「ロティス、お主はワシらの柱なのじゃ。お主が弱気になると皆こうなってしまう。無論ワシもじゃ。弱音を吐くなとは言わぬ、じゃが、自分が死ぬなんて仮定をするのだけは止めてくれ」

 

 そうだ、そうだよな……。

 なんとなく、ゲーム感覚が抜けていなかったのかもしれない。

 この世界はゲーム世界だがゲーム内ではない。

 一度きりの世界だ。

 ……もしかしたらユメはこうなることを事前に予測して、こっちに残ってくれたのかもしれない。

 

「ああ、すまないユメ、それに皆も。少し弱気になっていたみたいだ」

 

「いえ、私こそ急なことを言ってしまいすみません。そうですね。婚約はロティスの肩にかかる重荷が取れてからでも遅くありませんよね!」

 

「ん?」

「「「クラリス???」」」

 

 ま、まあ、今のところは諦めてくれたようだからもういいか。

 厄介だったり難解だったりする問題は先送りするに限る。

 

「あ、そうだクラリス。爵位を貰うって言っちゃったけど、俺が何かすることってある?」

 

「そうでした!ヒナ!」

 

「ろてぃしゅきゅんろてぃしゅきゅん……はっ!今、呼ばれた?」

 

 ……指紋でそこまで楽しめるって高名たる日本人の性癖をも上回りそうだな……業が深い。

 

「あ、あなたはいつまでそうしているのですかっ!?」

 

「は、はいっ!何もしていません!なんでしょうクラリス様!」

 

「それは無理が……いえ、もういいです。ロティスに叙勲の予定をお伝えして」

 

「はい!ですが、私も特に予定の方は伺っておりません。ロティス様に爵位を受け取ってもらえるようなら連絡をしろとだけ……」

 

 !?

 まさか、これは……婚姻という難題と婚姻に比べるとやや難題な爵位という手札を同時に見せて、やや難題の方を受け容れさせるあの交渉の奥義!?

 ブラック戦士として戦い続けた俺にさえ気づかせないとは……やられたな。

 

「え?そうなのですか?」

 

「はい。ですので私たちはこれでいったん帰りましょうクラリス様!」

 

「……そういうことならそうですね。私としてはこのままロティス邸へ泊っていきたいところですが……」

 

「「「………………」」」

 

 サラっととんでもないことを言うクラリスにジト目を向けるエモニたち。

 これには同意だ。

 

「それではロティス、それに皆もまた爵位の叙勲式で会いましょう……いや、会おうね!」

 

 いつの間にか王族としての顔しか見せなくなっていたクラリスの素の態度。

 

「おう!またなクラリス!」

 

 ブンブンと手を振る彼女の振る舞いはまさに天真爛漫そのものだった。

 

 

 ◇◇◇(sideクラリス)

 

 

 ――帰りの馬車にて――

 

 

「クラリス、婚姻の話しはもう少し粘ってもよかったんじゃない?」

 

 二人きりになり、かしこまった態度を崩したヒナがそんなことを言ってきた。

 

「そういう訳にもいかないよ。ロティスは本気で考えてくれたし」

 

 それに合わせて私も王族としての仮面を脱いだ。

 

「クラリスがいいならいいんだけどね。でも、これからはこれまで見たいに気軽に会うのは難しくなると思うよ」

 

 ……ヒナの言う通りだ。

 これでロティスに爵位の叙勲がされても、その立場は特殊なものになる。

 それにロティスには依頼請負人としての仕事が大量に舞い込むだろう。

 先ほどまでの私たちは依頼者と請負人という関係だったが、それも報酬の受け渡しまで。

 

「……わかってる」

 

「もう!そんな顔するなら最後にギュって抱き着いて来ればよかったのに。かわいいなぁクラリスは!」

 

「う、うるさい!ヒナがおかしなことをしてるからそう言う雰囲気じゃなくなったんでしょ!」

 

「えぇー私のせいなのっ!?た、確かにちょっと興奮しすぎたかもとは思ってたけど……」

 

「明らかに変態の領域だったよ!」

 

「へ、変態!?そんな言い方はいくらクラリスでもゆるさないよ~!」

 

「あ、あははっ!やめてくださいヒナっ!くすぐ、くすぐったいよ!」

 

「クラリスが謝るまで辞めないからっ!」

 

 そう言いつつも、ヒナは私の頭を撫でてくれている。

 

「今はヒナで我慢しておく」

 

「我慢ってなにさ!ま、私で良ければいつでも慰めてあげる」

 

 ロティスの代わりにヒナに抱き着いた私は彼女特有のやさしさと柔らかさを感じる。

 

 しんみりとした雰囲気の馬車はいつの間にか二人の明るい笑い声に包まれていた。




今話をもって2章のクラリス編は終わりです!
なんだかんだうまく着地したかな?……どうでしたでしょうか?
おそらく次話くらいから2章の後半、銀翼編に入っていきます!(投稿出来てない閑話をはさむかもしれません)

クラリスはヒナさんも含めて予想以上にいいキャラになってくれたので、今後も出せたらいいな~と思っています!
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