救世主転生 ~死にたくなかったので、勇者覚醒イベントの攻略不能ボスを倒して勇者を救おうと思います!~ 作:嵐山田
「ロティスの背中でも流してやるかの」
「ちょっとユメちゃん!?お風呂突撃は無しって約束したでしょ!?」
「お先に失礼するわね~」
「「それはダメ(じゃ)!!」」
クラリス達が帰った後、俺達が話しているうちにレイスたちが湧かしてくれた風呂に入った。
日本でもないというのに俺の実家とも比べ物にならないそれはそれは立派な風呂だった。
「でも、お湯魔法もないこの世界で風呂を使うやつがいたとは……それとも王都ではお湯魔法は普及してるのか?」
『それは違うわよ』
「!?」
風呂で独り言を呟いたつもりだったが、まさか反応が返って来るとは……。
「レイスの……」
『テレサよ。よろしくね、新しいハーレムくん』
……ハーレムくんは止めていただきたいものだ。
「俺はロティスだ。こっちこそよろしく……と言いたいところだが、さすがに風呂凸は勘弁してくれないか」
『別にいいじゃない。減る物でもないし……それにあのゴミとは違って引き締まったいい体をしてて、私としてはこれから毎回来るつもりなのだけど?』
鑑定士のようにじっくりと俺の身体を色々な角度から見て回り、エモニたちに聞かれたら血の雨が降りそうなことをあっさりと宣うレイスことテレサ。
「……そういえば、お湯魔法の話しだったよな?あれどういうことなんだ?」
とりあえずそんな爆弾発言には触れずに話を戻した。
『あぁ、その話だったわね。それがあのゴミがハーレムを築けた最大の理由なのよ。お湯をだす獣の口という魔具を持っていたから。ちなみに私もお風呂に釣られてハーレム入りしたわ……なのにあのゴミはあれをもって駆け落ちしていったのよ!!』
そんな恨み節を吐いてますけど……それ目的でハーレムに入ったあなたも相当では?とは言わないでおこう。
それより、なんだそのマーなライオンみたいな魔具は……。
「……それは災難だったね。じゃあ今はなんで風呂が湧いてるんだ?」
俺がそう質問すると、テレサは自慢げに胸を張って言い放った。
「お湯への無念からか死んでこの体になったら水属性魔法でお湯が出せるようになったのよ!」
「なんだそれ!?そんなことがあるのかよ」
「実際にあったのよ!でも残念ながら私は触れないから湯気で確認しただけなんだけどね……」
ちょっと可哀想だけど、風呂目的でハーレムに入った分と駆け落ちされて死んだ分で帳消しになっているのかも……と思った。
「……風呂があった経緯は分かった。だからそろそろいいかな?俺も入りたいんだけど」
独り言のつもりだった問いを拾われ、なんだかんだと長話しをしてしまったが、今の俺はかろうじてタオルで息子を隠してはいるだけで、ほぼ全裸なのだ。
テレサにはそろそろ出てもらいたい。
「今私が出たら、脱衣所にいるあの子たちに私があなたとお風呂にいたことがバレるけどいいの?」
それは非常にまずい。
というかなんでエモニたちは脱衣所に居るんだ。
久しぶりの風呂ということで気を抜きすぎていた。
「……ジロジロ見るのは止めてくれよ」
自分の恥と血の雨を天秤にかけた結果、天秤はあっさり傾いた。
「ふふ、じゃあチラチラにしておくわ!」
ご機嫌になったテレサからの視線を感じながら俺は丁寧に全身を洗い、浴槽に浸かった。
欲を言えば石鹸が欲しいところなのだが、ここは生活魔法が主流の世界。
つまり風呂は娯楽なのだ。
気分的に丁寧に洗ってしまったが、本来は風呂に入らずとも不潔になることはない。
いい世界だが、日本人としては少し気になるところでもある。
「ふぅ~この染み渡る感じ……最高だなぁ」
久しぶりの風呂は想像以上に極楽だった。
少し熱いと感じるくらいの完璧な温度調整、どうやらテレサの水属性魔法はもはや風呂魔法と言っても過言ではないレベルだ。
「いいお湯なら良かったわ……本当は私も入りたいのだけど、この身体じゃすり抜けるだけなのよね」
「それは残念だよな……せっかくこんなにいい湯加減のお湯を出せるのに……」
とは言え、実体がないのだからレイスなのであって死霊に実体を付けたらゾンビになってしまう。
それでは、風呂以外のすべてが面倒になってしまうだろう。
まあそもそも、レイスを実体化させる方法なんて知らないのだけど……。
残念そうな顔をするテレサを横目に見ながら、満足するまで体を温めると風呂を上がった。
「脱衣所の皆さ~ん、着替えたいので一旦出てもらっていいですか~」
風呂の扉の前まで行くと、まだ彼女たちの気配を感じたため声をかける。
この風呂特有の響き方も懐かしいなあ……。
なんて思いながら返事を待つも、一向に返事が返ってこない。
だが、明らかに三人の気配があるのだ。
この子たちは何をしているんだ?
「あの……三人とも?気配で丸わかりだから……」
「気にしないでいいよロティス」
いやいや気にするよエモニちゃん?
「そうよ!私はロティスのおむつまで替えてあげてたんだから!」
やめてくれミリア……そのことは記憶から消しているんだ。
「そうじゃぞロティス。ワシらは抜け駆けをしたレイスを捕らえるためにここにおるだけじゃからの」
テレサさん?ものすごいバレてますけど……どうしてくれるんですか?
そんな思いでテレサがいるはずの方を向くも、彼女はもういなくなっていた。
……逃げられた。
俺としたことが……二回も気配を見逃すなんて……。
だが今はそんなことを考えている場合ではない。
何とかしてこの現状を打破する一手を考えなくては!
「ユメ!レイスなんていないぞ?俺一人だけだ!」
作戦一、今はいないよ作戦。
この風呂はどういう訳か防音がとてもしっかりしている。
今も扉を挟んで近くにいるはずなのに相当な声量でないと会話にならない。
ならば先ほどまでの俺達の会話が聞かれている可能性は低い。
そう言う前提の作戦だったのだが……
「ロティス~嘘つかなくてもいいわ。全部聞こえていたもの」
おっと、前世の相棒無限ことミリアは無限の聴力を持っているみたいだ。
「……いや、ミリア!テレサとは声だけでコミュニケーションをとっていたんだ!つまりここには俺一人――」
「ううん、違うよね?ロティス」
作戦二、あくまで何処かにいるレイスと話してただけだよ作戦を決行しようとしたのだが、エモニによって食い気味に否定された。
「え、エモニ?なにを言って……」
「私見てたもん。身体強化魔法を目に集中させて」
……普通はそれじゃあ見えないはずなんだけどなあ……。
そんなことができたら魔法使い全員覗きの冤罪で捕まりかねないよ。
「あのエモニ?それは流石に無理じゃないか?」
「ロティス、諦めよ。より確実な証拠がある」
最後にユメさんがまるで刑罰を告げる裁判長のような口調でそう言った。
俺は思わず生唾を呑んで、続きを待った。
「ワシらが監視しているこの扉をすり抜けてあのレイスが出てきたのじゃ。それも先ほどの」
………………
………………
………………
「あのレイスめえぇぇぇぇぇぇ!!」
その日一番の絶叫が、ロティス領に木霊した。