救世主転生 ~死にたくなかったので、勇者覚醒イベントの攻略不能ボスを倒して勇者を救おうと思います!~   作:嵐山田

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第二十九話 【Side:エモニ】勇者VS銀翼

 片翼になってなお、目を奪われるような美しさと強さを兼ね備えたその翼は、魔族すべてを虫認定した私の目にもそこそこきれいに映った。

 

 そう言えばロティスはこの銀翼に話があったんだったっけ?

 

「今すぐロティスを呼んできて。そしたらそこの虫も消さないであげてもいい」

 

 その提案が今のエモニから出たのは奇跡だった。

 

 しかし――

 

「悪いね嬢ちゃん、死にかけの部下の手前、オレがここを離れるわけにはいかねえ」

 

「……」

 

 片翼となり、誰が見ても実力の差は明らかになっている。

 だが、その立ち居振る舞いは一歩も怯む様子を見せない。

 ルギアにも魔族侯爵としてのプライドがあった。

 

 エモニの表情が消える。

 

「……ルギア……さま……」

 

 エモニが攻撃しようとすると、震える声で、ジーンがルギアを呼んだ。

 

「ジーン!?しゃべるな!傷に触る」

 

「……いい……のです。……その少女こそ、我々の求めた……」

 

 役目を終えたと言わんばかりに、体の傷とは打って変わって、満足げな表情のジーン。

 

「ねぇ、もういい?私は一刻も早くロティスのところに行かなきゃなの。だから、消えて」

 

 それだけ言うと、無表情のエモニが赤黒い魔力を全身にほとばしらせ、ルギアに斬りかかった。

 いつの間にかエモニの手には、ロティスの刀を模して形作られた剣が握られており、その剣からも禍々しいオーラが放たれていた。

 

「ぬおっっ!」

 

 間一髪のところでルギアが愛槍でエモニの一撃を受け止める。

 だが、その一撃でルギアの槍は二つに折れてしまった。

 

「なるほど……確かにこの力ならば……」

 

 呟きながらルギアはジーンを担いで大きく飛び上がる。

 片翼になったというのに特に不自由な様子も見せずに空を飛ぶ姿はいくら銀翼が美しくとも奇妙だ。

 飛び上がったルギアはそのままミリアとユメが吊るされている檻の前まで移動した。

 

「……なんのつもり?」

 

「なに、嬢ちゃんの力はよくわかったからな。オレの話を聞いてもらいたいと思っただけよ!」

 

 剛毅なセリフだが、殺されないようにミリアとユメを人質にしているのは流石魔族と言ったところだろうか。

 

「……二人には悪いけど、もしあなたがこれ以上邪魔をするなら私は二人ごと消すよ?確かに二人は私の中でも二、三番目に大切だけど、私には一番さえいればいいの。そう、ロティスさえいれば!」

 

 振り上げたエモニの右手に魔力の塊が現れる。

 

 だが、ルギアも動じない。

 

「別に嬢ちゃんがいいならそれでもいいけどな?でも、そのロティスってのがその事実を知ったらどう思うだろうな?」

 

「……」

 

 ルギアの言葉で死んでいたエモニの表情に怒りが宿る。

 

「……目的はなに?」

 

 奇しくも怒りを抑えるエモニは痛みをこらえるために唇を噛んでいたロティスと瓜二つだった。

 

「かんたん……ってわけでもないが、単純だ。おかしくなった魔王様を正気に戻す、その手伝いをして欲しい」

 

「嫌だと言ったら?」

 

 エモニの言葉にルギアは口角を吊り上げた。

 

「嬢ちゃんの大切な救世主はこれを引き受けてくれたらしいぜ?他ならぬ嬢ちゃんのためにな!」

 

「どういうこと?ロティスがここに来た理由は魔族アインからの依頼とそこの虫が指輪まで渡して催促してきたからだったはずなんだけど?」

 

 エモニのためという言葉を聞いた瞬間、エモニの纏う禍々しい魔力が目に見えて引く。

 

「……いやぁ、参ったな。それについては完全にこいつが悪い。あの指輪は救世主以外を転移させる魔法が組まれてるんだ」

 

「……そう。で?私のためってどういうこと?」

 

 悪びれるルギアを歯牙にもかけず、本題を急かす。

 

「……そう焦るなよ嬢ちゃん。まあ、焦られてもオレは知らないからどうしようもないんだけどな」

 

「は?」

 

「仕方ないだろ?これはそのアインから聞いた話なんだからよ」

 

「……バカにしてるの?もういい、やっぱ消えてもらう」

 

 少し落ち着いていた魔力が再び勢いを盛り返す。

 そして再びエモニはルギアに斬りかかった。

 

「……ッおいおい、良いのかよ嬢ちゃん!それ以上に力を使うと対象をオレに絞るのも難しいんじゃねえのか?」

 

「そんなこと……分かってる!」

 

 檻を盾にするように後ろに引くルギアを斬るように見せかけて、エモニは吊るされた鳥籠のような檻を斬り払った。

 

 剣は音も立てずに堅牢な檻を切り裂きミリアとユメがそのまま落下していく。

 

「それは悪手じゃねえか?嬢ちゃん!」

 

 エモニが落下していく二人に風魔法をかけて衝撃を和らげようとする隙をついて、今度はルギアが攻勢に出た。

 ルギアの背からはいつの間にかもう片方の翼も消えており、その手にはこれまた銀色に輝く大鎌が握られていた。

 

「……普段の私なら悪手だった。でも、今は違う」

 

 振るわれる大鎌には目もくれず、繊細な魔法コントロールに集中するエモニが口だけで反応した。

 そしてその言葉の通り、ルギアの振るった大鎌がエモニに届くことはなく、直前のところで大きな音を立てて大鎌を弾いた。

 

「あぁん?なんだぁ今のは!?」

 

 風魔法で静かに二人を着地させた後、ルギアに向き直りエモニが一言。

 

「勇者魔法アイギス。私に害意を持ったすべてを弾く楯」

 

 そう言いながらエモニは初めて使う力のはずなのに、何故か使い慣れた感覚があるというデジャブを感じていた。

 

「……ハハハッ!どうやら本当にオレの予測は正しかったみたいだな!」

 

「もう人質も居ない。次で終わり。……でもその担いでる虫を降ろしてくれれば、あなたを消すのは待ってもいい。ロティスの目的はあなただと思うから」

 

「そう言う訳にはいかねえよ。オレは部下を見捨てられるようなできた侯爵じゃねえんだ!」

 

「……そう。じゃあ、あなたごと消えて」

 

「そう簡単にオレを殺せると思うなよっ!」

 

「勇者魔法ケラノウス」

 

 エモニが前に向けた手から黒い雷が迸る。

 まるで龍のようなそれは確実にルギアを捉え、直撃するその瞬間に逸れた。

 エモニの放った雷はそのまま地面へと吸い込まれて行き、轟音を響かせた。

 

「……なに?」

 

「ガハッッッ!はぁ……はぁ……お待ちください、勇者エモニ。今ルギア様を殺されるわけにはいかないのです」

 

 エモニが視線を向けたその先には、いつ現れたのか、息も絶え絶えな様子の魔族アインの姿があった。




クラリス編が長かったせいで何の話?みたいなところが多いかもしれないですが、2章の2話アインの計画あたりのお話を回収しています。
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