救世主転生 ~死にたくなかったので、勇者覚醒イベントの攻略不能ボスを倒して勇者を救おうと思います!~   作:嵐山田

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第三十話 勇者の救世主

 轟音のした方にひた走ってようやくその背中を捉える。

 エモニの圧倒的な魔力のおかげで地下にあったその場所にも迷わずにたどり着けた。

 

 そこに広がっていたのは中々に悲惨な光景だった。

 

「エモニっ!!」

 

 ミリアとユメを背に、少し長くなってきた亜麻色の髪をエモニの魔力が赤黒く染め上げてしまっている。

 エモニの先には瀕死の魔族……おそらくジーンだろうか?とヒルウァと同じくらいの強者の気配を漂わせる魔族、それに咳き込んでいるアインの姿があった。

 

「ロティスっ!?ほ、本物!?虫の魔法とかじゃないよねっ!?」

 

 虫?よくわからないが良かった。

 理性を失ってはいなかったみたいだ。

 

「ああ、本物だよ。ごめんな、ここまで来るのにちょっと手間取っちまったけど、ほら!この通り五体満足でここまで来たぜ」

 

 腕を広げて見せた俺を見て、エモニが複雑そうな顔を浮かべる。

 

「ロティス……その腕……」

 

 ああ、そう言えば左腕は真っ黒になってたんだった。

 まあ、心配させるのもアレだし誤魔化しておくか。

 もう、あの視線は感じないから問題ないだろうし……。

 

「ああ、なんか新しい力に目覚めたんだ。この左腕で刀を振るえばそこの魔族たちも一撃だぜ?」

 

「……力?……でも、私のせいでロティスの腕が焼け落ちた……」

 

 ん?エモニのせいで?

 

「何言ってるんだ?見ればわかるだろ?俺の腕は焼け落ちてなんかいないし、もし仮に焼け落ちていたとしてもエモニが責任に感じることは何もないんだぜ?俺がダメージを負ったのなら、それは俺の油断や慢心が原因だから」

 

 よくわからないが、エモニの様子を見るにあの不可視の攻撃はエモニが関係していたのだろうか?

 まあ、攻撃を受けたのは俺なのだからエモニが気にすることはないのだ。

 

「ほ、ほんとに大丈夫なの?わたし、私……ロティスがぁぁぁ……」

 

 最後の方はほとんど言葉にならないような泣き声で何かを話しながら飛びついてきた。

 

 ……ほんとに泣かせてばかりで自分が情けなくなるな。

 エモニを笑顔でいさせるためにここに来たも同然なのに……。

 

 飛びついてきたエモニを受け止めて、落ち着くように背中を撫でているとエモニの力がだんだんと抜けていくのが分かった。

 

「……エモニ?」

 

「……んぅ……ろてぃす……」

 

 一気に緊張の糸がほぐれたのだろうか。

 飛びついてきてすぐに眠ってしまった。

 

 わずかに零れる涙の跡を拭って、ミリアとユメが横たわっているところへ運ぶ。

 ミリアとユメにも特に目立った外傷はなく、確かに胸が上下しているのを確認すると俺はジーンたちの方を振り返った。

 

「さて、説明と弁解の機会をやろう。ジーンにアイン、そしてルギアさん?」

 

 ◇

 

「まずは部下の非礼を詫びさせてくれ、救世主。その指輪のせいでお前たちに迷惑をかけてしまった」

 

 唯一、直接見たことのなかった魔族、ルギアが頭を下げた。

 

「まあ、確かにおかしな話だとは思ってたんだ。俺は協力を仰ぐためにダンジョンを攻略して実力を証明して見せるって話がいつの間にか転移の指輪なんてものでショートカットできるようになってたんだから……それについては魔族の話をそのまま信じた俺の責任でもある」

 

 こんな状況でも魔族相手に気を抜くことはしない。

 さすがにジーンの指輪については無警戒が過ぎた。

 

「それでも、だ。確かにオレたち魔族は人間を欺くが、今回のような状況ではそんな言い訳をするつもりはない。本当にすまなかった」

 

 頭を下げたまま顔を上げようとしないルギア。

 このままでは一向に話が進まない……。

 

「なあ、アイン。確かお前らは勇者を探してたんだよな?でも、諦めて俺に依頼してきたんじゃなかったのか?それとも、エモニが勇者であることに気が付いていて今回をきっかけに覚醒させようとしていたのか?」

 

 あの力を見られてしまってはもう隠し立てのしようもないと思い、直接問う。

 

「それについては……そうですね。正確にはそこのエモニという少女が勇者だという確信はありませんでしたが、あなた方の中に勇者がいるのではないかと検討をつけていました。そして機会があれば覚醒させようと考えていたのも事実です」

 

 やはり、そう言うことだったか……。

 そうなると本格的に俺の安請け合いが今回のすべての原因じゃないか……。

 魔族との関わりにはもっと警戒すべきだった。

 

 後悔先に立たずという言葉を今日ほど感じた日はないだろう。

 

「……お前らが勇者を見てどう思ったかは知らないけど、俺はあの力をエモニに使わせるつもりはない。あの力はダメだ。魔王を倒すどころか、世界が滅ぶぞ」

 

「ええ、そうですね。正直想像以上でした。私もあの攻撃を逸らしただけで今も内臓がぐちゃぐちゃです」

「オレの翼も再生しないしな……正直、ジーンにはよく見つけて来たって言うつもりだったが……これじゃ、魔王さんの存在ごと消しちまいかねない」

 

「その発言は嘘ではないんだな?」

 

 しみじみと感じていると言った様子のアインたちだが、これでももう信用できない。

 念押しの意味も込めて、語気を強めに確認する。

 

「ああ、この魔族侯爵ルギアの首をかけて誓う。もう、勇者には手を出さない」

 

「……なら、いい。それじゃ、本題に入ろうか。とは言ってもその感じだとルギアはもう協力してくれるってことでいいのか?」

 

 エモニに手を出さないのであれば、俺としてはこれ以上問い詰めるつもりはなかった。

 今回、ミリアとユメは眠らされているだけでなにもされていないようなので、今後もこいつらに狙われることはないだろう。

 

 そう考えて切り換えると、アインが衝撃を受けたかのような顔で間に入って来た。

 

「待ってください!?今後も我々に協力していただけるのですかっ!?こんなことがあってすぐなのに!?」

 

「ああ、だって魔王に暴れられても困るしな。俺の目的はただ一つエモニの……仲間の笑顔を守ることそれだけだ。だから、その邪魔になりそうな事なら排除する。それだけだ」

 

「ハハッ!さすがは救世主を与えられるほどの男よっ!オレはお前が気に入ったぜ!協力でも何でもお前の役に立ってやろう!」

 

 先ほどまでの低姿勢からは一変して、長年切磋琢磨してきた友人のような距離感で接してくるルギア。

 ……この感じは何となく嫌いではない。

 

「ははっ!お前も豪気な奴だなルギア!」

 

 そう返すと、今までとは違う力が俺の中に生まれるのを感じた。

 

「ありがとうございます救世主、いや、ロティス。今あなたに生まれた力が魔王様の支配力に抵抗するための力。王に逆らう反逆の力なのです」

 

「なるほど、この力がお前の言っていた魔王を倒すために必要な力なんだな。これで魔王の支配力とやらに抵抗できるのか?」

 

「はい……いえ、正確には今の段階では完全な抵抗は難しいかもしれません。少なくとも、後二、三人の貴族様の信認が必要となるでしょう。ですが、ルギア様に認められた以上あとはもう私の領分。もしかしたらまたダンジョンを攻略していただくことになるかもしれませんが……できる限りの根回しはさせていただきます」

 

「そうか……じゃあ、任せるぞ」

 

 俺の言葉に恭しくアインが頭を下げ、俺は王都に来た目的であるアインの依頼を完遂した。




銀翼ダンジョン編はこれにて完結!

こいつエモニを泣かせてばかりだなと思われた方、そうです。私はヒロインの泣き顔が満開の笑顔と同じくらい好きなのです。
哀しい涙も安心も喜びも、とにかく感情が高ぶって涙を流すヒロインが大好物です。
これからもエモニちゃんには、たくさん笑ってたくさん泣いて欲しいですね!

あとは残ってる問題のお話を書いて二章幕引きです!
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