救世主転生 ~死にたくなかったので、勇者覚醒イベントの攻略不能ボスを倒して勇者を救おうと思います!~   作:嵐山田

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フィネレはクラリスちゃんのお姉さんです。


第三十二話 【Side:フィネレ】未来を変える男

 とある一室。

 庶民の感覚からしてみれば、広めのリビングやダイニングだと感じてしまいそうなその部屋が彼女に与えられた部屋だった。

 しかし広いのは間取りだけで、実際には狭く感じるかもしれない。

 なぜならば所狭しと、さまざまなものが置かれているからだ。

 知らない人が見れば散らかっているとしか言えないような惨状となっているが、これには理由があった。

 

 彼女の扱う固有魔法『星詠』の精度を高めるためだ。

 幾何学的な模様で編み込まれた装飾品や見るからにそれっぽい水晶玉、見た目だけは大層立派な剣など統一性のないそれらはこの部屋に来てからほとんど動かされたことがない。

 

「我が国に降りかかる災いを示せ『星詠《アポロン》』」

 

 今日も彼女はそんな部屋の中心に座り込み、未来視の魔法を行使した。

 

 ここ数日彼女の魔法には過去最大レベルの災厄ばかりが映し出されている。

 特に父である国王ディバンの死はもう数え切れないほど見て来た。

 だが、彼女は諦めなかった。

 バタフライエフェクトなんて言葉が存在するように、何がきっかけで未来が変わるともわからない。

 彼女、サンシャイン王国第一王女フィネレ・サンシャインは望む未来を手繰るために今日も未来視を続けていた。

 

「あら?これは……」

 

 最近見えていたのは父に何かが憑りつき、王国を乗っ取ろうとするところを最後の意地で父が道連れにして国王が崩御、どこから聞きつけたのかその機に乗じて魔族どもが邪神信仰を掲げて攻め入って来て王国が滅びるという未来ばかり。

 だが、今日は少し様子が違うようだった。

 

「魔物が溢れている……ダンジョンブレイクかしら?でもこのダンジョンは……」

 

 フィネレに見えているダンジョンはある街の中心に位置する、この国でも有名なダンジョンの一つだった。

 名を修練の洞穴という武の都マーズを代表するダンジョンだ。

 

「……修練の洞穴のダンジョンブレイク?おかしいわね」

 

 あそこは常にダンジョン内に人がいる状態と言っても過言ではない。

 クラス4以上の実力を持つ者はダンジョンに入ることは出来ないが、世間的に見ればそのレベルの実力を持つ者は多くはない。

 それにあの領地はダンジョンに入れなくなって一人前とするというような訳の分からない風習がある。

 そのため、ダンジョン関連の知識は幼いころから叩き込まれているはずだ。いくら中堅以上の実力がない者たちと言えどダンジョンブレイクの兆候を見逃すとは思えない。

 

「あら?また切り替わっ――ッ!?お父様!?」

 

 冷静に分析をしていたフィネレに激震が走った。

 これまで彼女の星詠に映る父は魔に取り憑かれているか、それに抗い自決した状態しかなかった。

 だが、今回の未来では父はそれはそれは元気そうだ。

 表情こそ真剣で、どこかで見た気がする男女3人組に何らかの指示を与えているが、苦しんだりおかしくなる素振りは一切見られない。

 

「そう……そうなのね。何がきっかけかは分からないけど、確かに未来は変わった。あとはこれがいい変化なのを願うばかりね」

 

 フィネレの魔法の性質上、映し出される未来は1番近くで起きるなにか。

 最近の星詠では災いを見ていたため、似たような未来ばかりだったが、今日それが大きく動いた。

 

 フィネレは父へ報告に向かおうと立ち上がる。

 すると星詠のシーンがまた切り替わった。

 

「あら、クラリスだわ。………………は?」

 

 たっぷり間をおいてフィネレの口から吐き出されたのはその一音節だけだった。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい。……あの3人は見覚えがあるわ。そう、お父様を救う可能性のあるあの男とその仲間の女たちだったはず……。そういえばクラリスが探しに行くとか言っていたわね、見つけて来れたのなら良かったのだけど……」

 

 思わず顔を覆いたくなってしまったそのシーンをもう一度見つめる。

 フィネレは自分の見間違いであるというほんのわずかな可能性を期待していた。

 だが、全くそんなことはなかった。

 

 国王である父の前に跪く3人のうち最も強い力を放っている男にクラリスが近づき、顔を上げさせる。

 なんとなく騎士が姫の手の甲にキスをする騎士の誓いを想起させるようなシーンだが、クラリスは騎士の誓いとは正反対の行動をとった。

 

「……あの子が、あの消極的で家族以外とは淡々としか喋らないようなあの子が……自分から口づけするなんてっ!?」

 

 額に手を当てる。

 衝撃的なシーンで熱くなった頭に少し冷たい自分の手が触れて、本当に現実なんだと思い知る。

 

「……こうしてはいられません。お父様への報告もあるし、久しぶりに私も外に出ましょう。あの男には一度ちゃんと会ってみなくては!いくらお父様を救う可能性がある男だからとはいえ、ただで妹をくれてやるわけにはいかないわ!」

 

 フィネレは強い女性だった。

 これまで数え切れないほどの不幸な未来を見て来た。

 しかし、絶対にめげずに未来の変化を毎日記録し、これまでも絶望的な状況から蜘蛛の糸のような細い希望を手繰り寄せて来た。

 

 そのせいもあるのかもしれない。

 彼女には強すぎる正義の心が宿っていた。

 

「まずはお父様への報告ね。とりあえず、直近に起こる災厄がお父様の死からマーズのダンジョンブレイクに変わったのだから」

 

 蹴とばすように扉を開け放ち、およそ第一王女とは思えない足取りで父のいる部屋へ走る。

 だが、彼女の顔には昨日までの絶望は窺えない。

 フィネレは確かに未来が変わりつつあることを確信していた。

 




クラリスちゃんの姉のフィネレさん。
満を持しての登場でした。
なんとなくロティスくんに女難の相が出ている気がします。
なんとなくですが。
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