アインズはアンティリーネに、自身がただの旅人ではなく、数多くのNPCと共にこの世界へ転移してきたということを既に伝えています。
ハムスケが襲来した全ての兵士を、単騎で容易く殲滅してしまったこと。
村人達に一切の犠牲が出ず、建物の損傷も軽微であったこと。
そこらに生えてる大樹程度なら、素手でへし折れる怪力を持つ私がいたこと。
本来辿る筈だったらしい、村人の半数が死ぬという悲劇的な運命から世界の流れがズレた結果、日が傾き始める前にカルネ村の復興は殆ど終了していた。
そんなこんなで、村にこれまで通りの平穏が戻りつつあった矢先、カルネ村に常駐している
話を聞いたところ、馬に乗った戦士風の者達が村に近付いてきているらしい。
「騎士風の者達ねぇ…………分かったわ。万が一のこともあるから、皆はハムスケと一緒に村の反対側まで避難しておいて。村長さんは私と一緒に広場で彼らを迎えましょう」
「いざという時は、某が時間を稼ぐでござるよ!」
「ヘーラ様、ハムスケ様、本当にありがとうございます」
感謝の言葉を紡ぎ、私の隣で馬に乗った者達を待つ村長の体は、僅かではあるが震えている。
ハムスケの活躍によって被害は最小限に抑えられたとはいえ、武器を持った兵士達が襲撃してくるという体験は、これまで戦いに身を置いたことの殆どない彼にとって中々に堪えた様子。
こればかりは慣れていなきゃキツイわよね。
一方の私はと言うと、迫りくる彼らに対して恐怖を全く抱いていなかった。
何故ならば血生臭い戦闘に慣れている以前に、私は彼等の正体とその強さを既に把握しているから。
相手よりも確実に強いと分かっていれば、恐れなんて生まれる筈がない。まあ、だからといって油断するつもりはないけど。
油断と慢心は事故の基。八欲王の暴走を止められなかった竜王もそう言っている、多分。
「私はリ・エスティーゼ王国に仕える王国戦士団の隊長、ガゼフ・ストロノーフ。ここ近隣を荒らしまわっている帝国騎士を討伐するために王の御命令を受け、村々を回っているものである」
「初めまして、王国戦士長殿。私はアダマンタイト級冒険者チーム“純白の閃光”のヘーラです」
「なんと! ……しかし、かのアダマンタイト級冒険者が何故この村に?」
ふむ、どうやら彼は私が森の賢王と呼ばれる大魔獣を屈服させたことは知っていても、その後どういう結末に落ち着いたのかは知らなかったらしい。
まあ、私みたいに信用できる〈
嘘か本当かも分からない断片的な情報から、全てを把握できる人間なんてどこにもいないわよね。
…………あ、どこぞの
「ああ、その辺の話は伝わってないんですね。では手短に…………」
そういう訳で私はガゼフに、トブの大森林の生態系バランスを鑑みて、
ちなみに、本来の歴史ではここでアインズ様とガゼフが会うらしいけど、一行が村に訪れたことに関して私は彼に何も言うつもりはない。
私は既にナザリックと協力関係になっている。
言う必要のない情報を気まぐれで他人に与えた結果、彼らに怪しまれるという展開だけは避けないといけないわ。
「ヘーラ殿、この村を救っていただき、感謝の言葉もない」
そんなことを私が考えているとはつゆ知らず、馬から飛び降りたガゼフは私に頭を下げる。
それに続いて、王国戦士団の隊員達も全員、私に対してガゼフと同様頭を下げた。
腐っても戦士長という、騎士位と同等程度の階級を与えられているガゼフが、素性の知れぬ遠方からの旅人(という設定の)私に対して、隊員共々敬意を評すというのは本来であれば有り得ないこと。
だがそう考える者は、村長や村人達を含めこの場にはいない。
それもその筈。今の私はリ・エスティーゼ王国三番目のアダマンタイト級冒険者。
元の素性が分からずとも、これまで成してきた功績とそれにより助けられた人々のお陰で、それなりの立場は保証されている。
つまり私には、アダマンタイト級冒険者であることから来る、立派な社会的信頼というものがあるのだ。
どこぞの邪悪な魔法詠唱者とは違うってことね。
「────戦士長! 複数の人影が、村を囲むような形で接近しつつあります!!」
まあそういう訳で、完全に私を信頼してくれている王国戦士団の皆様を、村長の許可も貰いカルネ村内へ招こうとしたところ、ガゼフの部下である騎兵から『何者かに村が包囲されている』との情報が伝えられた。
そして私は今、ガゼフと共に家の影から報告にあった人影の様子を窺っている。
「成程、確かにいるな。…………ヘーラ殿、あの天使について何か知らないか?」
「……知識だけなら。あれは第三位階魔法〈
「難度50か…………ちなみに弱点は?」
「近接戦が得意な反面、強力な魔法が使えないので、飛び道具を使えば…………と言いたいところですが、魔法詠唱者の傍にいることからも分かる通り、彼らは召喚された天使です。下手に距離を取れば、待機している魔法詠唱者達のいい的になってしまうでしょうね」
それに天使というものは、魔法の掛かっていない攻撃に対してある程度の耐性を持つ。
ガゼフは多分〈戦気梱封〉──自身の武器に魔法的な効果を付与する武技──を使えるだろうから良いとしても、そんなものを扱えない彼の部下達が天使を倒すのはほぼ不可能だ。
まともな戦力が一人しかいない兵団vs術者の魔力があれば何度でも蘇る天使&人間基準で見れば優秀な魔法詠唱者達。
どっちが有利かなど、幼い子どもにだって理解できる。
自分達の戦力では勝てないと悟ったガゼフの視線が、私の方へと向いた。
「ヘーラ殿、良ければ雇われないか?」
「…………雇われたいのは山々なのですが、難しい提案ですね。戦士長殿は、冒険者組合の規約をご存じですか?」
「あまり知らないが、それがどうかしたのか?」
「え? …………冒険者というのは、外から来る脅威に対応する者と冒険者組合は定めています。なので冒険者の間には、人間同士の争いに首を突っ込まないという不文律があるんです」
「そうなのか…………しかし────」
「────ですが、抜け道はあります」
私は村の後方へと視線を向ける。
そこにあるのは、村人達を大きめの
「森の賢王は縄張り意識が強い魔獣です。もしそんな魔獣の領域にモンスターを連れた人間が入れば、攻撃されてしまっても文句は言えませんよね?」
「っ! ……感謝するぞ、ヘーラ殿」
「いえいえ、私としてもハムスケのことを受け入れてくれたこの村には恩義があるので」
その後、私はガゼフと手早く作戦の計画立案を行った。
内容は単純。ハムスケが先陣を切り敵将へ突撃、その後ろから王国戦士団が追撃の一手を加え、一気に残りの魔法詠唱者達を殲滅するというもの。
こんな大雑把な作戦で大丈夫なのかと思うかもしれないが、陽光聖典程度が相手ならば全く問題無い。
確かにハムスケが本来の歴史程度のレベルだった場合は少々不安が残るけど、今のハムスケは私の特訓の甲斐あって最早別物と言っていい程の強化を施されている。
第三位階程度の妨害魔法に、英雄級の人間が扱う武技さえも行使する彼女のレベルは50と少し。
難度で表すなら驚異の150越え。それこそかの
「では、某が先に突撃させてもらうでござるよ! 遅れずに付いてくるでござる!」
「ああ。お前達! ハムスケ殿に続けぇ!!」
「「おおおぉぉっ!!」」
爆速で走り出すハムスケと共に、王国戦士団は待ち構える陽光聖典へと向かっていく。
兵士達に頼られていることが嬉しいのか、ハムスケは目に見えてやる気を漲らせていた。単純で可愛らしいものである。
個人的には、ここで上手くガゼフが死んでくれるなら、グリムのスキルで吸収しちゃいたいなと考えていたけど、ハムスケがあの調子じゃ犠牲者は数名程度で済んじゃいそうね。
まあいいわ。どうせ餌の目途はもう立ってるし。
さて…………〈可能性超知覚〉と〈空間把握〉により、私のことを監視している者がいないことは把握済み。
「────対応が遅れて申し訳ありません。アインズ・ウール・ゴウン様のシモベの方ですよね?」
「ッ!?」
種族スキル〈魔法的視力強化/透明看破〉。
スルシャーナ様の魂を取り込んだことで手に入れたこの種族スキルは、その名の通り低位の透明化を見破ることができる。
だからこそ私は、王国戦士団がこの村に訪れたときから、一定の距離を置きながらもこちらのことをじっと観察していたモンスターのことを把握していた。
忍者服を着た黒い蜘蛛に似たそのモンスターの名は〈
それにしても、一体何の用事があって私のところに彼らを寄越したのかしら?
「…………至高の御方たるアインズ・ウール・ゴウン様から伝言を預かっている。『ヘーラ殿には、ひとまずこの世界のより細かな情報収集の為に協力してもらいたい。協力者として私の優秀な側近である悪魔、デミウルゴスをそちらの都合の良い時間に送らせてもらうので、二人で話し合いどの情報をどんな方法で収集するのかを確認してほしい』とのことだ」
ああ、成程成程。
まあそうよね。私の生まれは一応法国だし、そこの情報を売り飛ばしてでもこちらに付けるのかという確認ね。
…………はぁっ!? で、デミウルゴスと面会!!?
……………………
スレイン法国が誇る特殊工作部隊、陽光聖典の隊長であるニグンは困惑していた。
冷静かつ経験豊富、これまで数多くの任務をこなしてきた彼が戦場でそのような感情を抱くというのは、これまで殆ど起こり得なかった異常事態。
だがそれも仕方のないことだ。何故なら今眼前で起こっていることは、いつぞやの青薔薇遭遇戦よりも計算外、そして絶望的な状況であったからだ。
「うわぁぁ!!」
「来るな! 化物がぁ!!」
ニグンの持つ切り札の存在を知らされていない隊員達は、既に半数が重度の恐慌状態に陥っており、様々な魔法を魔力の消費さえ気にせず立て続けに詠唱している。
ある者は追加で何体もの天使を召喚し、またある者は多種多様な攻撃魔法を放つ。中には魔力を使い果たしてしまったのか、スリングを取り出し礫を放っている者までいた。
だが…………
「その程度の攻撃で、某を止められなどせぬでござるよ!!」
人語を発した巨大な獣が、陽光聖典達の元へと一直線に駆けてくる。
立ちふさがる天使は轢き殺され、魔法は全て硬い毛皮に弾かれ、礫に関しては視認不可能な速度で投げ返され隊員の頭が消し飛んでしまう。
それはかつて森の賢王と呼ばれ、今はカルネ村に預けられているという大魔獣だ。
かの魔獣については最高執行機関も把握していたらしいが、光の神官長は『森の賢王が持つ力は精々
…………光の神官長の名誉を守るために言っておくが、最高執行機関に登ってくる情報は、グリムによる意図的な情報検閲の影響を受けたものであり、またヘーラもハムスケを一切戦闘に出さなかった為、大きな誤りがあったとしてもそれは仕方のないことである。
まあ、その事実をニグンが知ることは今後一生ないのだが。
(クソッ! あれのどこが
一方、ハムスケに続いて突撃する筈だった王国戦士団の隊員達も、圧倒的なハムスケの力に対し驚きを禁じ得なかった。
耳にしたことはあったが、まさかここまで規格外の強さを持っているなどとは、ガゼフ含め一切想定していなかったからだ。
ヘーラから彼女(この時初めて、彼らは森の賢王が雌であることを知った)のことをサポートして欲しいと言われていたが、どうやらその約束は守れないらしい。
何故なら下手に手を出せば、彼女の攻撃に巻き込まれそうだったからである。
「クソッ! せめてガゼフ・ストロノーフだけでも────」
「させるかぁっ!!」
「グハァッ!?」
ニグンから少し離れた場所に立っていた魔法詠唱者は、せめてガゼフだけでも殺そうと天使をけしかける。
だが魔法詠唱者が壁役である筈の天使をその身から離すのは、敵が優勢かつ混戦状態となっている現状に於いては悪手。
馬から飛び降りた兵士によって魔法詠唱者は切り裂かれ、天使も〈戦気梱封〉により強化されたガゼフの斬撃によって一刀両断されてしまった。
(強大な魔獣だとは聞いていたが、まさかこれ程とは…………)
そして当のガゼフはというと、向かってくる天使を切り伏せながらも、ハムスケの動きに注目している。
知性を感じさせる黒い瞳で戦場を把握し、なるべく多くの魔法詠唱者を巻き込む形で接近。
必要最小限の動きで方向転換することで、スタミナの消費を大幅に抑えている。
振り回される尻尾はバランスを保つために使われ、その姿勢は常に自然体であらゆる状況への対応が可能。
きっと魔法詠唱者達やガゼフの部下は、ハムスケの肉体面にしか目が行っていないのだろう。
しかし優れた戦士であるガゼフは見抜いていた。彼女が兵士達に配慮し、さらには四足獣なりにアレンジされた戦士の動きを取っていることに。
(だが何よりも驚きなのは、これ程に強大な魔獣を一人で屈服させたヘーラ殿の存在か)
アダマンタイト級冒険者チーム“純白の閃光”に所属する、白い大鎌を得物としている冒険者ヘーラ。
リ・エスティーゼ王国三番目のアダマンタイト級冒険者である彼女の噂は、王都にいるガゼフの耳にも入ることが時折あった。
曰く『難度100を超えるアンデッドを倒した』だとか『ギガント・バジリスクを討伐した』等々。
いくらアダマンタイト級冒険者だとしても、そこまでの偉業を一人で成すのは難しいという話を、彼は『青の薔薇』のメンバーからある少年経由で聞いた記憶がある。
故にガゼフは、これらの偉業も
しかしその考えは、彼の中では既に塗り替えられて始めているようだ。
(彼女の立ち振る舞い、無防備なようでいて一切の隙がなかった。外見的には俺より年下だったが、その年齢で一体どれ程の研鑽を積んだのか…………)
その一挙手一投足が、戦士として不自然な程に自然。
動きはそこらの一般人と同じ様にしか見えないのに、彼女へと攻撃を加えられる気が全くしない。
あれはきっと、戦士としての極致。武の天才が努力に努力を重ね、それでも到達できない逸脱者の領域。
いわゆる“高み”というやつなのだろう。
「プ、
最早
〈
この魔法で召喚される天使の中で、最も防御力が高いそれが、ハムスケへと向けて大きなメイスを振り被る。
だがいくら防御力が高いといえども、所詮は第四位階魔法で召喚される天使。
難度150を超えるハムスケにとっては、あまりにも悠長なその攻撃など、避ける必要すら本来は無い。
とはいえ油断は禁物。見た目で判断すると碌なことにならないというのは、かつて彼女の縄張りに侵入してきたヘーラとの戦闘で経験済みだ。
「ふんっ! でござる!!」
ハムスケは体を傾け踏み込み斜め方向に跳躍、速度を維持したまま
そしてすれ違いざまに、鱗を逆立てた尻尾による強力な斬撃をお見舞いした。
天使が持つ魔法の掛かっていない攻撃に対しての耐性もなんのその。大木より重く、鉄剣よりも遥かに鋭利なそれは天使の体を見事に両断してしまう。
草原に響くのは、勝利を確信した王国戦士団の歓声。そして敗北を確信した陽光聖典の、恐怖と絶望に塗れた叫びだけだ。
「あ、あり得るかあぁぁッ!! クソッ! こうなったら最高位天使を召喚する! 生き残りたい者は全力で────」
このままでは任務失敗どころか、撤退することすら叶わない。
死の恐怖に心を支配されたニグンに残された選択肢は、
…………しかし、その行動はあまりにも遅すぎた。
「────〈空斬〉! でござる!!」
ハムスケの尻尾が音速で振られ、発生した真空波が待機を揺らす。
それと同時に放たれたのは、射程圏内に接近できるまでハムスケが隠していた武技による遠距離攻撃。
瞬間、ニグンの頭部が胴体から切り離された。
力を失った手から魔封じの水晶は転がり落ち、その肉体はハムスケの突進によって、頭部諸共クルクルと宙を舞う。
────その様子を上空から〈
……………………
「ではそちらの任務が終わり次第、
「承知しました、デミウルゴス様」
夜の帳が完全に降りてから少し経ち、村人や王国戦士団の人間達が完全に寝付いた頃。
アンティリーネとの接触と、主人から任せられた計画の打ち合わせを済ませたデミウルゴスは、
その整った顔には、
だが彼の心にあるのは、己の主人に対する純粋な尊敬と畏怖という、その表情からは全く想像できないものであった。
(ああ、何ということだ! まさかアインズ様が凡庸なるこの私に、このような駒を与えてくださるとは!!)
至高なる主人が自身の名をアインズ・ウール・ゴウンと改めた後、デミウルゴスを始めとする守護者一行は、アルベドから何故主人が外出なされたのかを伝えられた。
デミウルゴスを気遣ったが故の警戒網作成に、未知なる強者との遭遇、そしてその強者と行った会談によって築いた協力関係。
主人の傍に執事として控えていながら、このような事態を引き起こしたセバスに対し少しの怒りが湧いたが、夜空をご覧になられたときの言葉を思い返せば、この事故も智謀の王たる主人が立てられた計画の内なのだろう。
とはいえ今回の一件により、偉大なる主人の手を煩わせてしまったということに変わりはない。
(これ以上アインズ様からの信頼を失わないためにも、私の持ちうる全能力を駆使して、至高なる御方のお役に立てるということを証明しなくては)
デミウルゴスが主人の部屋に呼び出されたのは、そう心に誓った矢先のことである。
『デミウルゴス。お前にはこの世界のより詳細な情報を収集してもらう。ひとまずは私の協力者となったアンティリーネと話し合い、現状ナザリックに害をなす可能性が最も高い、スレイン法国の情報収集に努めよ』
そう言った主人から手渡されたのは、数百ページはあろうかという分厚い資料の束。
許可を貰い軽く内容を確認してみると、ナザリック近郊には三つの人間国家が存在することが分かった。
三国の中で最も領土が大きく、しかし内政はとても不安定な状態にある『リ・エスティーゼ王国』。
人間基準で見れば優れた皇帝が治め、国としては王国よりも遥かに栄えている『バハルス帝国』。
かつて六大神と呼ばれしプレイヤーが降臨した、人間至上主義国家である『スレイン法国』。
成程、確かに周辺国家の中では、六大神などという輩を中心とした宗教が広まっているスレイン法国が、主人に無礼を働く可能性としては最も高そうだ。
それに主人が協力者として認められた、アンティリーネもこの国の出身らしい。
要するに主人は、スレイン法国を世界征服の最初のターゲットとすることで、彼女が世界征服に使える道具なのかを見定めようとしているのだろう。
そんな役割を任せられたデミウルゴスは、確実に主人の望む……いや、それ以上の成果を上げるべくナザリックから飛び立つ。
そして彼は彼女と出会い、そして少し会話をするうちに理解した。
────アンティリーネの精神構造は人間のようでいて、その実態は立派な異形種だ。
彼女の人格は見たり聞いたりする分には、優しくて活発な少女にしか感じられない。
だがそれは、恐らく彼女の精神が最低限の条件を満たしているという状況が成り立っているから。人間の少女である分の余裕があるというだけの話。
要するに彼女にとって人間としての感情や営みは、ただの嗜好品や趣味の類でしかないのだ。
食事、睡眠、性行為、さらには他人との交流等々。人間ならば当然のように欲するそれらは、彼女にとって精々娯楽止まり。
とするならば、彼女にとっての生活必需品は何なのだろうか。
それは彼女の傍に控えるアンデッド、
ことの詳細はデミウルゴスも予想で語ることしかできないが、どうやら彼女は過去のトラウマかなにかが原因で、母親或いは母親の役割を果たしていた者に強く依存している。
『
彼女はグリムと共にいられるのならば、それ以外の物を全て捨て去っても何も感じないのだろう。
無論、
一方のグリムはというと、こちらもその本質はアンティリーネに依存している。
これに関しては、造物主たる彼女がそういう想いを持つように願って生み出したのだろうから、至極当然の考え方だ。
他の存在にも優しく接するらしいが、それはグリムのモデルとなった人物が誰にでも優しくするような性格だった、或いは彼女がモデルに対してそのような印象を抱いていたからだろう。
彼女にとって重要なことは、結局のところ歪な
狂気的かつ本能的な欲求の自給自足。人間として破綻し、それでも人間ごっこを続ける憐れな
この世界基準では突出し過ぎている戦闘能力も、複数の国家を同時に操れる程に精密で膨大な情報も、全てはただ幸せを侵されたくないが為の自己防衛。
────ああ、何と単純で、何と操りやすいのだろう。
(アインズ様に忠誠を誓っていないという点は不快ですが、彼女を世界征服の駒として上手く使えば、ナザリックの損失は予定よりも大幅に減少することでしょう。さて、彼女が最低限の信頼に足る人物だということは分かりましたし、私も準備を進めなければ)
きっと主人は、彼女のことを一目見てこの本質に気が付いていた。
故にこうして接触の機会を与え、彼女が便利な道具であるということを、凡庸なデミウルゴスにも示したかったのだろう。
さらに言ってしまえば、主人より与えられしスレイン法国の情報収集任務…………完全な情報掌握による裏からの国家支配の全権を、主人はデミウルゴスに与えている。
つまり彼は試されているのだ。
『お前はこの道具をどこまで有効活用できる? これを使ってお前が私の役に立てる存在であることを、十分な成果で以ってして証明してみせろ』と。
至高の四十一人を崇めし国が建国される日は、然程遠くない。
王国戦士団
ハムスケが結構張り切ったため、被害は死者0人、重傷者数名程度で抑えられた。
ついでにハムスケやヘーラに対して尊敬の念を覚える。
ハムスケ
頑張ったご褒美として、やけに美味しい晩飯を用意された。
それが
そのうちハムスケドラゴンになったりしないかな。
陽光聖典
偽情報を掴まされていたため全滅。
数人は王国の捕虜、また数人はこっそりナザリックへと送られている。
魔封じの水晶はデミウルゴス経由でアインズの元へ。アインズは〈
アンティリーネ
人間としての魂が表層に出ているため健全な少女としてこの世界に存在できているが、デミウルゴスとアルベドには、理性という薄い氷の下に封じられた、母親への狂気的な執着がバレている。
ちなみにある魔法を使えば、目障りな三大欲求や他人への思いやりを捨て去り、完全な異形の精神になることもできる。
ただしそうすると心が完全に堕ちて、アニメ四期ラストのラナー王女みたいな精神になってしまうため、アンティリーネはその魔法をこれまで数回しか使ったことがない。
『人として生きていたい』
百年以上の時を生きるアンティリーネの人間としての精神を、ギリギリ最大のところで保てている最大の要因であり、完全な異形化を防ぐ最後のストッパー。
グリムが生きている限りこれが外れることは無いが、グリムが消滅した場合は即バッドエンド。母を失った幼子は自らが滅びるまで泣き喚く。例えその余波で、世界が滅んでしまおうとも。
逆に言ってしまえば、グリムを守ることに協力している限り、彼女は最強にして最高の道具となる訳だ。
デミウルゴス
外部の存在でありながら、本作のアンティリーネの本質に気付いた二人目の存在。
アンティリーネのことは道具としてとても信頼しており、同時に本質が異形でありながら人間でいようとするその姿勢に、人間のことを下等生物と称するナザリック的思想からくる侮蔑と、人を玩具とする悪魔としての種族的性質からくる愉悦を覚えている。
アインズを神として崇める国家を作るべく、魔王による法国襲撃作戦『ジュデッカ』を計画中。
アルベド
外部の存在でありながら、本作のアンティリーネの本質に気付いた一人目の存在。
アンティリーネのことはデミウルゴス同様、道具としてとても信頼しているのだが、彼女の場合はアンティリーネに対しちょっとした仲間意識を持っている。
あれ程アンティリーネを殺そうとしていた彼女がこの考え方に至った理由は幾つかあるが、『アインズ様のことを信じてはいるが積極的な接触の意図は無く、故に寵愛を受けることも受けようとすることもない』という特殊なスタンスを今後保ち続けるという確信。
そしてアルベドもアンティリーネも『愛の為なら他の全てを躊躇いなく殺せる』という思想が根底にあるから。
この推論はグリムに向ける感情の重さが、アルベドに冷静な思考を取り戻させる程の凄まじさを伴っていたからこそ導き出されたものである。
要するに似た者同士ってこと。
ちなみにアンティリーネの本質を見抜くには、常人離れした頭脳と、異形種の精神構造に共感できる心が必要。
アインズ
様々なリスクを考慮した結果、大切な友の形見であるデミウルゴスを、現状最も危険度の高いアンティリーネの元へ送るという苦渋の決断をする。
勿論デミウルゴスには撤退用のマジックアイテムや行動妨害対策の装備を幾つも持たせたし、彼が無事に帰還したときは心底ホッとしていた。
デミウルゴスが尋常じゃないレベルの深読みを発動させ、至高の四十一人を崇拝する国を生み出そうとしているのも知らず、今はNPC達のデータ確認や執務に励んでいる。