道外れの絶死絶命   作:池の鴨

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エルフのオリキャラが少し出ますが、多分重要キャラにはならない…………筈。


絶死絶命(オーバーロード)森妖精(エルフ)の王

「…………はあ、呆れるな」

 

 エイヴァーシャー大森林に存在するエルフの国の王、デケム・ホウガンは侮蔑の籠った溜息を付くと、華美な装飾の施されたグラスに口を付け、琥珀色の輝きを宿す高価な酒を呷った。

 

 彼の前でひれ伏していたエルフの女は、王の機嫌を損ねた自分がこのまま殺されると思ったらしく、僅かに身を震わせ処刑に怯えている。

 

 だが幸いなことに、今のデケムにはこの矮小なる女を殺そうという気は微塵もなかった。

 いや、本当は彼女の発言を聞いたとき少しだけイラついたが、己の住居をこんな者の血で汚すほうがよっぽど不快だとすぐに思い至り、自身が動いてまで殺す気にならなかっただけだ。

 

 彼は優しく、そしてとても慈悲深い王なのである。

 

「何故分からぬ。これは貴様らのような弱者が強くなる絶好のチャンスなのだぞ? それを『死にたくないから』などという腑抜けた理由で無下にしようとするとは」

「し、しかし、法国の兵は私達よりも────」

「それがどうした? 戦わなければ力とは身に付けられぬものだ。戦線を離脱して俺の元に来る暇があるなら、その分法国の兵を殺して俺に相応しいメスとなれるよう成長しろ」

「ッ…………承知、いたしました」

 

 子どもを諭すかのような彼の優しい言葉に感激したのだろう。エルフの女は歯を食いしばり、目に溢れんばかりの涙を浮かべて彼の部屋から立ち去っていく。

 

 無知なるあの弱者(エルフ)が王たるデケムの時間を奪ったことは、本来それだけでも大罪に値する。

 だがあれは王都ではなく、より法国に近い地域に住処たるエルフツリーを構えていると言っていた。となればあれにとって戦いは身近に迫りやすい訳で、つまり強き力にも目覚めやすいということに他ならない。

 

 王の言葉に感銘を受けた彼女なら、きっと良い母体として成熟し強大な力を持つ子を産んでくれるだろう。

 

「全てのエルフが、あの程度の気概を持ってくれればいいのだがな」

 

 エルフ達に秘められた強き力を目覚めさせる良い機会だと思い、法国との戦争を始めてはや20年。

 

 自分の子ども達による最強の軍隊を作り、全世界に偉大なる父の教え……『エルフはどんな生物よりも強くなれる素晴らしい種族』だという事実を広めるべく、子作りに勤しむデケムの計画は現在、想像もしていなかった事態に見舞われ行き詰まっていた。

 

 その重大な事態とは、産まれた子ども達が皆弱すぎるということ。

 なんと最強を自負する彼の血を与えられているというのに、産まれてくる子ども達は彼の半分にも及ばぬ力しか発揮できぬ失敗作ばかりであったのだ。

 これでは何百年経っても世界征服(教えを広めること)などできず、それどころか優秀な子ども達で結成した軍隊さえ作り出せないかもしれない。

 

 デケムは何らかの策を講じるべきだなと考え、ひとまず母体を強くしてみるかと思い前線に女を優先して送るよう命じた。

 しかしその成果は一向に見えてこないというのが現状である。

 

「俺と同じエルフでありながら俺の言葉を全く理解できていないとは、弱者というものは実に愚かで救い難い。…………そう考えれば、あの時の女は素晴らしい母体だったな」

 

 デケムはふと、かつて彼の子を孕んだ一人の人間を思い出す。

 

 彼女は確か、まだエルフの王国と法国が友好関係を結んでいた時に招いた客人だった。名前は覚えていないが、騙して捕らえた際にデケムが向けた殺気に耐えられた、唯一の女である。

 

 当時その強さに興味を持ったデケムは彼女を鎖で縛り、喚く口を塞ぎ、力ずくで子どもを孕ませた。

 それまで子作りを戦力増強の一環としか考えていなかったデケムは、あのとき初めて性の快感というものを覚えることができたのかもしれない。

 

「…………所詮は人間だからとぞんざいに扱ったのは、今思えば失策だったか」

 

 デケムが彼女に子を孕ませた際、彼女は喜びのあまりボロボロと涙を流し、自殺予防の口枷をされているにも関わらず、デケムに喜びの言葉を伝えようと必死に呻いていた。

 彼の寵愛にあそこまで嬉しそうな反応を示したのは、今のところ彼女だけである。もしかしたら彼女は、本能的に王の偉大さと思想を理解できていたのかもしれないと今更ながらに思う。

 

 だが彼が望むのは純粋なエルフの戦士であり、決して人間の血が混じった半端な者ではなかった。

 故にデケムは女から好意を寄せられていると知っていながら、彼女に対して他の孕んだエルフ以下の関心しか寄せなかったのだ。

 

「あの女も俺のことを愛しているのなら、子どもと共に法国を抜け出し、今すぐに俺の元へと帰って来るべきなのだが…………」

 

 デケムが関心を寄せなかったがために、その女は他の漆黒聖典によって法国へと連れ去られてしまった。

 母体が重要だということにあのとき気付いていれば、王が自ら出向いて漆黒聖典を迎え撃ってやったというのに。

 

 湧き上がる怒りのままに、彼は舌打ちをする。

 無論母体の重要性に気が付いていなかった過去の自分に対してではなく、王の所有物である子どもを一向に返そうとしない無礼な法国と、そこに捕らわれているであろう優秀な母体に対してだ。

 

「まあいい。子どもが俺のように強く賢ければ、法国よりも俺の元にいた方が良いとすぐに気づけるだろう。そのときを待てば────」

 

…………コンコンコン…………

 

「…………入れ」

 

 デケムは先程よりも大きな音で舌打ちをしつつ、扉の奥にいるであろう矮小なエルフに入室を促す。

 

 いくら彼が慈悲深い王だとしても、崇高なるその思考を止められるとあらば不快に感じるのも当然。

 どうせ代わりは沢山いるのだし、用件だけ聞いたらさっさと殺してしまうべきか、と考える彼の前に姿を現したのは、先程デケムの言葉に感激し退室したはずの女エルフであった。

 

「し、失礼します! 『王の相』を持った少女が、王にお目見えしたいと!」

「────ほう?」

 

 その言葉を聞いた瞬間、先程までデケムの心を満たしていた不快感と殺意は全て吹き飛んだ。代わりに湧いてくるのは、遂に夢への第一歩が踏み出せたという喜びだけである。

 

 というのも、王の相……左右の瞳が違う色であるということは、それだけデケムや彼の偉大なる父の血を濃く受け継いでいるということに他ならない。

 

 しかもそのエルフは女だという。つまり万が一戦闘能力がデケムに及ばずとも、優秀な母体としてより血の濃い子どもを産ませ活用することだってできるのだ。

 

「良いだろう。そいつを今すぐ連れてこい」

「……畏まりました」

 

 急いで部屋の外へと出ていった女には目もくれず、デケムはこれから訪れるであろう我が世の春を夢想する。

 

(まずはどの程度の才を持っているのか確かめるべきだな。ベヒーモス…………では叩き潰しかねんし、最初は俺の殺気に耐えられるかどうかで確認するべきか。もし耐えられたのなら早速────)

「王よ、連れてまいりました」

「失礼します」

「おお、来たか…………ん?」

 

 女エルフに案内され入室してきた少女の姿を見たデケムは、その脳内に疑問符を浮かべた。

 

 というのもその少女……片方が白、そしてもう片方が黒の長髪という、特徴的な髪型のエルフを産んだ覚えは彼になかったからだ。

 それに少女の顔立ちも気になる。見せつけるように髪から飛び出た特徴的な耳は確かにエルフのものであるが、その他のパーツに何故か微妙な違和感を感じてしまう。

 

「ふむ、まあいい。ひとまずは確かめてみるか」

 

 とはいえそのような問題は、この際然程気にする必要も無い。

 少なくとも少女の持つ瞳は、デケムのそれに勝るとも劣らない美しさを秘めたオッドアイであり、王族の血を色濃く受け継いでいるということに間違いはないのだから。

 

 上機嫌なデケムはそう考えるや否や、何も言わずに少女へと向けて鋭い殺気を放った。逸脱者はその身から発する殺気だけで、矮小な生物を殺すことができるのだ。

 

 この場に少女を案内してきた女エルフが、声にもならない悲鳴を上げてその場にへたり込む。直接殺気を向けられた訳でもないのに、彼女は思わず失禁してしまう程の恐怖を味わったのである。

 

 こんな殺気を身に受けた少女は無事なのだろうか。女エルフが恐る恐る顔を上げ、その様子を確かめると────

 

「ッ!? …………殺気、ですか。流石は偉大なる我らが王、私などでは足元にも及ばぬ程の力を、その高貴なる身に秘めていらっしゃるのですね」

「ほう、ほう、これに耐えきれるとは。貴様には俺に抱かれる資格があるようだな」

 

 少しだけ苦しそうに顔を歪めながらも、倒れないどころかその強大な力を褒め称えてくる少女を前にして、デケムの口角がほんの少しだけ上がる。

 

 これまで彼による本気の殺気を向けられ倒れなかった存在は、偉大なる彼の父と法国の女を除いて一人もいなかった。しかしこの少女はデケムの殺気を前にしても倒れることがなかったのだ。

 

(!! そうかそうか、分かったぞ。この娘は()()()()()()()()()()()で暮らしていた母体が孕み、そして()()()()()()()()()()()と自己流の方法で育てていたということか。成程、実に素晴らしい! この娘との間に子を成せば、俺の夢が現実になるときもそう遠くはないぞ!!)

 

 法国の進軍はエイヴァーシャー大森林に生息するモンスターに阻まれ、王都のエルフはまだ戦争というものを身近に感じられていない。

 だがエルフツリーが法国の近くにあった()()()()エルフ達は、戦争の経験から王の真意……力を目覚めさせることができたのだろう。

 

 同じエルフでも住処が離れていればある程度顔の違いも出てくるだろうし、王都から殆ど出てこないデケムが法国付近で生まれた子どもの顔など知る筈もない。

 

 だからこそ彼女の容姿に違和感を感じ、そして見覚えもなかったのだと()()()()()()()理由で納得したデケムは、脆弱なゴミに分類されない素晴らしき我が娘を前に、今すぐ抱きしめたいという欲望を抑え側に来るよう手招きをする。

 

 絶世の美男と呼ぶに相応しいと自負する彼の顔に浮かぶのは、彼の父親が死んでから一度も見せたことのなかった、新しい玩具を買ってもらった少年のように濁りの無い純粋な笑み。

 それは彼の思想や所業を知らぬ人間種が見れば、一目惚れしてしまう程に魅力的な表情だった。

 

「さあ、俺の元へと来るがいい…………お前、名は何という?」

「“アンティール”という名です、偉大なる王よ」

「よせ。お前は俺の血を受け継いだ素晴らしきエルフだ、俺のことを『お父様』と呼ぶことを許す」

「ありがとうございます、お父様。…………ところで、あの者はどういたしましょうか?」

 

 あの者とは誰のことだと思いデケムが部屋を見回すと、入口付近に脆弱なゴミの姿があることに気付く。

 

 その顔は幽霊を見たかのように恐怖で青褪めており、涙を流しながらブルブルと震えている。その上王の所有物であるこの宮殿を汚らしい尿で汚しているのだから、もう救いようがない。

 

 だがあのような汚物を、高貴なる王が自ら出向いて処理するというのは相応しくないだろう。となれば選択肢は一つだけ。

 

「そうだな、お前という最高の母体が手に入った今、あのような弱者はもう必要ない。お前が好きな方法で処理するといい」

「…………ありがとうございます。それではさようなら、()()()

 

 瞬間、デケムの視界がぐるりと回転する。

 娘が素晴らしいエルフであったことに喜び、気分が高揚し過ぎてしまったのか。

 

 娘の前で醜態を晒す訳にはいかないと思った彼は、意識をはっきりとさせるべく頭を軽く振ろうとして…………その視点が、決してあってはいけない場所にあると気が付いた。

 

 玉座から前のめりに倒れていく己の体に顔は無く、空間ごと切断されたかのように滑らかな首の断面からは、噴水のような勢いで血飛沫が飛び出している。

 

 その光景を最後に、本来扱えない強さを持つ根源の土精霊(プライマル・アース・エレメンタル)を操り、第十位階魔法すら行使することのできた八欲王の息子たる彼の魂は、この世から跡形もなく消滅した。

 

 

……………………

 

 

 法国最奥部に位置する聖域へと足を踏み入れた私は、私がこの世界の事情を知った日から()()で連絡を取ってくるようになったあの御方に協力してもらい、エルフ国の王都へと侵入した。

 

 〈遠隔視(リモート・ビューイング)〉で場所を指定したら、後は〈転移門(ゲート)〉を使ってもらってくぐるだけ。カッツェ平野やアベリオン丘陵で経験値を稼ぐときにも利用させてもらったわ。流石はスルシャーナ様の第一従者、とっても頼りになる。

 

 そして王城に辿り着いた私は、偶々見かけた女性に声を掛けてデケムの元へと案内してもらったのだけれど…………

 

「は……? え、嘘? 本当に死んだの?」

 

 私の目の前に転がるのは、ばたりと倒れこみ勢い良く噴き出される血液で部屋の床を汚していく首なし死体と、呆けた表情を浮かべ転がった父親の生首。

 あまりにも呆気ない父親の最後に、私は思わず声を上げてしまった。

 

 だってデケム・ホウガンといえば、この世界でも珍しい第十位階魔法を扱える上に、(多分)90レベルくらいはある……なんだっけ? ベヒーモスっていう名前は本名じゃないとかアインズ様は言ってた気がするけど…………まあとにかく、私くらいのレベルじゃなきゃ倒せないってくらいには凄い人の筈。

 

 でも彼を殺して既に一分が経過している。

 部屋のトラップが発動したり、何者かが奇襲攻撃を仕掛けてくる気配も一向にない。警戒を怠るつもりは無いけれど、デケムの体やこの部屋自体に仕掛けは無いと見てよさそうね。

 

「はあ、まさかこんなあっさりと勝てちゃうなんて…………」

 

 私は手に持つ戦鎌『カロンの導き』を一振りし付着した血を払うと、〈小型空間(ポケットスペース)〉という名の魔法を発動しその中に仕舞った。

 

 あ、ちなみにこの行動は『私が魔法で武器を出し入れしている』って思わせるためのブラフよ。本当は出し入れもなにもって感じなんだけど、詳細については割愛させてもらうわ。

 

 それよりも今するべきことは、暴君がいなくなったエルフ国の後始末だ。

 なんせこの国はこれから、対アインズ様専用の技術開発拠点として生まれ変わるのだから。

 

「あ…………あなた、様は……一体…………?」

 

 想像よりも早くエルフ王の死が飲み込めたらしい私を案内してくれた女が、恐る恐るといった様子で私に声を掛けてきた。

 

 彼女からしてみれば今の状況は、『憎たらしいエルフ王が死んだ代わりに、もっとヤバい何かが王になろうとしている』といったところ。

 

 となれば私が取るべき最善の行動は決まっている。

 私がクソ親父のような暴君ではないことの証明と、私に従うことで得られる利益の保証だ。

 

「私はかつてエルフ王に犯された人間から生まれた半森妖精(ハーフエルフ)。そして今は、法国もエルフ国も裏切ってこの地に戻ってきた新たなるエルフ国の女王よ。安心して、大切な自国の民を無暗に殺したりはしないわ」

 

 私は念の為『カロンの導き』に内蔵されている魔法の一つ〈邪視(イビルアイ)〉をこっそりと使用、麻痺(パラライズ)の状態異常を付与し想定外の反撃に備えた上で、彼女も元まで歩み寄り頭をそっと撫でた。

 

 こういう撫で方をされると心が落ち着くというのは、昔身をもって体験している。

 

「ぁ…………これは……夢、なのでしょうか……?」

 

 お、効果はだいぶあったようね。女性は瞳に大粒の涙を浮かべて私のことを見つめている。

 デケムが普段どんなことをしていたかははっきりと分かっていないけれど、この反応を見るに他のエルフ……少なくとも王都のエルフは私でも懐柔させられそうだわ。

 

 ありがとうお父様。あなたが国民達を見下していたおかげで、王様初心者の私でもこの国を支配できそうです。

 

「夢なんかじゃないわ。その証拠に……あー、ほら、少しだけ匂うというか…………」

「え? …………ッ!! も、申し訳ございません!! 貴方様の神聖なお身体を私の排泄物などで穢してしまいました! 何卒、何卒お許しをッ!!」

 

 うーん、バッドコミュニケーション。

 エルフの懐柔が可能かどうかの確認ができたから話題を変えようと思ったんだけれど、ちょっと対応をミスったみたいね。

 

 ……いや、よく考えなくても目上の人に匂いの話とかされたらこういう反応になるわ、うん。長らくそういう行為とは()()だったから忘れてた。

 こんなことなら戦闘経験だけじゃなくて、もう少し人間との会話練習をしておくべきだったわ。

 

「あー、えーっと…………そうだ! じゃあこのことを許す代わりに、一つ協力してくれないかしら?」

 

 

……………………

 

 

 エルフ王が法国を裏切り戦争が始まってから20年程経った今日。突然発令された王命により、王都に住む全てのエルフ達が城門前に集められた。

 

 伝令として派遣された女エルフによると、『これからのエルフ国について、王自ら宣言するべきことがある』とのことらしい。

 

 王の相たるオッドアイを持たぬ全てのエルフを見下していた王が、部下に任せるのではなくわざわざ自らの口で今後の方針を語るということは今まで一度もなく、故に集まったエルフ達の目には傲慢で冷酷な王に対する恐怖以外に、ほんの少しの好奇心が宿っていた。

 

「…………誰だ? あの女は……?」

「静かに! ……よく顔を見てみろ、『王の相』だ」

 

 前方にいるエルフ達が何やら騒ぎ始めた。

 耳を傾けて話を整理してみたところ、どうやら王ではない何者かが王城から現れたことで皆困惑気味のようだ。

 

 気になった彼はつま先立ちをしたり首を左右に傾け、どうにかしてその人物の顔を一目見ようとする。そうして奮闘すること十数秒、遂に彼はその人物を目撃することに成功した。

 

(…………女? しかもまだ若い……。『王の相』が発現しているということは、エルフ王の娘…………? いやしかし……いくら王の相を持つ娘が生まれたとしても、あの傲慢な王が主役として出てこないことなどあるはずが…………。それにあの娘、どうも顔立ちに違和感を感じる…………)

 

 右手に弧を描いて飛び出した刃物が付いた奇怪な杖? を持ち、左手に何か重い物が入っているらしい麻袋を引きずり城門へと歩いてきたのは、綺麗に分かれた白と黒の長髪が特徴的な、王の相たるオッドアイを宿す一人の少女。

 

 その後ろに控えているのが王命を伝えに来た女だということから、少女がそれこそ王に匹敵する地位の存在だということは分かる。

 だがその場合、あれほど王の相に拘っていた王が、何故ここまで彼女の存在を公の場にだしてこなかったのかが分からない。

 

 あの王ならば『俺の力を引き継ぐ子どもが遂に生まれた。この娘を鍛えるために、弱者たるお前達にはある程度死んでもらう』などとほざいてもおかしくはない筈。

 

 その考えは他のエルフ達も同様のようで、『王の妹君なのでは?』だとか、『王が宝物庫の宝で性転換し、自ら子を持つことにした』だとか、根も葉もない噂話を少女に聞こえぬ程度の音量で話している。

 

 そして『王は秘蔵の娘に殺されたのでは?』などという、もし王に聞かれていたのなら処刑待ったなしの危険な発言が飛び出し始めたころ、遂にその女が城門の元まで辿り着き、右手に持つ奇怪な杖を水平に持ち上げた。

 

 それだけで集められた全てのエルフが口を噤む。その動作にはかのエルフ王を思わせる、我々では決して到達できない存在が故の圧が籠っていたからだ。

 

「…………初めまして、王都に暮らすエルフの皆様。私の名前はアンティール・ホウガン、つい先程先代エルフ王デケム・ホウガンの命を刈り取り、新たにこの国の王となった者よ」

 

 小鳥のさえずりを想起させ、しかし決して軽くは無く堂々としたその声に、エルフ達は思わず聞き惚れてしまった…………が、一人、また一人と我に返ったエルフ達の顔は真っ青に染まりきっている。

 

 彼女は今、確かに『王を殺した』と言った。

 邪知暴虐にして神の如き強大な力を父親から受け継いだ、暴君デケム・ホウガンを殺したと。

 

 もしこんなことが王に聞かれたら、それが例え王の相を持つ娘だとしても、あの暴君は不敬罪として容赦無く処刑を実行することだろう。

 

 急いで今の発言を取り消すよう進言しようとしたが、それよりも先にその娘が口を開いた。

 

「あら? もしかしてあんまり信じてない? 一応死体も持ってきたのだけれど。あ、心臓が弱い人は見ちゃだめよ?」

 

 そう言った彼女は、左手に持っていた……よく見れば赤い液体が滲んでいる麻袋をエルフ達の方へと投げ飛ばした。

 

 ドスンと地に落ちた衝撃で袋の口が緩み、中から何かが転がり出てくる。

 最前列にいたエルフが恐る恐るそれを持ち上げ確認すると、それは確かに、バッサリと切り取られたデケム・ホウガンの頭であった。

 

「ひぇっ!?」

「……え? ちょっ!? 倒れた!? だから心臓が弱い人は見ちゃだめっていったのに! えーっと、ビーニィさん、この人王宮の寝室に寝かして看病しといてくれる?」

 

 きっと少女を除く皆が、『どんな心臓を持っていれば、突然転がってきた生首に驚かないんだよ!?』とツッコんだことだろう。

 

 それ程までにその少女は、いくら暴君だったとはいえ父親であった筈の死骸に無頓着だった。いや、死骸に対する認識が噛み合っていないとでも言ったほうが正しいかもしれない。

 

「しかし、王宮に我々のようなものを────」

「良いの良いの、どうせクソ親父は死んでるんだし。あ、一人で運べそう?」

「問題ありません。王の……アンティール様のお手を煩わせる訳にはいきませんので」

「あらそう、それじゃあ頼むわね。えっと、それで…………とりあえず、私があなた達の新たな王だってことは分かってくれたかしら?」

 

 ビーニィという名らしい伝令の女と少女のやり取りを呆然と見守っていたエルフ達は、軽く咳払いをした少女の言葉にコクコクと頷く。

 

 実のところ、この場に集められたエルフ達はまだ一人として、今何が起こっているのかをはっきりと理解できていなかった。

 

 それもその筈。自身以外のエルフを見下し続け、しかし歯向かう意思すら湧かぬほどに強大であったエルフ王デケム・ホウガンを殺すことができたというのは、意味の分からぬ理由で戦地に送られ仲間を奪われた彼らの悲願達成に等しい。

 

 それをまだ110歳(エルフの成人年齢)にもなっていない、非力そうに見える一人の少女が行ったとして、それに対しどう反応すればいいのかなど分かるはずもないのだ。

 

 そんなエルフ達の気持ちなどつゆ知らず、アンティールと名乗った新エルフ王はテキパキと指示を出していく。

 

「それじゃあまずは私が即位したことの通達ね。これは私自ら出向きたいのだけれど、一人で行って敵対されると嫌だから後で一緒に行動してくれる兵士を決めるわ。兵士はこの後私の元へ来るように。次にあなた達の暮らしなのだけれど、しばらくは今まで通りでいいわ。諸々の対処が終わったら改めて見直すから。それと法国への対応は全部私がやっておくわね。それじゃあ今日はここまで、解散!」

 

 

……………………

 

 

 その日を境に、エルフ国改め“アンティール()()()”は新たなる歴史を刻み始めた。

 

 王はまず数人の兵士(選考基準は『心臓が強いかどうか』)を供として、エルフの村を訪問し新たなる王の即位を自ら伝えた。その際馬として用いたのは、かつて大陸中央に位置するビーストマンの都市を三体で滅ぼしたとされる伝説級のアンデッド『魂喰らい(ソウルイーター)』だ。

 

 そして法国との戦争に関しても、彼女が即位してからは彼女の能力により生み出された“たった一体”のアンデッドにより押さえつけられているらしい。

 ()()()と呼ばれているそのアンデッドが使用できる魔法の最大位階については不明だが、その体……特に()()()()はアンデッドであるにも関わらずとても暖かいと言われている。

 

 また王はエルフ達の生活を少しでも改善するべく、様々な事業にも手を出しているという。

 その政策の一つが『アンデッドの貸し出し』。これにより王都近辺限定ではあるものの、エルフ達は住処として利用しているエルフツリーから離れつつあるのだ。

 

 そしてある程度国が安定したと確信したアンティールは、国を共和制(市民の中から選ばれた有権者数人が国の方針を定める国家形式)にし、王位を自ら放棄した。

 本人曰く「私は力にこそ自信はあるけれど、政治に関してはまっぴらだから」なのだそう。

 

「────というのが、わしのアンデッドを使って調べられたことじゃな。いやぁ、中々楽しい冒険だったわい!」

「はは、そうかい。君は相変わらずだね」

 

 カカカと楽し気に笑う彼女の姿を見て、部屋の中央に鎮座するそれは口元を歪め……何も知らない人間からしてみれば捕食行為にしか見えない笑みを浮かべる。

 

 それは相手の気分を良くするための愛想笑いではなく、数少ない知り合いである彼女の無事を確認できたことに対する安堵の笑みだ。

 

 何せ今回彼女に頼んだのは、逸脱者と呼ばれたこともある彼女でさえ命を失うかもしれないような用件だったのだから。

 

(君が無事でいてくれて本当に良かった。もし囚われでもしていたら私は君を…………いや、これ以上はよそう)

 

 ふと頭によぎるのは、己が手で友を殺すという最悪の結末。

 

 世界を守るためならば、きっと彼は数少ない親友でさえ殺すのだろう。

 だがそれは、決して気持ちの良い行為ではない。100年近く経った今でもその後悔を忘れられていないことが、何よりの証拠だ。

 

「……それでリグリット、エイヴァーシャー大森林に突如として現れた“ぷれいやー”の可能性がある此度の存在、同じアンデッドを扱う者として君の目にはどう見えたんだい?」

 

 人間へ真剣な眼差しを向けそう問う竜の名はツァインドルクス=ヴァイシオン。

 大陸北西部に位置するアーグランド評議国の永久評議員が一人にして、4()0()0()()()に起きし大戦争を経験した歴史の生き証人。

 そしてこの世界の最強種たる竜王(ドラゴンロード)が一柱、通称『白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)』である。




アンティリーネ
エルフの国の女王になったが、今後のことを考えてさっさと王位を投げ捨てた。
本当は切り札を二つくらいぶっ放す気だったのだが、その場合王城が崩壊する恐れがあったのでこの結果に内心ホッとしている。

アンティール
万が一新エルフ王の情報が出回った際、アンティリーネであるとバレないようにするための偽名。
今のところデケムを殺した英雄の本名を知っているのは、本人とその眷属、そしてあの御方だけである。

ビーニィ
オリキャラ。法国に比較的近い場所に位置するエルフツリーで暮らしている。
王都には兵の助力を願いに来たが却下され、泣き出しそうになっているところでアンティリーネに遭遇した。

デケム・ホウガン
アンティリーネの父親。勘違いの果てにエルフの国を滅ぼすくらいなら、今のうちに乗っ取っておこうと考えたアンティリーネに殺された。
ちなみにアンティリーネは母親による刷り込みが薄かったため、デケムのことをあまり嫌悪していない。むしろ法国以外と関わりの薄い、実験にもってこいな場所を取っておいてくれたことに感謝している。
ただし、その発言にはムカついた。

根源の土精霊(プライマル・アース・エレメンタル)
出番なし。
ところで原作のアンティリーネってデケムにガン不利じゃないですか?
もしアインズ様の介入がなかったら同人誌コースだったのでは?
追記……そんなことなかった。アンティリーネさん強い。

リグリット
凄い元気な婆さん。本編よりも少しだけ皺が少ない。
ちなみに情報収集については、アンデッドと聴覚を共有してエルフ達の世間話を盗み聞きしたという設定。

ツァインドルクス=ヴァイシオン
通称ツアー。最強の竜王にして、世界の守護者。
最近はぷれいやーなる存在以外にも探し物があるようだが…………?

あの御方
ど〇でもドア要員。
本作のアンティリーネに対しては、アインズ様のご子息に対するコキュートスみたいな対応をしている。
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