道外れの絶死絶命   作:池の鴨

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前話を修正前に読んだ読者様への訂正
アンティリーネはアンティール共和国建国から数週間後、国がある程度安定したと見て国家形成を共和制に変更…………つまり王でなくなっています。(詳しくは前話の最後辺りを読んでいただいた方が分かりやすいと思います)

ちなみにそんな彼女ですが「英雄の扱いが我々と平等なのは…………」というエルフ達の意見もあり、現在は『守り神』という役職に就いているそうな。


絶死絶命(オーバーロード)と法国の最高執行機関

 六大神を信仰する宗教国家、スレイン法国には他国のように国を導く“王”と呼べる者が存在しない。

 

 何故かというと、個人の意見はどうしても偏見が混ざりやすくなってしまうため、意図せず六大神の望まぬような政策が打ち出される可能性を孕んでいるからだ。

 

 故に人類の守り手たるこの国家は、便宜上のトップである最高神官長に加え、各宗派の最高責任者たる六人の神官長。更に、司法、立法、行政の機関長と魔法開発を担う研究館の長、そして大元帥こと軍事機関長の計十二人で国家運営に携わるのである。

 

「今日もまた、人間たる我々の命があったことを、神に感謝します」

「「感謝します」」

「…………ではこれより会議を開始します。最初の議題は、我が国の北に建国されたリ・エスティーゼ王国に対する優遇政策に関して」

 

 とはいえ権力者が複数人いると、中々意見が纏まらないというのが世の常だ。

 

 実際これより100年後には、国が王派閥と貴族派閥で真っ二つに割れ、挙句の果てに犯罪組織の介入まで許してしまった愚かな国が存在する。

 

 だが長き歴史を誇るスレイン法国において、そのような事態に陥ったことは一度もない。

 

 この国はかつて他種族に滅ぼされかけたという歴史があるため、『考え方や宗派が違っても、人は弱く周りは敵だらけであるから団結しなければならない』という思想を、国民全員に根付かせているからだ。

 

 それに加えて法国は、私欲に塗れた者が国の実権を握らぬよう、一定以上の地位からは徐々に給料が減らされていくという給与体制を取っている。

 

 結果として国の運営に携わる最高執行機関に選ばれる人物は、真に人類の将来を憂うことのできる素晴らしき人格の持ち主だけになり、また目的が同じということで最高執行機関の仲はそこそこ良く、仲間割れや醜い争いなど起こさないのだ。

 

「────以上です。このまま順調に国土を広げ成長していけば、数十年後には法国をも凌ぐ国家に成長するかと」

「これならば、人類を守る勇者の誕生にも期待が持てますな」

「リ・エスティーゼ王国とは人類の守り手同士、良い協力関係が築けそうですね」

 

 その国しっかり面倒を見続けないと、そのうち麻薬と奴隷売買がありえない程に横行して、取り返しのつかないくらいには堕落しますよ。

 

 ……トップ層全員が欲を知らぬ清貧な聖職者であるため、他国と関わった案件が大概失敗してしまうという点が、この国家体制の悪い所である。

 

「うむ、では次の議題に移ろう。大元帥殿、よろしく頼む」

「分かりました。…………つい先日、法国とエルフ国の戦線に動きがあったことは、既に皆様もご存知でしょう」

 

 スレイン法国は以前、同盟国であったエルフ国の卑劣な罠によって、当時の漆黒聖典第一席次を一時的とはいえ失ったことがある。

 

 他の漆黒聖典を動員することで第一席次の救出自体はなんとか叶ったものの、彼女は監禁中エルフ王に無理やり子どもを孕まされており、人としての尊厳をぐちゃぐちゃに踏みにじられていた。

 

 それ以降エルフ国と法国は敵対関係となり、かれこれ20年以上の間戦争を続けているのだ。

 

 そんな現在法国が現在進行形で行っているのが、森そのものを切り開きながら進撃するという大胆な作戦。

 エルフの得意なゲリラ戦術を妨害するという目的で考案されたこの作戦は、ここ数年これといった障害もなく順調に推し進められていたのだが…………

 

「『兵に大量の死傷者が出てしまい、撤退を余儀なくされた』と聞きました。しかしその原因に関しては未だ不明の筈…………」

「この場でわざわざ口にしたということは、百の兵士を追い返した者の正体が判明したということか?」

「はい、生き残った兵士からの報告だけで信用するのは危険と判断し、水明聖典に協力を仰いだ上ではっきりと確認しました。…………百の兵士を追い返した者の正体は“たった一匹の魔狼(ヴァルグ)”です」

 

 ……その言葉が発された瞬間、会議室はまるで時が止まったかのような沈黙に包まれた。

 

 法国の掲げる思想上、兵士として志願する者達は大抵の場合信心深く、訓練にも真面目に取り組むため兵士の練度は他国よりも上だ。

 一方の魔狼は狼よりも一回り大きな魔獣であり、エイヴァーシャー大森林でも見かけられる一般的なモンスターである。

 

 木々の間を駆け巡る彼らを相手取るのは、一対一の状況であれば法国の兵であっても難しいだろう。

 だが今回の場合、魔狼が一匹なのに対して法国兵は総勢百人を超えている。しかも法国によって森は切り開かれているため地形的な不利もない。

 

 多少の負傷者は出るかもしれないが、軍隊が撤退を余儀なくされる程の被害をもたらすことなど、本来ならば決してない筈だ。

 

「…………それは本当に魔狼だったのか? より強大なモンスターと見間違えたのではなく?」

「はい。水明聖典に協力を仰いだ結果、切り開いた森付近を彷徨(うろつ)く姿が捉えられたそうなので間違いはないかと」

「ならば魔法で姿を偽っていたという可能性は? 強大な魔獣は魔法を行使できると聞くが」

「魔法開発の長として言わせてもらうが、その線はないな。幻術のような姿を偽る魔法は、攻撃をされればすぐに解除されてしまう」

「エルフが魔法で強化したという線はどうじゃ?」

「それも考えたが────」

「私が思うに────」

 

 憎きエルフ王が送り出した新たなる刺客か、エイヴァーシャー大森林に生息している未知のモンスターか、はたまた『百年の揺り返し』により降臨した“ぷれいやー”の眷属か。

 

 様々な意見が飛び交うがどの意見も確証を得られるものではなく、結果として時間だけが無駄に過ぎていく。

 

「ふむ、これ以上はこの場で判断しかねるな。まだ一度しか遭遇していない以上、その強さの原因を見極めることも難しいだろう」

 

 これでは埒が明かないと判断し、今回の進行役である最高神官長が議論を止めるべく声を上げた。

 

 異論は上がらない。

 

「よろしい、ならばこの案件はここで区切ろう。大元帥殿は兵の数を増やし、そのモンスターの情報をできるだけ収集するように。可能ならば討伐し、強さの原因についても調べてほしい。水明聖典も優先的に協力してくれ」

「分かりました、最高神官長殿」

「では次の議題に進もう。近年減少傾向にあったカッツェ平野のアンデッドについて────」

 

 確かに突如として出現した強大なモンスターは、一刻も早くエルフ王に天罰を下したいと考える法国上層部にとって邪魔な存在だ。

 

 しかし感情に任せるがあまり兵をいたずらに消費し、異種族の殲滅や国の防衛に支障が出てしまっては本末転倒というもの。

 

 この件に関してはひとまず軍事機関と水明聖典に調査を任せ、魔狼の強さが何処から来たものなのか判明したときに、改めてどう対処するのか検討しようということでこの議題は終了となり、彼らは次の議題について議論し始めた。

 

 そんな彼らが集まっている部屋の隅、明らかに人とは思えない外見をした異形の化物がいることに気が付く者は、この場において一人もいなかった。

 

 

……………………

 

 

『今日もまた、人間たる我々の命があったことを、神に感謝します』

「感謝しまーす。……この挨拶、時がたっても殆ど変わらないのね」

 

 こんにちは、アンティリーネよ。

 今日は法国の方針を決めている最高執行機関で、エルフ国の対応が議題に上がるっていう噂を聞いたから、先日クソ親父の死体を依代にして生み出した……()()()って名付けたアンデッドに頼んで、議論の盗み聞きしてもらっているの。

 

 一応ここで上がった話題は紙に纏められて私の方にも渡されるのだけれど、彼らは私を気遣う……いや、私が暴走しないように、エルフ国に対しての議題内容を殆ど消してから渡してくるのよね。

 

 そんなことをされては私の仕込みがどれだけ活きたか分からないから、こうやって探知魔法対策が完璧な聖域で盗聴しているという訳よ。

 

『はい、生き残った兵士からの報告だけで信用するのは危険と判断し、水明聖典に協力を仰いだ上ではっきりと確認しました。…………百の兵士を追い返した者の正体は“たった一匹の魔狼(ヴァルグ)”です』

 

 お、早速私の仕込んだモンスターの情報が出てきた。

 水明聖典に協力を要請していた辺り、与えられた影響としては十分だったみたいね。なるべく目立たせるために半分くらい兵士を殺った甲斐があったわ。

 

『…………それは本当に魔狼だったのか? 兵士の見間違いではなく?』

『はい。水明聖典に協力を仰いだ結果、切り開いた森付近を彷徨(うろつ)く姿が捉えられたそうなので間違いはないかと』

『ならば魔法で姿を偽っていたという可能性は?  強大な魔獣は魔法を行使できると聞くが』

『魔法開発の長として言わせてもらうが、その線はないな。幻術のような姿を偽る魔法は、攻撃をされればすぐに解除されてしまう』

『エルフが魔法で強化したという線はどうじゃ?』

『それも考えたが────』

『私が思うに────』

 

 うんうん、どうやら大いに混乱してくれているようね。

 何となく正解に近い意見も見受けられるけど、水明聖典もまだ全力を出していないことだし、確信に迫るための情報は不十分。

 

 それに法国へと与える“間違った情報”の仕込みについても既に終わらせている。『大樹海十五王』とか言ったっけか、法国の進軍を防ぐ盾として存分に活用させてもらおう。

 

「…………?」

 

 『いっそのこと全員殺してしまえば、法国の進軍がより遅れるのでは?』と、私の隣に座っていたそれが尋ねてきた。

 

 基本的に私のお願いを無言で頷き了承してくれる彼(性別は不明)が質問とは珍しい。

 いや、確かに今までの行動は“強くなるため”で説明が付いたけれど、今回の行動は強くなるために必要なことではなかったから、何が目的なのか気になったのだろう。

 

「それは今回の作戦が、法国兵に情報を持って帰らせることだからですよ、()()()()()()

 

 私の傍に立っているのは、元は豪華であったのかもしれないボロボロの赤いマントを纏い、不釣り合いなまでに輝く王冠を被ったアンデッド。

 しかしその身から発されているオーラは私と同等クラスの力強さを感じさせ、また怪しげな眼光からは明らかな知性が感じられる。

 

 その者の名は“ルーファス”。

 スルシャーナ様の第一従者にして、この聖域…………かつてはあるギルドの宝物庫であったこの場所を守るために創造された、そのギルドでは数少ない100レベルの従属神(NPC)だ。

 

「…………? ……………………」

「そうですね、次の進軍……遅くともその次の進軍時には情報もある程度集まるでしょうし、魔狼も無事に倒される筈です。そして魔狼の死骸を解析したり水明聖典が上手く立ち回れば、きっと魔狼の強さが他者から得たもの…………六大神の言葉を借りるならば、“バフ”によるものだとも気が付ける筈です」

 

 そう、今回議題に上がっていた『法国兵を追い返せる強大な魔狼』の正体は、今最高執行機関での議論を〈完全不可知化(パーフェクト・アンノウアブル)〉と、会話を盗み聞きできる魔法が込められた安物アイテム(聖域比)により伝えてくれているグリムが持つスキルで、完全な支配と十数レベル分の強化を施したある傀儡(モンスター)の手下だ。

 

 ここで一番重要なのは、この魔狼とアンデッドの間にもう一匹モンスターが入っている……つまり“直接バフを掛けていない”ということ。

 

 私はこれまで(表向きではあるものの)軟禁されていたため、魔法の知識はあのときに見た原作知識分しかない。

 もしかしたら『バフを掛けている存在の位置を探知する』みたいな探知系魔法があるかもしれないから、今回私はこういう回りくどい手段を取ったの。

 

 まあ、魔法効果範囲拡大化みたいな魔法強化で突破される可能性もあるのだけれど、『傀儡と自身の間に逆探知系の魔法を組み込ませられた』とグリムが自信ありげに言っていたから、情報が漏れる前に探知してきた存在を消すことも多分できるわ。

 

 …………とはいえアインズ様レベルの相手に逆探知なんてしたら、不発に終わるどころかエグめの魔法カウンターでこっちが爆発四散するんだろうけれど。

 

 どこぞの巫女姫みたいに爆死するなんて最後は御免ね。

 

「……?」

「ああ、失礼しました、ちょっと考え事をしていただけです。それで、えっと…………そう、法国が魔狼を強化した何者かが裏にいると勘付いたところで、グリムがバフを掛けたモンスター、魔狼・王種(ヴァルグ・ロード)を投入します」

 

 魔狼・王種(ヴァルグ・ロード)は先日強大なモンスターを探していた時に、王都のエルフ達から聞いた『大樹海十五王』の一体として名の上がったモンスターよ。

 

 魔狼はより強い個体に従う習性があるそうで、立派に成長した魔狼・王種(ヴァルグ・ロード)は数十もの魔狼を従えることができていた。

 その上指揮官系のスキルで味方を強化できるみたいだから、今回の役割にうってつけってことで早速グリムに支配してきてもらったわ。

 

「魔狼の裏に何者かがいると知った軍事機関長の元へと届くのは、十を超える魔狼を従えた魔狼・王種(ヴァルグ・ロード)の報告書。そこに『魔狼・王種(ヴァルグ・ロード)のスキルで味方が強化されていた』って感じの情報が記録されていれば、後は向こうが都合の良いよう勝手に解釈してくれるでしょう」

 

 本当はこの上で、法国に捕らえられているエルフが大樹海十五王の存在を言及してくれていれば完璧なのだけれど、法国から守ると約束してしまった以上犠牲を出せば信頼が揺るぎかねない。

 

 一応グリムのスキル……三つある中でも最上位のそれを使えば、大樹海十五王の情報を持っているエルフを都合良く法国に送れはする。

 けれど結局そのことを話してくれるかは状況次第だし、そんなことの為にグリムの切り札は使いたくないから、ここに関しては妥協するわ。

 

「いくら水明聖典が情報収集能力に長けていると言っても、〈遠隔視(リモート・ビューイング)〉みたいな魔法の行使には巫女姫の協力が不可欠だそうですし、たかが魔狼如きにそんな大儀式を行うことなどないでしょう」

 

 もし行われたとしても、王都付近の探知魔法対策は(聖域にあったアイテムのお陰で)バッチリなんだけれどね。

 

 それに万が一火滅聖典や漆黒聖典が投入されて魔狼・王種(ヴァルグ・ロード)が倒されそうになった場合は、胃の中に仕舞わせた精霊髑髏(エレメンタル・スカル)に全てを破壊させて情報の隠蔽を図るわ。

 

 要は目撃者がいなければセーフなの。バレなきゃ犯罪じゃないってのは誰の言葉だったかしら?

 

「…………。……、…………?」

「はい、この偽情報を法国に掴ませることには二つの利点があります。一つは法国付近のエルフツリーに暮らすエルフ達が避難するまでの時間稼ぎ。法国は()()()()現れる魔狼対策で暫くの間手が空かないでしょうから、その間にエルフ達は避難ができる筈です」

 

 どこにエルフツリーがあるかに関しては、手の空いている魔狼達に森を駆け回らせたから既に確認済み。

 

 無いとは思うけれど、もしエルフを狩るための別働隊として火滅聖典とかが極秘で導入されているのなら、他の大樹海十五王を動かして無理矢理対処するわ。

 

「もう一つは、戦争の遅延により増える法国兵の死骸。グリムのスキルで強力なアンデッドを生み出すには、創造したいレベル分の生物を吸収する必要がありますから、そこを法国兵で賄うつもりです。一度に全兵を殺さないのは『継続的に死骸となる人間を提供してもらう予定だから』という訳です」

 

 エイヴァーシャー大森林のモンスターを百数十匹くらい取り込ませて生み出した精霊髑髏(エレメンタル・スカル)が、確か70弱くらいのレベルだったかしら。

 

 法国の兵士一人が精々2、3レベルだとして、より高いレベルのアンデッドを生み出すのに必要な経験値がどんどん増えていくって仮定すると…………うん、どれくらい殺せばいいか全く分からないわね。

 

「今回の目的はこんなところです。法国が躍起になってくれれば、数年でプレイヤーとも戦えるアンデッドが生み出せるかもしれないですね」

 

 とはいえあまりにも被害が大きくなりすぎて法国が諦めたり、もしくは私の動員を考えるくらいに追い詰めてしまうのは不味い。

 

 何故ならルーファス様にも言っていない最後の狙い『百年後まで法国との戦争を長引かせる』という目的が達成できなくなってしまうからだ。

 

 私は『法国とエルフ国の戦争が続いていた』世界における未来は知っていても、『法国とエルフ国の戦争に決着が付いた』世界の未来は知らない。

 

 下手に動いて未来が大きく変わってしまえば、私の持つ原作知識が役に立たくなってしまう可能性も十分にある。故に私の行動は全て、この世界になるべく影響を与えないよう注意を払わなければならないのだ。

 

「…………、…………?」

「世界征服? 八欲王じゃあるまいし、そんなことしませんよ。私はただ無事に生き残りたい────ん? どうしたのグリム? …………え? お城を掃除していた分身体のところにお客さんが来た? しかも私への訪問? 王位を捨てたって説明は────そう、したのね。ちなみに容姿は…………は? 白金の鎧??」

 

 

……………………

 

 

「お初にお目にかかります。私はアンティール・ホウガン、少し前まではこの国の女王でしたが、今は国の守り神的な立ち位置に就かせてもらっています」

「ご丁寧にありがとう。私は“アガネイア”、しがない旅人さ。今日はちょっと気になることがあったから訪問させてもらったよ」

 

 グリムからの連絡を受け、念の為失敗率0%の転移門(ゲート)でエルフ達が用意してくれた専用のエルフツリーへと戻ってきた私の目に入ったのは、応接室に四つの厳つい武器を持ち込み、堂々とソファーに腰掛ける白金の鎧だった。

 

 彼はアガネイアと名乗っていたけれど、それが本名でないということは知っている。

 

 本名“ツァインドルクス=ヴァイシオン”。

 ここからリ・エスティーゼ王国を越えた遥か北に位置する国家“アーグランド評議国”の永久評議員にして、この世界で多分一番強い竜王、法国の仮想敵たる白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)なのだ。

 

 …………で、なんで彼がここにいるのよ。

 確かに『白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)にあの子の存在が感知されたら~』みたいな話が原作にあったけれど、それなら私がカッツェ平野とかアベリオン丘陵とかでレベル上げしているときにチャンスがあったじゃない。

 

 それにここってクソ親父を殺した後、すぐに設置した強力な探知魔法対策アイテムの範囲内だから、超位魔法級にド派手な魔法でも使わない限りそう簡単には見つからない筈なんだけど。

 

「成程、では何か飲み物でも用意しましょうか」

「遠慮させてもらうよ。君も“王を処理したばかり”で忙しいだろうからね」

「…………そうですね」

 

 コイツ私に対して躊躇なさ過ぎじゃない? 私一応その王の娘なんですけど、分かって言っているのかしら?

 

 確かに彼からしてみれば、私はプレイヤーの力を受け継いだ現地人ってことで毛嫌い…………いや待て、そう言えば今ってアインズ・ウール・ゴウンの転移から数えて大体100年前よね。

 

 …………父親じゃなくて王を処理したと言っているし、もしかして彼、私がプレイヤーなのだと勘違いしているのでは?

 

「さて、色々と聞きたいことはあるけれど、まずは一番重要なことを聞こう。正直に答えてほしい、君は“ぷれいやー”なのかい?」

 

 ……でもそうなると、彼がこれまで私に接触してこなかった理由が余計に分からないわ。普通に見つかっていなかっただけ? それとも何か接触できない理由があった?

 

 …………今はそんなことを考えている場合じゃないわね。

 相手はこの世界を守らんとする最強の守護者。今戦えば鎧には問題なく勝てるだろうけど、敵対関係になるのは歴史への影響を考慮すると流石に不味い。

 

 となれば私はこの質問に、何て答えるのが正解なのかしら?

 プレイヤーって言ってもプレイヤーの子孫って言っても彼は警戒態勢に入るだろうし、上手い誤魔化し方もこの短時間じゃ正直思いつかなさそうだ。

 

 ていうかそもそも、私は彼をどうするかについてはあまり考えていなかった。

 というのも、いくら話し合う余地があるとはいえ、彼もプレイヤーの存在を快く思っていない竜王の一人。関わった時点で面倒な事態になることなんて目に見えていたし、本当は100年後まで接触したくなかったのよ。

 

 あーあ、どうしよう。

 彼の本体に関しては殆ど情報が集まっていないから、アドバンテージのない状態での戦いになる。しかも彼は、本体で行けばシャルティアだって問題なく倒せると豪語する存在。

 

 もし本体と殺り合うことにでもなれば、それこそアインズ・ウール・ゴウンが転移してくる前に死にかねない。

 

「…………その沈黙は、肯定と捉えてもいいのかな?」

 

 うーん……仕方が無い。こうなった以上腹を割って話し合うしか無いわね。

 それで味方になってくれれば良し、敵対してしまったら…………全ての切り札を使ってでもツアーを殺そう。

 

「……いいえ。私はあくまでもプレイヤーの血を受け継いだだけの存在です。まあ父親は八欲王の息子、母親は六大神の子孫なので、プレイヤーと呼ばれても仕方が無い程度の力は持っていますが」

 

 その言葉を聞いた瞬間、白金の鎧がほんの少しだけ揺れた。多分驚いたのだと思う。

 

 そりゃあ目の前に座る相手が突然、『六大神や八欲王と同じくらいには強いぞ』みたいなことを言い出したらびっくりするでしょうね。六大神はともかく、八欲王に勝てる自信はあまりないけれど。

 

 おまけに原作で法国は、私が彼に感知されることをかなり危惧していた。

 その理由は結局まだよく分かっていないけれど、多分プレイヤーの血を色濃く受け継いだ存在自体が、ツアーにとって好ましくないんだと思う。彼が守ってきたこの世界を、容易く壊しかねない力を持ちうるから。

 

 そんな重大情報を突然カミングアウトした私に対して彼はきっと、敵対するべきか否かを考えている。

 つまり、畳み掛けるチャンスはここしかないということだ!

 えーい、ままよ!!

 

「それと私は、“この世界の事情をある程度把握できる”という生まれながらの異能(タレント)に似た能力を持っているんです。例えば貴方の正体が、この世界を守る竜王(ドラゴンロード)の一柱、白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)こと、ツァインドルクス=ヴァイシオンだということも────〈信仰の戦士(クレリック・ウォリアー)〉」

「世界断絶障壁」

 

 次の瞬間、恐るべき速度で振られた『カロンの導き』と白金のハンマーが衝突し、衝撃により応接室が破壊された。




アンティリーネ
聖域には頻繫に出入りしその度に貴重なアイテムを持ち出したりしているが、最高執行機関の方々はそのことを一切把握していない。
ツアーの訪問にびっくりしている。

最高執行機関の方々
議論の内容が筒抜けだということに気が付いていない。
彼らを全員支配する案も考えられたが、『そういう知識が全くない自分が国家運営なんてしたら法国が滅びかねない』とアンティリーネが思い至ったため保留となった。

グリム
アンティリーネの切り札の一つ〈■■■■■■■(■■■■■・■■■■■■■■■)〉により生み出されたアンデッド。デケムの死体を媒介としアンティリーネも本気を出した結果、想定以上に強くなった。
種族は具現した死の神(グリムリーパー・タナトス)…………だとアンティリーネは思っている。
いっぱいある手は、アンデッドとは思えない程暖かい。

水明聖典
原作での細かい言及が少ないため、本作では魔法による情報収集が得意な部隊という設定。

ルーファス
聖域にいるあの御方。原作での言及が少なすぎるため、本作におけるオリジナル設定が多いキャラクター。
種族は地下聖堂の王(クリプトロード)、レベルは100。アンティリーネに原作知識が与えられて以降積極的に接触してくるようになった。
様々な理由により、アンティリーネが望むなら法国は滅ぼしちゃってもいいかなと考えている。

魔狼・王種(ヴァルグ・ロード)
グリムのスキルで支配された大樹海十五王の一体。ハムスケくらいには強い。

精霊髑髏(エレメンタル・スカル)
アニメでの活躍が少なかったアンデッド。
オロロンチョチョパァっていったら出てきそうな見た目とは裏腹に、激ヤバ魔法を連発してくる凄い奴。

ツアー
ツァインドルクス=ヴァイシオン、最強の竜王。
目の前の少女がプレイヤーの子孫だと発言した上に、こっちの個人情報を急に話し始めてびっくりしている。

信仰の戦士(クレリック・ウォリアー)
本作オリジナル魔法。
詳しい効果は次回判明する筈だが、名前からして推測はしやすい。
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