よう実 ハードモード リメイク版   作:クンクンクン

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作戦第三段階

 

 

 テスト当日。春にしては朝から少し冷え込み、アナタは出たくない布団から何とか抜け出し学校へと向かいます。

 

「あ、灰原くんおはよー!」

 

 寒さを紛らわせるためにポケットに手を入れながら歩くアナタの腕を、聞き覚えのある声の人物が掴んできました。

 

「テストの前なのにごめんね。でもつい見かけちゃったから。……こっちはめんどくさいこと散々やったんだから、ちゃんとやりなさいよ」

 

 櫛田さんにはこの1週間、仕込みのために色々と動いてもらっていました。"最初の試験"でなければ成立しない作戦も運要素が10割ですが、リターンは相応です。

 色々と動いてもらった櫛田さんにはアレですが、アナタがした事と言えば既に用意している契約書が無駄にならない事を祈るくらいです。

 

「それじゃあテスト頑張ろうね!」

 

 櫛田さんは人好きのする笑顔でアナタに別れを告げました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学校に着くと、教室内ではいつにも増して静かな雰囲気が醸成されていて、ほとんどのクラスメイトがやる気に満ちた顔でテストまでの時間を過ごしています。

 

「よ。昨日は勉強に集中できたか?」

 

 席に着くと、橋本君が声をかけてきてくれます。

 アナタは普段からやっていることだから問題ないと答えると、橋本君はメンタルが強いとアナタを賞賛しました。

 

「そりゃ結構。ま、こっちには坂柳さんの秘密兵器があるからな。気分もやる気も上々だ」

 

 橋本君の余裕の源はおそらく"テストの過去問"のことでしょう。

 という事は、坂柳さんも頑張ってポイントを集めたか。もしくは自分の派閥の人間から徴収したのでしょうか。

 なんせ、5教科分の問題用紙と模範解答のセットで"20万ポイント"です。アナタは後に知った話ですが、過去問など一部のモノは学校側が予め金額設定をしているらしく、取引が成立した際には必ず学校側に申請しなければならないそうです。カツアゲや不当な取引を防ぐためらしいですが、真意の程は分かりません。

 

「え、知ってんのかよ。……お前、坂柳さんの集まり来てないよな? 坂柳さんが来てない奴や葛城とかには教えるなって言ってたけど。どっかから漏れたのか?」

 

 知っているとは言っても、本当に過去問から問題が出るのか信用出来なかったのでアナタは過去問を暗記していません。

 お喋りな2年生から過去問のことを聞いたアナタは、友達想いな"Dクラスの生徒"に教えてあげたくらいです。

 

「ま、過去問知ってんなら大丈夫だろう。お互い退学しないよー頑張ろうぜ」

 

 高校生活初めてのテストまであと僅か。アナタはテストが始まるのを静かに待ちました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日はホームルームの時間を使い、テストを返却しようと思う」

 

 テストが終わり、今日はその点数が発表される日になりました。

 アナタは退学することがない程度の点数を取っているはずなので何の憂いもないのですが、クラスメイト達はかなり緊張しているようです。

 

「まず、今回のテストだが……退学者は誰もいなかった。加えて君たちの平均点は学年でもトップだ。今後もこの調子で頑張ってくれ」

 

 クラスメイト達はその結果を聞き喜びを分かち合っていますが、浮かない顔をしている生徒も何人かいます。点数が思いのほか悪かったのでしょうか?

 アナタは平均点よりかなり上の点数を取れたので、退学を回避することができました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 テスト返却日当日の昼休憩が始まり数分も経たないころ、アナタの元にメッセージが届きました。差し出し人は櫛田さんで、どうやら作戦の第二段階は成功のようです。

 第一段階の"過去問の入手と配布"は櫛田さんが滞りなくやってくれましたが、この第二段階の突破は運要素10割でした。なぜなら"赤点を取る人間"がいなければこの時点で終わりだったからです。

 ですが、やはりDクラスには学力に問題のある人間がいたようで。狙いのクラスに過去問があったとしてもどうしようもない人間がいたことは幸運としか言いようがありません。

 もっとも、まだギャンブルができるようになっただけです。成功率を上げるため、これからの時間の使い方が重要になってきます。

 Dクラスが級友を"見捨てる"という判断を取った時点で全てが御破算になるという致命的なリスクがあるこの作戦ですが、そうなる可能性は現段階で5割と言ったところでしょうか。

 

 アナタは昼食の誘いをしてきた橋本君達に断りを入れて、櫛田さんに指定された喫茶店へ行くことにしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、こっちこっち! ごめんね、急に呼び出しちゃって」

 

 アナタは気にしていないと言うと、椅子に腰掛けました。

 せっかく喫茶店に来たので何か注文しようとすると。誰かがメニューを掴んで無理やり強奪していきました。

 

「申し訳ないのだけれど、こちらも時間がないの。話を聞いてくれるかしら」

 

 メニューを持っているのは見知らぬ女で、その女と櫛田さんの間には男も座っています。

 

「堀北、流石にそれは失礼すぎるんじゃないか。こっちから呼び出しといて、お願いする立場なのに」

「こっちには時間が残されていないのよ。それに……あなたもいきなりメニューを開くなんて非常識じゃないかしら」

 

 男はすまないと言って、こちらにメニューを渡してきました。

 アナタは喫茶店に呼び出されたのだからお茶でもするんじゃないのかと彼女達に言いましたが、見知らぬ女はこちらを睨み。櫛田さんも苛ついているのか机の下からアナタの脛に向かって蹴りを入れてきました。

 

「一応要件は書いてたんだけど、灰原君ちゃんと読んでくれた?」

「…‥櫛田さん。まさか、こんな能天気で常識のない人に頼むなんて」

「あ、ははは。私もいろんな人にメッセージを送ったから」

 

 アナタは少し苦いものが飲みたい気分なのでエスプレッソを頼むことに決めました。

 店員に声をかけた後、取り敢えず知らない人間がいる事もあり橋本君にしたものと同じ自己紹介をしました。

 自己紹介の反応はそれぞれで、女2人は反応しづらそうにし、男は何だか近しいものを見る目でアナタを見ています。

 

「では灰原君。既に櫛田さんからメッセージを受け取っているとは思うけど、ここに来たということはその意思があると受け取っていいのよね」

 

 アナタは内容によるとだけ言いました。

 

「私からちゃんと説明するね。実は今回の中間テストでDクラスに退学者が出ちゃいそうなの。それで何とか退学を回避するために、私達は先生からテストの点数を買おうとしているの。……たった"2点"なんだけどね。茶柱先生に頼んで放課後の18時まで何とか待ってもらえることになったんだけど。でも、その、ポイントがね」

 

 もちろんアナタは点数を買えることを知っていますし、その値段も既に把握しています。

 アナタが聞いた話ではテストの点数を変えるまでの時間は最低でも放課後までだと聞いていたのですが、どうやら想定よりも時間があるようです。ひょっとしたら手続きの時間をポイントを使って延長でもしたのでしょうか? 

 放課後すぐにという事でないのなら、この昼休憩はじっくりと時間を使って作戦の成功率を高めることにしようと、アナタは決めました。

 

「……驚かないのね。普通、テストの点数を買えるなんて知ったら」

「堀北。今はそんな話どうでもいいだろ……うぶっ!」

「あはは……ごめんね。話を戻すけど、実は点数を買おうにもポイントが足りないの。だから、本当に申し訳ないんだけど……ポイントを貸してもらってもいいかな? お願いします!」

 

 櫛田さんは頭を下げて、男は少し間を置いて頭を下げます。ただ、堀北と呼ばれていた女は頭を下げずこちらを見ています。

 アナタは一応知らないフリを装い、何ポイント必要なのか聞いてみることにしました。

 

「言いづらいんだけど……あと"70万ポイント"足りないの。……あ、でも50000ポイントでも5000ポイントでもいいから、貸してくれるだけでもすっごく助かるんだけど……お願いできないかな? もう灰原君しか頼れる人がいないの」

 

 過去問の入手のお陰か、彼女達Dクラスの資金力がそこそこ"削れている"ことが分かりました。

 アナタの想定ではクラス中のポイントを掻き集めて最低40万〜50万ポイントくらいはあると見ていましたが、集まったのは30万ポイントだけのようです。これはアナタにとって嬉しくもあり悩ましい誤算です。

 

 さて、ここからが作戦の第三段階です。

 アナタはどうしようか。

 浮かんできたのは3つの選択肢でした。

 

『1日1割の利息で70万ポイントを貸す』

『今から言う契約を守るなら利息なしで貸す』

『体を売ってこい』

 

 アナタは『体を売ってこい』と彼女達に言いました。

 しかし、言った直後に堀北さんの手がこちらの頰を目掛けて向かってきます。このまま何もしなければアナタは平手打ちを喰らってしまうでしょう。

 ですがこのぐらいの速度ならばアナタは余裕を持って対処することができます。取り敢えず堀北さんの手首を掴んで指をへし折れるよう押さえました。

 

「え、えっと、灰原君も言い間違えたんだよね? 堀北さん、いきなりビンタはまずいよ!」

「……いいえ、聞き間違えじゃないわ。この男は体を売ってこいと言った。私たちは頼む立場ではあるけど、だからといって許せることと許せないことがあるわ」

 

 アナタは煽るために体を売ってこいと言うことはありますが、体を売ることが別に悪いことだとは思っていません。それで生計を立てている人も身近にいましたので、アナタとっては常識的なお金の稼ぎ方の一つです。

 アナタは聞き間違いではないと堀北さんを肯定し、体を売ると言ってもアテがあるので紹介しようとしたと補足しました。

 

「だから? それは私たちが体を売る理由にはならないわ。私はあなたにお願いしているの。貸してくれないのなら貸さないとはっきり言いなさい」

「堀北。もしかしたら、灰原の言う体を売れは性的な意味じゃないかもしれないぞ? 話を聞いてもいいんじゃないか」

「やはり綾小路君は変態ね。私たちが体を売った妄想をするために話を聞きたいだなんて、山内君や池君以上の変態だわ」

「……流石にそこまで言われると傷つくぞ?」

「え〜っと、一応お話を聞いてもいいかな?」

 

 アナタは頷き話をしようとしましたが。堀北さんが、いつまで掴んでいるのと言ってきたので指と手首を離してあげました。

 作戦の第三段階でアナタがすべきことは、必ずアナタにポイントを借りなくてはいけないと彼女達に思わせることです。

 そこでアナタは自分の端末を操作して、支払いアプリの残高を彼女達に見せることにしました。

 そこには、櫛田さんに質入していたポイントが加わった"110万ポイント"が表示されています。

 

「……すごいな。これだけあれば豪遊し放題だ」

「あなた、もしかして私たちを揶揄っていたの? そんなポイント一体どこから……」

「待て堀北。灰原、そのポイントをどう手に入れたか。オレたちは聞かないし聞くつもりもない。端的に言うが、どうやったらそのポイントを借りられる?」

 

 堀北さんの言葉を制し、綾小路君と呼ばれていた男がアナタに聞いてきます。

 まず、アナタの性格上。口約束だけで貸すなんてことは絶対にあり得ません。ですがここで端末にある契約書を見せびらかして、そもそも彼女達を嵌めるために来たことを悟られるのは絶対にしてはいけません。

 アナタは仲介人を呼んで、契約書を作成してもらい、その上でポイントを貸すと言いました。

 

「仲介人?」

 

 綾小路君は疑問に思っているようですが、そこまで大層なものじゃありません。知り合いに契約書の作成を得意とする人間がいるから、間に入ってもらって円滑に話を進めようというだけです。彼女達には時間がないようですから、その方が助かるのではないでしょうか。

 

「分かった。だが、退学手続きの締め切りは放課後の18時まで。それまでに間に合うか?」

「ちよっと! 彼が呼ぶ仲介人よ。そんなの、手を組んで嵌めようとしてくるに」

「だとしても、確かなアテがあるのは今のところ灰原だけだ。それに、あまり言いたくはないが。今から全クラス回って頼んでも70万ポイントは集まらないと思うぞ。現に平田達からは何の連絡もないわけだしな」

 

 まだ昼休憩の時間があるので、アナタはそんなに気になるのなら電話してみるかと提案しました。仲介人の彼は上級生であり、ポイントもそこそこ溜め込んでいるようです。上手くいけばアナタに頼らず、ポイントを貸してくれるかもしれません。

 アナタがそう言うと、堀北さんは納得したのか早く電話しないとアナタを急かし、櫛田さんは一瞬人目には出せない表情を顔に出しますが、すぐにいつもの顔になりました。

 アナタは綾小路くんの方を見て彼が頷いたのを確認すると、早速永木に電話をしました。

 

「やぁ。君から電話をしてくれるなんて嬉しいな」

 

 アナタはDクラスの生徒と契約を結ぶから仲介人になってくれと言いました。

 

「確かポイントが0になったって噂のクラスか。そうだな……もし君の前に契約を結ぼうとしている子がいるなら、その子に変わってもらってもいいかな? あぁスピーカーにはせずにね」

 

 アナタは彼女達に、誰が仲介人と電話するのか聞きました。

 

「私が出るわ」

 

 アナタは大丈夫かなぁと思いましたが、堀北さんに端末を渡しました。

 

「代わったわ。……えぇ。私たちは70万ポイントを欲している。あなたが彼……灰原君と契約する時に仲介してくれると聞いたのだけれど。それに、あなたがポイントも溜め込んでいるというのも」

「……あの〜、申し訳ないんですが周りのお客様にも迷惑なので、もう少し静かにお願いしますね。それと注文は……」

「あ、すみません! じゃ、じゃあ私はカフェオレ頼みます! 綾小路君は?」

「写真? 何で写真を送らないといけないのかしら? 別に私の顔が分からなくても問題はないでしょう?」

「いや、今ポイントを使うのは……あー、じゃあアイスコーヒーを」

「なら美術室まで? ……あなたふざけてるの!? なんで私が裸にならないといけないの! 話にならないわね。こんなことに時間を使っている暇はないの!! もう少しマシな条件はないのかしら?」

「あの〜」

「すみません、すみません!! 飲み終わったらすぐに出ていきますので!」

「電話を代われ? 私は今あなたと……っ! ……はぁ、分かったわ」

 

 アナタは不機嫌な堀北さんから端末を受け取ります。

 

「時々、美術部のためにヌードモデルを頼んでいるんだけど、そろそろ変わり映えが欲しくてね。一日17万5000ポイントで4日ほど頼もうと思ったんだが、断れてしまったよ」

 

 いつもと変わらない調子の永木の声が聞こえてきました。

 アナタはポイントを貸す側なのに、あんな態度を取られて腹が立っていないのかと聞きました。

 

「仕方がないことだから気にしていないよ。……それで、契約書はどうする? 変更はいるかな?」

 

 アナタは"ポイントだけ"と言いました。

 それを聞いた永木は、また放課後ねと言ってから電話を切りました。

 

「随分な変態を紹介してくれたわね。それで、結局どうなったの?」

 

 苛立ちが全く隠せていない堀北さんは喫茶店にある時計をかなりの頻度で見ています。

 そろそろ昼休憩も終わるからでしょうか。

 頃合だと思ったアナタは、彼女達に本当に自分からポイントを借りるつもりなのか、確認をとります。

 

「……仕方がないけれど、現状頼れるのがあなただけというのは認めるしかないわ」

「あぁ、オレも灰原から借りるしかないと思っている」

「うん。私も灰原君から借りられれば嬉しいかなって」

 

 それは何よりです。しかし、ポイントを今すぐに何の保証もなく貸すことはできません。なので、放課後に先程の仲介人を交えて改めて話そうと言いました。

 

「……分かったわ。ただ、本当に時間がないの。手早く済ませてくれないと困るわ」

 

 それは堀北さん達次第です。

 アナタは放課後カラオケルームで待っていると言って、喫茶店から出て行きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





赤点の流れは原作とほぼ一緒。ただし平均点がほんの少し上がって購入点数が2点となっている。そして値段は一点につき原作の5倍の50万に。

原作との変更点。
・過去問の提案が綾小路→櫛田に変わり、平田を中心としたメンバーも誘いポイントを出し合って過去問を入手している。配布に関しては協議の結果、原作同様にテスト前日となった。
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