よう実 ハードモード リメイク版 作:クンクンクン
「あ、お待たせ灰原君。他のクラスにも寄っていたからちょっと遅れちゃった」
放課後、アナタは昼休憩の時に指定したカラオケルームにてDクラスの面々の到着を待っていました。
アナタがカラオケルームを指定した理由は単純に監視カメラや周りの目がないからとしか言えませんが、完璧な場所選択とは言えません。
金に困った輩は後先考えずなんでもしてくるというのはアナタ自身が身をもって体験したことですし、なんでもした側でもありました。
こんな監視カメラなどで記録に残らない場所では、リンチされたりレイプされたりすることも充分に考えられるでしょう。
もっともここに来たDクラスの面々を見るに、アナタをリンチをするには人数が足りていないとは思いますが、殴られて犯されるだけで相手を不利に追い込めるなら安いものです。その時がくればアナタは甘んじて受け入れるでしょう。
「あぁ、君たちが彼からポイントを借りる予定の。"初めまして"僕の名前は永木と言います。君達と彼が契約を結ぶことを助ける仲介人として、同席させてもらうよ」
堀北さんは露骨に嫌そうな顔をして、櫛田さんも人目には絶対に晒さないであろう嫌悪感をむき出しにした顔で永木を見ています。
永木は彼女達に見つめられていることに気付き、端末のカメラで自分の髪の毛にフケがついていないか確認しています。
「あ、僕は平田って言います。櫛田さんたちと同じDクラスで、灰原君とは同級生になるんですけど……永木、さんは何年生でしょうか?」
「僕は2年生だよ。まぁ、あまり硬くならないでくれ。僕は本当に付き添いみたいなものだから」
アナタは永木に何か注文するかと聞くとケーキを頼むと言われたので、注文用タブレットから日替わりケーキというカラオケ屋には似合わないものをアナタの分も含め注文することにしました。
永木は櫛田さん達に何か頼まないのと聞きましたが、ポイントがないので遠慮するという一言から察して、全員にこの場は奢るよと言いました。
「じゃあ、オレはポテトでも」
「い、いいのかな? じゃあ私は永木……さんと灰原くんと同じものを」
「ぼ、僕は遠慮しとこうかな」
「施しは受けないわ。綾小路君、櫛田さん。あなた達には恥というものが存在しないのかしら? それに、そんなことをしている余裕はないもの」
取り敢えず注文を終えたアナタ達は、ドリンクバーで飲み物を取ってきてから話を始めます。
「こういうことは仲介人から言ったほうがいいのかな? まず、君達Dクラスは彼……灰原君にポイントを借りることを決めているのか。まずはそこから確認しておこう」
「……それは、契約の内容次第としか」
「まぁ、それもそうだね。急拵えだけど、僕の方で契約書を作っておいたから見てもらおうか。彼の意見を反映させたものだけど、調整するなら僕も手伝うから遠慮なく言ってくれ」
永木はA4の紙に印刷された契約書をこの場にいる全員に手渡しました。
堀北さんは契約書を少し読んだだけで目を見開き、信じられないような目でこちらを見てきます。
他の面々も契約書に目を通していますが堀北さんと似たような反応をしています。
「じゃあ、一応僕の口からも契約内容を説明しておこうか」
"甲(Dクラス)は乙(灰原)に100万プライベートポイントを借りる代わりに、乙に対して毎月のポイント支給日に必ず最低でも20万プライベートポイント以上を一括で支払わなければならない。ただし、貸した100万プライベートポイントには10日で3割の利息がつき、利息は複利計算されたものとする。増えた利息と合わせたプライベートポイントを甲が乙に全額返済すれば、この契約は完了したものとする"
アナタの考えた闇金も真っ青な法律ガン無視の契約内容が永木の口から伝えられました。
堀北さんは「ゲスね」と呟き、アナタを睨みつけています。
アナタ自身もこの契約を見て納得できるやつがいたら見てみたいと思うぐらいの内容です。堀北さんの反応は至極当然と言えるでしょう。
「申し訳ないのだけれど、今のDクラスにそんな余裕はないし、こんな小学生が考えたような契約を受けるつもりもないわ。それに、私たちは100万ポイントも要求していない。契約する気があるのならもっとマシなものを出してもらえないかしら」
昼休憩の時、彼女達は70万ポイント必要だと言っていましたが、アナタはそれが"最低限"必要なポイントだと思っています。
例えば、ここにいる4人が先月分のポイントを節約しているとして、多く見積もっても、合わせて10〜15万ポイントぐらいではないでしょうか。
単純にクラスメイトが40人もいて1人頭2万5000ポイント以上持っていればDクラスは自クラス内だけで事を終わらせることができたはずです。しかし、昼休憩の段階で集まっていたのはたったの30万ポイントでした。
以前先生に聞いた情報では、テストの点数は1点につき"50万ポイント"。クラスポイントが0のDクラスは先月からポイントが増えていません。更にDクラスの生徒はポイントの使い方が荒いそうで、先月の時点でクラスメイトにポイントを借りようとする生徒が何人かいたという情報も櫛田さん経由で知っています。
昼休憩の段階で30万ポイントしか集まっていないということは、クラスメイト全員から徴収してもそれだけしか集まらなかったのか。あるいは退学になる生徒を助けたいと思う生徒が殆どいなかったのか。
まぁ、なりふり構わず他のクラスからポイントを借りまくって解決されても困るので、アナタは自分の所持ポイントを明かし、具体的な契約内容を昼休憩の時に告げず放課後に回して彼女達を牽制したわけですが。
しかし、彼女達が現段階でいくらポイントを用意できたのか。その答えは重要ではありません。
もっとも重要なのは彼女達が"何人"にポイントを借りているのかです。
アナタは何人にポイントを借りているのか聞きました。
「はぁ? 何であなたに……」
「堀北さんは少し黙ってて。……えっと、今のところDクラスの子から23人。Bクラスから1人、かな。Bクラスの子には10万ポイントも借りちゃって、何とか昼休憩の時から追加して40万ポイントまでは集めたんだけど……」
「一之瀬が1人だけだったらもう少し借りられたかもな」
「綾小路君も黙ってて。……だから、あと60万ポイント。灰原君から借りられないかな?」
どうやら追加で10万ポイント借りられたようですが、クラスの全員からは徴収できていなかったようです。
アナタは櫛田さんから内訳を聞いて、なおのこと100万ポイント借りた方がいいと伝えました。
「それはなぜ?」
借りた人に返すアテはあるのかと聞くと、堀北さんは分かりやすい反応をしてくれました。アテは全くないようです。
ただ、それも当然でしょう。なぜなら現段階のDクラスの収入は0であり、返してくれる保証も信用もありません。
ポイントを貸したBクラスの生徒はよっぽどのお人好しかアナタと同じように不利な契約を押し付けたのか……ですがどの結果であれ、本人が納得していようとも周りの人間がどう思うかは想像がつきます。
アナタはポイントの返済を遅延すればするほど、他のクラスからの信用はなくなり、自クラスは内部分裂すると言いました。
「確かに、拗れるかもしれないけど……」
「だからと言ってあなたから多く借りるメリットを感じないわ」
堀北さんは金の面倒くささを甘く見ているなと思いながら、アナタは100万ポイント借りるメリットを可能な限り時間をかけて説明しました。
アナタの説明に何度も堀北さんが食いついてきましたが、とてもありがたいなと思いながら時間を進めていきます。
運要素をいくつか乗り越えることができた本作戦において、最も重要なのは時間の使い方です。アナタは彼女達Dクラスがポイント絡みで内部分裂しても問題はないし、100万ポイントに設定した意味も理由づけがやりやすそうだっただけの話です。
後は彼女達を契約する気にさせるだけですが、ここまで来て諦められたら全てが水の泡になります。アナタがいつ彼女達に譲歩するのか、そのタイミングがとても大事になるでしょう。
「だから、私たちが必要なのは60万……」
「堀北。契約の話はいいが、そろそろ時間がやばいぞ」
現時刻は17時00分。彼女達に残された時間は1時間しかありません。
「茶柱先生の番号へ送金すれば受理してもらえるように準備したが、こっちも妥協しないと話は進まないぞ」
「分かってるわ! だから今話して……」
「……この契約は既に個人の問題じゃなくてDクラス全体の問題になっている。灰原、取り敢えず今日は持ち帰ってもいいか? とてもじゃないがその契約を何の相談もなしに決めてしまうのはマズすぎる。必ず何らかの契約を結ぶから、ポイントをなんとか借りられないか?」
さて、綾小路君はこう言っていますが。ポイントを持ち逃げされる可能性が残っている以上アナタが了承することはありません。まぁ、取引履歴が残るので学校に訴えれば彼らに罰則を与えられるかもしれませんが、罰則だけで終わってしまうとこちらに旨みがありません。綾小路君はそれを分かって提案をしてきているのでしょうか。
とは言っても、彼女達もこちらが譲歩するのを待っていると思うので、ここら辺が適当なタイミングでしょうか。
さて、アナタはどうしようか。
浮かんできたのは3つの選択肢でした。
『D組の男女全員が卒業するまで美術部のヌードモデルになるならポイントをすぐに渡す』
『今すぐにポイントを渡す代わりにこの契約を受けることを確約させる。ただし、契約に関しては一切譲歩しないと言う』
『言ってやれ、永木』
アナタは『言ってやれ、永木』と言いました。こういう時は仲介人に妥協点を探ってもらう方が納得もしやすいでしょう。
永木は少し悩むそぶりを見せた後、櫛田さんたちを一通り眺めてから口を開きました。
「……妥当なところとしては、"利息を無しにして、Dクラス全員が毎月のポイント支給日に所持している全プライベートポイントの8割を卒業するまで彼に支払う"に変えることかな。ただ、これだと彼にメリットがないにも等しいから……そうだな、"60万ポイントを2000万ポイントの借金に変更し、2年生に進級するまでに全額返済する"というのはどうだろうか? この条件でも変更前の契約と比べればかなり希望が見えてくるはずだ」
「それは……」
「なんで2000万ポイントもこちらが払わなくてはいけないの? 馬鹿げた話はやめてもっと建設的な……」
「でも、今のところ君達のクラスポイントは0なんだろ? 多少のクラスポイントが増えたとしても彼に毎月支払うポイントは微々たるものだし、もし仮に君達が変更前の契約を受けるのであれば、1月で借金が219万7000ポイントになるわけだ。利息が複利計算で算出されるわけだからね。これがもう1月重なれば500万近い借金になるし、半年もすれば君達は絶対に払えない金額に絶望するしかなくなる」
「こんな……人の弱みに漬け込んだやり方が……」
「おかしなことを言うね。君達が彼に借りることを選んだんだろう?」
「……」
「多分、すぐに決めることはできないよね。だから一つ情報を伝えておこうか。ただし、詳細は聞かないでくれ。……実は、8月の試験でプライベートポイントを大量に入手できる機会がある。上手くいけば、2000万ポイント近いポイントも集められるかもしれない。何年か前の先輩はそれに近い額を集めたと聞いたことがあるし、去年の僕達も実際に大量のポイントを入手したからね」
永木の発言に堀北さんたちは誰も口を開くことができず顔色を更に悪くしていますが、やりすぎて彼女達が契約を結ばないと言い出すのも困ります。
永木もそれを察してくれたのか、救いとなる情報を彼女達に提供してくれました。
「……本当、なんですか?」
狙い通りか、救いとなる情報を聞いた堀北さんたちの顔に少し生気が戻りました。
詳細を聞きたそうにしていますが、あらかじめ聞かないでくれと永木が言ったため誰も踏み込んではきません。
「もちろん保証するよ。それで、君たちはどうする? これでもかなり譲歩していると思っているよ」
「……」
「最大の問題である利息が無くなって、まだ返せる希望もある。……僕達は契約書を修正しておくから、君たちはカラオケルームから出て話してくるといい。10分程度なら、まだ十分に間に合う時間だろ?」
Dクラスの面々が言われるまま出ていくと、永木は鞄からタブレットを取り出して契約書のチェックを2分もかからず済ませました。
「最近は絵もデジタル化が進んでいるからね。五感全てを使えないのは不安だけど、急なスケッチとか写真を撮るのには役立つから取り寄せてもらったんだ」
アナタと永木は雑談をしながら、彼らが帰ってくるの待ちます。
もちろん、永木とは事前に打ち合わせをしていたので"本命"として用意していた契約書に修正する箇所はありません。
残り50分。たった1人の人間を見捨てられるだけで敗北するギャンブルにアナタの心は少しだけ高揚していますが、どこか物足りなさを感じていました。