よう実 ハードモード リメイク版   作:クンクンクン

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坂柳さんと葛城くんと①

 

 

 アナタは『堀北さんの手にペン握らせる』ことで、これ以上は譲歩しないとハッキリ態度で示しました。

 そんなアナタの有無を言わせぬ態度に堀北さんは嗚咽を漏らしそうになりながらも、震える手でタブレットに表示されている契約書に名前を書きます。

 署名を確認したアナタは担任の先生の番号を知っている綾小路君の端末にポイントを送りました。綾小路君はすぐに受け取ったポイントを先生に送ったようで、締め切りの2分前に退学する予定の生徒を救うことができたようです。

 綾小路君の間に合ったという言葉を聞いたDクラスの面々に喜ぶものはいません。堀北さんは何も言わずにカラオケルームから飛び出し、平田くんは呆然とした様子でゆっくりと出て行きました。

 

「それじゃあ、また後日話し合いだな。日程が決まったら連絡してくれ」

 

 綾小路君は助かったと、アナタに一言言ってからカラオケルームを後にしました。

 

「…………はぁ。堀北の無様な姿を見たのに、意外と笑えないものね。じゃあ、私も何だか疲れちゃったから帰る。……またね、灰原君」

 

 櫛田さんは深いため息を吐いてカラオケルームを後にします。

 

「人間っていうのは追い詰められれば、理不尽な契約であっても結んでしまうものなんだね。あそこまで追い詰められながら契約する人間を僕は初めて……いや、そうでもないかな。僕もこの学校に大分染められているようだ」

 

 その場しのぎや後回しは人間に残された最後の逃げ道です。残された短い時間の中、彼女達が見捨てないと判断した時点で、例え理不尽であろうとも唯一の逃げ道であるこの契約を結ぶしか選択肢が残されていません。

 しかし、アナタもこの結果には少なからず驚いています。60万借りるために2000万+αの負債を負うなど、ギャン中でもまだまともな判断ができそうですが。やはり電子化された金は物理的にも扱い的にも軽くなるものなのでしょうか。

 

「所詮はこの学校でしか使えないおもちゃ銀行券のようなものだからね。3年間はリセットできないけど、それさえ過ぎれば全ての負債が消えてしまうから軽視されても仕方がないさ」

 

 それにしても、借金の限度額や利息など制限があってもおかしくはないと思うのですが。ここは治外法権にでもなっているのでしょうか。

 

「あくまでもこの学校のポイントは政府公認の、この"学校内"だけでしか使えないただのポイントだからね。電子マネーのようなモノとはまた別だから法律は適応されない……って、ことになるのかな? そこら辺の事情は詳しく知らないけど。ポイントや契約のやり取りは学校が提供しているシュミレーションの一環だと、僕はそう思っているよ」

 

 だとしたら尚のこと、社会に出ても役立つように施工されている法律を遵守させてシュミレーションの精度を上げると思うのですが。

 

「……この学校を運営している人間にも何か事情があるんだろうね。まぁ、僕たちが気にするようなことではないさ」

 

 アナタは永木が何か事情を知っていることを察しましたが、今のところ聞く必要があるとは思えなかったため、聞かないことにしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「てめぇ、待ちやがれ!!」

 

 仮契約をして幾つか内容について話し合いをし、Dクラスと正式に契約を結んだ次の日の朝。アナタはAクラスへ向かう途中、肩を掴まれました。

 誰かと思い振り返れば。永木に突っかかり、テスト前に図書館で騒ぎを起こしていた赤髪の男です。

 確か彼はDクラスの生徒だったとアナタは記憶していますが、暴力を振るって借金をどうにかしようとする強攻策に打って出たのでしょうか。

 

「話は"堀北"から聞いたぜ。てめぇのせいで、とんでもない借金を作らされたってな?」

 

 どうやら契約に対して文句があるようです。アナタは金を借りたなら返すのは当たり前だと言いました。

 

「あれは俺を救うために借りたポイントだ! 何で俺だけに借金をおわさねぇ!! Dクラスの奴らは関係ないだろ!!」 

「おいやめろよ須藤。こんなところで騒いでみっともねぇ」

 

 アナタは話に割り込んできた生徒を見ますが、どうやら知らない生徒のようです。

 チラチラとこちらの様子を見て介入するタイミングを伺っていたようですが、何をするつもりなのでしょうか。

 

「すっこんでろよ近藤! これは俺の話だ!!」

「あぁその"借金"のことなんだが。なぁ須藤、実はな…………」

「……マジかよ!? それは……本当なんだろうな?」

 

 近藤と呼ばれていた生徒は須藤君の耳元で何かを囁いています。内容は聞き取れませんが、須藤君の反応を見るに何かいいことでもあったのでしょうか。

 

「……あー、とりあえず借金は返すからよ。それまでDクラスに手ェ出すんじゃねぇぞ?」

 

 どうやら須藤君は借金問題を解決する手段を見つけたそうです。慌てて借金を返してもらわなくてもいいのですが、一体どんな手段を使って2000万ポイントを返済するのでしょうか。

 

「大丈夫か灰原。……すまない、割って入るタイミングを見誤った」

 

 一連の流れを見ていたのか、鬼頭君がアナタの元へ駆け寄ってきました。

 アナタは説明しないのも不自然だと思ったので、鬼頭君にDクラスと契約を結んだことを要約して説明しました。

 

「……まさかお前がそんなことをするとはな。だが、そこまですれば今後Dクラスが立ち上がることはなくなりそうだな。……もし良かったらだが、休憩時間や放課後はお前に付いていようか? あの様子じゃ、いつまた襲われるか分からんからな」

 

 アナタは少ない人数なら暴力に抗える手段を持っていますが、大人数で来られればどうすることも出来ないでしょう。

 アナタは鬼頭君の申し出を受けることにしました。

 

「そうか。俺も多少なら役に立てるはずだ。……だが、その契約はどうするつもりだ? 坂柳や葛城には話すのか?」

 

 アナタが坂柳さんや葛城君に契約の事を話すメリットはありませんが、デメリットがいくつかあるので掻い摘んで説明すると言いました。

 

「それがいい。黙っていたら、後で責められるのはお前だからな」

 

 アナタは鬼頭君と共に教室へと向かいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「灰原、今から少し話せないか?」

 

 須藤君に絡まれた次の日の放課後。

 アナタは鬼頭君と共に帰るため教室から出ようとすると、葛城君から声をかけられました。思えば葛城君と面と向かって話すのはこれが初めてかもしれません。

 アナタは葛城君に話しておきたいことがあったので、これはちょうどいい機会です。

 

「そうか。ならば、俺の部屋で話そう。……あまり大きな声で話す内容でもないからな」

 

 葛城君は坂柳さんが座っている席の方をチラリと見ながらそう言います。

 おそらく葛城君はアナタがDクラスと結んだ契約について聞きたいのでしょうが、アナタは坂柳さんにも話しておかないと面倒なことになりそうだと考えています。

 

 さて、アナタはどうしようか。

 浮かんできたのは3つの選択肢でした。

 

『面倒なので、両方同時に説明しておく』

『用事があると嘘をつく』

『葛城君だけに話す』

 

 アナタはいずれ両方に話さないといけないのなら、早めに済ませておこうと思い『面倒なので、両方同時に説明しておく』ことに決めました。

 早速、席に座っている坂柳さんに声を掛け、葛城君の部屋へ行こうと誘います。

 

「ふふっ。男の方の部屋へ行くなんて初めてですね。私1人だと心細いので、真澄さんも連れて行ってもいいですか?」

「え、今日用事があるんだけど」

「では、荷物を置いてから訪ねさせて頂きます。真澄さん、手土産のお菓子は何がいいと思いますか」

「いや、だから用事が……」

「男の方ですから満足度の高いものでしょうか? そうですね、ケヤキモールの近くにある洋菓子店でいくつか買っていきましょう」

「用事……」

 

 坂柳さんは楽しそうにしながら教室を出て行きました。アナタは神室さんに睨まれますが、ため息を吐いて坂柳さんの後を追っていきました。

 

「俺は許可した覚えはないが……」

「すまん。灰原は、少しこう、常識はずれというか」

「……はぁ。分かった。それにお互いに知らないというのも、それはそれで問題かもしれないからな」

 

 葛城君には事後承諾となってしまいましたが、遅かれ早かれどちらも知ることです。いっぺんに終わらせる方が効率がいいでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そういえば、お前と直接話すのは初めてだったかもな。知っているかもしれないが、俺の名前は葛城康平。葛城派閥や坂柳派閥やら色々と言われているが、あまり気にせず話してほしい。……少し込み入った話になりそうだから、菓子でも買っていくか?」

「よぉ、葛城。それで……そいつが噂の灰原か」

 

 アナタと鬼頭君はどちらも自分から話すことをしないタイプなので、葛城君が気を利かせて話しかけてくれながら歩いていると、鬼頭くんと同じくらい髪を伸ばした男が声をかけてきました。

 

「……"龍園"か。お前と話すことは何もないぞ」

「そうつれないことを言うなよ葛城。俺はわざわざ感謝の言葉を言いにきてやったんだぜ? そこの灰原にな」

 

 アナタは龍園と呼ばれた男と面識がないので感謝を言われる謂れはありません。

 しかし、龍園君についてアナタは少しだけ知っています。

 Cクラスの生徒を脅して授業態度を改めさせたり、他のクラスにちょっかいをかけていることを、以前橋本君と一緒に他クラスを調べた時に知りました。

 ただ、思い出せないだけで何かしたのかもしれないので確認のために何故感謝しているのかその理由を聞きました。

 

「安心しろよ、お前とは初対面だ。それに感謝って言っても俺が一方的に感じてるだけだからな。滅多にないぜ、こんなことは。有り難く受け取っとけ」

「話はもういいか? 俺たちはこれから用があるから失礼する」

「まぁ、待てよ。そこの灰原に聞きたいことがあってな」

 

 なんでしょうか。あまり長くならないのであれば、アナタは質問に答えると言いました。

 

「随分と広まってるみたいだな。Dクラスとトンデモない契約したって噂がよぉ。連日連夜更新され続けてる掲示板は中々面白いことになってるぜ」

 

 しかし、アナタの噂は微々たるものでしょう。アナタよりも炎上している人間が、その掲示板にいるはずです。

 

「あぁ、俺もあの"間抜けヅラ"を拝みに行ったさ。だが、思わず同情しちまいそうになるぜ、あれは。相当なキツイだろうな。メンタルが脆いやつなら不登校になっても不思議じゃない。何故そんなことになってるか……なんて、つまらないことは聞かねぇ。だが、確認はしておかなきゃな。……灰原、お前の標的はDクラスか? それともあの間抜け1人か?」

 

 龍園君が態々そういう事を聞いてきたのは、落ち目のDクラスに追い打ちをかけたいからでしょう。

 アナタの目的はもう達成したも同然です。しかし、アナタは更にDクラスに追い打ちをかけるために何かしらの策を講じてもいいし。勢いに乗ってCクラスに仕掛けるのも悪くないでしょう。

 

 さて、アナタはどうしようか。

 浮かんできたのは3つの選択肢でした。

 

『間抜けにトドメを刺して、次はCクラスだ』

『更に追い打ちをかけて、Dクラスを毟れるだけ毟り取る』

『何もしない。引き際は弁えている』

 

 アナタは『何もしない。引き際は弁えている』と言いました。

 搾りカスから何かを絞ろうとしても、得られる成果と苦労が割りに合いません。それに、叩きすぎて自棄になられても困ります。

 Dクラスにはまだ希望があるのですから、8月の試験に必死になってもらう為にも暫く放置でいいでしょう。

 

「はっ、そうかよ。なら俺がDクラスを潰すことに異論はないんだな?」

「潰す? 龍園、お前は何を」

「お前達は指を咥えて見てろ。他のクラスを全て潰したら、最後に潰すのはお前達だからな」

 

 龍園君はそう言うと何処かへ去ってしまいました。

 漫画的な展開ならば、龍園君の台詞は如何にも反撃にあってやられてしまうキャラクターそのものに思えます。

 

「……何にしても、今後はCクラスの出方にも気をつけなくてはならないかもな」

 

 葛城君がそう締めて、アナタ達は歩き出しました。

 

 

 

 

 

 

 

「座布団か座椅子に座って待っていてくれ。飲み物は事前に揃えておいたから、好きなものを選んで飲んでくれ」

「……さて、やるか」

 

 葛城くんの部屋に来たアナタは座布団に座り大人しく待っていますが、葛城君が飲み物を取りに冷蔵庫に向かったタイミングで鬼頭君は本棚を一通り確認した後、ベッドの下をジッと眺めています。エロ本でも見つけようとしているんでしょうか。

 

「鬼頭君は何をしてるんでしょうか?」

「……馬鹿」

 

 鬼頭君の身体がぴくりと止まり、玄関の方に目を向けるとそこには坂柳さん達がいました。

 

「……ムー大陸を、探していた」

「ムー大陸? ……知らない大陸ですね。真澄さんはご存知ですか?」

「ただの言い訳よ。馬鹿は放って置いて、さっさと終わらせましょう」

 

 そういえば、以前鬼頭君達はアダルトグッズの類がこの学校にないか探していました。いくつかの薬局や店を周っていたようですが、何の成果も得られなかったようです。

 女は最低でもバイブなどのエログッズを一つ以上持っているというのは、知り合いのホームレスの見解ですが。それは女子高生にも当てはまる事なのでしょうか。

 

「……手土産感謝する。お前達も何か好きなものを飲むといい。ペットボトル飲料だがな」

 

 アナタは口を開き坂柳さん達に質問しようとしましたが、タイミング悪く葛城君がいくつかのペットボトルを机に置いたため、質問が口らが出ることはありませんでした。

 アナタは大抵のものなら嫌悪感なく飲めますが、代わりに好きな飲料もありません。

 

 さて、アナタはどうしようか。

 浮かんできたのは3つの選択肢でした。

 

『黄色い紅茶』

『体に悪そうな炭酸飲料』

『水道水』

 

 アナタはあまり飲んだことのない『黄色い紅茶』を選ぼうとすると、坂柳さんも黄色い紅茶に手を伸ばしていました。

 紳士的に譲ることもできますが、アナタには譲るという考えはなく取られないために素早く紅茶を手に取ります。

 アナタはいつもの無表情でしたが、その顔にはどこかやり切ったという感情が滲み出ています。そんな僅かな達成感を得たアナタは戦利品である紅茶の蓋を開けようとしますが、そこで待ったをかけてきたのは坂柳さんです。

 

「そんなに急いで取るなんて、灰原君はよっぽどその紅茶が好きなんですね?」

 

 坂柳さんの嫌味を込めた言葉にアナタは、好きでも嫌いでもないと答えました。

 

「……灰原、そういう時は黙って譲るもんだ」

 

 黄色い紅茶を飲みながら、アナタはスポーツドリンクを選んだ鬼頭君の言葉に耳を傾けます。しかしながら、この紅茶はレモンの香りが強く紅茶というよりはしょっぱいお茶を飲んでいるような気分になります。色合いも相まってペット皿に注がれた小便を飲まされた時のことをアナタは思い出していました。

 アナタは坂柳さんにこんな微妙なものを飲みたかったのかと聞くと、坂柳さんはピシリと固まり、それ以上何も言ってこなくなりました。

 

「そういうのはいいから、さっさとやりましょう」

 

 体に悪そうな炭酸飲料をマズいマズいと言いながら飲む神室さんの一言で、話し合いは始まりました。

 

 





契約の詳細やDクラスについてはまた今後の話で。
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