よう実 ハードモード リメイク版 作:クンクンクン
「では、本日はここで解散となります。7月10日の16時50分までにこの会議室に入室されていない方は"いかなる理由"があろうと審議に参加することはできませんので、定刻までに余裕を持って来るようにしてください」
休憩時間が終わった後、橘さんがこの場にいる関係者達へ3日後に審議をすると言って、証拠についてなどの補足をした後に事前打ち合わせは終了しました。
結論についてはこの3日間で提出されるかもしれない新たな証拠などを確認してから当日決めるそうですが、新しい証拠など都合よく見つかるものなのでしょうか。
「灰原皐月。今日はお付き合いいただきありがとうございました。映画の感想を誰かと話す……自分にはない視点の意見は新たな気づきを与えはしますが、よく分からない不快さがあることを学べました。……やはり、あの主人公は死んでいないんじゃないでしょうか?」
辺りが暗くなり始めそうになる頃、審議の事前打ち合わせをした後の帰り道でアナタは森下さんとバッタリ出会い、何故か映画を見に行くことになりました。
映画館へはよく
この映画館のポップコーンはシンプルでありながらバターオイルの後がけをしてもらえ、大変お得な気分になりました。キャラメルなどの邪道な存在も確認できましたが、アナタはハーフなどという中途半端な選択はせず塩のみです。
「エンディングに入る前の主人公の安堵した表情は歓喜であり、仲間を助けられたことを喜んでいることが台詞から分かります。終盤の描写やそれに至るまでの仲間との会話を見る限り命を使い果たし満足感に包まれて死んだと判断してしまうのは仕方がないことかもしれません。ですが、途中のセリフであった「君の命をもらっていくよ」という主人公に宿っていた存在の言葉は、一心同体である自分の命を持って主人公の代わりに敵を討つということを遠回しに伝えたんじゃないでしょうか。更に確固たる証拠としてエンディング後の一枚絵で、主人公の手から離れる誰かの手。これは主人公と宿っていた存在との別離を示しているのでしょう。以上のことから主人公は宿っていた存在の命を消費したおかげでエンディング後も生きている、と私は思いました」
正直、アナタは今日見た映画をそこまでマジメに見ていなかったので、主人公が自分の命を使ってヤツを殺すという言葉をマジメに受け取り死んだものだと思っていたのですが、森下さんは映画をよく見ていたようです。
森下さんの感想を聞いたアナタは、同一の存在が死ぬくらいなら自分が死んだほうがいいなと、その主人公の立場になって考え、そう思いました。
「灰原、昼はどうする?」
「あ、ちょっといいかな!」
審議まで後2日。昼休憩になり昼食をどうするか考えながら鬼頭君と一緒に廊下を歩いていると、見覚えのない巨乳の女に声を掛けられました。その隣には綾小路君もいます。
「……BクラスとDクラスがなんの用だ?」
「灰原。悪いんだが、少し話を聞いてくれないか。オレ……じゃなくて"一之瀬"が飯を奢ってくれるらしいぞ」
アナタは最初誰だか分かりませんでしたが、綾小路君が10万ポイントを借りたBクラスの生徒と言って、名前を思い出しました。
「困った時はお互い様、だからね。それに気になることもあるから、今回はDクラスに協力してるの。……それで、どうかな? いいやつ奢っちゃうよ〜」
「どうする?」
アナタはポイントに幾分か余裕がありますが、いいやつとはなんだろうかと気になったので奢ってもらうことにしました。
「なんか高そうなとこだな」
「……和食か」
「いいとこでしょ。個室になってて、しかも防音。集まりには向かないけど、とっても美味しいって同じクラスの子に教えてもらったんだ。……今日はこっちからお願いする立場だからね、なんでも好きなもの頼んでいいよ! もちろん綾小路君も鬼頭君もね」
アナタは好きなものと言われましたが、好きなものも嫌いなものもそんなにありません。
値段=味というわけではないでしょうが、アナタはメニューの中で一番高い、1万ポイントの特上鰻重を頼むことにしました。
「え、遠慮がないね。でも、そのぐらいならドントコイ!」
一之瀬さんは胸の辺りを手で叩き、無駄にデカい乳が揺れます。
鬼頭君はサッと目を逸らし胸を見たい欲求を抑えていますが、綾小路君とアナタは我関せずといった感じで、メニューを見たり蕎麦茶を飲んでいます。
「じゃあオレは刺身御膳を」
「……俺は肉うどんとミニカツ丼を頼む」
鰻といえば、元AV監督のホームレスが鰻の養殖に手を出して失敗していたのを思い出します。共同での投資であったものの致命傷と言える借金を負ってしまい、投資した研究所の職員を見つけたら殺してやるとしばらく探し回っていたことを、アナタは鰻のタレの匂いを嗅ぎ思い出していました。
「それでね、灰原君。実はお願いしたいことがあるんだ」
アナタが鰻の皮を噛みきりさぁご飯を掻きこむぞというタイミングで、一之瀬さんが話を切り出してきました。
アナタはご飯を口に運びながらではありますが、一之瀬さんの言葉に頷き、話を聞くことにしました。
「灰原君は須藤君の審議に参加して罰を決めるんだよね?」
アナタはどちらが悪いのかは決めるのかもしれませんが、最終的に罰を決めるのは学校じゃないんでしょうか。
「なるほど、裁判員というよりは陪審員の方がイメージは近いのか」
「陪審員? ……確か、戦前の日本で取り入れられていた制度か。大逆転裁判で知ったものだが。確か民衆が参加して、有罪か無罪を決めるものだったか?」
「あくまでも、イメージに近いというだけで。有罪か無罪かだけを判断するだけなら陪審員と言い切れるんだが……。かといって現在の裁判員制度に似たものなら、直前まで裁判員が誰か明らかになることはないし、事前の打ち合わせに参加するなんて事はあり得ない。そもそも堀北の兄貴……生徒会長は被告側に身内がいるのに選ばれるのはおかしい。いくらランダムに選出されるのだとしても普通は除外されるはずだ」
アナタは自分の立場がどのようなものかあまり興味はなかったのですが、生徒会長があの場にランダムで選出されたという事に今更ながら疑問を覚えました。そもそも、生徒会長は本当に選ばれたのでしょうか?
選出されせずとも、審議に参加するだけならば橘さんと同じように進行役として座っていればいいだけの話です。ランダムで選出された立場に何か意味でもあるのでしょうか。
「オレもそこが気になってな。灰原達が選ばれたのは、ただどちらが悪いかを決めるだけなのか。それとも、裁判官のようにどの程度の罪を与えるのか意見を挟める存在として見られているのか……生憎とオレの頭の出来じゃ、そこから先が全然出てこないんだが」
生徒会長は、最終的な判断は学校側が決めると言っていましたが、だとしたらアナタが審議の場にいる意味はなんなのでしょうか。
生徒間の揉め事程度、客観的な立場からの意見なんてなくても審議自体は成立しそうですし、逆に第三者の生徒が意見を挟んでしまう事で事態を混乱させかねないルールのように思えます。
「こほんこほん。えーっと、私からも灰原君にお話ししてもいいかな?」
あなたはご飯を咀嚼しながらコクリと頷きました。
「実は私達、須藤君"だけ"が悪いんじゃない証拠を探してるんだ。それであわよくば、Cクラスと痛み分けにできないかなぁって」
「そんな都合の良い証拠があるのか?」
「それがまだでな。明日の放課後までには何か見つけたいんだが、櫛田や平田が探し回っても成果が出ていない」
「そこで、灰原君なら私たちの知らない情報を知ってるんじゃないかと思ってね。鰻が情報料ってことで! お願いします!」
「……これは、買収なのでは?」
さて、アナタはどうしようか。
浮かんできたのは3つの選択肢でした。
『まだ足りない。追加でひつまぶし』
『買収されそうになってますと店から飛び出して大声で叫ぶ』
『偽証すればいい』
アナタはご飯を飲み込んでから『偽証すればいい』と言いました。どう足掻いても須藤君だけが暴力を振るった事実が覆らないのであれば、須藤君が悪くない証拠を偽証するしかないでしょう。
もっとも、審議が7月10日をもって終了し、すぐに結果が出るのであれば……という前提の元ですが、やってやれないことはないでしょう。あるいはCクラスを脅迫できる情報や手段を持っているならば、一之瀬さんの言う通り痛み分けにできるかもしれません。
最終手段としては示談金をCクラスに払うという手もありますが、アナタとの契約もある上に、毎月の収入もないDクラスに支払い能力はないため選択肢に加えられないでしょう。
「灰原、仮にも裁判員のような立場に選ばれているのだから、その発言はどうかと思うぞ」
「私もそう思うなぁ。それに嘘を言ってもすぐにバレちゃうと思うけど」
「……偽証はともかく、参考にはなった。一之瀬、この後も少し付き合ってもらっていいか? 俺たちはもう行くことにする。じゃあな、灰原」
「え、もういいの? じゃ、じゃあ灰原君。ここは払っておくからゆっくりしていってね」
綾小路君はアナタに感謝の言葉を言ってからすぐに出て行ってしまい、一之瀬さんもすぐに後を追いかけて行ってしまいました。
さて、綾小路くんはどうやってこの審議を乗り切るつもりなのでしょうか。
審議まで後1日。アナタには放課後の予定はなく、そのまま寮に帰るのも味気なさを覚えたため映画館に足を運ぶことにしました。インターネットも繋がっておらず、テレビも食堂などに設置されているものしかないため、久しぶりに映画を見たアナタは映像作品への飢えを刺激されたのかも知れません。
「これは奇遇ですね灰原君。……もしかして、これから映画ですか?」
映画館に着いたアナタは聞き覚えのある声に話しかけられたので振り返ると、明日の審議で同じ立場にある鹿賀島さんがいました。彼女も映画を見に来たのでしょうか?
「えぇ。映画館内のポップコーンやジュースなどの音は気になりますが、大きなスクリーンと高音質なスピーカーの環境で見られることに比べれば多少のお釣りがきます」
金貸し、というよりポイント貸しをやっているなら自分の部屋で近い環境は再現できそうなものですが。鹿賀島さんは、映画館にはよく足を運ぶのでしょうか。
「無論、再現はできますよ。ですが、それはそれ。これはこれというやつです。……さぁ、そろそろ上映10分前ですよ」
アナタと鹿賀島さんの見る映画同じようだったので、席は離れていますが同じタイミングでシアタールームに入りました。
さて、肝心の映画の内容ですが。見終えたアナタの抱いた率直な感想は迷子という2文字にまとめられます。
もう少し具体的な感想を捻り出すなら、本筋から徐々にずれていき、終着地点が気が付いたらとんでもなくずれているグラデーションのようなストーリー構成の映画で、硬派なミステリーモノの雰囲気からスポコンものにいつの間に変わっていた時はアハ体験に似たようなものを感じ、視聴者を楽しまさせる工夫は感じられました。
「白からグレー、そして黒へと徐々に変化するストーリー構成にはハッとさせられましたが、駄作と言っても差し支えない内容でしたね。私もあっちを立てたりこっちを立てたりウロウロする立場ではありますが、芯がなければ首も振れません。……さて、映画の感想はこのぐらいで。一つだけ明日の審議についてご相談があるのですが」
映画を見終わったアナタは鹿賀島さんの行きつけであるカフェに腰を落ち着けて、映画の感想を話し合うことになりました。
アナタ達は一通り映画の感想について話し合うと、鹿賀島さんは明日の審議についての話へと話題を変えてきました。
アナタは何か要求でもあるのかと聞き返しました。
「ご察しの通りです。ですが、私の要求を通す前に、前提となる情報をあなたに伝えさせてください。勿論、くだらない嘘はつきませんとも」
もしアナタが相手から都合のいい答えを得ようとする場合、情報は意図的に省き、嘘と煩わしい言葉を混ぜ合わせます。
アナタは鹿賀島さんの真意を読み取るために、少し集中することにしました。
「まず、今回の審議ですが。ランダムで選出された私達の役割は罰を与えるかどうか……要は、有罪か無罪かを決める立場にあります。ただ厄介な事に、選出された3人全員の意見が一致しなければ審議は延長され、日を改めて最大3回まで審議が行われる三審制もどきがルールとして採用されています。先生方も大変なのに、何故こんなルールを採用しているのか学校側の正気を疑いますが、私達も意見の不一致だけで放課後を拘束されるのは面倒です」
この学校は生徒自身の力で問題を解決させたいのでしょうか。
アナタには学校の狙いがよく分かりませんが、巻き込まれてしまった以上、最低限の情報は把握しなければなりません。
アナタは鹿賀島さんの言葉に同意して、次の言葉を待ちました。
「加えて、"何故か"選出されたと宣っている生徒会長はあなたに"Dクラスを有罪にしろ"と言ってくると思われます」
アナタはなぜDクラスを有罪にしろと生徒会長が言うのか、その根拠を聞きました。
「生徒会長がランダムで選出された立場を"買収"し、有罪か無罪を決められる立場を手にしたのは、被告側のクラスにいる妹を守るためだからです」
なぜ、Dクラスを有罪とすることで堀北さんが守られるのでしょうか?
「有罪になると起こり得るメリットとデメリットを説明しておきましょう。まずデメリットはDクラスの彼……確か、須藤でしたかね? おそらく今回の審議でDクラスが有罪になれば、彼は停学処分となり部活を辞めさせられ、Dクラスのクラスポイントは全く増えず、クラスの内の雰囲気は最悪になり、学級崩壊が起こるでしょう」
確か堀北さんはAクラスになることを目的としていたはずです。契約の話をしていた時にボソリと漏らしていたのをアナタは聞いていました。
鹿賀島さんの話すデメリットはDクラス、ひいては堀北さんにとっては中々に面倒臭いものだなと、アナタは思いました。
「しかし、メリットもあります。身の程を弁えて、贅沢を望まず、特別試験を適当に流し、穏当に卒業できるクラスを作り上げられます。最初は確かに不満が出るでしょう。しかし、自分達の境遇と立場を理解すればポッキリと芯は折れるでしょう。それに、彼らは頑張らない方が幸せかもしれませんよ」
ここまで鹿賀島さんの話を聞きましたが、生徒会長は本当にそんな事をするつもりなのでしょうか? まだ判断を下す段階にないと決めたアナタは、鹿賀島さんがどんな状況を望んでいるのか把握するために、自分は何をすればいいのかと聞きました。
「"何もしないで欲しい"。生徒会長が何か取引を持ちかけてきても、Dクラスが自分のクラスを無罪にして欲しいと訴えてきても。あなたは何もしないでください。私はそれ以上何も望みません。無論、報酬は払いますよ。取り敢えず前金として100万ポイント、無事に審議が終了したら成功報酬として100万ポイントを追加で払いましょう。勿論、契約の用意もしてありますよ?」
鹿賀島さんはアナタを見つめ、返答を待っています。
しかし、アナタはまだ欲しい情報を引き出せていないので質問することにしました。
「有罪か無罪を決める権利が本当にあるか、ですか? そうですね、あくまでも私たちが有している権利で出来ることは、審議を延長することぐらいでしょうか。例え1回目の審議で全員が有罪と認めたところで、学校側が予め決めていた罰を生徒に与えるだけです。しかし、選出された私達全員が無罪だと主張すれば。原告と被告の所属しているクラスのクラスポイントを減らす痛み分けの結果となり、審議はそこで終了します。ですが今回のパターンだと、実際に相手に怪我をさせた須藤君には個別に罰を与えられるでしょうがね」
綾小路君の言う通り、裁判員というより陪審員の方が役割は近いみたいです。
ただ、ランダムで選出された生徒達全員の意見が無罪となると審議はそこで終わるようです。
では審議が最後まで行われても意見がまとまらなかった場合はどうなるのか。アナタは鹿賀島さんに聞きました。
「さぁ? そもそも生徒が主体となる審議は滅多に行われないので、前例が有りません。校則にも記されていないので、私の口からはなんとも」
アナタは選出された立場がどんな役割を持っているのか情報を知り、いよいよ判断を下す時が来ました。
審議が面倒だと言っていたのに審議を伸ばそうとする鹿賀島さんの分かりやすい矛盾点など疑問は幾つかあります。
しかし、アナタはこの審議の終着点がどうなるか、いくつか予測することができました。
さて、アナタはどうしようか。
浮かんできたのは三つの選択肢でした。
『1000万ポイント払えば考えてやると言う』
『契約を断り、生徒会長と手を組む』
『鹿賀島さんと手を組み、Dクラスを更に追い込む』