よう実 ハードモード リメイク版 作:クンクンクン
アナタは『ひとまず寮に帰る』ことにしました。
物を買うにしても、寮に備え付けているものを確認しておかなくては家電量販店に行く意味は薄いですし、3年間の付き合いとなるアナタだけの城を早く見てみたいという気持ちもあります。
アナタは教室内の誰よりも早く荷物を纏めて寮に向かいました。
「それじゃあ、これが鍵ね。あんまり大きな物音を立てたり騒いだら学校からペナルティがあるから気をつけて」
アナタはフロントにいる管理人に名前を言ってからホテルで使うようなカードキーをもらい早速部屋に向かいました。
部屋は8畳ほどのワンルームであり、1人で生活をする上では不足ないでしょう。
部屋の中を見渡していると、アナタは部屋の中央に段ボールがあることに気づきました。
確か、事前に送っておいた服などが入っている段ボールです。外には検閲済みと書いてあるシールが貼ってあり、よく見ると一度ガムテープが剥がされた跡がありました。
中を開けてみると、アナタのお気に入りジャージなどがありますが、身に覚えのない手紙が入っていました。
アナタは事前に衣類以外のものは入れないでくださいという指示に従って服しか入れていません。ということは検閲の時に誤って入ってしまったのか、誰かが意図的に入れたのでしょうが十中八九後者でしょう。
とりあえずアナタは手紙を読んでみることにしました。手紙には「夏休みにまた会いましょう。寂しくなったら電話してね」と、少しクセの強い文字で書いてあり。電話番号も書いてありましたが差出人の名前はありませんでした。字に見覚えはありますが、アナタから電話することは不可能なので、ひとまず手紙は机の中にしまいました。
手紙をしまい、服やダンボールに何か仕込まれていないかチェックしてから、部屋の中に監視カメラや盗聴器が仕込まれていないか念入りに探し始めました。
アナタは以前、監視カメラや盗聴器のせいで手痛い目にあったため、初めて訪れる場所などでは必ず、監視カメラや盗聴器の類が仕込まれていないかを探るようにしています。そう言えば教室や町中に大量の監視カメラが設置されていましたが、そんなにもこの学校の治安は悪いのでしょうか? 監視カメラがない場所にはあまり近づかない方がいいかもしれません。
……工具等がなければ開けることが難しい場所以外は確認しましたが、それらしいものは見当たりません。可能なら盗聴器発見機が欲しいところですが、敷地内の店に売っているか不安なところです。
服を納めたり部屋に備え付けなられているものを確認していくうちに夕飯時となったので、アナタは寮の近くにある食堂に行くことを決めました。
アナタはそこまでお腹も空いていないため、軽く食べられるきつねうどんと鮭おむすびのセットを注文しました。追加で天ぷらを乗せることも可能みたいですが、またの機会に取っておくことにしました。
冷めないうちに食べたいところですが、見渡す限り席はほとんど埋まっており、空いている席も場所取りされているのか荷物が置かれています。
しかし、少し端の長机の席が幾つか空いているのを発見しました。まるでその席に座っている人間を避けるように空いているのはなんとも不自然ですが、うどんを冷ましてしまうことよりも気にすることではないので、座っていた人物から見て右斜め正面に座りました。
アナタは食事をする時間が嫌いではありません。食べれば自分の反応や好みなどを分かりやすく知ることができるからです。
ふと、アナタはうどんを啜っている時に思いつきました。自分で料理をすれば、自分の好きなものを食べられるんじゃないかと。
アナタはこの学校にいる間に料理に挑戦することを決めました。それはきっと将来のためにもなるでしょう。
「……君は、フケを悪だと思うか?」
食事を進めて、さてうどんの味が残っている間におむすびを食べるか、すこし緩い出汁におむすびを投入して〆にするか迷っていたところで声をかけられました。
座っていた人物は男であり、何となくですが上級生のように見えます。
食事中に会話をすることに忌避感がないアナタは返事をしてもいいし、無視して食事を再開してもいいでしょう。
さて、アナタはなんと答えようか。
浮かんできたのは三つの選択肢でした。
『どうでもいい』
『当たり前にあることだからどちらでもない』
『この天かすはお前のフケか?』
アナタは『どうでもいい』と答えました。フケに関してはアナタがまともにお風呂に入れてもらえなかった時から長い付き合いをしてきており、最近は改善されましたが日常的にあるものと思い込んでいたものでした。
男はそうか、と一言言って出来る限り髪の毛には触らないようゆっくりと額を掻きました。
「食事中にすまない。ただ、誰でもいいから僕の話を聞いてもらいたかったんだ。でも君は……何だか話しやすそうで、話したくなる雰囲気をしているから」
アナタは、フケについて詳しいわけではありませんが汚いものだと認識されていることを知っています。男はフケについて何か嫌なことでもあったのでしょうか。
アナタが話を聞こうと言うと、男は微笑みを浮かべてありがとうと言いました。
「実は、僕が席を移動した時にたまたまクラスメイトの女の子の教科書に僕のフケが落ちたんだ。もちろん、朝はちゃんとフケがついていないかチェックしているし、特に目立つ前髪と襟足とつむじ付近もしっかり見ている。フケとは小学生の頃からの付き合いだからね。髪の毛についていたりしたら周りの反応からちゃんと分かるんだ。今日は周りの反応からして見える範囲でついていないと思ったんだけど……」
フケは乾燥したり、頭皮に残る皮脂が原因であったり原因は様々ですが、ここまで入念にチェックしている男が対策を怠っているとは思えません。そんな男になぜフケが出てしまうのか、アナタはその理由が少し気になりました。
「その時の女の子の悲鳴は忘れられないよ。僕も原因はすぐに分からなかったんだけど、教科書が暗めの色だったからすぐに気づいた。アレは……僕のフケだってね。すぐに僕は謝ったんだけど、逆に女の子の方がごめんなさいと謝ってきてね。クラスメイトも僕を女の子と同じような目で見るんだ。申し訳ない、許してくれって感じの目で。原因は分かっているんだけど、フケについて何らかのリアクションを取られるのは心臓に悪くてね。つい、食事の最中でも思い悩んでしまって……と、すまない。話が長かったね」
男は話に付き合ってくれてありがとう、と言うとアナタの電話番号を教えてくれと言いました。
「誰かにフケについての悩みを打ち明けたのなんて初めてだ。……あぁ、気持ち悪い話に付き合ってもらったお礼だよ。きっと君の役に立つはずだ」
アナタは電話番号を教えると、支払いアプリに新規のお知らせメッセージがついていました。
確認すると永木さんから"100万ポイント”が送られましたとあり、アナタはなぜポイントを送ってきたのかその意図を聞きました。
「おそらくだが君は新入生だろ? 何、先輩から新入生への入学祝い……というより、僕からの個人的なお礼さ。君達はまだ何も知らないだろうけれど、この学校は少し変だからね。先立つものは必要になる」
つまりは善意ということでしょうか。しかし、善意と言ってもこの額は少し気になります。
アナタはこの学校におけるポイントの価値が現代日本の紙幣価値とどのくらい違うのか検証はしていませんが、真嶋先生の発言や自動販売機の価格設定などを見る限りでは学校の外とそう変わりはないでしょう。
あるいは、100万ポイントなんぞ簡単に稼げる手段でもあるのでしょうか。
「さて……灰原君。で、いいのかな? 僕はそろそろ失礼させてもらうよ。食事の邪魔をして悪かったね。……できれば、君とはまたお話ししたいかな」
さて、意図せず大量のポイントをを手に入れたアナタは、最後に永木に対して最も気になることを聞きました。
「そんなに気にしているのになぜ、フケが治らないのか? ふふ、そうだね。僕の体質も関係あるとは思うけど、一番はお風呂が嫌いだから、かな。少し……お風呂にトラウマがあるんだ」
男はまた会おうと言って、食堂から出て行きました。
アナタはぬるくなったうどんの出汁を感じながらおむすびを食べ終え、寮へと帰りました。
1日目の学校生活はここで終わりです。
学校生活は始まったばかりですが、アナタには目的がちゃんとあり目標も定めています。
それは将来の夢を見つけ、その目標に向けて行動することです。つまりは就職することなのですが。今更普通の職に就いて、アナタがちゃんと適応できるか疑問があります。
アナタは法外な借金を返すために法外な方法を使ってきたため、給金などで仕事を選ぶ意義も見出せません。
ならば、どのような基準を持って将来を決めればいいのでしょうか。アナタはそこまで考えて、詰まってしまいました。
ですが、アナタはそこまで焦っていません。なんせ3年間も時間があるのですから。
熱中できるものが見つかればいいなと夢を馳せ、アナタは意識を落としました。