よう実 ハードモード リメイク版 作:クンクンクン
「…‥時間となりました。只今より、審議を始めます。司会進行は第一審から引き続き、生徒会書記の橘が務めさせていただきます。……まず、最初に前回の審議の内容を振り返ろうと思います。皆様、お手元の資料をご覧下さい」
第一審から1日置いて、第二審が行われました。逆転裁判並みの速さで行われていますが、この茶番じみた審議を時間を掛けてやる意味はないでしょう。
「前回の審議では、須藤君と堀北鈴音さんを呼び出したCクラスの生徒達が意図的に暴力を振るうために特別棟……正確には、特別棟にある教室の一室の近くに呼び出したのではないかという問題について触れました。Dクラス側は喧嘩に慣れている石崎君が居たことが暴力を振るう意図があった事を証明していると主張されていましたが、Cクラス側はそれを否定。また、Cクラスの石崎君が最初に須藤君へ殴りかかったとDクラス側は主張していますが、Cクラス側は須藤君が契約に対して異議を申し立ててきたから、少し悪口は言ったが殴りかかっていないと主張しています。今回の審議では、主にこの2点について議論し、結論を出していただきたいと思います。……また、他にも議論すべきことがあると思う方は、挙手をしてからの発言をお願いします」
橘さんは辺りをぐるりと見回して、誰も意見がないことを確認してから話を続けました。
「ないようですね。ではまず、この2点を解決するために証拠の整理をしたいと思います。また今日の審議には一点、Cクラス側から"新たに"提出された証拠があります。これまでの証拠品を確認したのち実際に見ていただきます……坂上先生、如何しましたか?」
「失礼。こちらは証拠の確認は十分なのですが、Dクラスの皆さんはどうですか? もし確認をする必要がないのであれば、直ぐに新たな証拠の話に移りたいのですが」
「私は大丈夫だが、お前たちはどうだ?」
橘さんは口を止め、Cクラスの担任の先生である坂上先生が証拠の確認が必要ないことを宣言しました。
それに対してDクラスの担任である、無駄にデカい胸を強調した茶柱先生は自分のクラスの生徒に確認を取りました。
「俺も別に。櫛田はどうだ?」
「私は大丈夫だよ。須藤君と堀北さんは?」
「……あぁ。問題ねぇ」
「……」
「堀北さん?」
「……っ! わ、私は……」
堀北さんは顔を真っ青にして、Cクラスの生徒の方を見たり綾小路君の方を見たりと落ち着きがありません。
「……いえ、問題ありません」
「そうですか。では、新たな証拠を見ていただきます。スクリーンに映しますので、皆様そちらをご覧ください」
橘さんはパソコンを操作してスクリーンに映像を映します。
「……」
映像は個人の端末から撮られていたモノのようで、肝心の内容はCクラスの主張をこれでもかというぐらい援護するモノでした。
動画の始まりは須藤君が石崎君達を殴るところから始まります。カメラの方向を向いているのがCクラス、カメラに背中を向けているのがDクラスです。堀北さんは須藤君を静止しようとしますが、須藤君は続けざまに近藤君と小宮君も殴ります。その後、動画は須藤君に手を引かれて現場を立ち去る堀北さんの背中を最後に終わりました。
音声は残念ながら須藤君の大きな声と堀北さんの静止の声ぐらいしか入っていません。
「どうですか? 決して言い逃れのできない、写真以上の証拠です」
一応時系列を整理すると、佐倉さんの写真はこの新たな証拠である動画の少し前に撮られたものである事が確定しました。
佐倉さんから提出された証拠である自撮り写真には、須藤君が暴力を振るう前、石崎君達に詰め寄る様子と堀北さんがそれを制止しようとするその一瞬が捉えられています。佐倉さんの証言通りならこのあと、石崎君が須藤君に殴り掛かるも逆に殴り返される筈ですが、動画では須藤君が先に殴っています。残念ながらこの二つの証拠では、写真と動画の僅かな間に何があったのかを完全に証明する事はできないでしょう。
Dクラスの少ない勝ち筋である、正当防衛を主張する証拠にはなり得ません。
「なんともまぁ可愛らしい動画が出てきましたね」
「……」
鹿賀島さんは微笑ましいものを見るような感じで動画を見ていますが、生徒会長は眉間を押さえて目を瞑っています。
Cクラスは決定的とも言える、何とも胡散臭い映像に自信満々のようですが、果たしてこんなにも都合の良い動画が偶然撮られるなんてことはあるのでしょうか?
前回の審議で佐倉さんの写真を見たアナタは、5人がちゃんと画角に収まっていたことに違和感を覚えましたが、距離的に気付かれてもおかしくない位置から撮られていたため計画的に撮られたものではないと思っています。もし仮に佐倉さんがCクラスの弱みを狙っていたのなら、自撮りに見せかけて撮影する必要もありませんし、Dクラスの有利になるよう石崎君が殴りかかって来た瞬間を狙い撮影するでしょう。
確かに新たに提出された動画は審議を決定づける証拠のように思えますが、写真と違い一生懸命タイミングを見計らって意図的に撮影した動画であることは間違いありません。
ツッコむポイントとしては、動画が教室内から撮られていることでしょうか。窓枠が映り込んでいるため、撮影者は体が見えないように端末だけを覗かせて撮影した事は容易に想像がつきます。
「あの~、いいですか?」
「はい、櫛田さん」
「この動画って本当に偶然撮られたものなのか、ちょっと疑問に思っちゃって。綾小路君もそう思わない?」
「そうだな。もしかしたら、Cクラスに有利なように編集された動画かもしれない」
「ふむ。ならば、その生徒の端末を預かっているので確認してみてはどうですか?」
「……Cクラスに都合がいい部分だけを編集した動画を送ってもらって。それを保存した端末を提出したとかは?」
「もちろん証拠が提出された段階で調べましたとも。この端末から他の端末に動画などを添付して送った履歴がない事は確認済みです。茶柱先生も確認されていましたが、何か不審な点でも?」
「確かに私も一緒に確認した。坂上先生やCクラスの生徒が不正をした事実はない。その動画は編集されておらず、また誰かから動画が送られてきた形跡は無かった」
「……どうしよう。私、何も言い返せないかも。綾小路君は何かある?」
「……正直、オレもない。堀北は何かあるか?」
「そう……ね。…………ひゃっ!!」
今まで俯いていた堀北さんが高い悲鳴をあげて、会議室にいる全員の視線を集めながら何かを堪えるように身を捩っています。
「あ、んっ、ちょ、や、やめっ!?」
「しっかりしろ。"手順を思い出せ"。"次の"審議で勝つためには、お前の発言が必要だ」
「…………はぁ。失礼しました。私から質問させていただいてもよろしいでしょうか?」
声が小さくて聞き取れませんが、綾小路君と何かやり取りをしたのでしょうか。堀北さんの顔色は幾分か良くなり、挙手をしてから質問の許可を求めました。
「あ、はい。堀北さん、どうぞ」
「……ありがとうございます。その動画なのですが、事前にCクラスの誰かが教室内に身を潜めて待機し、須藤君が殴りかかったタイミングを見計らい動画を撮り始めたのではないかと私は考えています」
「おいおい。なんで俺達がそんな事する必要があるんだよ。あくまでも俺達の目的はお前達Dクラスと契約することなんだぜ?」
「一つ、確認させてもらいたいのだけれど。……石崎君。私達が特別棟に居たのはほんの数分、まともな会話自体1分もしてない。そうよね?」
「あぁ。特別棟が無性に暑くてイラついたのか、俺達が話を持ち掛けて直ぐに須藤が逆ギレして殴ってきたんだ。話し始めてから"カップ麺を作るよりも早く"殴られるなんて、こっちは想像もしてなかったぜ」
「てめぇ……っ!!!」
「黙りなさい須藤君! ……ありがとう石崎君、お互いの認識が正しい事が分かって良かったわ。……話を戻しますが、私は根拠として動画の撮影方法が不自然である事を指摘します。撮影した人間は教室から隠れて撮った事は動画を見れば誰でも気付くでしょう。……では何故、撮影者は隠れながら動画を撮影したのでしょうか?」
「それは、俺たちが居てビビったから隠れたとかじゃ……」
「では一体何の用で、Cクラスの生徒が特別棟の教室にいて、須藤君が殴り掛かるタイミングで動画を撮影できたのか。石崎君、近藤君、小宮君。誰でもいいから、その理由を説明してもらえるかしら?」
「そ、それは……」
「私は、この動画がある事自体がCクラスがDクラスを意図的に陥れようとした事を証明する決定的な証拠だと確信しています。……選出され審議に参加されているみなさんはこの動画についてどう思われていますか?」
堀北さんもだいぶ元気になったようで、Cクラスの生徒をあれよあれよと追い込んでいきます。そして余裕があるのか、アナタ達へ話を振ってきました。
「愛しの妹さんがお兄ちゃん助けてコールを送ってきてますよ。助けてあげたらどうですか?」
「……まず、作為的に動画が撮影されたかどうかを判断する事は難しい。疑うべき証拠ではあるが、その動画によって須藤が石崎達を一方的に殴った事も証明されている。……つまり、その動画が意図してDクラスを嵌めようとした動画であるという決定的な証拠がない限り、作為的に撮影された動画であるとは認められない」
「……そうですか。他の皆さんも同じ意見でしょうか?」
「私も特には。あくまで問題点は、どちらが先に手を出したのかでしょう? その動画で証明されているのは須藤君が一方的に殴ったことだけ。私の考えも、生徒会長とそう変わりません」
「……灰原君は?」
アナタは堀北さんに意見を求められました。
確かに怪しい動画ですが、生徒会長や鹿賀島さんが言うように、Cクラスの主張をより正しいものであると証明した決定的な証拠と言っても過言ではありません。
さて、アナタはどうしようか。
浮かんできたのは3つの選択肢でした。
『以下同文』
『Cクラスは作為的にその動画を撮ったと糾弾する』
『よく分からないので、動画を撮影した人間を呼ぶべきだと橘さんに提案する』
アナタは『よく分からないので、動画を撮影した人間を呼ぶべきだと橘さんに提案する』ことにしました。
「……それはそうですけど。その動画だけで、証拠としては十分では?」
「その通りですよ。態々動画を撮った人間を呼ぶ必要性はありません。なぜなら、"動画を撮影した生徒の証言"はその動画と"同じ"だからです。呼んだところで、審議の結果を左右する証言は得られないでしょう」
おそらく逆転裁判などであればここで声高らかに異議あり! と叫ぶのでしょうが、生憎とアナタは弁護士や検事ではないので口を挟む事はしません。
さて、Dクラスは動画の撮影者を引き摺り出す事が出来るのでしょうか?
「……いえ、私達Dクラスは動画を撮影した人間の召喚を要求します。坂上先生の発言には、矛盾がありますから」
どうやら追求するのは堀北さんのようです。自分で気づいたのか、はたまた別の人間に指示されているかは不明ですが、ここで撮影者を引き摺り出せなければ、Dクラスに残された僅かな勝ち目が生まれない事は確かです。
「矛盾、ですか? 私は破綻した言葉を口に出した覚えはないのですが」
「坂上先生、"動画を撮影した生徒の証言"と"動画の内容"が同じである事はあり得ません。何故なら、その撮影者は予め身を隠し動画を撮影する機会を教室内で待っていたからです。でなければ、私たちに気付かれずに動画を撮影することは不可能です」
「それは佐倉さんと同じく、遠くからあなた達の存在に偶然気付き、教室に隠れて撮影したからでは? 同じクラスの仲間を助けるために行動してくれたのでしょう」
「仮に私たちが言い争っている途中で教室に入り身を隠したのならば、確実に気付きます。動画撮影者と私達の距離はその動画でも分かると思いますが、僅か数メートル程です。離れたドアから入ったとしても、人気の少ない静かな特別棟の物音はよく聞こえてくるでしょう」
「あなた達は言い争っていたのですよね? ならば注意が散漫し、気付かないという事は十分にあり得るのでは?」
「坂上先生は先程、撮影者が私達の姿に気付き隠れたと仰いましたよね。それに、言い争っていたから注意が散漫していたと。……ですが、それだと矛盾があるんです。須藤君が声を荒げ、石崎君が殴り掛かってくるまで数十秒程しか時間がありませんでした。例え撮影者が教室に隠れたとしても、私達5人がちゃんと映る場所を確認し、須藤君が石崎君を殴った場面を撮影するには時間が圧倒的に足りません」
「……偶々、佐倉さんと同じく5人全員が映っていて、須藤君が殴り始めたところから動画を撮り始めたからでは?」
「いいえ、それはあり得ません。先程、石崎君と確認しましたが、私達がまともに会話したのは本当に短い時間だけです」
「……あっ」
「仮に私たちの姿を見て直ぐに隠れたのだとしても、動画に映っている須藤君が石崎君たちを殴る場面には間に合いません。……つまり、あの動画を撮影する為には予め教室に身を隠し、一連の流れを最初から見ていなくては不可能なんです。もう一度言いますが、坂上先生が言っていた"動画を撮影した生徒の証言"と"動画の内容"は全く一緒ではありません。撮影者は最初から全てを見て知っているはずです。……これが、私が動画の撮影者を審議に召喚して頂きたい理由です」
「う、うぐぐ……っ」
堀北さんの指摘に返す言葉がないCクラスの様子を見た橘さんは、次回の審議に動画を撮影した目撃者を参加させることを認めました。
「では、次回の審議に間に合うよう、その動画の撮影者の召喚の準備をしておきます。話は私の方からしますので、坂上先生も同席をよろしくお願いします」
「……えぇ。分かりました」
「異例ではありますが、今回の審議では決を取らず、次回の審議へと延長することにします。審議の結果を左右しかねない証人なしに議論を続けても正しい判断は下せないと私は判断しました。……それでは、今回の審議はここで終了にしようと思いますが、皆様よろしいでしょうか?」
誰も発言をしないことを確認した橘さんは、審議の終了を宣言しました。
「よう、灰原。今日の茶番はどうだった?」
審議を終えての帰り道、アナタは龍園君から話しかけられたので足を止めました。
「決定的な証拠が出たが、なぜそんな都合が良いモノがあるのか。当然疑問に思うよなぁ。くくっ、疑問を指摘し有利な流れになるはずなのに、時間切れになったらDクラスの雑魚共はどうするか。お前には分かるか?」
Dクラスに幾つかの選択肢があるのは間違いないでしょうが、アナタの予想では、次の審議の前にCクラスに対して相談を持ちかけるんじゃないでしょうか。
確かに動画の撮影者を審議に呼ぶところまでは成功しましたが、肝心の審議はあと一回しかありません。それに、動画の撮影者がCクラスの誰かから指示を受けて撮影したというのは想像するまでもないでしょう。
「そうだな。余程の馬鹿じゃない限り、撮影した人間がまともな証言をするとは思わないだろう。なら、審議の前に話をつけるのは当然行き着く結論だ」
この状況を作る為に龍園君は2回目の審議で、新たな証拠として動画を提出したのでしょう。
審議を"1回延長する"というのが龍園君とアナタがした口約束です。当然、アナタも撮影された動画がこの審議で出ることは知っていました。
「最初は学校の対応を見定めるつもりだったんだが……まさか、学校がこんな面倒くさい対応をするとはな。だが、相手を学校側が認めた手段で追い詰められるのは十分なメリットだ。態々撮影者を"2人"仕込んだ甲斐があった」
佐倉さんの写真は龍園君の想定外だったのでしょうか。
「いや? 証拠の写真に意味はない。こっちで用意した動画で封殺できるからな。動画を撮られていたら厄介だったが、厄介なだけでどうとでもなる。審議を伸ばして終了させるだけで、須藤には何らかの罰が与えられる。Dクラスの雑魚共を、微かな屑餌に喰らいつく事しか考えられない雑魚に仕立て上げる準備が進むだけだ」
ということは、もうアナタはお役御免という事でいいのでしょうか。
「あぁ。お前は俺が作り出そうとしているDクラスの"環境"にメリットがあるから協力したんだろう? なら、それはもう達成したも同然だ。後は好きにしろ」
そう言うと、龍園君は話を打ち切り歩いて行きました。
アナタは龍園君の後ろ姿は見ず寮の方向へ歩きながら、先程メッセージが届いた端末に目を向けました。