よう実 ハードモード リメイク版 作:クンクンクン
無人島に行く前の準備話です。おもっくそ犯罪している描写が出てきますので承知の上、お読みください。
須藤君の暴力事件の審議が終了し数日が経ちました。
アナタはすっかりと審議の事や生徒会長の話などを忘れて、とても大事なことを考えていました。
この学校では夏休みに学校が保有している無人島にバカンスへ行くそうです。
アナタ達を無人島まで連れて行ってくれるのは一般的な社会人では到底手が出せないような豪華客船のようです。アナタは船といえば男と女が鮨詰めにされたものや怪しげな漁船にしか乗ったことがないので、高級な船とは何か拙い想像しかできません。豪華と頭につくそれはアナタが乗ってきた船とは比べ物にならないほど大層良いものなのだろうと、ほんのりと期待していました。
しかし、問題点が一つあります。それは寝泊まりする"部屋"についてです。
「個室か……少し待っていろ。確か何年か前にポイントで買った生徒がいたから、その資料を取ってくる」
アナタは自分の休む部屋に誰かがいることが嫌で嫌で仕方がないので、真嶋先生に船内に存在するであろう個室を貰えないか交渉をしに行きました。事前の説明では何人かのグループに分かれて同じ部屋に入れられるようで、普段嫌悪感などを表情に出さないアナタも、想像しただけでも嫌な気持ちになり普段の無表情が崩れるほどでした。
修学旅行を筆頭に外泊する行事は小・中含めてもこれが初めてなので要求が通るか不安がありましたが、前例があるようでアナタは一安心しました。
「あら、真嶋君と話してたあなたはAクラスの生徒? ……もしかして、噂の灰原君だったりする?」
物置でも船外でもいいから一人になれる空間が欲しいと、都合の良い時にアナタがよく
噂かどうかは知りませんが、アナタの名前は灰原なのでそうだと返すと、女は感心したように頷きアナタの近くへ寄ってきました。
その顔には見覚えがあり、確か1年Bクラスの担任だったとアナタは記憶しています。
「おぉ〜。怖い感じかと思ったら、結構イメージと違うわね。噂を聞く限りじゃ闇金も真っ青の契約をして、契約した人間を風俗に売り飛ば……って不適切発言不適切発言」
どうやら教職員の間でもアナタとDクラスの生徒が契約を結んだ噂が広がっているようですが、教員も全員が全員アナタがした契約について正確に知らないようです。
しかしアナタも相手に借金を抱えさせるまで追い込んだことはありますが、ツテのある風俗店まで紹介したことはありません。
アナタは全ての教員が生徒の契約の内容を把握しているわけではないのかと、質問してみました。
「だって、有名とか知り合いでもない限り、他の学年やクラスの生徒の名前や顔とかの情報って覚えないでしょ? それは先生でも一緒。それに、担任からわざわざ情報を漏らすことをしてちゃ公平性に欠けるから、灰原君も私からBクラスの情報を抜き取ろうとしちゃダメだぞ」
アナタはBクラスに関してはどのクラスよりも興味がないので大丈夫ですと断りました。
「眼中にないってわけ〜? 灰原君って結構生意気ね。そうやってカッコつけてると足元掬われちゃうんだから。ねぇ〜、真嶋君」
「おい、あまりうちのクラスの生徒にちょっかいを出すな。見境がなさすぎるぞ。それに今は仕事中だ。先生を付けろ」
「生徒の前だからってお堅いんだから。それじゃあ、お邪魔虫は退散しまーす。またね、灰原君」
「……待たせたな。少々値は張るが、個室の使用権利はポイントでも購入が可能だ。過去に購入をした生徒は一人だけだったが、現在のポイントの価値に換算すると……」
アナタの手持ちは100万ポイント程ですが、それで足りるでしょうか。
「滞在期間の全てを個室で過ごしたいのなら、購入には"500万プライベートポイント"必要だ。手続きの必要もあるから後3日ほどしか待てないが、どうする?」
アナタは困ってしまいました。
「よぉ、審議の時は俺のクラスが世話になったな。職員室で何してたんだ?」
職員室から出たアナタは500万ポイントをどうやって集めるのか悩んでいると、たまたま通りかかったのか龍園君が話しかけてきました。
アナタは500万ポイントが必要で、現在の手持ちのポイントが足りていないことを素直に言いました。
「Dクラスの雑魚共があまりにも雑魚すぎて収穫がまともにできていないのは"お互い様"ってところか。……そうだな。審議の時の"貸し"を精算してもいいなら情報をくれてやるが、どうする?」
アナタは龍園君とは口約束しかしていないのに律儀だなと思いながら、情報を聞くことにしました。
「まぁ、簡単な話だ。金がないなら"借りればいい"。お前と一緒に選ばれた鹿賀島って2年の女がいたよな。奴はこの学校全体で金貸し染みた事をやってるらしいじゃねぇか。どこから大量のポイントを引っ張ってきているかは知らねぇが。噂を聞く限りじゃあ、お前ほど悪徳な契約を吹っかけてこねぇことは確かだな」
アナタは個室のことで頭がいっぱいだったので、鹿賀島さんについてすっかり忘れていました。
アナタは鹿賀島さんへ送るチャットの文言を考えながら、龍園君に感謝の言葉を伝えて帰ろうとしましたが肩を掴まれてしまいました。
龍園君はアナタに何かまだ用があるのでしょうか。
「あぁ、こっからは"バカンス"の話だ。おそらく……いや、確実にそこでなんらかの取り組みがあるはずだ。テストで赤点一つ取るだけで退学させてくる学校が、タダで数週間バカンスに連れて行くなんて事はありえねぇ」
アナタは永木から8月の試験で大量のポイントが入手できるということを聞きました。おそらく、試験の内容はバカンスの大部分を占めるであろう船内での生活に関する何かに関連したものだとアナタは予測しています。
アナタは知らないフリをして、龍園君に目的を尋ねました。
「学校が何を考えてるかまでは正確には読めねぇが、大きな金を使っているのに何もしないじゃ割りに合わない。必ずテストの時と同じような退学かそれに準ずるデメリットがある試験があるはずだ。……そこでだ、お前は俺たちCクラスとAクラスの間を取り持つ手伝いをしろ」
龍園君にはAクラスと組んで試験に臨むということでしょうか?
「Dクラスの雑魚は自分たちの餌の確保で頭がいっぱいだろうからな。適当に毒エサを混ぜて撒いてもアホ面晒して腹の中に入れるのが目に見えているから、お前達の力はいらねぇ。だが、問題はBクラスだ。お前達にとっちゃ格下だろうが、目障りだと思うのは同じだろう? なら、互いに利用し合えるはずだ。もっとも、試験の内容にもよるがな」
どんな試験かも不明なのでなんとも言えないので、アナタは気が向いたらやるとだけ言いました。
「審議以来ですね。今日はポイントについて相談があるとのことですが、いくら必要でしょうか?」
龍園君と話した次の日、アナタは登録していた鹿賀島さんの番号からチャットで連絡をしました。
鹿賀島さんは直接会いたいということなので、現在アナタは彼女の指定した2年Cクラスの教室に居ます。
アナタは早速500万ポイントが必要であることを伝え、貸してくれないかと頼みました。
「おい、テメェ。1年坊だろ? テメェ如きが何でうちの"お嬢"の連絡先知ってんだこら?」
「"義弘"。あなたの事、私は面白いと思っていますが。ツッコむところがズレていますよ。すみませんね灰原君。私は彼との対話は好きなのですが、いかんせん知らない人間には人見知りをする子なんですよ」
鹿賀島さんの隣に座らず立っている義弘と呼ばれた強面の男子生徒はアナタのことを睨んでいますが、アナタは無視して500万を貸してくれるかどうか聞きました。
「テメェよぉ。いきなり500万貸せって言って貸す奴がいると思ってんのか? ジョーシキってもんを弁えてんなら、そんな馬鹿がいるわけねえって事も分かるよなぁ?」
現状、アナタには学校に入学する前に持っていた現金が使えないので返済の保証となるものや担保がありません。ですが、どんな事をしても必ず返すとアナタは鹿賀島さんを見て言いました。
「別に貸すのは問題ないのですが…‥」
「お、馬鹿がいやしたねお嬢。こんな一年坊に貸すやつなんて馬鹿中の馬鹿、凄まじいドアホがいたもんですわ」
「義弘、私が馬鹿だと?」
「何年あんたを見てると思ってんですか。お嬢が馬鹿で内面がキショくてジャクソン・ポロックの作品みてぇに吐瀉物混ぜ合わせた色合いさせてる"ファザコン"なんて常識を、俺の口からわざわざ言わせないでくださいよ」
義弘君が口を閉じると鹿賀島さんがすくっと立ち上がり、その頭をバゴンと叩きました。
「義弘、今いくら持ってますか? アナタの端末からポイントを使いますよ」
「くくくっ。聞いてくださいよお嬢」
そのやり取りは当人達にとっては慣れたものなのか、鹿賀島さんはすぐに話題を変えて、義弘君は気にした様子も見せず笑っています。
「2日前、競馬中継があったじゃないですか。そこで俺はいつもの奴らを集めてちょっとした予想当てごっこをしたんですよ。勿論、公式から払い戻しなんて受けてませんし、"胴元用"のポイントも自由に使っていい"アレ"から使ったんで足は付きません。勿論、ちゃんと利益も出ましたぜ」
「違法行為の上、主犯として補導されても文句の言えないノミ行為ですね。それに利益は出ました……か。なんだかもう私にはオチが見えてきましたよ」
「ま、そんな話は置いといて。俺が選んだ勝負レースは新潟の千直、そこで硬めの外枠を中心に買ったわけですわ」
「"アレ"を使ったことについてはまた後で詳しく聞くとして……成程、新潟の千直は確かに外枠有利。しかも出頭数も多く人気も割れやすい。数点に絞り資金を注ぎ込むには向いているレースと言えるでしょう」
「でしょう? しかもオマケに千直重賞実績有り、千直職人とも呼ばれるベテランと減量騎手が外枠に居て。馬も千直経験・実績共にあり。まさに文句なしですわ」
「話だけを聞くと、普段穴党を自称している人間でも買いそうな、配当もそこそこになりそうな魅力的で硬い馬券になりそうですね」
「そこで俺は大外枠3頭にプラスして外枠に近い枠番から2頭、実績のある馬を選んで3連単ボックス買いをしたわけですよ」
「義弘。あなたはまた3連単を買ったんですね。大量のポイントがあるなら複勝・単勝一択だとあれ程言ったのに。それに千直ならば枠連も狙ってみるべきでしょう。ゾロ目の可能性も考えて、つい点数が高くなってしまうので注意は必要ですがね。ボックス買いだとゾロ目を買ったことにはなりませんから注意が必要ですよ」
「俺は1000円掛けの3連単20万馬券を当ててから、3連単に取り憑かれてるんですわ。理屈じゃ分かっていても止められないんすよ」
「それで、結局どうなったんですか?」
「それが、世にも珍しい事が起きたんですよ。まず、大外枠の2頭が出遅れ。そして3連単の紐として考えていた2頭も出足がつかず後方。ならばせめて大外最後の1頭はどうかと思ったんですけど、普通に力負けして6着です。それで結果はなんとなんと最内枠の2頭と最低人気が絡んだ500万超え馬券が生まれたってわけです! 俺の選んだ馬は一頭も来やしませんでした!!」
「それで?」
「くくくっ。俺の持ってるポイントは全部吹き飛びました。むしろ俺が借りたいくらいですわ」
鹿賀島さんは再び義弘君の頭をバガンと叩き、ため息を吐きました。
「全く、身近にギャンブル中毒がいるのは酷く損した気分になります。あなたもそう思いませんか?」
アナタもまたギャンブルによって要らぬ苦労を受けた身ではありますが、そのギャンブルによって今この場に居て高校生をやれている事も理解しています。
アナタは、ギャンブルをしていたことも不利益を被ったことも、終わってみればいい経験であり笑い話にできると返しました。
「なんとも実感のこもった言葉ですね。私には縁のない事でしょうが、親からは愛だけでなく借金も貰う事があるんですね。少し勉強になりました。……さて、では500万の話に戻しましょうか。私としてはアナタに貸すことは問題ないのですが、私はこの学校でポイントを貸したり契約を結ぶ際、必ず"担保"となるものを要求しています。ポイントを定期的に支払う契約を結ぶ、あるいは私の仕事を手伝うとか色々で、要は質入れみたいなものですね。ポイントなどの返却可能なものであれば、返済が終わったのち、それらはお返しする事に決めています。質流にはしませんから、安心して預けてもらって大丈夫ですよ」
アナタは契約の担保に出来るのはDクラスと結んだ契約ぐらいしかありません。鹿賀島さんはそれを求めてくるでしょうか?
「例えば、アナタは100万ポイントを持っていると言いましたが、私は借りる半分の250万をあなたに要求します」
では、Dクラスと結んでいる契約を担保にすれば良いのかとアナタは聞きました。
「"出涸らし"に500万の価値は付けられません。一応あなたの先達として教えますが、契約でポイント支払いの契約を結び、相手側が支払えずポイント残高がマイナスになることはありますが、受け取る側にポイントは一切入ってきません。あくまでも支払う側にポイントがなければポイントを受け取る事ができないのです。現在の1年Dクラスの収入は0。将来性が見えてこないものに私は価値をつけません。余裕があったとしても、勝ちの目が見えないギャンブルに500万を注ぎ込めるほど私は酔狂じゃありませんから」
では、何をすれば貸してもらえるのでしょうか。
「簡単な話です。アナタには"夏休みに行われる試験"でポイントを稼いできて貰いたいんですよ。学校側が提供するポイントは有限です。その有限であるリソースを占有することに意味は……特にありませんが、クリーンなお金は必要な場面が出てきますから損はありません。それに現実と違って税金は発生しませんから、贈与税に困ることはありませんよ」
「いいんですかお嬢。そういった試験内容について話すのは御法度ですぜ。それに、あんまりポイントを持ちすぎるのも……」
「高校生でノミ屋紛いの事をやってるあなたにとやかく言われる筋合いはありません。義弘、一応言っておきますが卒業してからノミ屋をするのはやめてくださいね。例え扱っているのがポイントだとしても、ほぼグレーの箇所が砂粒ほどしか見えない黒ですよ」
「なぁに、俺たちはあくまで予想ごっこをしてるだけですぜ。人生ゲームの金を使って競馬の予想ごっこしてる奴に警察や学校は動きやせんよ」
「……はぁ。馬鹿は放っておいて話を戻しますが。灰原君には夏休みの試験で最低でも"2000万ポイント"を稼いできてもらいます。もし、2000万ポイントを集める事ができなければ、500万ポイントは借金という形で返済してもらいます」
アナタは2000万ポイントを全て鹿賀島さんに渡せばいいのでしょうか。アナタとしては今このタイミングで500万ポイントを借りる事に意味があるので、その4倍近くの金を稼いでこいと言われても受け入れるつもりです。
しかし、2000万ポイント+500万ポイントだった場合は少し話が違ってきます。そういう話なら2500万ポイント稼いでこいと明言されなくては困ってしまうので、アナタは確認の意を込めて鹿賀島さんに問いかけたのでした。
「いや、そこまで私はがめつくありませんよ。内容をもう少し具体的に説明しますと、失敗したら500万ポイントを返済してもらいます。ですが別に利息をつけたりはしません。毎月の支払い金額は要相談という事で。逆にもし成功したら……そうですね、灰原君は私に"手数料込みで1000万ポイント"を支払ってもらいましょうか。残りの1000万ポイントはお好きに使ってください」
「いや、大分がめついですぜお嬢。実質手数料500万とか聞いた事ありやせんよ。それに、なんだかこいつが必ず2000万ポイント稼いでくることを確信してるみたいにアッサリ言っちまうなんて、どうかしてるんじゃないですか? ……はっ! まさかお嬢がついにファザコンを卒業して恋に目を曇らせる日がくるとは……」
鹿賀島さんは今日一番の力を込めてボゴゴンと義弘君を殴りました。流石の威力に義弘君もフラフラしていますが、殴った鹿賀島さんは義弘君へトドメのローキックを放ってから席に座りました。
「さて、どうしますか灰原君。こう言ってはなんですが、見ず知らずの誰かに即金で500万ポイントを貸してくれる人間はこの学校の中でも、私ぐらいしかいないと思いますよ?」
アナタは足を蹴られバランスを崩し床に沈んでいる義弘君を眺め、鹿賀島さんの提案について少し考えました。
アナタとしてはポイントを稼げなくとも500万の借金を背負うだけなので、契約内容にとんでもない文言がないか確認さえ取れればサインをしてもいいと思っていますし、なんなら2000万ポイント全額を渡せと契約書に書かれていたとしてもサインするでしょう。
要するに、死ねだの退学しろなどの極端な条件でない限り、アナタはどんな不利益を被ろうと契約を結ぶつもりです。ですが、明かされていない情報も多いので、アナタは念のために鹿賀島さんに確認をとりました。
「罰則がないか、前提条件がないか……。そうですね、私としては将来的にあなたと"仕事"をしてみたいからというのもあるんですが、罰則などを設けないのは、あなたに興味関心があるからです。折角の試験ですから、あなたには精力的に動いていただきたいのですよ」
アナタは確かにDクラスにとんでもない契約を持ちかけ結ばせたという実績はありますが、それが理由なのでしょうか?
「いえ? "学校外"のあなたについて"父"から色々聞いたので、あなたには学校内でも素晴らしい活躍をしてもらいたんです。父曰く、とんでもない奴が入ってくるから楽しみだね、と。父が珍しく他人に対して興味を抱いていたので、それが一番の理由でしょうか」
アナタの人生は確かに他人から見れば自伝化しても漫画化しても違和感がないくらい波瀾万丈に満ちていますが、アナタをよく知る人間は所謂"アングラの住人"です。鹿賀島さんのお父さんはどこでアナタのことを知ったのでしょうか。
「父は漫画が好きで、あなたのことを語る時はまるで子供のように目を輝かせるんです。自分のお気に入りのおもちゃを自慢するように手を大きく広げてあなたのことを話す仕草がとても楽しそうで、とても可愛いんです。父からはあなたがどんな学校生活を送っているのかも知りたいと言われたので、アナタには色々とやってもらいたい事があるんですよね。この学校は幸いにして行事がたくさんありますし、あなたという変化をもたらす存在がいれば私が父と話す内容にもバリエーションが増えますし、新たな話題にもなってくれるでしょう。もしかしたら父の新たな表情や声を知ることが出来るかもしれません。そうだ父についてまだ教えていませんでしたね。まずは父の声の魅力についてからお話しましょうか。父にDクラスとの契約の件について話した時などの声色は今でも思い出せます。もちろん、父の声色にはそれこそ無限大の種類がありましてね。仕事をしている時、母と話す時、私と話す時、少し不機嫌な時、好物が食卓に並んだ時、漫画の話をする時、私とお風呂に入る時、一緒のベットに寝る時、嫌いな虫を見かけた時、テレビのニュースを見て批評する時、最近の趣味である枕探しの時に試しに寝転がった時に枕についていた抜け毛を見た時。父の声色は聞いていて飽きもしない歴史に残るクラシック曲のように味わい深いもので私も音声を録音していろんな状況の父の声を暇な時は聞くようにしているんです。あまり私は他人に父のコレクションを晒す事はないのですがよければ今度私の部屋でお聞きになりますか。それはとてもいいですね、父も興味のあるあなたに知ってもらえたと知った時は、好きなスポーツ選手に認知されサインをもらった子供のように大はしゃぎする事でしょう。そういえば数日前の夕食時に父が面白い話をしてくれましてね……」
「ありゃ、トリップしちゃってるよ。こういう所が永木と似てめんどくさいんだよなぁ。灰原だっけ? 今日の夜までにはポイントを振り込んどいてやるから、もう帰っていいぞ。それと、契約書もデータで送っとくから、サインしたらお嬢の携帯にそのデータを送っといてくれ。……一応言っとくが、持ち逃げなんて考えるなよ。んなことしやがったら、この学校で年は越させねぇからな」
アナタは欠伸をしながら義弘君の言葉に頷き、教室を後にすることにしました。
「1か月前の父がですね、ステーキの付け合わせとして出されたソテーされたピーマンを見てこう言ったんです。昨今蔓延る誇大妄想を掲げる政治家の政策みたいにスカスカで腹が立つから、この中身がスカスカのピーマンも残してゴミ箱に捨ててやるんだ、と子供のような言い訳をしましてね……」
「お嬢、そのピーマンのくだり聞くのもう3回目なんすけど。お嬢に噺家の才能でもありゃ、同じ話も楽しく聞けるんでしょうかね?」
「は? 父の遺伝子が引き継がれている私に才能がないと?」
「急に正気にもどらないでくださいよ。灰原の奴はもう帰っちまいやしたぜ」
「それは残念。彼の話も聞きたかったのですが、聞く機会を逃してしまったようです」
「そういや気になっていたんすけど、結局灰原ってどんなやつなんですかい。俺、情報が全くないんですけど」
「父曰く。灰原君は"博打の天才"だそうです。自殺した両親の借金、理不尽なほどまでに積み上げられた利子を合わせると締めて約"5億"。その莫大な借金を博打という手段を用いて中学生の時に完済し、現在はそれを上回る現金も保有しているようです。まるで漫画の世界の住人のようでしょう?」
「中学でギャンブルして一山築くなんてどこのアカギですかい。尾鰭がついた眉唾話ってオチなんでしょう?」
「私の父が私に対して嘘をつくとでも?」
「その親父さんへの信頼、どうにかしないといずれ痛い目みやすぜ」
「あなたに私の父を親父さん呼ばわりする許可は与えてません!! ……これ、一度言ってみたかったんですよね」
「やっぱ気色悪いですねお嬢」
「…‥早いな。1日でもう500万ポイントを貯めてきたのか」
鹿賀島さんの所を訪ねて1日が経ちました。夜に送られてきた契約書にサインしたアナタは500万ポイントを持って、職員室を訪れました。
真嶋先生はポイントをどのように手に入れたのかは聞いてこず、ポイントを受け取ると手続きをしてくれると言いました。
「では、こちらで処理をしておく。個室については当日にルームキーを渡す。ただ、風紀を乱すような使い方などをすれば罰を科せられると思っておけ」
アナタには元より誰かを招き入れる予定はないので、罰せられる心配はありません。
「……どうやってポイントを貯めたかは詮索はしないが、あまり無茶な真似はするなよ」
真嶋先生の忠告を聞き流し、アナタはどんな個室なのだろうかと想像して少しだけ楽しい気分になりました。
なろう系並みに盛られていく灰原君。
次こそ無人島に行きます。