よう実 ハードモード リメイク版 作:クンクンクン
アナタがこの学校に入学して3週間が経過しました。
カラオケルームでの出来事以降、アナタにとって特筆すべきことは特になく、穏やかな時間を満喫しています。
アナタの目的は将来の夢を探すことですが、この穏やかな時間こそアナタが求めていたものではないだろうかと錯覚するほど、アナタは呆けていました。
もちろん呆けているといっても、アナタは約束を守ることのできる人間です。坂柳さんから依頼されたことも既に解決しています。
橋本君たちクラスメイトは学校の秘密が明かされていくたびに驚いたり達成感を味わったりしているようですが、アナタはそこまで喜びを感じることはできず、周囲との温度差に違いを感じていました。
「なぁ。灰原はどうしてる?」
昼休憩。橋本君は周囲の視線を確認しながら、小さな声で主語がない会話を始めようとしています。
流石にアナタもどうしてると言われても答えは出せないので、何で困ってるのかと聞きました。
「そりゃ"ナニ"だよ。……って、教室で言わせんなよ!」
「……学校でナニはやめておけ。閉鎖環境での下ネタは地獄を顕現させるぞ」
橋本君は思ったよりも大きな声でナニと言ったせいで周囲の男子が少しビクつきました。鬼頭くんはすぐに橋本君の肩に手を置き自粛しろと言います。
「……やっぱネットって偉大だよな。とゆーか、高校生にもさ。必要じゃない? 俺たちの貧相な妄想力じゃ出るもんも出ねーよ」
「…‥もしかすると学校は少子化対策として俺たちに出会いの機会を与えているのかもしれない。男になれという、学校からのメッセージだ」
「……まじかよ。でも、学習教材なしじゃどうすればいいか分かんねぇよ。ちょっとエッチなレディコミとか探してみるか?」
「……お互い辿々しくも、結ばれる純愛。学校側の性癖が垣間見えるな」
「……そういや、この学校の病院ってどういう感じなんだっけ。やっぱ避妊とかそういう系は病院から貰うのか?」
「薬局にアノ筒はなかった。ゴムも……多分ないはずだ。……まさか、炭酸で流せば大丈夫という都市伝説は真実だったのか!?」
カラオケルーム以降、というよりネットを禁止され禁欲を強制されている男子生徒達は何故だか少しだけ仲が良くなったように思えます。
橋本君と鬼頭君も何故かいつもアナタの側でこういった話をよくしています。
これが最近のアナタの休憩時間の過ごし方です。
しかし今日はそれだけでは終わらないようです。
「ねぇ」
授業がいったん終わり昼休憩になりました。さて、いつものように昼休憩を橋本君たちの話を聞きながら過ごすのかと思っていると神室さんから声を掛けられました。
「坂柳が呼んでるから来てくれない」
神室さんに話しかけられましたが、アナタはその提案を断りいつものように橋本君達と過ごしたり、久しぶりに食堂へ行き1人での食事を楽しむのもいいでしょう。
さて、アナタはどうしようか。
浮かんできたのは3つの選択肢でした。
『神室さんに付いて行く』
『神室さんを無視して、教室から出ない』
『一人で食堂に行く』
日常に変化を加えるため、アナタは『神室さんに付いて行く』ことを選択しました。昼休憩ということもあり、待ち合わせ場所は食堂かカフェでしょう。コンビニなどではなく久しぶりに店での食事というのも悪くありません。
神室さんは少しだけ意外な顔をした後、ため息を吐いてアナタに付いてくるように言いました。
アナタは神室さんの少し後ろを歩いて付いて行きます。
「……あ。そういえばあんた、お腹は空いてる?」
歩いている最中、神室さんは思い出したかのように振り向いて昼食のことを聞いてきました。アナタはまだ食べていないと伝えると、神室さんは再び前を向きました。
どうやら行き先は食事ができる場所で確定のようです。
「お待ちしていましたよ灰原君。真澄さんもありがとうございます」
学校から少し離れたカフェレストランにアナタを呼び出した坂柳さんが待っていました。
とりあえずお腹が空いたのでアナタはメニューを開き何を食べるか決めようとしていると、ピンポンの音が聞こえました。
音はアナタの座っているテーブルから発生しており、押した犯人を手から辿ると坂柳さんであることが分かりました。
「すみませんね。ですが、時間も押していますので」
アナタは自分の端末で時間を確認すると、確かに少し急いで食べないと授業に間に合わないかもしれない時間だと分かりました。
テーブルを見ると食事の痕跡はありません。どうやら坂柳さんは食事もせずアナタを待っていたようですので、メニューを早く決めるよう促すのは当然と言えるでしょう。
「今は昼時で混み合ってますから、注文を選ぶ時間は1〜2分はあるかと」
「お待たせしました。注文を承ります」
「……くっ」
「……皆さんは何になさいますか?」
どうやら時間はあまりなかったようですが、メニューはそこまで多くなかったのでアナタは最初に目についた"BL♡tサンドセット"の注文しました。
坂柳さんはサンドイッチと紅茶、神室さんは少し慌ててアナタと同じものを注文しました。
「さて。時間もないので、早速お話を始めましょうか」
「じゃあ放課後にすれば……」
神室さんの呟き通り、何かしら伝えないといけない場面で時間的余裕がない昼休憩を選んだのかアナタも疑問に思いました。
「いえ、すぐに終わる話ですから」
坂柳さんはアナタ達の反応を見越しているかのように答えると、続けて言いました。
「灰原君。アナタは"壁に囲まれている建物"について、何か知っていますか?」
目の前に壁のような貧乳はいますが、アナタは壁で囲まれている建物について知りません。
ひょっとしたら、あの有名な進撃する巨人の漫画について話し合いたいのでしょうか。アナタの知識は3巻分ほどしかありませんが、その知識を活かす場面が現れたようです。
「壁? そんな建物、私見たことないんだけど」
「場所はこの島の端で後ろには海がありました。規模はかなりの大きさで、壁の高さは20mほど。形は匣のように正方形。おそらく天井も覆われていますね。入り口は一箇所で、警備員さんのような方が立っていました」
「それで、そこはどんな建物なの?」
「警備員の方に聞いてみましたが、部活棟のようなものだそうです。それで、気になって入ってみようと思いましたが止められてしまいました」
「なんで?」
「なんでも、この施設に入るには"許可"がいるみたいです。しかし、誰に許可を取ればいいのかさえ具体的には教えていただけませんでした。部活で会員証でも発行しているのかと気になったのですが、クラスの方に聞いても部活にはそんなものはないと言われました」
「それで、そこはなんの部活なの?」
「どうやら"テーブルゲーム研究会"という部活が代表を務めているそうです。いくつかの同好会が集まってできたそうですが、部活の内容までは分かりません」
「分からない? そんなでかい建物をもらってる部活なんだから、部員だってたくさんいるはずでしょう。そいつらから聞けば……」
「お待たせしました〜。BL♡tサンドセット二つと、サンドイッチと紅茶になります」
テーブルゲーム研究部についての話題は店員さんによって中断されて、神室さんはモヤモヤとした顔をしたままBL♡tサンドを食べ始めました。
「あ、これ意外と美味しい」
「まぁ、テーブルゲーム研究会についてはオマケのようなものです。私もこれ以上の情報をまだ掴めていないので、もし何か分かりましたら教えてくださいね」
アナタは坂柳さんの言葉を聞き流し、BL♡tサンドを食べ始めます。
BL♡tサンドは、ライ麦パンで挟まれており中にはベーコン、レタス、トマトのBLTに加え、甘みのあるみじん切りにされた玉ねぎの食感と口当たりよく程よい刺激の粒マスタードのソースの相性がクセになります。思っていた以上に肉厚なベーコンは噛みごたえがあり、アナタのお腹を想像以上に満たしてくれました。
「ところで灰原君。あなたに聞きたいことがあったんです」
食べ終えたアナタはセットについてくるコーヒを飲み一息入れていると坂柳さんが話しかけてきました。
「あなたは、この学校をどう思いますか?」
抽象的な質問です。アナタはコーヒーを少し飲んで、考えました。
さて、アナタはこの学校をどう思っているのか。進学校という割には普通の授業しかしない学校、敷地内から出ることができない学校、独自の通貨が存在している学校。
アナタ自身はこれらの情報を知り、内心でどう評価しているのでしょう。
さて、アナタはどうしようか。
浮かんできたのは三つの選択肢でした。
『普通の学校』
『つまらない学校』
『実験施設』
アナタは『つまらない学校』と答えました。勿論つまらいというのは悪い意味ではなく、平穏無事に過ごすことができてアナタが退屈を感じてしまうほど呆けられているから出てきた言葉です。
「全くもって同感です。ですが、それは今だけですよ」
しかし言葉が足りないアナタの答えに坂柳さんはくすくすと笑い、同意をしたかと思えば、すぐに退屈ではなくなると答えました。
アナタはこの退屈を満喫しているので、今の状態が崩されることに抵抗を覚えますが、それはそれとして娯楽を求める欲求も存在しています。
将来の夢を考えるには良い環境に加え、刺激が必要です。アナタは刺激のある生活の大事さを、この学校に来てから少し学びました。
「来月が楽しみですね」
アナタは坂柳さんの言葉に同意しました。
アナタはコーヒーを飲み終え、自分の代金を支払ってから店を出ました。
午後の授業に備えて腹を満たしたアナタはふわふわと柔らかくなった頭で授業を聞いて、放課後を迎えました。