よう実 ハードモード リメイク版 作:クンクンクン
アナタがこの学校にやってきて、一月が経ちました。
橋本君や鬼頭君の男汁溢れる会話を定期的に聴きながら昼休憩を過ごしたり、永木と食堂で食事をとりながら話したりと、なんとも充実した学校生活を送っています。
橋本君と鬼頭君は悶々とした日々を過ごしているようですが、最近ではポイントを支払い使えるトレーニング施設に通って筋トレや瞑想などで性欲を紛らわせているようです。特に橋本君はテニス部に入部して、放課後は忙しそうにしています。まだこの学校にレイプ被害の噂はないので、みんなそれぞれの発散方法を見つけられたのでしょうか。
アナタはというと特に何をするわけでもなく、学校に行く→ご飯を食べる→寮に帰る→寝るのサイクルを繰り返しており、全く進歩のない生活を送っていました。
もっとも、坂柳さん曰く今後は今のような穏やかな学園生活は難しくなるようですが。
アナタが登校すると教室はいつもよりもざわめいていて、クラスメイトのほとんどが端末を見ながら話し合いをしています。
「お、灰原。もう端末は見たか? ポイント確認してみろよ」
何か面白い学校行事の知らせでも来たのかと思い、アナタは自分の席に座ってから端末を確認しようとすると、出会った頃に比べて少しだけ顔つきが引き締まったように見える橋本君が声をかけてくれました。
アナタは今から確認することを伝え端末を開いてみると、ポイントが増えていることが確認できました。ただし、10万ポイントではなく9万2000ポイントが振り込まれています。
「なんとなく納得はできてたけど、こうやって予測が当たってるのを確認すると実感が湧いてくるな」
橋本君は坂柳さんの予測が当たったことに改めて驚いているようです。
他のクラスメイトも反応はそれぞれ違っていて、坂柳さんの近くにいる生徒は比較的落ち着いています。
葛城君の近くにいる生徒もこの結果を少なからず予測していたのか、盛り上がりながら会話をしています。
そして、どちらの派閥にも属していない生徒は困惑していて、事情を知っていそうな生徒に話を聞きに行ったりなどしています。
「おはよう。……その様子だと、既に気づいていた者もいたか。ではホームルームを始める前に、君達にこの学校のルールの補足をさせてもらう」
始業のチャイムがなり、真嶋先生は挨拶を手早く済ませてからポスターのようにくるくる巻かれていた紙を広げてホワイトボードに貼りました。
今の時代にわざわざ拡大コピーしたものを貼り出すとは、そういった伝統でもあるのでしょうか。もっとも、その点を気にしているのはアナタだけのようで、周りの生徒は紙に書かれている情報を静かに見ていました。
「まず、この紙に書かれている情報の詳細を話そう。既に気づいている者もいるようだが、君たちには毎月10万ポイントが必ず振り込まれるわけではない。ポイントの支給額はクラスによって違い、今回君たちには9万2000プラベートポイントが支給された」
真嶋先生は一旦言葉を区切って、赤のマジックペンでAクラス920と書かれている箇所を強調するように下線を引きました。
「君たちには二つのポイントについて説明しておく。一つ目は普段買い物などに使っているプライベートポイント、そしてもう一つはクラスポイントというもので、この紙に書かれている920が君たちのクラスポイントとなる。クラスポイント×100が毎月貰えるプライベートポイントとなるため今後は意識してほしい。またこのクラスポイントはクラス全体の成績を反映したもので、君たちの学校生活によって変動する。詳しい内訳は言えないが、例として遅刻・授業中に寝る・無断欠席などをすれば減点されていくので注意しておくように」
紙にはAクラスだけでなく、他のクラスのクラスポイントも載っていました。全体を見るとAクラスのポイントは圧倒的で、2位のBクラスに300近い差をつけています。
そして、その中でも特に一番目を引くのはDクラスです。なんとそのクラスポイントは0であり、彼らはポイントを一切もらえていないようです。
「最初の一月で900ポイントまで残せたクラスは片手の指で数えられるほど少ない。君達は現段階で他のどのクラスよりも優秀だ」
真嶋先生の言葉はアナタ達を褒めるものでしたが、その顔に笑みや余裕はなく、重い雰囲気のままです。
アナタは、現段階という言葉に引っ掛かりを覚えました。
「ポイントについての説明は以上だ。次に、以前行ったテストについて話そう。こちらを見てくれ」
アナタはもう一つの拡大コピーされた紙を見ると、そこには生徒のテストの成績がずらりと並んでいました。
個人情報やイジメに繋がるなどの理由からテストの点数を公開する学校は年々減っているのですが、どうやらこの学校では公開するようです。この学校はイジメに厳しいのに、イジメを誘発する行為は如何なものでしょうか。
「ここには君達のテストの点数が載っている。皆、平均以上の点数を取れているようで何よりだが……約1名注意しなければならない生徒がいる」
真嶋先生は赤のマジックペンを紙の下の方に持っていき、とある生徒の上に線を引きました。
「今回のテストの平均点は82点。しかし、今度行われる中間テストでは平均点÷2にした数字…‥今回で言うと41点を1科目でも取った生徒は即退学となる。今回は0点を取った彼だけが退学になるというわけだ。前にも言った通りこのテストは成績に反映されことはないが、中間テストは心して挑むように」
先生の言葉を聞いた生徒はもちろん退学という言葉に驚いたことでしようが、すぐに0点を取った生徒を信じられないような目で見ています。
そのとある0点を取った生徒をチラリと見ると、彼は全くに気にしていないのか、頬杖をついて少し顔をにやつかせています。
「マジかよ。意外と馬鹿だったんだな」
「この学校って、もしかしてめちゃくちゃレベル低い?」
「なんか憐れみが目から出てきた」
「刈り上げヤリモク野郎……」
しかし、大きくもなく小さくもない小言を聞いてしまった彼は一瞬ニヤリと笑って、静かに机に突っ伏しました。現段階におけるクラスメイト達の評価の大幅減少による負荷に耐えられなかったのでしょう。
アナタは0点を取ってしまった刈り上げヤリモク野郎にもう少し優しくしようと思いました。
「最後に、君たちのほとんどは希望する進路に100%進めると言う宣伝を聞き、この学校に入学してきてくれたと思う。だが、この特典は"卒業時点"でAクラスになっている生徒以外には与えられない。このままAクラスで卒業できれば何の問題もないが、Aクラス以外の生徒に学校は進路の保障はしない。……以上でホームルームを終了する。何か質問があれば、昼休憩と放課後に職員室で受け付ける」
A組のクラスメイトは声こそ上げなかったものの、ほとんどの人間が驚いておりザワザワとしています。
アナタは、なぜクラスメイトたちはあんなにも嘘くさいことを信じていられたのかと思うと同時に、Aクラスならば進路が保障されるのかと少しだけ驚きました。
部活動が終わった18時ごろ。久しぶりに坂柳さん派閥全員集合の号令が出され、いつの間にか仲間入りを果たしていることになっていたアナタは特に何も考えず指定されたカラオケルームに向かいました。
「まずは謝罪を。申し訳ありませんでした橋本君。成績に反映されないと言われたので、つい」
「いや、いいですよ。坂柳さんの考えは実証しても損はないし、今回の損害は俺のイメージ…だけだったすから」
「そうですか? では、時間は有限ですので早速始めましょうか」
落ち込んでいる刈り上げヤリ目野郎……改め橋本君に申し訳なさそうにしている坂柳さんですが、謝った後はすぐにいつもの調子に戻りました。
ところで何を始めるのでしょうか。どうやらそう思っているのはアナタだけでなく、前に集まったよりも増えたクラスメイト達も同じようです。
「あのー、それで今から何の話をするんですか?」
「もちろん、今後のことについてです。現段階でできることを3つほどこなしていこうと思います。真澄さんはもちろん何をするべきかお分かりですよね?」
「……はぁ。葛城をどうにかするのと、Aクラスを維持する方法と………ルールの確認?」
「大雑把であやふやですが、だいたいその通りです。今からその方法を具体的に詰めていきたいのですが……皆さんは何かありますか?」
坂柳さんの言葉に神室さんは不機嫌そうに答えます。その答えを聞いた坂柳さんはいつもと変わらない笑みを浮かべてクラスメイトに話を振りました。
話を振られたクラスメイトたちは静かにしたままで特に反応しません。
坂柳さんはそのクラスメイト達の様子を見て満足そうに笑みを深めていました。
「では一つ目、葛城君派閥についてですが。こちらからはあまり大きく動きません。というより、動けるきっかけがないというのが正直な所です。もっとも、それはあちらも同じですから少しづつ時間をかけて削っていきましょう」
「あの、質問いいですか?」
「はい。いいですよ」
「結局、その派閥争いみたいなことは回避できないんでしょうか? 流石にAクラスに残るためだったら協力するとは思うんですが」
「共通の敵などがあればそうなるでしょう。ですが、頭が二つあるメリットはありません。刈り取らなければAクラスの座は危ぶまれるでしょうね」
「……じゃあ結局、葛城君の派閥を攻撃して潰すってことですよね」
「結果を見ればそうなると思います。ですが、潰すと言ってもただ潰すのはいけません。余計な因縁や怨恨などが残れば、後々不利になります。ですので、私たちが目指すのは葛城君の自滅です」
自滅という言葉やそれを実行するとあっさり言い切った坂柳さんに、初めて集まったであろうクラスメイト達の何人かは恐怖の感情を表情に出しています。
何をやらされるのか、どんなことをするのかをイメージしたのでしょうか。俯き思案するクラスメイトが増えていきます。
「とは言ってもルールの範囲内で、ですよ。要は葛城君の信用を落として彼の派閥にいる人達をこちら側に鞍替えさせるだけです。……それに、近いうちに信頼を損なわせるチャンスが来ると思っています」
クラスメイトたちの視線やら態度やらを見てか、坂柳さんはより一層優しげな顔と声で話を続けました。
「Aクラスに残るための邪魔をしようとしているのはお互い様です。ご安心ください、最終的に坂柳をクラスの代表に立てて良かったとみなさんに言わせてみせますから」
あっさりと自滅させると言った坂柳さんに対しての恐怖は残っているようですが、坂柳さんがこれまでもたらした情報はちゃんとした成果を示してきました。
彼女の説得力のある言葉で、俯くのをやめて話を真剣に聞くクラスメイトたちが増えていきます。
「こっわ」
神室さんは小さく一言もらし、気持ち悪いものを見るかのような目で坂柳さんを見ていました。
「ひとまず葛城君に対する方針はお伝えしました。では、次の議題に行きましょう。Aクラスを維持する方法ですが、幾つか目処が立っています。橋本君、真田君、真澄さん、お願いできますか?」
アナタはそろそろ帰りたいなと思いウズウズとしていると、正面で少しだけ姿勢を崩して静かに寝ている生徒がいることに気づきました。
「じゃあ俺から。俺はテニス部に入ったんだが……正直旨みがあまりない感じだな。レギュラーに選ばれたり、大会で成績を残したりすれば多少のポイントは入るが、大会で優勝したり選抜にでも選ばれるレベルじゃないと大量のポイントは望めないらしい。まぁ、多少はクラスポイントに影響されるから部活に所属するメリットはある思う。ただ、暴力や虐めは所属している生徒全員に連帯責任としてマイナスされる可能性もあるらしい。だから部活選びは慎重にした方がいいかもな」
「では次は僕が。僕は吹奏楽部に所属しているんですが、部活とポイントの関係について幾つか分かったことがありました。まず、橋本くんが言ったように部活動で貢献するとポイントに影響すること。もう一つは、大会などに参加する場合は特例で外出することが認められているようです。そして一番重要なのは、団体競技などの場合はメンバーに選ばれ、かつ結果を残した生徒がいるクラスにのみポイントが反映されることです。団体競技の部活に所属しているだけではポイントは貰えないようですね」
「……私は美術部だけど、大会とかには特に制限がないから参加はできるみたい。でも、展示の準備とかには参加できなくて、賞を取っても大賞とかそのレベルじゃないと外出許可は出ないみたい。だから、予算とかでも運動系と文化系で扱いが違うって先輩たちはボヤいてた。……まぁ、1人だけ飛び抜けてやばい先輩はいるけど」
「ご存知の方もいると思いますが、部活動ひいては学校での生活はクラスの評価に直接関係しています」
眠っている、というよりは自分が起きていてもいなくても会話が進むから目を瞑っているのでしょうか。姿勢は崩していますが、揺すったり、声をかけたりすれば目を覚ましそうです。
眠っている生徒がいる事をダシに少し退屈な集まりを抜けることはできそうですが……もしや、眠っているのは話す人や起こしてくれることがキッカケで友達を作ろうという涙ぐましい努力なのではないでしょうか。
「ひとまず、部活動に関しての大まかな情報は集まりました。所属することにメリットはありますが、結果を出さなければ徒労に終わってしまう可能性もあります。私としては、部活動は皆さんの自主性にお任せしようと思います。ただ、部活動がAクラスを維持するためになるかと言えば……少し物足りません。なので、次に行われるテストについて話し合っておきましょう」
目の前の生徒について考えを巡らせていると、話はテストの話題へと移っていました。
アナタはこのままテストの話を大人しく聞いていてもいいし、目の前の寝ている生徒と同様に寝るのもいいでしょう。
さて、アナタはどうしようか。
浮かんできたのは3つの選択肢でした。
『目の前の生徒に声をかける』
『坂柳さんの話を静かに聞く』
『とりあえず寝る』