よう実 ハードモード リメイク版   作:クンクンクン

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〜屋上

 

 

 アナタは『目の前のクラスメイトに声をかける』選択をしました。

 アナタは目の前のクラスメイトがなぜ眠っているのか、そのことについてはもう気にしてはいません。ただ、隣に座っている鬼頭君が眠っているクラスメイトを指差し、口パクで「やばい、坂柳、みてる」と伝えてきたためアナタが対処する流れになりました。

 なぜアナタが起こさなければならないのかと疑問に思いますが、このカラオケルームのソファはU字型になっていて、一番端の扉側に座っていて穏便に起こすことができるのがアナタと眠っているクラスメイトの隣に座っている人物だけなのです。

 ただ、その隣に座っている人物は眠っているのを起こしてもいいものかとソワソワして周りに視線を向けています。その視線に気づいているのが、残念ながら坂柳さんを始めとした一部のようですが動く気配はありません。

 さて、アナタは眠っている人物をどう起こすのでしょうか。

 

「テストについてですが、今日の真嶋先生のお話から退学のボーダーラインが明言されました。ただ一回のテストだけで退学者が出る可能性に、皆さんも危機感を持ったと思います。……しかし問題なのは、今後も退学者が出る可能性がある何かがあることです」

 

 さて、どうしたものでしょう。お堅い話し合いの場で大きな声を出すのは空気が読めていません。近づいて起こすと言っても今は坂柳さん以外大きな音を出していない状況です。まだ動くタイミングではないでしょう。

 

「退学者が出ることによるデメリットは判明していませんが、クラスポイントに影響を及ぼす可能性は高いです。……現段階の情報ではテストの悪い側面しか見えませんが、今後退学者が出るかもしれない試験が悪い側面しかないというのはあり得ません」

「それってもしかして……」

「学校側がテストという分かりやすい結果が出るものをポイントの加点に利用しない手はありません。なので、良くも悪くもテストの結果によってクラスポイントが変動すると見ています。裏付けが取れるかと思って、今日の昼休憩に先輩方へ色々と質問してきましたが……結果としては、学校側の情報統制がしっかりとされていることが分かったくらいです。喋った内容によりますが、ペナルティとしてプライベートポイントの没収、クラスポイントの減少、最悪退学まであるのかもしれません。情報の取り扱いには皆さんも気をつけたほうがいいですね。翻弄される下級生を見る楽しみは来年にとっておきましょう」

 

 坂柳さんはとても楽しそうに話していますが、周りの反応は殆どありません。まだ動くタイミングではないでしょう。

 

「今できることは目下の課題に堅実に取り組むことです。それがAクラスの維持にも繋がってきます。なので、皆さんがよろしければ勉強会を開催しようと考えています。一人でやる方が効率が良いという方は無理に参加しなくても大丈夫ですし、分からないことがあればグループチャットなどで気軽に相談なさってください。勉強会の場所は追ってお知らせします。ただ、今日のような集まりをテスト期間中に一度だけ取ろうと思います。そうですね……テストの1週間前にまた、このカラオケ店で集まりましょう」

 

 会話に一区切りついた判断したのか、情報整理のために私語を始めるクラスメイトが増えました。そろそろチャンスが来そうです。

 

「では次に、ルールについて話し合っておきましょう。真澄さん、報告お願いできますか?」

「はいはい」

 

 しかし一区切りついたタイミングで次の議題へと変わり、再び静かな場となってしまいました。惜しい。

 ふと、ここでアナタはなぜ周りの空気を乱さずに声をかけようとしているのか疑問に思いました。アナタは別に目立ってはいけない理由もありませんし、周りに空気を読めない奴の印象を与えても、気にも留めないでしょう。

 では、眠っているクラスメイトを気遣っているのか。と言われればそれも否です。そもそも起こす必要がないと思っています。

 

「……え?」

 

 アナタの悩む時間は非常に短いです。取り敢えずクラスメイトを起こすために席を立って、一声掛けてから頬を叩きました。

 強く叩いたつもりはありませんが、小さな音が場に響きます。

 アナタは幼少の頃、居眠りをしている時や出会い頭に頬を叩かれたり殴られた経験があります。それで乳歯のいくつかが欠けたりしたのは今となっては懐かしい思い出で、よく顔が歪まずに成長できたなと自分のことながら感心しています。

 知り合いの極道曰く、水を掛けるよりも環境に優しいため顔面への適切な衝撃は躾にいいらしいです。ただし、恐怖を与えることが目的なら情報を与えず理不尽に殴れとも言っていました。

 そんな環境にいたせいか、アナタにとって眠っている人物を起こす手段は①声を掛ける②頬を叩くという隙を生じぬ二段構えになっているのです。今回は恐怖を与える目的もないので声を掛けてから叩きましたが、例えどんな人物であっても現在のアナタはこのやり方で相手を起こすでしょう。

 ですが、今回……というよりアナタの常識となっている部分はここいるクラスメイト達にとっては非常識だったようです。

 鬼頭君や坂柳さんを始めとしたクラスメイト達は何が起こったのか分からないと呆けた顔をしています。頬を叩かれたクラスメイトは状況が掴めず、少し赤くなった頬に手を当てて当惑した表情でアナタを見ています。

 

 アナタは自分が空気を壊した原因であると自覚しました。

 なので、頬を叩いたクラスメイトに一言謝罪し、場を仕切っていた坂柳さんに用があるので帰ると伝え、特に引き止められることもなくカラオケルームから出ることができました。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、カラオケルームから出たアナタですが予定なんてモノはありません。

 カラオケ屋から出て、ふと学校の方を見ると屋上の方に小さな人影が見えたような気がしました。アナタの視力はそこそこ良く見間違えることはないと言えるでしょう。

 夜の学校をアテもなく散策するというのも悪くないかと思い、アナタは学校に向かって歩き出しました。

 

 特に寄り道もせず、アナタは真っ直ぐに学校の屋上へと行きました。確か屋上は昼休憩しか使えないはずですが、ドアノブを捻ると鍵がかかっていないことが分かります。

 アナタは扉を開けて、屋上の端にある小屋のようなモノの近くに人影を見つけました。

 

「やぁ、こんなところで奇遇だね。君も小さな街並みを見に来たのかい?」

 

 屋上にいたのは永木でした。その側には絵の具やキャンパスにイーゼルと絵を描くのに必要なモノが揃っていました。

 

「この時間は僕が先生から許可を貰って解放しているんだ。それに、小さな塔屋まで貸してもらえてね。画材なんかを置かせてもらったり贅沢な使い方をさせてもらってるよ。小さな街は僕の描くテーマと多少接点があるからね。それに風を感じながら、誰にも邪魔されず、程よく明るて静かな空間を……となると満たす条件を揃えるのは大変だ。放課後の屋上はその数少ない条件を満たす場所だから僕のお気に入りの場所の一つなんだよね」

 

 聞くまでもなく永木は説明してくれましたが、彼が絵を描いているというのは初耳です。もしかして永木は凄いアーティストで、そのおかげもあって沢山のポイントを確保しているのでしょうか。

 アナタは聞いてみることにしました。

 

「なんだそんなことか。確かに、賞を受賞したり僕の作品を買ってくれる人もいるみたいだけどそこまで有名じゃないさ。テレビや雑誌の取材も応えたことがないし……もっとも、そんな話が来ても僕は受けないだろうけどね。それに、それだけの成果じゃもらえるポイントも高が知れている。君にも話してあげたいんだけど……あまり褒められたやり方じゃないからね。もしかして、ポイントで何か困っているのかい? 多少なら僕も力になれると思うけど」

 

 アナタは永木から貰ったポイントには全く手をつけていないので困ってはいませんが、部活の成果で得たポイントだけでは大量のポイントを獲得することは不可能なようです。橋本君も言っていましたが、あくまでクラスポイントや小遣いを稼ぐ程度に思っておいた方がいいのでしょう。

 と、ここでアナタの頭の中に新たな疑問が出てきます。手段はともかく、なぜポイントをたくさん集める必要があるのかという話です。

 アナタは永木に何故ポイントをたくさん集める必要があるのかその理由を聞いてみました。

 

「そうだな。君は退学する可能性がある、そんな話を先生から聞いたかな?」

 

 アナタは頷きました。

 

「簡単に言えば、退学をしないための保険だね。実はこの学校は退学が決定してしまっても、救済措置があるんだ」

 

 それを回避するために大量のポイントが必要ということでしょうか。

 

「その通り。でも、何年か前にこの学校で大規模なポイントのインフレが起きてね。救済措置関連の必要ポイントがとんでもなく跳ね上がったんだ。最初は2000万ポイント程度だったようだけど、それが今では"1億ポイント"となっている」

 

 1億とはまるで人生ゲームで使うような単位が出てきました。

 アナタの金銭感覚はだいぶ麻痺していますが、それでも少しお高いのではと思う値段です。

 

「それにクラスの移動もそうだ。知ってるかな、実はポイントを払えばクラスを自由に行き来できるんだ。昔はどのクラスでも2000万ポイントだったらしいけど、今ではAクラスへは1億。その他のクラスへは2000万ポイント必要なんだ」

 

 永木の話を聞いていると、アナタはどうやってインフレしたのかについて気になってきました。

 物価はこの学校内や世間でそんなに差はないはずです。となると救済措置関連のみの限定的なインフレなのでしょう。

 では何故そうなったのか。一番有り得そうな原因は、ポイントを独占している人間がいるからとかでしょうか? アナタは永木に聞きました。

 

「流石、いい着眼点だね。理由は大量のプライベートポイントを個人で所有している現状にある。それも"複数人"がね。仮に学年全員がポイントを使ってAクラスになってしまったらこの学校の目標の根底があっという間に覆されてしまう。だから、救済措置関連だけ大規模なインフレが起きたんだ」

 

 しかし、そんな現状を学校側が放置しておくのでしょうか。学校の目標は国の未来を担う人材の育成のはずです。ポイントだけで全て解決しようとする脳筋が未来を担えるとは思えません。

 それに大量のポイントを学校側がなんらかの理由をつけて没収したり何かの特典と交換したりなど対処の仕様は幾らかあると考えます。

 それが出来ていないのは何か別の問題があるからなのでしょうが、アナタはそこで思考を止めました。

 

「まぁ、"国"の学校だからね。ポイントというのは"偉い人"にとっていい隠れ蓑になるのさ。……さて、君との会話は素敵だけど何処に目や耳があるか分からないからこの話はお終いだ」

 

 永木も気が付いたのか、ポイントについてなんらかの事を明かそうとしたところで話を区切りました。屋上の扉からゆっくりとドアノブを捻る音が聞こえたからです。

 アナタ達はなんとなく永木が倉庫として使っている塔屋の中に身を隠し、誰が来たのかドア越しからこっそりと見ることにしました。

 

「……」

 

 ゆっくりとドアを開けて、ドアの向こうに誰かいないかを顔を覗かせて確認してから女子生徒が1人入ってきました。

 女子生徒は塔屋の方には目を向けず、ドアを閉めてから柵の方に手をついて屋上の景色を見ています。

 しかしじっとしていたのも束の間、女子生徒はそれは大きなため息を吐いてからアナタにも聞こえる声量で「うっざ」と言いました。

 

「おや、彼女は最近よく来る子かな?」

 

 どうやら永木にはこの屋上を訪ねた口の悪い女子生徒に心当たりがあるようです。

 

「とは言っても、彼女を屋上で見るのはこれで3度目かな。どうやら大分ストレスを溜めているようでね。人気のない屋上で、思いの丈を発散しているんだよ」

 

 アナタは永木の話を聞きながら、彼女の吐き出す言葉に耳を傾けます。

 ウザいだの死ねだのありふれた罵倒ではありますが、特定個人のモノから複数の人間に向けてのものまで、かなりストレスを溜めていることが伺えます。特に堀北なる人物への恨みつらみが大きいようです。

 

「内側に潜む名もつけられるものを吐き出すのはとても気持ちよさそうで、羨ましいと素直に思うよ。僕の場合は絵で吐き出しているわけだけれど、絵なんかよりも生の人間から発せられる言葉の方がよっぽど心に響いてくる。ふふ、彼女の声を聞いていると僕の中に対抗意識が生まれてね。実は、以前来た時の彼女の言葉を録音したんだ。最近はそれを聞きながら作業していてね。屋外だから音質は褒められたものじゃないけど、彼女の声は本心だ。ライバルから叱咤激励されているような気持ちになってね、絵のビジョンに熱が加わるんだ。でも、それは彼女の叫びであって僕のものじゃない。まるで写真を見ながら模写しているようなもの。けれど、始まりはいつだって模写から始まる。きっと、いつか僕のモノとして昇華してみせるよ。完成したら是非とも君に見てもらいたいな」

 

 芸術の分野にはあぁ言う叫びも当てはまるのでしょうか。

 生憎と芸術分野に詳しくないアナタは適切に返答することができませんが、永木の描く作品に興味が湧いたため、見せてくれるという提案にありがとう、という言葉で応えました。

 

 さて、アナタはここでストレスを発散している彼女の前に姿を現すこともできますし、永木と共にここで彼女の言葉を盗み聞きしていることもできます。

 

 さて、アナタはどうしようか。

 浮かんできたのは3つの選択肢でした。

 

『彼女に倣い、何か言葉を叫んでみる』

『このままひっそりと彼女を観察する』

『彼女の姿を撮影し、脅しに使う』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





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