最強じゃない五条のヒーローアカデミア   作:せり

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10.戦闘訓練②

 青い光に照らされたその通路は狭く、一本道ゆえによく音が響く。そこでは打撃音が空間を埋め尽くしていた。

 

「うおおおおおっ!!!!」

「っく………!」

 

 砂藤の"個性"『シュガードープ』は、糖分によって自らのパワーが5倍になるもの。そこから繰り出される苛烈な攻撃は、強烈なモノだった。

 いくら五条といえど、現状「蒼」の維持と近接戦闘の並列処理は苦しいようで、砂藤の攻撃を躱すどころか受け流すので精一杯である。そしてそれにもいつか綻びが生まれ、ついに五条に攻撃が当たるところであった。

 ──しかし。

 

「っ!!クソ、また……!!」

「僕を忘れてもらっちゃ困るね☆」

 

 その直前で青色の光線が砂藤の動きを遮る。その正体は勿論青山のネビルレーザーであり、彼は五条より一歩後ろで援護を徹底していた。

 彼は五条や砂藤より明確に体術が劣っている。それ故の後方支援であり、五条と異なり負担のない彼は、口田からの攻撃に対して自衛も行えていた。

 

 膠着状態。

 それが現在の状況を表す言葉として相応しいだろう。だがそれは、表面上の話である。

 

(原理はわからないけど、暗闇は突破された……!でもその分五条くんに負担がかかってるようで、砂藤くんが拮抗できてる……。このままなら!)

 

 (ヴィラン)チームの勝利条件の一つ。それは制限時間である。

 このまま拮抗状態が続き、ヒーローチームが核を手に入れないまま制限時間が過ぎるのであれば、(ヴィラン)チームはそれで構わなかった。

 

 故に、彼らがここで攻勢に出るのは必然と言えるだろう。

 

「ああクソ、キリがねぇな!!!」

 

 五条が苛ついたように大声を出すのと同時に、右腕を相手に向けて振り上げる。同時に未だに彼らの足下を這い回っていたネズミたちが巻き上げられ、一方向に吹き飛ばされていった。

 その飛び先には、砂藤と口田の二人。彼らは突然目の前に吹き飛んできたネズミたちによって、一時的に行動が阻害された。

 

「っ!!……青山、行け!!!」

 

 「蒼」の同時使用による割れるような頭痛に襲われながらも、五条はそう叫んだ。このまま二人とも延々と足止めを食らってタイムオーバーになるよりは、多少の無理をしてでも青山一人先に行かせる方がマシだった。

 

 青山の方は、より負担を背負わせてしまうことに一瞬躊躇ったものの、五条を信じるようにこちらに大きく頷く。そうして一目散に、そのまま階段へと向かっていった。

 

「っ、待……ぐっ!!?」

 

 ネズミの妨害から立ち直った二人は即座に青山を追おうとする。しかし、その体は思うように前に進まない。まるでその場に体が固定されたかのようだった。

 

 もしやと後ろを振り向く彼らの目線の先には、右腕をこちらに構え、尋常でない苦痛に耐えながら、狂ったような笑顔で立つ男の姿が映っていた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

『ヒーローチーム……WIIIIIN!!!』

 

 そう響くオールマイトの声を背に安堵の息が漏れた。

 彼、青山の目の前には核を模したオブジェクトがあり、その表面には彼自身の手が触れていた。

 

「ごめえええん青山!!!真っ先につかまっちゃったあああ!!」

 

 手の平の両方を目の前で合わせ、そう叫ぶのは芦戸だった。

 彼女は意気揚々と訓練に参加した手前、数の有利という最大のメリットをロクに生かせず捕まったことがとても申し訳ないようで、このような状態になっていた。

 

「いいのさ、別に。結果では勝利を飾ったのだからねっ。……それに」

 

 あの時、建物の電気が落ちた時。パニックに陥る自身を突き飛ばす腕があった。あの時は誰だかも分からず、その後の対応に注意が行って気がつけなかったが、あれはきっと芦戸だったのだろうと、青山は思う。

 彼女も同様、暗闇で周囲も何も分からなかったろうに、こちらに忍び寄る気配を僅かに察知して、とっさに庇ってくれたのだろう。彼女の行動が無ければ自分こそが真っ先に捕まっていた。

 

「ほんとに助かったよ☆メルシー」

「うん?どうも……?」

 

 青山の言葉使いは独特であり、故に本心も読みづらい。だが、彼なりに感謝の気持ちを持っていることは確かであった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「さて、講評の時間だ!!!」

「あれ?オールマイト先生、五条は?」

「ああ、五条少年なら、訓練終了直後に倒れてしまったようで、現在リカバリーガールの元で療養中だ。別に大きな怪我とかではないようだから安心してくれ!」

 

 こうして一人少ないながらも、訓練の講評が始まった。

 

 今回のMVPは、口田だった。人数差という不利を、"個性"を有用に使い、機転を利かせた作戦一つで覆して見せたことが大きく評価された。僅かに挙げられた欠点は、後半の戦闘において役割が不明確になってしまったことだった。

 砂藤は、特段大きな欠点は無かったが、かといって大きく戦況を流れを変えたわけでもなかった。自身と相性不利の相手に対し、どのように立ち回っていくかが課題となった。

 

 芦戸らヒーローチームは、序盤の気の緩みが大きな問題だった。本来有利であったのがここまで泥沼化した原因の多くは、こちらのチームの慢心にあった。

 芦戸本人は開始早々捕まってしまったため、それ以外にあまり講評の可否は無かったが、味方を庇った行為自体は、そのときの状況によるとされた。

 青山も同様気の緩みがあったものの、暗闇でのとっさのレーザーによる光源確保、それから後半の五条との連携による核回収は評価点となった。

 そうして肝心の五条だったが、迂闊に敵に接近する等、3人のうちでも特に気の緩みが目立ったことが大きく減点。だが、青山と同様、連携によって核を回収したこと、その際の味方へのとっさの指示出し等は加点分となっていた。

 

「……以上が本訓練の講評です、と。ふーん」

 

 日が大きく傾いた夕方時、五条は保健室から教室へ移動する最中、講評の記された紙を読んでいた。

 術式を限界まで稼働させて敵チーム二人の足止めをしていた彼は、訓練終了直後、気が緩んだ途端に気絶してしまったのだ。そうして目覚めればまさかの夕方。おまけに呪術由来の頭痛は緩和はしつつも未だに微少の鈍痛を頭に与えている。正直気分は良くなかった。

 

 だが、今回の訓練では得るものも多くあった。

 

 まず、無下限術式の複数同時運用による負担の大きさ。

 これは予想通り、多大なものだった。今回はたまたま良かったが、次使用する際はそれ以降の戦闘は行えなくなると考えても良いだろう。

 

 そして、相手に対する戦闘時の自身の意識についてだ。これは今までの無意識の癖が悪いように働いたと言ってもいい。

 五条はこれまで通常、戦闘を行う際に、六眼をもって相手の術式の概要を大まかに把握していた。当然この世界では呪力が存在しないのでそれは通用しないわけだが、それを無意識で忘れていたのだ。結果として、今までの通常の戦闘方法は現在かつて無いほど不意打ちに弱くなっている。

 戦術を改めて考え直すと共に、今後は六眼以外での相手の情報収集を意識的に行っていかなければならない。

 

 脳内で反省会を終え、教室に向かう五条だったが、時刻はもうとっくに放課後になって久しい。とうに皆帰ったのでは無いだろうか。

 五条にそう思わせていた辺りの静寂だったが、それを切り裂くように正面方向、つまり教室の方から音が響いてきた。すぐ誰かの足音だと気づくと同時に、その持ち主の姿もすぐに映る。

 

「緑谷?」

「ごめん!また後で!!」

 

 足音の正体、緑谷はそう声を上げながら五条の横を通り過ぎてどこへやら走って行く。どうやら相当急いでいるようだった。少し呆気にとられた五条だったが、「忘れもんか?」と適当なことだけ呟いて、教室への歩みを再開した。

 

 そうして教室の前へとたどり着くと、既に幾人かの話す声が聞こえてきた。このクラスはやはり仲が良いらしい。

 

「お!五条も来た!!!おつかれ!!」

 

 無造作に教室のドアを開けた五条に、幾らかのクラスメイトはすぐ気づきこちらに声を掛けてきた。緑谷の時点で何となく察しはついていたが、帰ったと思われたクラスメイトたちは、そのほぼ全てが教室でガヤガヤと話していたのだ。

 

「今皆で今日の訓練の反省会してんだ!!五条もやろうぜ!!!」

「ね、ね!あの二人の動きをガッて止めたヤツ何?!メッチャ強くない!!?」

「ああっ、やっと居た!五条ーーー!!!!ごめんすぐつかまっちゃってええ!!」

「………俺は聖徳太子じゃないんだけど」

 

 怒濤の勢いだった。流石に処理できる会話の量は限界がある。こうも一気に話されてはよくわからない。少し驚きつつもクラスメイトたちのことをそう諫めた。

 

「それもそうだ!でもまあ大した怪我じゃなさそうでよかった!緑谷は結構酷かったから」

「保健室コンビつっても実態は結構差があるよな」

「ほけ……なんだそれ。……つーかその緑谷はどうしたんだよ?なんかやたらと急いでたの見たんだけど」

「ああ、彼だったら爆豪くんを追いかけていったぞ。何か言いたいことがあるみたいだ」

「男の因縁ってやつなんかな!?」

 

 そうしてクラスメイトたちと共に窓から下を見下ろせば、爆豪と向き合う緑谷が見えた。少し遠く声はよく聞こえなかったが、それぞれの様子は今までほど刺々しい様子は見られなかった。

 ……まあ、相対的な話であって、相変わらず確執自体は存在しているようであるが。ともかく、何かしら前進があったように思えた。

 

(喧嘩して拗れっとあんなに面倒くさいんだな。ま、あのレベルまでは流石にいったことねえから分かんねえけど)

 

 一瞬だけ親友の姿を思い浮かべ、同時にあの二人レベルまで仲が拗れた様子を少し想像する。しかしすぐに五条は「ねーわ」と思考を打ち切った。

 

 根拠も何もいらない、偏に五条の彼への絶大な信頼である。自分たちはずっと最強で、そして親友であり続けるに違いない。そういった全く疑いようのない()()の未来だった。

 

「よっしゃ!!俺らも緑谷と爆豪に負けてられねえ!!!反省会再開だ!!!」

 

 しかし、今は少しだけ、僅かにその二つのうち片方に、瑕疵が生じていた。だから、それを直すように、またそう心から思えるように。

 

「早くやろうぜ」

「おっ?!五条メッチャ乗り気じゃん!!やっぱりそうこないと!!!それじゃ……、」

 

 ────きっとそれは、一種の盲信だったのだろう。

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