最強じゃない五条のヒーローアカデミア   作:せり

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11.他人

「オールマイトの授業についてどう思いましたか?」

「オールマイトぉ?」

 

 戦闘訓練の翌日、変わらず雄英に登校してきた五条が目にしたのは大勢の報道陣だった。なんの騒ぎだよとぼやく五条と同様に、他の雄英の制服を着た者たちも皆一様に困惑を顔に浮かべている。

 

 そんなことを知らずか、あるいは知っていてもそれがどうしたと言わんばかりに、彼らは雄英の正門ゲート前に押し寄せ、生徒を見てそれがヒーロー科であると知るやいなや、冒頭の質問をこちらに投げかけていた。彼らの狙いはオールマイトであるらしい。五条も彼らのその熱量の犠牲者の一人であった。

 

「……」

 

 少しだけ考えてみる。

 オールマイト。平和の象徴。No.1ヒーロー。この世界に生きる市民の希望の光であり、憧れである。クラスメイトの者たちも、皆その多くが彼の姿に焦がれてこの道を選んできたのだろう。

 

 では、自分はどうか?

 人柄が良いのは分かる。強いことも、多くの者に愛されているのも。だが、それだけだった。少なくとも現在、自身にとってあの人はただの教師でしかない。

 

「まぁ、いいんじゃないの。知らねーけど」

 

 そう無愛想にマスコミに答えた五条は、そのまま校舎の方へとサッサと歩いていく。彼の回答を受けたマスコミの一人は、「こりゃカットだな」とため息を吐いた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「学級委員長を決めてもらう」

「「「学校っぽいの来たーーー!!!」」」

 

 相澤の一言で一気に湧き上がる教室の空気。かと思えば次の瞬間にはクラス中のものが我こそはと手を挙げて立候補を始めた。

 

 高専では自分の学年の人数はわずか三人。そのため、クラス内での明確な役職というものが無く、高専以外の学校経験も無い五条にとって、学級委員長とは名前こそ聞いたことはあるがいまいちよくわからないものだった。

 しかしこの盛り上がり、なんだかお祭り騒ぎのようで楽しそうであることはわかる。

 

「はいはい!!俺()やる!!!」

 

 PRの仕方が若干ズレているものの、五条がこの流れに便乗しないはずがなかった。他の者に負けず劣らず、その長身をフルに生かすように全力で手を挙げる。完全にミーハーだった。

 

 こうして誰もが譲らないこの学級委員長の座は、結局その後多数決によって決められることとなった。しかし、まさかの自身にも投票可能のものである。クラスの多くの者は自分自身に票を入れたし、五条も当然そうした。その結果。

 

「僕三票ーー!!!?」

 

 そう叫ぶのは緑谷。どうやらこの状況で他人に票を入れる者がいたらしい。「なんでデクに……!!誰が……!!」などと爆豪が唸っているが、名前のない者を見れば他人に入れたのが誰かは簡単にわかる。少なくともそこで本気で悔しがっている飯田はそのくせそうであるようだった。

 五条は自分がなれなかったのをちぇーと適当に不服をあらわにしつつ、まあ緑谷なら別にいいだろと椅子に座り直した。

 

 そうして晴れて委員長が緑谷と八百万に決定し、皆で昼食のために食堂に移動しようという時。

 

「俺トイレ行ってくるわ、先行っといてー」

「あ、うん!いってらっしゃい」

 

 五条はそうして緑谷、麗日、飯田の三人と別れ、トイレの方へと向かう。食堂にもありはするのだが、ヒーロー科以外の他の科の生徒も全て集まってくる場所のトイレなど、「すごく混みます」と言っているようなものだ。そんな面倒は、事前に避けるが一番だろう。事実、多くの他の生徒たちは五条の進行方向とは逆へと歩いている。

 

 そうして普段使っている方のトイレへと来る頃にはもうほとんど人混みは抜けていた。今歩いている廊下の窓からなんとなく外を見やる。

 そちらの方には正面ゲートがあり、今現在殺到する報道陣の規制のためにその門は堅く閉じられていた。たしか雄英バリアーと呼ばれているのだとか。ダッセー名前。そう軽く笑いつつ亀裂の入った門から目線を外した。

 

「………………()()?」

 

 違和感に気づき再び目をゲートの方へと見やった瞬間、その光景は大きく変化する。

 強固であるはずのバリアーがある一点からボロボロと崩れ初め、気づけば残骸を残してバリアーに大きな穴が空いていた。一瞬間を空けて、その穴からマスコミたちがこれ幸いと雄英の敷地へと一斉に入ってくる。明らかに非常事態だった。

 

 その影響で2つめ3つめの雄英バリアーがすぐ起動されるも、先ほどと同様にしばらくすると亀裂が入り、あっという間に崩れその役割を果たさなくなる。

 

『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんはすみやかに屋外へ避難してください』

「…………?」

 

 3つめのバリアーが突破されたことでついに校内にけたたましく警報が鳴り響く中、五条の目はバリアーが破壊される瞬間の明らかに異質な男の姿を捉えていた。

 報道陣とは明らかに見た目も様子も異なる白髪の男。顔はよく見えなかったが、その手をまるでゲートに触れるように手前に差し出しているのを見た。

 だが、推定犯人のその男は瞬きのうちにどこかに消え、後には校舎の方へと押し寄せるマスコミたちだけが残されていた。

 

 先ほどの警報で相当のパニックが起きているのか、大勢の生徒が騒ぐような声も聞こえてきていた。侵入してきたマスコミたちのところに雄英の教師陣も駆けつけ、追い返そうとし始めている。

 混乱が渦巻く中、この場でそうした一部始終をたまたま見ていた五条は。

 

「……とりあえずトイレ行ってから考えるか」

 

 ……至極マイペースに行動を始めていた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「なるほど、怪しい男が報道陣に紛れて居た、と。情報提供ありがとう、五条」

「別にいいけど。つーかあんなに簡単に突破されて大丈夫なの?雄英」

 

 その日の放課後。五条は相澤に自身が見たものの報告をしていた。それと同時に、頭の中に浮かんだ疑問点を不躾な口調でぶつける。仮にも雄英は、ヒーロー育成最高峰の学校である。それがあの体たらくで大丈夫か、と。

 

「俺が今まで見た中では、ああいった事態はほぼ発生したことはなかった。そもそも、教師がプロヒーローで固めてある雄英に侵入しようとするってのは頭のイカれた考えなしか、あるいは何か狙いを持った自分に余程自信のある奴だ。だがまあ、確かにこれだけ簡単に自慢のセキュリティを突破されちゃあ雄英も立場が無い。これを受けて雄英バリアーについてさらに強化案なり何なり検討はされていくとは思うぞ」

「ふーん……」

 

(数ヶ月前にもセキュリティの強化自体は入ってたんだがな……門ごと崩れるとなるとどう対応するか)

 

 以前、ある少年が学生証や通行許可IDもなしに学校内の敷地で倒れているという事件があった際も、雄英のセキュリティの強化は行われていた。しかし、今回の件は護るバリアーそのものが正面から破壊されていた。これが"個性"の影響となると対策には相当厄介である。

 

「ああそうだ、五条。悪いがその犯人らしき者を見たという情報自体は他の生徒に漏らさず自分の中で留めてくれるか」

「なんで?」

「確かに犯人として疑わしいのはそうだが、あくまで疑惑だ。情報が確定しないうちには他の生徒をいたずらに混乱させるようなことは避けたい」

「……」

「もしこの件に関して生徒側に伝えられる事項があった場合は、こちらの方から発表する。……悪いな」

「……別に。謝らなくても言いふらしたりしねえよ」

 

 五条は相澤から少し視線を外しつつ、そう答える。形の差はあれど、担任という者は気づかいをよくするものらしい。頭の中に相澤とは別の顔が浮かびつつ、そう考えていた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「バスの席順でスムーズにいくよう番号順に二列で並ぼう!!」

 

 ピッ、ピッと規則的に笛をならしつつ、奇妙な腕の動きと共にクラスを誘導するのは飯田である。

 雄英バリアーが破壊されたあの日、パニックに陥った食堂内の生徒の混乱を治めたのは飯田らしい。午後にはそんな彼こそ委員長にという緑谷の推薦もあり、彼が改めてA組の学級委員長となったのである。それはそれは今日も張り切っており、こうして訓練のためにバスに乗ること一つで絶好調の様子である。

 

 今日のヒーロー基礎学は人名救助訓練。訓練場が遠い位置にあるとのことで、こうしてバスを使って向かうのだそうだ。入試の際にも各会場への移動にバスが使われていたことを考えると、改めて雄英高校という施設の規模の大きさに驚かされる。

 

 そうしてバスに全員が乗り込んで(飯田の努力はバスの構造の違いによって無に帰した)、訓練場へと向かう中、クラスの話題はそれぞれの"個性"の話になった。

 

「俺の"硬化"は対人じゃ強えけどいかんせん地味なんだよなー」

「あー確かに。遠くから見たら素手で戦うパンピーに見えんじゃね?」

「マジかー……、それはちょっと傷付くぜ……」

 

 今は"個性"の見た目の話になっていた。切島の"個性"の話にフォローするでもなくストレートに思ったことを口に出しているのは五条である。

 

「ぼ、僕は切島君の"個性"すごくかっこいいと思うよ」

「でもさあ、やっぱ遠く離れた奴にも伝わんなきゃ意味なくねえ?派手さってのはやっぱ無いと」

「それで言ったら五条の"個性"も地味だよなー」

「はぁ?!」

 

 好き勝手にベラベラ喋っていた五条にそう横やりを入れたのは上鳴である。

 

「いやいやいや!!!俺は十分派手だって!蒼……引き寄せる反応作るときとかあるじゃん!!」

「えーでも五条の"個性"、物とか本人とかが引き寄せられてんのは分かるけど、それ以上に見た目に特異性なくねえ?遠くから見たら正直わからんって!」

「んなわけ、…………ああ!!!そういうことか!……クソッ……」

 

 そういえば、彼らは呪力が全く見えていないことを忘れていた。

 五条の視界では無下限呪術を行使する際、特に「蒼」などであれば呪力が輝く様を映しているが、それらの光景は呪力が目視できなければ認知することは出来ない。そういう意味で上鳴は「地味」と言ったのだろう。

 

「五条ちゃん、素の見た目は派手さあるけど"個性"はわかりづらいわ」

「だってさ!!おとなしく自分を認めたまえよショウネェン!!!」

「ぐぐ…………」

「まあまあ!でも派手で強えっつったらやっぱ爆豪と轟だな」

「爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気出なさそ」

「んだとコラ出すわ!!」

「ホラ」

 

 会話はさらに続き、ヒートアップしていく。

 

「この付き合いの浅さで既にクソを下水で煮込んだような性格と認識されるってすげぇよ」

「てめぇのボキャブラリーは何だコラ殺すぞ!!」

「口の悪さで言ったら五条も結構悪いよねえ」

「コイツと一緒にしないでくれますぅー?こんな底辺まで落ちぶれた覚えはないんですけどー??」

「落ちぶれてるとはんだコラクソグラサン!!」

「今はコスチュームだからグラサンしてませぇーん!!眼科の受診でもしてきたらどーですかあ???」

「ほらねえ」

 

 そうして相澤に「もう着くぞ、いい加減にしとけよ……」と言われるまでクラスでの会話は大いに盛り上がった。そうしてついに、A組たちは訓練場へと足を踏み入れるのであった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 ウソの災害や事故ルーム。通称USJ。このやはりどこか危なげな名称の施設は、水難事故、土砂災害、火事などのあらゆる事故や災害を想定した演習場である。

 

 そう説明をするのは、宇宙服のようなコスチュームを纏ったスペースヒーロー13号だった。個性「ブラックホール」を用いて、災害の救助などを中心に活躍するヒーローである。

 

「しかし、簡単に人を殺せる力です。皆の中にもそういう"個性"がいるでしょう」

 

 13号は戒めるようにそう語る。考えてみれば、この世界では"個性"の使用に厳しく規制を掛けてはいるものの、それでいて人を殺そうと思えば容易に行えることには間違いなかった。つまるところ、一人一人の善性を持ってようやく成り立つような、不安定な社会である。

 

「君たちの力は人を傷つける為にあるのではない。助けるためにあるのだと心得て帰って下さいな。……以上!ご静聴ありがとうございました」

 

 そうしてペコリと頭を下げた13号に、クラスからは感動したかの様に拍手と歓声が上がる。

 その中でいまいち乗り切れないような顔をしているのが五条であった。実際彼にとってヒーローという職業の「(ヴィラン)と戦う」という部分は非常に魅力的なものであったが、その反面「人々を助ける」という部分においてはあまり惹かれていなかった。

 

("ヒーロー飽和社会"なんだろ?それ俺がやる必要ある?勝手にやりたい奴がやってればいいじゃん。つーか力があるから誰かを助けるために使わなきゃいけないっていう考え自体が正論染みててウザ)

 

 ヒーロー志望としてはありえないレベルの考えである。しかし、彼自身がそもそも帰還のための自己強化という私的な理由で雄英に入った以上、そもそも根本的に考えが異なっているのであった。

 ましてや五条は呪術師。"人を助ける"ということを立派な志にするには、あまりにも人の生死が身近にありすぎた。御三家という生粋の呪術師の家系で育った五条にとって、現状人は死ぬときは死ぬものであり、助けられたらまあラッキー程度の存在であり、それ以上に何か思うことがあるものではなかった。

 

 ただ、親友の言葉曰く、その考えは"良くない"ことであるそうなので、五条はこの場でこの考えを言葉に出すことはない。しかし、本人にとってやる気が出ないのも事実であるようで、周囲の盛り上がりの中、無言のままつまらない顔をしていた。

 

「そんじゃあ、まずは……。…………?」

 

 そうして五条にとって退屈そうな訓練が始まろうとしたとき、相澤が何か違和感を感じたように後ろを振り返る。つられて視線の後を辿れば、そこには黒色をした靄のようなものが浮いていた。

 

 初めはごく僅かだったその靄は、少しずつその範囲を増大させる。そうして人一人の顔の大きさぐらいのサイズになったとき、その内側から腕が伸びた。

 

 そこには底無しの悪意を孕んだかのような、(ヴィラン)の顔が在った。

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