最強じゃない五条のヒーローアカデミア   作:せり

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14.雄英体育祭①

1ーA控え室にて。

 

「五条そのグラサン本番も掛けんの?前見えてる?」

「流石に見えてるって。それに目が弱いっていったろ?そういうこと」

「えー、でもコスチュームのときはしてないじゃん!……それになんか、それとは別になーんか違和感あるんだよねえ。何だろ、グラサン変えた?」

「……気のせいだろ」

 

 本番前という状況とは裏腹に、ゆるゆるとした会話が行われる。しかしここにいる誰もが、本気で勝ちを狙いに来ている人間だった。和やかでありつつも、どこか緊張感がある。

 そこに一槍刺したのは、轟だった。彼は緑谷に近づいていく。

 

「轟くん……、何?」

「客観的に見ても、実力は俺の方が上だと思う」

「へ!?うっ、うん……」

「おまえ、オールマイトに目ぇかけられてるよな。別にそこ詮索するつもりはねえが……。おまえには勝つぞ」

 

 宣戦布告。

 明らかにそう取れる発言だった。確かにそこには明らかに冷たさを感じる対抗心があったが、どこか別のところを見ているような気もした。周りの空気などお構いなしである。

 

「そりゃ、君の方が上だよ……実力なんて大半の人に敵わないと思う……客観的に見ても……」

「緑谷もそーゆーネガティブな事、言わない方が……」

「でも……!!」

 

 明らかに冷えた空気感に、たまらず切島が仲裁に入る。しかし、顔を上げた緑谷のその目にも、強さが感じられた。譲れないものがある目である。

 

「皆……他の科の人も本気でトップを狙ってるんだ。僕だって……遅れを取るわけには、いかないんだ」

 

「僕も本気で、勝ちに行く!」

 

 二人の会話に、クラス全体が気圧されていた。轟の少し驚くような呟きを残して、部屋中が静まりかえってしまう。

 ──だからだろうか。余計に蚊帳の外と感じたのは。

 

「聞いてりゃ納得いかないんだけどさあ。別にオマエらの敵って一人だけじゃねえからな」

 

 ぶっきらぼうにそう訴えるのは五条だった。苦虫を噛みつぶしたような渋い顔をして、先の二人を見据えている。

 轟のそれは、発言からしてオールマイトに起因したものであるだろうし、緑谷もあくまでそれに答えただけにすぎない。故に、そういう意図はないのだろうが。

 それでも、我慢ならなかったのだ。まるで自分が眼中にないと言われたようで。

 

「そうだぞ!五条だけじゃない!!俺たちだって舐めてもらっちゃ困るぜ!!」

「油断してたら足下掬っちゃうからね!!」

「イケメンだからって体育祭でも勝てると思ったら大間違いだぞ……」

「いや、その理屈はおかしい」

 

 五条に同調したように、一気に他のクラスメイトからも言葉が飛び出る。先ほどまでの剣呑な空気からは一転。今度はより一掃やる気に溢れた雰囲気となっていた。まさしく、"体育祭"に相応しいようであった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 ──割れるような歓声。押し寄せるファンファーレ。歩みを進めるA組の前に現れたのは、巨大なスタジアムであった。

 天気に恵まれた晴天の下。周囲の観客席には膨大な人、人、人。何万人だろうかというその観客たちはそれぞれ期待と興奮を混じらせ、一斉にこちらに視線を向けている。

 

 はっきり言って、あまりに慣れない環境だった。

 大勢の人、体育祭というイベント。それもあるが、根本ではない。これだけ多くの人間から、正の感情を向けられるということは、恐らく自身が呪術師を続けている人生の中で、決してあるはずのないことだっただろう。仮にあったとしても、それはきっと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に違いない。

 そして、それこそきっと、彼らとの最大の違いなのだ。

 

 影で人々の負の感情の尻拭いに奔走する呪術師と、人々に望まれ世間で活躍するヒーロー。あまりにグロテスクな違いがありすぎて、たまらず笑ってしまう。五条自身はそれだけであるが、見る者によっては絶望してしまうのではないだろうか。

 

「あれ、五条もこういうときにアガる口か?」

 

 勘違いした切島が話しかけてくるが、それに答えないまま歩みを進めていく。でもまあ、確かにアガっていると言えるかも知れねえな、これは。

 改めて前方を見やる。変わらぬ光景。期待の芽が、膨らむ感覚がするようだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

『さて、運命の第一種目!!今年は……コレ!!!』

 

 いろいろと問題のあった選手宣誓を無事(?)に終え、主審のミッドナイトが司会進行を行う。彼女が言葉と共に指を指したモニターには、「障害物競走」の文字が映し出されていた。

 障害物競走。約4kmの外周を走るこの競技では、コースさえ守れば何をしてもいいのだという。五条にとってはやりやすい方の競技であった。

 

 ヒーロー科以外の者も含めた計11クラスの者たちが入り口付近に集まる。流石に人数が多いのもあって、前方に見えるスタートゲートは小さすぎるように見えた。

 

(下手に前に出ようとするよりも、こっちのが良いか)

 

 五条は無理にその待機する集団の先頭に行こうとはせず、最後尾のスカスカな位置に立った。なまじ目立つ容姿もあってか、五条をヒーロー科だと認識している周囲の者は、「何でこんな所にいるんだ」と疑問の目を向けている。だが、こんな数十メートルの距離など五条にとって些細なことであるから、より自由に動けるであろうこちらを選んだのだ。問題など無い。

 そうしてそのまま無下限の防御を貼りつつ、ミッドナイトの開始の声を淡々と待った。

 

 その時はすぐやって来た。

 ゲートの上に配置された信号が順々に光っていく。一つ、二つ、────そして。

 

『スターーーーーート!!!』

 

 その声と同時に、一斉に全員が走り出す。しかし、その進みはあまり芳しくない。案の定、ゲートで人詰まりを起こしているようだ。こちらまで文句の声が聞こえてくる。

 

 しかし、さらにその直後、その動きを鈍くするものがあった。ピシッと特徴的な音がしたかと思えば、その場にいる大半の者の足が止まる。いや、止められている。

 ──凍らされていた。轟の妨害である。

 

「抜け目ないねえ……まあ、妨害読めねえ方も大概だけどな」

 

 そういう五条の足下は、当然凍り付いていない。氷の進行は無下限で防がれていた。

 轟がこうしてくることは、大会以前から予想が付いている。改めて、何が何でも譲る気はなさそうだ。

 

「まあ、このまま君らがゲート通過するの待ってたら俺負けちゃうし?おとなしく踏み台になってよ」

 

 ()()()()、である。

 五条はその場から前にいる集団の上に飛び乗ると、人の上を悠々と駆けていった。マニュアルで無下限の設定を変更し、自身から近づいても人に触れることのないようにしたのであった。

 

 そうしてゲートも通り過ぎ、改めて前を見る。

 氷の張った地面の部分も比較的直ぐ終わり、通常のコースが続いている、──奥で明らかに何かが起きている騒ぎを除けば。

 

()()()()、行くか!」

 

 そうして気合いを入れるように、改めて呪力を身体に巡らせる。それだけで通常の人間の身体性能を大きく上回ることができた。基本的な事ながらも、これは五条の大きなアドバンテージとなっている。というのも、今回五条の障害物競走やこの次の第2種目における立ち回りが関係していた。

 

 これは、体育祭の構成故の部分も大きいのだが、──なるべく術式を使うことなく温存することである。

 

 体育祭は一日を通して行われる競技である。恐らく初めの競技から全力を出してしまえば、午後の競技でガス欠の状態になることは、容易に想像が出来た。

 最も重要になるのは、最終種目である個人戦であるのは言うまでも無い。だから、そこまでをなるべくシンプルな呪力操作とニュートラルな無下限の防御のみで乗り切る必要があるのだ。……まあ、他にも理由はあるのだが、それはそれとして。

 

 当然だが、その途中、要所要所で一位を取ることを諦めたとか、そういうわけではない。五条にとって、全ての競技においてトップと取るという気持ちは何ら変わっていないのだ。

 

 走り出した五条の早さは、常人を遙かに超していた。次々と周囲の人々を追い抜いて、既に多くの者がいる第一関門へとたどり着く。そこにいたのは、入試の0P仮想(ヴィラン)であった。

 

「なーんだ。それが障害かよ?」

 

 この場にたどり着いた者達が、必死に"個性"を使ってこのデカブツを突破しようとしているのに対し、五条は不敵の笑みを浮かべる。──ああ、これは自分には簡単すぎる。

 

 五条は走るスピードを緩めない。上には五条を感知した仮想(ヴィラン)が、今まさに攻撃を加えようと迫ってきていた。それでも五条がすることは変わらない。走る、ただそれだけだ。

 そうして今攻撃が当たらんとするとき、仮想(ヴィラン)のその動きが止まる。無下限呪術による防御。動きを阻んでいるのは無限だった。

 

『おーっと!ここで1-A五条!!障害など意に介せず正面突破!!どうなってんだありゃ!!?』

 

 ニュートラルな無下限呪術であれば「蒼」に比べ、負担も大して大きくない。それを発動して後は走ってこの地帯を突っ切るだけ。なんと簡単なことだろうか。ラッキーなものである。

 そのまま五条は攻撃を受けることもなく、第一関門を抜けていく。五条の"個性"を知らない他クラスの者達は、その光景に唖然としていた。

 

 ほぼロス無しで突破したのも相まって、五条の順位は大きく上昇していた。もう暫くこのまま走れば、余裕で一位が見えてくるだろう。

 ……と、ここで再びの関門が視界に映る。大きく空いた巨大な穴、僅かに点在する足場、そしてその足場同士を頼りなく結ぶロープ。

 

『落ちればアウト!!それが嫌なら這いずりな!!ザ・フォール!!!』

 

 ──第二関門である。

 

(これは……流石に呪力強化のみで飛び越せる大きさじゃねえな……)

 

 ならば真面目にロープを渡っていくか?否、それではあまりにも時間が掛かる。仮にそれで突破したとして、最後の関門がトップにとって相性の良いものであれば、追いつくことは難しくなる。

 

(──仕方ねえ)

 

 五条は巨大な穴から離れ始める。そうして一定の距離を取ったところで、穴に向かって全速力で駆け出した。穴に落ちるかという寸前で、全力で飛び上がる。当然このままでは先に言った通り次の足場までは届かない。そう、何もしなければ。

 

 最高高度まで飛び上がったとき、五条は自身の直進方向、前方に僅かな時間、弱めの「蒼」を出現させた。その引力に引っ張られて、五条の身体の勢いはより増している。結果、五条は無事に次の足場にたどり着くことが出来た。

 

(全部が全部、術式を使わなければ届かないような距離が空いてるわけじゃない。必要になる数回分、必要最低限の強さで使えば良いだけ。その制御もある程度集中すればどうにかなる範疇にある。行けるな)

 

『A組五条!!ありえねーレベルの跳躍力で悠々と穴を超えていくゥゥー!!!"個性"の対応範囲高すぎンだろ!!』

 

 やり方は見えた。あとは実行するだけだ。この早さなら、最後の関門辺りで順位を抜かすことが出来るかもしれない。

 ──集中している五条は気づくことが出来なかった。後方がやけに騒がしいことに。

 

 何度か穴を飛び越え、第二関門も後半にさしかかる頃。

 五条はまた一つ、術式がいるサイズの隙間を飛び越えようと、「蒼」の発動のため集中する。そうして跳躍したその瞬間、五条の眼前スレスレを人影が横切った。

 

「素晴らしいでしょう!!!私のベイビー達は!!!!!」

「はぁっ!!?」

 

 耳を劈くような大声でそう叫ぶ少女が話しかけているのは、恐らく五条ではない。きっと、向こうも何かに夢中で、大してこっちに気づいていなかったのだろう。────いや、そんなことよりも!

 

「?おや、失礼」

「ふっざけんなよテメェエエ!!!!」

 

 五条は驚きのあまり、術式を中断してしまったのだ。加えて、大きく体勢を崩してしまった。それからの結果はお察しの通り。到底目標飛距離には届かず。無様なまでの落下であった。

 

『A組五条、まさかの落下ー!!!ちょっと可哀想だ!!』

 

 可哀想で優勝が取れるか!!頭の中でプレゼントマイクにキレる五条は、改めて放送を思い出す。

 

『落ちたらアウト』

 

 五条は直近の壁付近に急いで強めの「蒼」を作り出す。この際完全に落ちてしまわなければ、何でも良かった。そうしてどうにか壁へと食らい付く。落下自体を止めることは出来たようだ。

 しかし、今の状況は────。

 

「あのクソ女……。戻ったら絶対ブチのめしてやる」

 

 少なくとも20mは落ちたか。頭上を見上げて恨み言を吐く口と同時に、そう判断する。

 これはもう、起きてしまったことは覆しようがない。今はただ地上に戻るしかない。五条はため息を吐いて、呪力で強化した腕力任せに、少しずつ岩肌を登っていった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 ようやく地上にたどり着いた五条には、自身がどれだけ順位を落としたかなど、わからない。しかし、登っている最中に放送を聞いていてわかったのは、まだゴールした者はいないことと、トップが足の引っ張り合いをして速度が落ちていることだった。

 なんだ、思ったより役立つじゃん、放送。五条は少し見直した。

 

 本当は、こんな状況の幸運ではなく、自身の実力で一位をもぎ取りたかったが、最早四の五の言っていられる状況ではない。即座にコースを再び走り出す。その顔に余裕は見られなかった。

 

 最終関門。放送で聞いていたとおり、その性質は五条にとって相性は悪くない。少なくともさっきの穴よりは全然良い。あんなやつより。

 

 そこに差し掛かろうというときに、五条は奇妙な行動をする者を見た。緑谷である。

 彼は地雷原を進む気配が見られず、何かをひたすら掘り集めているようだった。

 

(……ああ、なるほどね。俺には関係なさそうだし、ほっとくか)

 

 彼の意図を察した五条は、そのまま地雷原に足を踏み入れた。暫く進んで地雷が爆発を起こすも、それも気にとめずに動き続ける。無下限術式を張っているのだ。これくらいなんてことはない。後続についても、今は気にする段階を超えている。

 

 そうしてついに現在の先頭2人──轟と爆豪の背中を捉えたとき、予想通り、後方から轟音が響き渡った。

 

『後方で大爆発!!?何だ、あの威力!?』

 

 緑谷が掘り出していたのは地雷だった。そして、なぜか持っている第一関門の仮想(ヴィラン)の装甲一枚。全く、よく考えるものだ。

 

『偶然か故意か、A組緑谷、爆風で猛追ー!!?っつーか!!!抜いたあああああー!!!』

 

 その場にいる者全てを上回る超スピードで、緑谷が先頭へと飛んできていた。

 誰もが呆けたその一瞬。──瞬くその間に一位はもう変わっていた。

 

「よくやるよ、緑谷。まあ、それだけだと無理だけどさ」

 

 先頭を抜いたその直後、緑谷のその勢いは急速に失われ始めていた。

 あれだけ多くの地雷を使ったところで、別にゴール地点までそのまま飛んでいけるわけではない。着地とその後の体勢の立て直しで、どうしたってロスが出る。

 それに、追い抜かれた二人が変わらずそのままいるわけがない。今も、血眼になって緑谷を追いかけ始めている。

 

 一瞬だけだ。これはどうしようもない。緑谷もそれを分かっているのか、着地が近くなって明らかに焦りの表情を見せていた。

 

 ──────五条は既視感を感じた。何に?

 

 ……あれは、個性把握テストの時だ。

 ハンドボール投げ。その2度目の緑谷の鬼気迫る顔。あの、打開策を、探すような──。

 

「マジか?」

 

 着地の直前、緑谷は装甲を思いっきり地面に叩き付けた。その下には当然、地雷が埋まっている。軽く機械音が鳴り、即座に反応して爆発を起こした。

 緑谷に追いつかんとしていた轟と爆豪の二人は、その爆発に巻き込まれ、左右に飛ばされる。

 そして、肝心の緑谷は──。

 

 ────再び空を飛んでいた。一度目ほどではないが、大きな推進力を元にして。

 

 ……やられた。そこまでするとは。

 五条は走りながら心の中で独りごちた。だがまあ、考えてみればそういう奴だった。それにしても無茶苦茶しすぎではあると思うのだが。

 

 無下限術式を張った五条は爆発の影響を受けない。未だに緑谷が起こした爆発より体勢を立て直し切れていない二人を追い抜き、五条は二位に躍り出た。

 ゴールまであと数十メートル。先頭の緑谷はあと僅か数秒でゴールするところだ。

 

 ……ここで術式を使って、緑谷の体勢を崩すことは出来た。なんなら転倒させることも、五条には容易である。

 しかし、まあ、なんというか。……見えてしまったのである。ゴールを目指す緑谷の、その表情が。

 

『さァさァ序盤の展開から誰が予想できた!?今一番に、スタジアムへと還ってきたその男!!!』

「……あーあ、今回良いとこナシじゃん、俺」

 

 呆れるようにそう呟いた。完敗である。

 

『緑谷出久の存在を!!』

 

 ────歓声が、"彼"を包み込んだ。

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