最強じゃない五条のヒーローアカデミア   作:せり

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18.雄英体育祭⑤

『早速上位4チーム見てみよか!!』

 

 騎馬戦が終了し、早々にプレゼントマイクの意気揚々とした声が会場に響き渡る。15分間の攻防は、観客達を大いに盛り上がらせていた。

 

『1位緑谷チーム!!』

「本当にありがとう!皆のおかげで……」

「言っただろう、チーム決めにおいて俺を選んだのはお前だ」

「自身持って!デクくん!!」

 

 1位は最初から最後まで自身のハチマキを死守し続けた緑谷チーム。

 

『2位五条チーム!!』

「結局緑谷とまともに相対すらできなかったなー」

「十分だろ、2位は」

 

 2位に鉄哲チームと轟チームからハチマキを奪った五条チーム。

 

『3位爆豪チーム!!』

「くそがああああああああ!!!」

「常闇の守りが固かったねえ」

「惜しかったなあ」

 

 3位に途中物間にハチマキを奪われつつ相手のハチマキ全てを奪い返した爆豪チーム。

 

『4位轟チーム!!以上の4組が最終種目へ……進出だああ────!!』

「………………」

「勝ち抜け出来たからよかった……とは流石に言えませんわね、これは」

「ああ、完全に負けていた」

「ウェ……」

 

 そして、4位には五条チームに自らのハチマキを奪われつつも他のチームから何とかPを回収した轟チームが入った。

 

『1時間ほど昼休憩はさんでから午後の部だぜ!じゃあな!!!オイ、イレイザーヘッド、飯行こうぜ!』

『寝る』

 

 こうして、第二種目である騎馬戦は幕を閉じた。

 

 自由時間となり、生徒達が移動し始める。

 それを見ている五条は、ふと視界の違和感に気づいた。サングラスを外してみれば、レンズに僅かなヒビが入っている。恐らく、先ほどの騎馬戦での上鳴の放電が原因だろう。競技中は夢中で気づかなかったようだった。

 

(危ねえなあ。ま、壊れてなきゃセーフセーフ)

 

 問題ないと判断して、五条はサングラスを再び着用する。

 さて、昼休憩になったので、この壊れた指をリカバリーガールに見せに行かなくてはいけない。そうして歩き出そうとする五条の肩を叩く者がいた。

 

「ちょっといいか?」

「…………何?」

 

 そこには、険しい顔をした轟が立っていた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「あの……話って何?」

「…………」

 

 五条と、それから緑谷。

 2人は轟の呼び出しを受けて、人気のない通路へと来ていた。おずおずと訪ねる緑谷の視線の先の轟は、相変わらず険とした表情をしている。

 

「……俺の親父はエンデヴァー。知ってるだろ、万年No.2のヒーローだ」

 

 そのまま脈絡のない話をし始めた。

 エンデヴァー。基本プロヒーローに疎い五条でも、名前は聞いたことがあった。轟は話を続ける。

 

「親父は極めて上昇志向の強い奴だ。ヒーローとして破竹の勢いで名を馳せたが、それだけに生ける伝説オールマイトが目障りで仕方なかったらしい。自分ではオールマイトを超えられねえ親父は次の策に出た」

 

 五条には、いまいち轟の言いたいことが見えてこない。だが、轟の纏う雰囲気があまりにも重たく、突然の自分語りどうした?などと突っ込める空気でもない。おとなしく、話を聞き続ける。

 

「…………"個性婚"」

「コセイコン?」

「……"超常"が起きてから第二~第三世代間で問題になったやつ」

「緑谷は知ってるか。……自身の"個性"をより強化して子供に継がせる為だけに配偶者を選び結婚を強いる。倫理観の欠落した前時代的発想」

「…………」

「実績と金だけはある男だ。親父は母の親族を丸め込み母の"個性"を手に入れた。俺をオールマイト以上のヒーローに育て上げることで自身の欲求を満たそうってこった」

 

「鬱陶しい……そんな屑の道具にはならねえ!」

 

 苦しげな表情でそう呟く轟の事情を、五条は淡々と理解した。

 

 "個性婚"。

 轟や緑谷の言い方的に、この世界では一般的にタブーだとされているそれと似たことが、今でも呪術界では御三家を中心に平然と行われている。配偶者を選んでいることとは少しズレるが、生まれてくる子供の"術式"だけを考えて行われているその行動は、同じようなものだった。

 

 五条の生まれた五条家などは、何百年も六眼と相伝の無下限術式を併せ持った子供が生まれることだけを望んで血を繋いできたのだ。

 彼らの望みは五条家の繁栄。欲しがっていたのはあくまでその"道具"。そう考えることも出来るだろう。

 

「記憶の中の母はいつも泣いてる。「お前の左側が醜い」と母は俺に煮え湯を浴びせた」

 

 そう言って轟は左側の火傷痕を手で覆うように隠す。

 

「……ざっと話したが、俺がお前らにつっかかるのは見返す為だ。クソ親父の個性なんざなくたって……。いや、使わず一番になることで奴を完全否定する」

 

 相当父親が嫌いなのだろう。そう告げる轟の目は憎悪と決意とが冷たく混じり合った様相を為している。

 

 五条悟は、五条家が嫌いだろうか?

 そう自問自答してみる。轟の立場に若干共感を覚えた自身であったが、その質問の答えは否、である。

 

 強いて言えばどうでもよかった。五条家の者は、誰も彼も悟には甘くしたし、その裏には度々打算が垣間見えることもあった。

 育ての親である彼らとは、心理的に大きく距離がある。だから、思うところはないのだろう。

 

 ……ただ、もし彼らが轟の父親のように、自らを明確に道具と扱い始めたら。たびたび自身を都合よく操ろうと干渉してくるのならば。

 

(そりゃ、ムカつくわ)

 

 五条は少しだけ、轟に同情した。

 

「……時間とらせたな」

「……僕は…!」

 

 話し終えたと言わんばかりに歩き始めた轟を、呼び止めるように緑谷が話し始める。

 

「僕はずっと助けられてきた。さっきだってそうだ。僕は誰かに助けられてここにいる。笑って人を助ける最高のヒーロー、オールマイト……彼のようになりたい。その為には一番になるくらい強くなきゃいけない」

 

 障害物競走、騎馬戦。その二つを制した緑谷は、そう語る。彼は、未だに競技において自分の"個性"を使っていない。だが、それも先の勝利を見据えてのこと。緑谷は自身にできるその場の全力をもって、ここまで勝ち上がってきていた。

 

「君に比べたら、些細な動機かもしれない。でも僕だって負けられない。僕を助けてくれた人たちに応える為にも。──さっき受けた宣戦布告、改めて僕からも。僕も君に勝つ!」

 

 緑谷はそう言い切った。射貫くように轟を見つめる顔には、大きく気合いが現れていた。

 

「……2人ともなんかスゲー重たい話しちゃってさ。俺が割り込む余地全然ないみたいに見えるけど」

 

 少しだけ、言葉に詰まる。後ろめたさを感じていたが、2人があれだけ話したのだ。自分も自分なりに応えるべきだろう。

 

「轟も緑谷もアレのため、コレのためって理由が大層だけどな。あいにく俺はそんな大した考えももってねえよ。自分が勝ちたい、そんだけ。……軽いと思った?」

「……」

「いやっ、そんなことないよ!」

「まあ、どう捉えるかはどうでもいいんだけどさ。でもそういう自分の力を全力で振るって、全力で楽しんで、全力で勝つ。別にそれで十分だろ?だって、俺の力なんだし」

 

 五条には五条なりの目的自体はある。だがそれをここで彼らに語るわけにはいかないし、体育祭で彼らに勝つこととその目的が直接的に結びついているわけではなかった。

 

「誰かのために動くだなんて、ごめんだね。俺の力は俺のためだけのものだ」

 

 ヒーロー科としては落第も良いところの発言。だが、今の場においては、その言葉は一つの立派な信念のように響いていた。

 轟はやや俯いて、小さく反芻するように呟く。その内心は、五条にはよくわからない。

 

「自分の、ため……」

「そうそう、だから二人の話聞いたところで勝ちは譲らねえから。……あ、そうだ。轟、知らなかったとはいえ、騎馬戦のとき悪かったな」

「……別に、大丈夫だ」

 

 あのとき知らぬ間に、特大の地雷を踏んでいたようだった。事情を知った以上、流石に一言かけるべきだろう。

 

 大丈夫。轟は、それだけ答えて、その場を去って行った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 その後、昼休憩も終わり、午後の個人戦の組み合わせのくじ引きが行われた。モニターに表示されたトーナメント表から、五条は自分の名前を探す。

 

(緑谷、轟は遠い。ぶつかるにしても片方だけ。それも決勝だ。それよりも先に……)

 

 モニターの右端へ視線を移動する。そこにある名前は"爆豪"。互いに順調に勝ち進めば、彼とぶつかるのは、準決勝だろう。

 

「先ばっかり見据えてそーだけど、私も負けないからねー!」

 

 他の名前ばかり見ていた五条に釘を刺したのは、芦戸である。彼女は、五条の一回戦目の対戦相手だった。あとなぜかチアの格好をしている。

 

「ハァ?冗談、俺が負けるかよ」

「あ、言ったなー!絶対勝つ!!」

 

 芦戸をさらりと受け流しながら、五条は左手の折った指を見る。

 包帯の巻かれた小指と薬指。洗脳の解けるのに必要な程度が分からなかったとはいえ、流石に2本はやりすぎたか。これは、個人戦にも少し支障をきたしてしまうだろう。

 

 リカバリーガールの治癒を受けた指は、概ね直りつつも、未だに軽い痛みは取れていない。……やはり、()()

 

(術式も、正直使いすぎたな。少なくとも準決まではセーブしないと。後はそこまでに……)

 

 頭の中で作戦を練り始める。ここからが本番だとも言えるだろう。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

『色々やってきましたが!!結局これだぜガチンコ勝負!!』

 

 あの後のレクリエーションも無事に終え、ついに最終種目が開始される。セメントスによって、スタジアムの中心には大きなステージが形成されていた。

 

『頼れるのは己のみ!ヒーローでなくともそんな場面ばっかりだ!わかるよな!!心・技・体に知恵知識!!総動員して駆け上がれ!!』

 

 1対1のガチバトル。相手を場外に落とすか行動不能、あるいは「まいった」と言わせることが勝利条件となっている。非常にわかりやすい、純粋な戦闘だ。

 五条は、自分の番が近くなるまで、他のクラスメイトと共に2階の観客席から他の試合を見守っていた。

 

 最初は、緑谷と心操だった。

 騎馬戦で心操が"個性"を使ったとき、緑谷は轟が引っ張られた隙に別方向へと逃げていた。つまり、心操の"個性"を知っておらず、結果的に挑発に乗って一度洗脳に引っかかることとなった。

 そのまま心操に操られて場外という直前になって、緑谷は"個性"を暴発させて正気を取り戻す。身体能力においては、緑谷の方が上である。一度"個性"に引っかかった緑谷は、二度と"個性"にかかることのなく、そのまま心操を場外へ押し出した。

 試合が終わった後「どいつもこいつも指をぶっ壊すのが好きなのか?」と心操は呆れながらぼやいていた。

 

 次の轟と瀬呂の試合は、一瞬で決着を迎えた。

 何かあったのか。機嫌の悪そうな轟は、瀬呂が短期決戦をしかけて来たのに対し、巨大な氷を形成することで真正面からそれを捻り潰していた。明らかに人一人に対してやりすぎなその攻撃に、瀬呂には自然とドンマイコールが掛けられていた。

 

 その次は、庄田と上鳴だった。

 物が何もないステージ上において、直接相手を叩く以外の攻撃手段が存在しない。そんな庄田に対して、上鳴は大いに有利を取っていた。

 禄に近づくことはできず、近づいても放電で動きを止められる。そうしてこの試合は上鳴の勝利で終わる。場外に放り出された庄田は、とても悔しそうな顔をしていた。

 

 お次は飯田と発目……なのだが。

 発目の提案でサポートアイテムを着用したのだという飯田は、試合中それらに振り回されっぱなしだった。発目はマイクを使い、自身の開発アイテムをサポート会社にひたすら売り込む。そんな謎の時間が10分間も続いた。

 試合自体は彼女自身が場外へ出たことによる飯田の勝利。自身を宣伝のために利用された飯田はカンカンに怒っていた。既に控え室にいた五条は、事の顛末を聞いて彼に深く同情した。発目被害者の会である。

 

 そして、来たる一回戦五試合目。ステージの上には、二人の選手が向かい合って立っている。

 

『あの角から何か出るの?ねえ出るのー?!ヒーロー科、芦戸三奈!!』

 

(バーサス)、横取りならお手のモン!!ヒーロー科、五条悟!!』

「なんだそれ」

 

 放送の言葉は五条にとって心外である。

 しかし、端から見ると五条の動きは、障害物競走でどさくさに紛れて2位となり、騎馬戦で緑谷と相対する轟に横やりを入れてそのハチマキを奪い取っている。連続1位の緑谷や、爆豪と轟と比べると、いまいちパッとしないのだろう。

 

 しかし、五条にとってはあくまでその場に合わせた動きをしているだけで、別に意図があるわけではない。地味とかそういうことじゃない。

 

「三奈ちゃん、頑張って!」

「五条やっちまえー!!!格闘ゲームみたいに服が破れる感じで倒せー!!!」

「クソかよ!!」

「芦戸さんと五条くんの対戦……。二人の"個性"から考えると、五条くんのバリアを突破しないとまず芦戸さんが勝つのは難しい……。でも、そのバリアは現在碌に弱点も見えないし、どうにか突破方法を見つけられないと……」

 

 盛り上がる観客席では、緑谷が分析を行っていた。

 彼の言うとおり、五条を倒すにおいて目下最大の壁となっているのが、無下限による防御であった。目立った弱点は見えず、発動しているかしていないかすらそもそも見た目ではわからない。バリアに穴があるかどうかすらも、よくわからないのだ。

 

 いくら五条の"個性"の見た目が地味とはいえ、観客の注目がトップに集中していた障害物競走とは異なり、騎馬戦での五条の"個性"使用はしっかり見られていた。故に観客は、そのバリアをどう攻略していくかに注目を寄せていた。

 

『スタート!!』

 

 開始の声が響く。と同時に、五条は芦戸に向かって走り出していた。呪力を込めた身体による全力疾走。

 常人を遙かに超える速度で迫るのに向けて、芦戸は自らの酸を弾のように飛ばす。しかし、そのどれもが五条の目の前で速度を無くし、空中に静止した。

 

『五条、芦戸の攻撃をものともしない!!』

「やっぱ効かんよねっ……!」

「戦闘訓練の時言ったろ!!忘れちまったか?」

「牽制ってやつだよ、っと!!」

 

 自身の攻撃が予想通り届かないのを確認した芦戸は、距離を取るために足下に弱酸を散らし、スケートを滑るように横に避け始めた。五条はそのまま芦戸を追いかける。

 ステージの上を無尽に走り回り追いかけっこをする二人に、会場のテンションは上がってきていた。

 

 しかし、その状態での芦戸がいくら速いとはいえ、それでも五条の方が速度は上だった。いずれ追いつかれる。

 そう悟った芦戸は、場外ギリギリの位置で立ち止まった。そのまま反転し、こちらへ向かってくる五条に向けて逆に走り始める。互いに激突してしまうような勢いだった。

 

『芦戸、一転引き返して五条の方へ!!反撃に出るかァ!!?』

 

 こちらに向かってくる芦戸の狙いは五条にはわからない。なにか考えていることには間違いないのだろうが、それが何であろうと問題は無い。五条はそのまま走り続けた。

 

 そうして2人の距離が残り数メートルまで縮まったとき、芦戸が強く地を蹴った。

 

「!」

『ここで、大ジャンプ!!!身体能力ヤベー!!!』

 

 大きく飛び上がった芦戸は、それまでの走る勢いそのままに、五条の背を超えて彼の背後に上から回り込む。そうしてそのまま上から五条の背中めがけて溶解液を振りまいた。

 だが、当然のように──。

 

「げえっ!!背後にも張ってんの?!」

「残念!」

 

 不可視で、何も通さず、運用に大きな負担も見当たらない五条のバリア。だからこそ、恐らく芦戸はバリアのどこかに穴があるはずだと思ったのだろう。そうして一番わかりやすいのが意識が向きづらい背後を狙うことだった。

 だが、五条の無下限は360度全てを常にカバーできた。プロヒーローもビックリのチート術式……いや、"個性"である。

 

 落下する芦戸の腕を、五条は掴んだ。そしてそのまま、場外へ向けて勢いよく放り投げる。

 芦戸の"個性"では、空中で動きを変えることはできない。彼女はあえなくリングの外に転がった。

 

『芦戸さん場外!!五条くん二回戦進出!!』

「こんなん無理ゲーじゃん!!バリアが強すぎるってー!!」

「まあね」

 

 芦戸が悔しそうに声を上げた。彼女の素の身体能力には少し驚かされたものだが、ただそれだけだ。五条は苦労なく彼女との試合を制した。

 

 滑り出しは順調。この調子で次の試合もいきたいものだ。五条はそう意気込んで、スタジアムから退場していった。

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