最強じゃない五条のヒーローアカデミア   作:せり

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19.雄英体育祭⑥

「!おつかれ、五条くん」

「おつー。相変わらず分析やってんなあ」

「これはまあ……癖で…………」

 

 試合を終えて再び観客席に戻ってきた五条に、緑谷は声を掛ける。その手にはヒーロー分析ノートとやらが握られていた。まったく、ブレないものだ。

 

「お、五条来たか!なあおめーあのバリアズルすぎだろ!!デメリットとかねえの?」

「えー?長時間使うと疲れるとか」

「……ちなみにどれくらい?」

「1、2日ぐらい?」

「余裕で体育祭終わるわ!!!」

 

 ツッコミが殺到する中、五条は知らぬ存ぜぬという顔で席に座る。ふとステージの方を見れば、そこでは切島と尾白が戦っていた。

 

「……ん、あれ?そういや俺の次の試合もう終わったの?」

「あ、そうだね。常闇くんが先手必勝で、八百万さんに"個性"を使わせる前に場外に押し出してたよ。ダークシャドウ……流石に一対一だと無類の強さだ……」

 

 五条の次の試合。常闇と八百万。勝負はすぐ決まったらしい。ということは。

 

「じゃあ、俺は次常闇か。……ダークシャドウねえ」

 

 常闇の"個性"。戦闘において汎用性の高いそれは、通常の生徒にとっては大敵となるのだろう。しかし、相手はこの五条である。無下限がある限り、どれだけ強かろうと攻撃は届かないのだ。そこに例外はほぼ無い。

 術式を温存したい今、バリアはこの時点では解かない。五条の負けは限りなく可能性は低い。

 

 ……ただ、常闇相手であれば、少し狙いたいものがある。試合を観戦しつつ、五条はぼんやりと頭の中で考えていた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 結局あのとき五条たちが見ていた切島対尾白は、近接戦を制した切島に軍配が上がった。五条もそうであるが、やはり近接戦闘において、相手の攻撃を恐れる必要がないというのは大きなアドバンテージなのだろう。

 

 そうして次に来た試合は、爆豪と麗日である。

 相手に触れることができなければ"個性"を発動できない麗日は、ひたすら突撃を繰り返すも、そのどれもを爆豪に迎撃されていた。絵面の酷さ故か、途中爆豪にブーイングが上がるなどはありつつも、麗日は上空に蓄えていた武器により、最後の突貫を行った。しかしそのとっておきすら、爆豪は真正面から打ち砕く。結果は麗日の行動不能による爆豪の勝利となった。

 

 こうして、全ての組の一回戦が終了した。

 初戦の心操と緑谷はともかく、ほとんどの組が大きな大番狂わせもなく、順当に勝ち上がってきた。しかし、ここからは第二回戦。一回戦突破の猛者たちが互いに争う、よりレベルの上がった戦いとなる。なにせ、初戦から優勝候補同士がぶつかるのである。

 

『今回の体育祭、両者トップクラスの成績!!まさしく両雄並び立ち今!!』

 

『緑谷(バーサス)轟!!』

 

 ステージの上で向かい合う二人。どちらも五条にとって馴染みの深い人物だ。

 正直、どちらが勝ち上がるかはどうでもよかった。ただ、二人の信念のぶつかり合いが、どういった結果に辿り着くか、少しそれが気になっていた。

 残念ながら五条は今観客だが、だからこそ、二人の戦いを見届けようと思ったのだ。

 

『START!!!』

 

 開始の声と共に、冷えた風が観客席を襲った。速攻を狙った轟の氷結を、緑谷がその"個性"で打ち砕いたのだ。警戒故か全力で"個性"を使用したその指は、痛々しく腫れ上がっていた。

 

 一本、二本。轟が氷結を放つたびに、緑谷の指が壊れていく。激痛を伴うそれを平気で行う緑谷は、まさしくイカれていると言える。通常であれば忌避されるその精神に、五条は肯定的だった。

 

(けどまあ、このままだと……)

 

 五条の懸念は間違いではない。手の指とは、たった十本しか存在しないのだ。やがてその時は訪れる。

 

 終わりだ。親指以外の全ての指が変色した緑谷に向けて、そう告げるように轟は氷結を放つ。

 迫る氷を前に、緑谷は────。

 

「どこ見てるんだ……!」

 

 来るはずのない衝撃が轟を襲う。見れば、緑谷は壊れた指で"個性"を使用していた。ただでさえ歪んだその指の形が、血を流しながらさらにぐちゃぐちゃになっていく。

 

「…………っ!!皆……本気でやってる。勝って……目標に近づくために……っ、一番になる為に!半分の力で勝つ!?まだ僕は君に傷一つつけられちゃいないぞ!」

 

「全力でかかって来い!!」

 

 叫ぶ緑谷の声が、まるで熱風のように観客席まで届く。

 その声音には、ただの言葉以上の何かが込められていた。それは挑発や怒りではない。純粋に、目の前の相手と全力でぶつかり合いたいという強烈な願いだ。

 

「……すげえな」

 

 思わず呟きが漏れる。五条は無意識にその背筋が伸びていた。

 緑谷の声に込められた気迫。それは、今はただの観客でしかない自分にさえ、何かを訴えかけるような強烈なエネルギーがあった。

 

 轟が緑谷に向けて走る。しかし、その足取りはどこか鈍い。見れば、体中に霜が降りていた。それを見逃さず、緑谷は思い切り懐に飛び込み、腹にその拳を打ち込む。衝撃で、轟が吹き飛んでいく。

 

「何でそこまで……」

「期待に応えたいんだ……!笑って答えられるような……カッコいい人に……なりたいんだ!!!」

 

 歪な形となった指から痛々しく血を散らしながら、緑谷は必死にそう叫ぶ。

 その言葉──信念に、すっかり場の空気は呑まれていた。

 

 相対する轟の動きからは、機敏さが失われている。緑谷の言葉に反発するように氷結を生成するその体には、明らかな震えが伴っていた。

 そんな轟を、緑谷は逃さず殴り飛ばす。必死に轟から勝利を奪おうと足掻く。

 

 その理由は違えど、両者ともに、その形相は必死極まるものだった。

 

「親父を────……」

「君の!力じゃないか!!」

 

 吹き飛ばされて立ち上がろうとする轟が、必死に自身に言い聞かせるように紡ぐ言葉を遮って、緑谷はそう叫んだ。場の空気は大いに震えていた。

 

 ──瞬間、苦しそうな顔から何かを思い出したかのように、轟はその表情を変える。顔や腕に張っていた氷は溶けて、彼の左側は────熱を帯び始めた。

 

『これは────……!?』

 

 半身を炎に包んだ轟に、満面とはいいがたくも、笑みが浮かぶ。相対する緑谷も、その口角が上がっていた。

 この時二人の交わした言葉は、観客席には分からない。だが、先ほどの笑顔から一拍おいて、彼らの最後のぶつかり合いは始まった。

 

 ────ただ呆然と、五条は二人の戦いに目を奪われていた。

 

 技や戦略を超えたその瞬間の熱量は、ただの観客という立場すら、自身に忘れさせるほどだった。目を逸らすこともできず、眼前の光景に全ての意識が引き込まれる。

 

 二人の試合が終わるその時まで。

 彼は言葉なく、ただその様子を見つめることしか出来ないでいた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 先の結末は、轟の勝利だった。

 試合終了直後、彼は呆然としたような顔でステージの上に立っていた。その内心の感情は、遠目に見ただけの五条に図り知れるものではない。

 

 続く飯田と上鳴の試合では、素早い動きで何度も放電を誘発させ、疲弊した上鳴の隙をついた飯田の勝利となったらしい。

 曖昧なのは、その時既に五条が控室に待機していて、後から試合結果を聞いたからである。

 

 ──そうして、第二回戦第三試合。

 

『それでは続いて行ってみよう!!互いに無敵に近い"個性"で勝ち上がってきた!!五条悟(バーサス)常闇踏陰!!!』

 

 五条は正面の常闇を見据える。一見、平静のように見えるが、その実内心では少しの焦りがあるのではないだろうか。

 

 芦戸との試合で見せつけた自身の無下限の守り。それを突破する方法を見つけられていないのだろう。それはそうだ、プレゼントマイクの言う無敵には、雲泥の差がある。

 五条はそう不敵に笑った。

 

『START!!!』

「ダークシャドウ!!距離を保ちながら迎撃だ!!」

「アイヨ!!」

 

 開始の声が響く。

 五条は先の試合と同じく、初動で常闇との距離を詰めにかかる。それを迎え撃つようにダークシャドウは、素早く前へ出た。

 

「グオォッ!!!」

(思ったより固えな)

 

 五条は、邪魔だと言わんばかりに拳に呪力を込めてダークシャドウを殴りつける。その攻撃に対し、ダークシャドウは呻きながらも、自身の陰の形を凹ませるように変えつつ受けきっていた。

 想像よりもダークシャドウが揺らがない。殴る前と後で常闇までの距離は大して変わらず、相手にとっての理想の間合いを保たれている。常闇が一番強い射程だ。

 

(なるほど、そりゃ大体に勝てるわけだ。シンプルに"個性"が強い)

 

 ダークシャドウ。相手への攻撃だけではない。牽制、索敵、防御、速度、範囲。どれをとっても優秀だ。しかしまあ、弱点が見えないわけでもない。

 

「防御の仕方があからさますぎる。相当近づかれたくないんだ?」

「……」

 

 五条はダークシャドウに引き続き攻撃を加えながら、軽い口調で煽るようにそう話す。

 

 常闇の弱点、それは接近戦だ。

 先ほどの全分野で優秀というのは、あくまで相手との一定の距離が空いている際に発揮されるもの。逆に言えば、その間合いより近ければ、そうではないと言うことだ。ダークシャドウと本体が近くなりすぎると弱いのだろう。

 

 また、現在の常闇の動きも全てを物語っている。

 彼は、五条への防御と迎撃に全てのリソースを割いていた。これは、近距離に近づかせないのと同時に、無下限の防御を破る術を見つけるために試行を繰り返すためだろう。現状、常闇が攻勢に出たとしても、その攻撃は全て五条に届く前に防がれてしまうのだ。

 何か、突破口はあるはず。そう考えてこちらの弱点を必死に暴こうとしているのだろう。

 

 全ては無駄なことだ。彼に術式のことはわかるまい。

 

 しかし、常闇の作戦は的を得ているとも言えた。五条が攻撃を受けないこととは別に、五条も現在常闇のところへ辿り着けていないのだから。

 この種目に制限時間は設けられていない。だが、こうもダークシャドウを殴ってばかりでは、"目的"の方も達成できなさそうだ。

 

(不定形の影だけだと、流石にほぼ無理だな。やっぱり本体を直接叩くべきか)

 

「……!?これはっ!!」

 

 ダークシャドウへの攻撃が続く中で、脈絡もなく突然常闇は五条の方へ身体を引っ張られた。自身を掴むものはいない。引力、間違いない。五条による「蒼」だった。

 

 常闇とて、警戒はしていたのだ。自身との距離を一瞬で詰めかねられない、五条による必殺技。だが、常闇が今まで見た五条の戦闘の様子から、その技は発動前に掌印を組むという行動ルーチンがあるのだと頭に刷り込まれていた。結果、ノーモーションの発動に対応が遅れてしまう。

 

 ダークシャドウを引き寄せて自身を守ろうとするが、それよりも接近の方が僅かに早かった。瞬きをした直後、常闇の目前には拳を握りしめる五条の姿がいた。

 

「ぐぅっ……!!!」

『顔面へ一撃ィィィ!!!これは痛いぞー!!!』

 

 左頬に大きな衝撃。回転する視界。五条の攻撃を顔に受けた常闇は、その場から大きく吹き飛ばされた。

 熱を帯びた頬と、痛みと、幾らかの目眩がありながら、それでも常闇は素早く正気を取り戻す。冷静に思考を回し、自身が場外に落ちそうな勢いで飛んでいることに気がついた。

 

「っダークシャドウ!!!」

「アイヨ!!」

 

 常闇の背後にダークシャドウが移動した。そうしてそのまま下の地面に爪を立て、ブレーキを掛けるように体の移動を減速させる。常闇は白線ギリギリのラインで留まっていた。

 

「やっべ、吹き飛ばしちゃった。しかも失敗だし」

 

 一方の五条は、攻撃を当てたことに喜ぶでもなく、やってしまったような表情と、何か期待が外れたようなガッカリとした表情とを浮かべていた。

 会心の一撃が入ったようなものではないのか。それとも他に狙いがあったのか?常闇はブレる視界の中でそう考えていた。

 

 ともかく、五条のミスもあって、再び二人の距離は空いた。常闇の最適射程だ。これなら、通常の肉弾戦程度であれば、また防御が行えるだろう。それに彼が引力の技を使用するということは、こちらにとってチャンスであった。

 

 五条は今までの戦闘の様子からして、あの引力の発生と、バリアは同時に展開できないようであった。彼がそうして攻撃しようとした瞬間であれば、こちらのカウンターも有効となるだろう。

 

 手痛い一撃を食らってしまったが、まだ自分は戦える。

 常闇はそう考えて、もう一度迎撃態勢に入った。今度は、すぐにダークシャドウを手元に呼び寄せられるようにして。

 

 一方の五条は、常闇の警戒する様子を見て、二度目は通じないだろうと予測した。仮に引き寄せられたとして、ダークシャドウで防御され、そのまま反撃を食らうことも想像に容易い。堅実に考えるのであれば、再びバリアを貼りつつどうにかダークシャドウの守りを突破するのが良いだろう。

 

 だが、()()()()()()()()()。勝つだけならどうとでもできる。しかし、今回やりたいことはそうではなかった。

 元々体育祭開始から狙ってはいるものの、未だに成功しない"それ"。準決勝、決勝の予想される相手の事を考えると、今ここで決めるのが一番だった。

 

 それに、次はできる気がする。()()()()、そんな気がするのだ。

 

 五条は再び「蒼」を発生させた。先ほどと全く同じ手順。当然常闇は対策を講じる。ダークシャドウを傍まで呼び寄せた。今度は間に合っている。

 

 五条は、僅かに攻撃のタイミングを遅らせた。先ほどより、二人の距離が近い。間に挟まれたダークシャドウは、殆ど常闇の体に沿うようにして、盾の役割を果たさんとしていた。

 

(狙いは腹か!……この攻撃!!これを防ぎきって、即座に反撃に移る!!)

 

 五条のパンチは、自身が直接食らうのは当然痛いが、ダークシャドウなら防ぐことができる威力だった。故に、胴体の防御を完全に固めた後、常闇は既にその後の反撃の方に思考を移していた。

 

 ────その、思考が、一瞬で吹き飛ばされる。

 

「が、はっ………!?!!」

 

 先ほどの攻撃とは比にならない衝撃が、全身を貫いた。その大きさのあまり、常闇は白目を剥く。口は大きく開いて、体全身の動きの制御が効かないような錯覚を覚える。

 ワンテンポ遅れて追随する痛み。激痛と言うよりは重たいと称すべきその鈍痛は、常闇の体力を削り切るにはあまりに十分な威力を持っていた。

 

 なぜ。

 明滅する意識の中で、ぼんやりとその考えが浮かぶ。衝撃の元は腹だ。ダークシャドウで、確実に守っていた箇所。まさか、防御を突破された、というのだろうか。

 

 大きく見開いたのとは一転、その後ゆっくり閉じていく瞼の隙間から僅かに見える景色。予想通り、五条の拳はダークシャドウで守っていた腹に当たっていた。

 読みは間違っていなかった。ならば自身は、何かを見落とした?

 

 常闇は、目の前の相手を見た。その顔には今度こそ笑顔が浮かんでいる。

 彼の蒼く光り輝く右目に映っていたのは、黒色の火花であった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

『常闇くん行動不能!五条くんの勝利!!』

 

 五条の拳を受けて気絶した常闇を見て、しばらくして主審であるミッドナイトの放送が流れる。決着を知らせるそれと同時に、会場全体から歓声が湧き上がった。

 

「相手がオマエで良かったよ。流石に俺が芦戸相手にぶん殴るのは絵面がアレだろ。爆豪みたいにブーイング食らうのもウザいし」

 

 力なく倒れ伏してピクリとも動かない傍らの常闇に軽く目をやりながら、飄々と五条は呟く。別に自分が女子を殴れないわけではなかったが、流石にこれだけ観衆の目がいる場でやるのはまずいだろう。

 

 そういう意味では、どれだけダークシャドウを殴ってもよく、ダメージ軽減もしてくれる常闇は、自分の目的を達成するのに良い相手だったといえるだろう。序盤の膠着状態の攻防も、回数を積んで意識を尖らせていくのに一役買っていた。

 

(しかし、それでも一発KOの威力か。貧弱な奴だったらワンチャン死んでんな。流石に黒閃は強えわ)

 

 "黒閃"。

 打撃との誤差0,000001秒以内に呪力が衝突した際に生じる空間の歪み。これは、その攻撃の威力を元の2,5乗まで引き上げることができた。常闇をダークシャドウの防御を貫通してノックアウトできたのは、この威力がゆえだろう。

 

 五条はこの黒閃を発生させるために、バリアを一時的にでも解除するリスキーな策に出た。それは、ただ五条が決着のための決定打にしたかっただけではない。

 欲しかったのは黒閃の副次的効果。これを打つことによる、その後の呪力出力の増加や操作精度の向上等の恩恵だった。要は、自己バフを積みたかったのである。

 

 しかし、その為に結局今回も「蒼」を使用した。

 "個性"とは異なり、術式由来の頭痛は短時間では解消してくれない。イレギュラーも度々起き、一日中ちまちまと術式を使っている五条は、既にその頭が重たくなりつつある感覚を感じていた。猶予は少ないと考えていいだろう。

 

 これでようやく次が準決勝。相手のことも考えると、もしかすると決勝まで体力が持たない可能性はあった。

 

「慎重に見定めるべきかもね」

 

 基本やりたいことは総取りが望ましいが、場合によっては妥協も必要になりそうだった。

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