最強じゃない五条のヒーローアカデミア   作:せり

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20.雄英体育祭⑦

「死ねえ!!!」

 

 罵声と共に連続して爆発音が響いた。まともに爆風を受けた切島が倒れていく。そのまま切島は動けなくなり、爆豪の勝利が言い渡された。

 

 五条は常闇との試合の後、観客席から再び観戦を行っていた。今見ていたのは、切島と爆豪の試合である。

 

 次に自身と戦うことになる爆豪。"個性"は爆破。手のひらの汗を元に爆破を行えるとのことで、シンプルで応用の利く強い"個性"だ。

 加えて、本人の戦闘センスがずば抜けている。爆破を空中起動に活かす繊細な操作や、相手の弱点を正確に突こうとしてくる動き。総じて戦闘力に関してはA組の中でも上位にあるといってもいい。

 

 だが、こちらには無下限の防御がある……そう言いたいところであるが、一つ問題があった。

 

 爆豪は基本三次元的な立体起動を得意としている。つまり、空中を飛び回ってこちらに攻撃を仕掛けることができるわけである。

 攻撃自体は無下限で防ぐことは可能であるが、かといって、それ以上は何も出来ない。空中にいる機動力の高い爆豪が、呪力操作のみの近接戦闘をさせてくれるとは到底思えないのだ。爆豪からの攻撃を防ぐと同時に、五条も相手に攻撃を与えられないのである。

 

 かといって、がむしゃらに「蒼」を使えば勝てるという話でもない。

 そもそも下手に「蒼」の引力で場外の方に引っ張ったところで、本人が空中を移動できるのだから、そのまま復帰されて終わりである。

 

 そもそも爆豪自身も「蒼」の警戒は当然するだろう。掌印なしでも普通に「蒼」を使うことが出来ると先ほどの試合で露呈した以上、前隙が多少あるそれは避けられる可能性もあった。

 何より、そうして無駄打ちをすればするほどこちらには疲労が溜まり、相手は寧ろ汗をかいてさらに機動力を増していく。「蒼」を打つこと自体に多大なリスクがあった。

 

 負けることはないとしても、ハッキリとした勝ち筋もない。正直言って、轟や飯田より幾分か相性が悪い相手だった。

 

 ……爆豪との戦いは準決勝にあたる。つまり、まだこの後に決勝も控えている。

 五条は作戦を迷っていた。ほぼ不可能と悟りつつも、安全を取りつつ相手に攻撃を与えられるチャンスを待ち続けるか。大いに負担がかかるであろう「蒼」の大量行使による短期戦でどうにか沈めるか。……あるいは。

 

 黒閃によって、頭の思考は明瞭に晴れている。しかし、五条がその結論を出せないまま、刻一刻と時間は過ぎていった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

『さあ、準決二試合目!こちらも緑谷(バーサス)轟と同様トップクラスの戦いだぞ!!五条悟(バーサス)爆豪勝己!!』

 

 答えを出すことが出来ないまま、その時はやってきた。五条と爆豪、両者が向かい合う。

 

「てめェには障害物競走も騎馬戦も順位抜かされとんだ。ここで完膚なきまでにブチのめしたらァ……」

「おーこわ。つーか抜かされたじゃなくて抜けなかった、の間違いだろ。何自分が上だと勝手に勘違いしてるわけ?自信過剰?」

「今俺が上に立つンだよグラサン野郎!!」

 

 互いに口が悪いせいだろうか。始まる前から醜い舌戦が始まった。

 五条も久々に伸び伸びと煽れる相手に会ったようで、スラスラと口から言葉が出てきている。やっぱり呪術師とは基本的に口が悪いのかもしれない。

 

『……あー。とりあえず始めるぞー。START』

 

 ヒーロー志望とは思えない二人の口の悪さに会場全体で静かにドン引きしつつも、プレゼントマイクが開始を告げる。同時に五条は走り出し、爆豪は空中に飛んだ。

 

(チッ、そりゃそうだ)

 

 五条は、無下限による安全策をとった。爆豪も当然想定済みのようで、五条の手が届かない空中を戦場の主体とした。そうして、すぐにこちらへと攻撃をしかけにかかる。

 

 爆破を利用した高速移動。即座に五条に近づいた爆豪は、その顔面へと爆破を仕掛ける。当然、無下限を貼っていた五条はダメージを受けていない。

 そうしてそのまま爆豪の腕をつかもうとするが、それよりも素早い動きで爆豪は離脱する。

 

(ヒットアンドアウェイ……煽ってんな)

「動きがトロぇわカス!!!」

「蠅みてえに上空をブンブン飛び回るよりはマシだろ!!」

「殺ス!!!」

 

 何度も爆豪側は攻撃のために接近を繰り返してくる。その度にあと少しというところで逃げられる。大方こちらを焦らして「蒼」主体の戦い方に切り替えさせるつもりなのだろう。流石に五条もその程度の煽りに乗るつもりはなかった。

 

 逆にこちらからも煽って相手の冷静さを欠こうとしているが、表面上の態度とは異なり、爆豪は無謀な突貫はしてこない。分かっていたことだが、爆豪が戦闘において相当頭が回るのは間違いないのだ。こちらの狙いも同様にバレていると悲観すべきかもしれない。

 というよりそもそも普段から大体キレ散らかしてるので内心が冷静かどうかなど、こちらには判別がつかないのだ。情緒どうなってやがる。

 

「クソビビりがクソバリアばっかり貼りやがって!!まどろっこしいんだよ!!」

 

 少しだけそうした膠着状態が続いたとき、爆豪の動きが変わった。

 五条に向けての突撃を止め、向かう先はステージ中央、その床。手にバチバチと火花を散らしながら、上空から垂直に突っ込んでいく。

 

「……テメェ!」

 

 超火力。ステージの床に向けて勢いよく放たれた爆発は、轟音と共にステージを叩き割っていく。それは中央からステージ全般に伝搬し、その形が崩壊を始めた。

 五条の立つ場所もその例外ではない。大きな爆風と、崩れゆく足場とで体が軽くフラついた。

 

 五条のそうした様子を気にも留めないかのように、爆豪はそのまま二撃目をステージにたたき込む。再び地面が揺れて、さらにステージはその形を崩していく。

 

(コイツ、場外狙いか……!)

 

 爆豪はステージを破壊することで、五条の足場を奪おうとしていた。爆豪自身は飛ぶことが出来るので、大してデメリットもない。

 対してこちらは、ただでさえ相手に攻撃が届かなかったというのに、その上移動まで封じられる。万が一、攻撃を受けずとも体勢を崩して場外に転げ落ちれば、結局それは負けになってしまう。それが一番最悪の想定だった。

 

 とりあえず、どうにかこれ以上爆豪の破壊行為を止めなくてはならない。そのためには、「蒼」を使うしかないが、生半可な威力では逃げられる。

 現状最大火力をもって、一発でコイツを場外に叩き付ける。そうすぐに決定し、五条は掌印を組んだ。

 

 再び爆破を行おうとしていた爆豪の少し離れた右側。そこに反応点を発生させるその直前、爆豪は突然斜め後ろに跳躍した。

 

「はっ?」

 

 少し遅れて「蒼」が発動する。引力に引っ張られ始めると同時に、爆豪はその方向へ爆破を行い、自ら反応点へ向かって加速した。

 そうして、「蒼」の中心に着くという直前、最も速度が上がっているその瞬間、大きな爆破を起こし、さらに速度を加える。

 

 あまりの速度に、爆豪の体は引力を振り切った。そして、向かうその先は。

 

(っ!!無下限、まにあわ──)

 

 加速した先には、術式を発動したばかりの五条。

 気づいた彼はどうにか無下限を貼ろうとするが、「蒼」の引力と自らの爆破を利用した爆豪の超スピードに、それは間に合わなかった。

 

「ぐ、っ……!」

『おおっと!ここでついに五条の無敵が破られる!!爆破を顔面に叩き込んだー!!!』

 

 接近した爆豪は、五条の顔面目掛け容赦なく爆破を行った。無下限を貼っていなかった五条は、その衝撃で顔が大きく仰け反る。その隙にすかさず爆豪は上から五条の後ろの襟を鷲掴み、強く地面に叩き付けた。当然ながらその手は掴んだままだ。

 

 そうしてさらに追撃を行おうとしたとき、爆豪は突然背後に体を引っぱられる。五条の「蒼」であった。爆豪がバランスを崩すと同時に五条は、呪力を体中に込めて全力で逃げ出した。体勢の崩れていた爆豪は踏ん張ることが出来ず、その手は離れる。

 五条はどうにか距離をとり、ようやく再び無下限防御を貼ることが出来た。

 

「……なんでわかるんだよ」

「てめェの狙いなんざ余裕でわかるわクソが!」

 

 爆豪には呪力が見えない。なので、「蒼」が発生したところで、実際引き寄せられでもしなければそもそもそこにあったことすら気づくことは出来ないはずだ。

 仮に自分の場外狙いの「蒼」発動が予測されていたとしても、左右どちらかなどといった具体的な位置は分からないはずだった。

 

 それがわかったのは、爆豪が五条本人も自覚のない行動の癖に気づいていたことが理由だった。

 「蒼」を使用する際、その発生の場所が全体的に五条から見て右側であることが多い。右側、五条の目が()()方。今回もそうなるかどうかに確信はなかったが、爆豪はその可能性に賭けて飛んでいた。

 それを知らない五条は、爆豪がなんらかの方法で「蒼」の発生位置を見破ったのだと考えた。そうして、これでは今後「蒼」は容易には使えないと結論づけてしまう。

 

 そうして彼に追い打ちを掛ける事実がもう一つ。

 先ほどの「蒼」、疲弊が重なっているとはいえ、やけに威力が乏しかった。爆豪に振り切られるくらいには。それさえなければ、仮に場所が読まれていても問題は無かったのだ。威力向上のためにわざわざ掌印まで組んだというのに、なぜだろうか。

 

 ふと、思考する五条の視界に左手の折れた指が目に入る。リカバリーガールの治癒を受けたとはいえ、()()()()()()()包帯が巻かれているその二つの指。

 思い出した。そうだ、あの"縛り"のせいか。

 

 しかし、爆豪という男、あまりに反応速度が速すぎて、捉えられもしなければその隙を見て反撃をされる。こうなると無下限も「蒼」も大して変わらない。

 強いていえば、無下限の方が危険は少ないが、それこそ先ほどの状態に戻るだけだった。ならば「蒼」で短期決戦を…………ええい、思考が堂々巡りをしている!

 

 どうにか考える、考えようとする五条の手に赤い液体が落ちる。気づけば、鼻の方に違和感があった。鼻血が出ているようだ。地面に叩き付けられたせいだろうか。

 

(…………出血)

 

 ……何を考えていたのだろう。

 自分は今、追い詰められているのだ。それなのに、未だに決勝とか先のことを考えてセーブをしてばかりで。今、負けそうな現実のことなど見えちゃいなかった。

 

(「全力でかかって来い!!」)

 

 頭の中で、そう轟に吠えた彼の姿が再生される。

 ……そうだよな、緑谷。遠くにある目標とかばかり考えて、力をセーブし続けても、何にもならないよな。俺が先に言ったはずなのに、すっかり忘れてしまっていた。

 

 先ほどの最大威力の「蒼」の影響で、既に本格的な頭痛が始まっている。残りリソースも僅か。

 決勝など遠い話は、一度忘れることにしよう。()()()()()には、ここが良い。

 

「やめだ」

 

 軽く一呼吸をして────焦りの表情が一変、突然笑い始めた五条がそう言った。

 

 彼は、体操着のポケットに手を突っ込む。そこからは、破損回避のためにしまっておいたのだろう、黒いサングラスを取り出した。既に軽いヒビが入っている。

 彼はそのサングラスを片手で持ち上げると、突然そのまま握りつぶした。パキパキとレンズが割れる音がして、あっという間に残骸へと形を変える。

 

『五条、突然自分のサングラスを破壊……?!ヤケ起こしたかァ?!!』

(…………何企んでやがる)

 

 爆豪には彼の意図が全く読めない。ただ、その瞬間五条の雰囲気が一変したように本能が感じとって、警戒を強めた。

 

 五条は粉々になったサングラスを捨て置いて、爆豪の方へ歩き始める。

 先ほどから変わらず笑うその顔は、どこかこちらを見ていなくて、何かに夢中になっているようだった。それを見た爆豪は、ふと轟を想起して、少し苛立ちを増す。

 

 五条が掌印を組んだ。

 つまり、彼は今バリアを貼っていない。再びの攻撃チャンス、すぐさま爆豪が突撃しようと空中へ飛び出した時、奇妙な違和感が頭をもたげる。

 

(手の形が、変わっている……?)

 

 違和感。それは掌印の形。

 普段五条が引力を発生させる際に組む掌印は、両手の指を互いに組み合わせ、手のひら同士を合わせているものだ。先ほどまでも、その通りだった。

 しかし、今は明らかに違う。両手ではなく()()()()。人差し指と中指の二本のみを伸ばして、何かを打ち出すような形だった。未知の技か何かだろうか。

 

 ……いや、問題ないだろう。

 そもそも、掌印を組むような技の時点で、ほぼ確実にバリアとの併用はできないはずだ。仮に新技であったとして、こちらに見えず避け方も分からない以上、直接五条を叩いて技のキャンセルを狙うのが一番手っ取り早い。

 

 爆豪はそう考えて、動きを止めることはなかった。爆破で加速を重ねて、先ほどまでとはいかずとも驚異的なスピードを持って、五条の方へ突っ込む。

 

「っ死ねえッ!!!」

 

 爆発音。トドメを刺す意図もあったのだろうか、物騒なかけ声と共に強めに発生させた爆発の後。爆豪の目の前には全く後退もしていない五条の姿が見えた。爆発を食らった顔が明らかにボロボロになっているのを見ると、バリアは貼っていなかったようだ。

 しかし、それでもブレることなく狂気が滲むような笑顔で立っている。

 

(こいつ、素で耐えやがった!!……チッ、一旦離だ、っ!!)

「……捕まえた」

 

 一度距離を取ろうとする爆豪の襟が、五条の空いたもう片方の手で掴まれた。そうして、逃げるのを阻止しようとするかのように、体ごと五条の方へと引っぱられる。

 

「────位相、波羅蜜、光の柱」

 

 爆豪が、その手を離させようと、爆破のために手を近づける。

 それまでの僅かな時間、周囲がまるで遅くなったかのように凝縮された時間の中で、五条は言葉を発していた。

 爆豪には、理解できない()()

 

「術式反転──────"赫"」

 

 ────二人の間で、不可視の赤色が弾けた。

 

 

【挿絵表示】

 

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