最強じゃない五条のヒーローアカデミア   作:せり

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今回残酷描写が強めです。ご注意をば。


21.雄英体育祭⑧

 雄英体育祭、個人戦。一対一の形式となるそれは、五条にとって稀有な機会だった。

 

 雄英高校ヒーロー科では、当然だが"ヒーロー"になるための訓練が行われている。つまるところ、たとえば救助訓練など、必ずしもその内容が戦闘訓練というわけではないのだ。ましてや戦闘訓練となってもチームを組むこともしばしば。個人の純粋な戦闘となると、意外にもほとんど存在しないのである。

 

 だからこそ、この機会に試してみたいものがあった。反転術式の応用である。

 

 伏黒甚爾の襲撃を受け、大怪我によって様々なものが失った五条が、唯一新たに手に入れた力。それを術式での攻撃に転用するのである。

 

 これは元々襲撃前から五条がやりたがっていたことでもあった。

 あの時はそもそも反転術式自体が出来なかったが、いざ出来るようになった今であれば可能性があるのではないか。そう彼は考えたのである。

 

 とはいえ、以前も言った通り、習得したとはいえ現在の反転術式の出力はあまりにも少ない。そのまま術式に流し込んだところで、技自体が成り立たないのがオチだ。

 

「じゃあ、少しずつ貯めれば良いじゃん。打てるようになるまで」

 

 体育祭の個人戦の、その然るべき時まで。術式を使用していない時、ひたすら反転術式によって反転させた呪力を貯め続ける。

 とはいえ、そのまま使うこともなく体に置いておくことは出来ないから、受け皿が必要だった。

 

 基本的にサポート科以外の科は、道具の持ち込みが不可能である。だが、五条にとって一つだけ会場に持ち込める道具があった。

 普段から身につけているそれ。五条はサングラスに縛りを掛けた。

 

『体育祭当日中に破壊する代わりに、それまでその一日の呪力を貯め込むことが出来る』

 

 サングラスを、呪力を貯め込む擬似的な呪具とする。元々ただの道具であるので、簡易的な縛りしか結べなかったが、十分役目を果たしてくれた。

 最終的に破壊することもあり、普段使いのサングラスを使用することは躊躇われた。故に体育祭の日だけ安物に変更したのだが、初手芦戸に感づかれるとは思っていなかった。気づかれたところで大して問題があるわけではないが。

 

 ともかく、縛りを結ぶことを体育祭より以前の日に決めた五条だったが、それだけではどうしても呪力量が足りないことにも気づいていた。そこで、二つ目の縛りである。

 

『今日一日呪力出力に制限を掛ける代わりに、自身で指定した時間に3分間だけ呪力出力を増幅させる』

 

 爆豪との戦闘で、途中「蒼」の出力が弱かったのはこれが原因である。貯まった呪力が足りずとも、その貯めた分を縛りで増やせばいいのだ。ダメ押しのように、黒閃でバフも行った。

 

 それでも。サングラスを破壊して、縛りで出力を増幅させて、掌印も組んで、術式の指向性も無くして、呪詩の完全詠唱まで行って。そうして五条は気づいてしまった。

 ()()()()()()、と。

 

 ここまでお膳立てして、面倒な縛りを幾重も掛けて、それでもまだ足りないというのか。自分の反転の余りの不甲斐なさに呆れと怒りが沸いて出そうであったが、それを飲み込み、五条は冷静にさらなる縛りを掛けることにした。

 

 自身を対象に課す縛りでは、その内容を報酬とその対価という形で構成することが多い。

 だが、基本的に多くの場合がその片方もしくは両方を抽象的なものとしている。こうする理由は単純で、縛りを成立させる為である。

 

 縛りの成立には、報酬と対価が釣り合っている必要がある。

 仮に両方に具体的内容を盛り込んだ縛りを発動しようとしたとして、それが不公平なものであれば、縛りそのものが不発に終わるのである。その為余程呪術に対して造詣の深い者でなくては、基本的に報酬と対価の両方に具体的内容の設定した縛りは作れないだろう。

 

 ただ、その片方のみに設定するのであれば、そこまでの練度を必要とはしない。

 メジャーなのは、対価に具体的内容を設定する方法である。これは呪術師にとっての縛りのリスクを明確にしつつ、不明確ではあるもののある程度のメリットを享受することができる。

 一方の報酬に設定する方法であるが、自身に降りかかる対価の程が分からないという多大なデメリットを抱えている。しかし、極めて限定的な目的完遂には有効となることがあるため、場合によっては使用することがある。

 

『少ない呪力で術式反転「赫」を発動する代わりに、()()()()()()()()()()()

 

 五条は後者を選んだ。少しの執念と、勝利欲。ただ、それ以上に五条の胸を満たしていたのはまぎれもない高揚感。

 自らの新しい力にあと少しで近づかんとするこの状況は、五条の心を大いに昂ぶらせ、ついには3つ目の縛りを掛けることを()()()()()()()

 

 勝利だけを考えるなら、出力の上がった「蒼」で爆豪を場外に放り出してしまえばよかったのだ。だが、それよりも、五条は自らの力の強化を、可能性に手を伸ばした。

 

 かくして、彼は望みのものを得たのである。

 

 ──────対価として、甚大な代償を残して。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 試合を見守っていた観客達は、皆一様に混乱と困惑に包まれていた。

 

 爆豪が五条に攻撃を加えたところまでは分かる。だが、その直後。五条が爆豪の体操着の襟を掴み自らの元へ引き寄せたその時、突然二人を中心に周辺のものが()()()()()()()吹き飛んだのだ。

 

 ただでさえ既に廃墟の様だったステージが、トドメを刺されたように破壊し尽くされ瓦礫の山へと姿を変えた。

 破壊の瞬間、ステージの破片が幾つか観客席まで飛んだ様で、運悪く当たって軽い怪我を負った者もいるようだった。突然の事態に、悲鳴とざわめきが広がり続けている。

 

 ()()()()()()起きたそれに、ミッドナイトやセメントスは反応できなかった。それでも冷静に切り替えて、現状把握、特に選手の二人の安否について確認を始めた。

 

 観客席の下側。スタジアムの内壁のそこに、大きな穴が二つ空いている。周辺には、壁を構成していたであろう大小の残骸が転がる姿。

 おおよそ対角線上に位置するそれぞれの亀裂には、直前までステージ上中央で戦っていたはずの二人が吹き飛ばされていた。

 

 一方にて蹲っているのは、その片割れである爆豪。

 彼は突然の衝撃を受け、ステージ中央から吹き飛ばされてきていた。あまりに一瞬な出来事に、爆破で衝撃を殺すことも出来ず、全身をスタジアムの内壁に強打した。

 持ち前の反射神経で、爆豪は咄嗟に受け身をとっていた。そのため、幸いながら命に関わる怪我にはなっていないようであったが、それでも所々から血を流して倒れている。また、五条の技を真正面から受けた顔と腕は、度々皮膚が剥がれて血が滲んでいた。

 本人のタフネスの賜物か、意識はあるようで「クソが……」と動かない体に小さく悪態を吐いている。悔しげな表情が、遠目でも読み取ることが出来た。

 

 そしてもう一方にいるのは、当然五条である。

 下手人の彼は、術式を発動させることに全リソースを割いていた。故に爆豪のように衝撃に備えることもなく、半端な姿勢で壁に激突していた。頭を筆頭に、至る所に出血が見られる。内蔵も損傷しているのか、口からも多量に赤い液体を流していた。この調子であれば、骨折もあるのだろう。総じて重傷と称して余りある惨状だった。

 

 だが、それ以上に本人の様子がおかしい。

 これだけの怪我を負って、多大な被害を会場にもたらして、それでも本人は笑顔だった。子供のような無邪気な笑顔。我ここにあらず、と血涙を流す掠れたその目が語っていた。

 

「で、でき、あ!やと、とkでき」

 

 言葉が上手く紡げない。舌が上手くうごかない。ろれつが崩壊してる。

 体が勝手に震える。痙攣?よくわからないがそうみたいだった。

 

 体がガタガタになって、脳みそもなんだかおかしくって、それでもこれは、あのときの全能感みたいだ。うれしくなって笑がおになる。あれ?左の口角がうまくあがらないな。

 

 ひだりがわがよく見えない。チカちカ、かけてるのかな。ひだり腕もいまいち、反応わうい。なんでだろ。まあいっか、いまはそれよりうれいいんだ!

 

「じゅちsき反て、で、イtあ!!ははは、は」

『……両者場外!!引き分け!!二人をすぐにリカバリーガールの元へ!』

 

 ……端から見れば、狂気そのものだ。ミッドナイトは最低限の主審としての役目だけ果たし、すぐさま救急の指示に入った。

 

 明らかに、おかしい。

 もしかすると、頭をぶつけて、それで脳に何らかの怪我を負った可能性もある。緊急性を有する事態に、ミッドナイトの背に冷や汗が流れた。

 

 しばらくすると、一般の観客の中にも選手二人の惨状に気がつく者達がちらほらと現れ始めた。ある者はショックで目を逸らし、ある者は悲鳴を上げ、中には放送事故だと動画を回す者まで現れた。最早、一大パニックであった。

 

「なんだ……これ……」

 

 その様子を見て、観客席のA組の誰かが呆然と呟く。皆一様に絶句して、何も口を開くことが出来なかった。静まりかえるその空間を、変化させる声が響く。

 

「助けなきゃ……!」

 

 それは、緑谷だ。この混乱の中、真っ先に口を開いた彼は、人を助けるということにおいては筋金入りの精神をしていた。

 

 だが、その緑谷自身も、混乱の渦中にある。それは、眼前に広がる会場の惨状。それを引き起こした張本人の、その姿を見たことが原因だった。

 

(……笑って…………)

 

 緑谷にとって、人を助けることは命を賭けることも出来るほどの強い信念である。彼の憧れるオールマイトを始めとしたヒーロー達は、皆強大な力を持ちつつも、それを人を助けるそのために使っている。

 

 ────では、彼は?彼は何のために使うと言っていた?

 

(「誰かのために動くだなんて、ごめんだね。俺の力は俺のためだけのものだ」)

 

 ナニカが根本的に違うのだと、緑谷は悟る。あの時、力の制御を競い合うと約束した彼は。轟と自分に対して勝利を宣言した彼は。

 

(まるで、()()()()()()()()()()ような────)

 

 どうしようもないまでの、価値観の相違。きっと、自身の信念とは相容れない。

 彼はそうした確信を、無意識に得てしまった。

 

 しかし、だからといって、緑谷は諦めるような人間ではない。当然彼は今後、五条という人間に対し、どうにか相互理解の道を探していくのだろう。

 だが今は、その結論を出せるほどの時間がない。緑谷は、そうした内心の混乱を沈めようと、無意識に自身の主軸である、「人助け」を行おうとした。

 

「怪我人の救助とか、今僕らにも出来ることが何かあるはず……とにかく、何か少しでも手伝えることを探さないと!」

「で、でも、この混乱だと勝手に動く方がマズいんじゃ……」

『……今手が空いているA組、及びB組の者に告ぐ。他の運営側のスタッフと合流して観客の誘導と補助を手伝ってくれ。観客席のプロヒーローたちも動いているが、現場にたどり着くまでに時間がかかる。君たちは初動を支援し、安全が確保されたら引き継ぐように』

「相澤先生……!っ皆、急ごう!!!」

 

 観客席のプロヒーローたちは既に救助に動こうとしていたが、満員の観客に阻まれ、移動や連携には時間を要する。統一された指揮系統もない状況では、運良く近くにいた者などでなければ迅速な対応は出来ないでいた。

 一方、ヒーロー科の生徒たちはクラスごとにまとまった専用エリアに座っており、選手である都合上出入り口からもその位置は近い。故に比較的動きやすい状況にあり、初動対応には適していた。

 

 そうして、しばらく狼狽えていたヒーロー科の者達だったが、相澤の放送を皮切りに、救助活動へと駆り出されることとなった。

 追加で警護担当のヒーロー達までもが緊急で招集され、しばらくの間、現場は対応に追われていた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 リカバリーガールは焦っていた。

 急激に増えた怪我人。元々このスタジアムの収容人数は幾らだったか。実際に負傷した者は、割合的にはそこまで多いわけではない。そして、その多くが擦り傷や打撲などの軽傷に留まってもいる。

 しかし、とてもじゃないがリカバリーガール一人で対応できる数でもない。彼女はすぐに、幾つか近場の病院へと応援要請を行った。

 

 問題は、運ばれてきた二人の重傷人である。

 

 爆豪は、全身、特に背面の広範囲の打撲に加え、腕と顔の裂傷、それから幾つか肋骨が折れていた。だが、奇跡的に臓器や血管の損傷はないようで、呼吸も安定している。

 まだ治癒と鎮痛剤の処方のみの、保存治療でどうにかなるだろう。

 

 もう一人の五条だが、……奇妙な状態となっていた。

 今は泡を吹いて気絶しているその少年には、なぜか試合直後にあった外傷が全く見受けられない。いつの間にか、流れる血すらも止まっていた。綺麗さっぱり、とまではいかないが、外見上はほとんど異常が消え失せている。

 だが、あくまで見た目の話だ。気絶するまでに見せた言動、身体能力を見る限り、内部に関しての不安は消えていない。

 

(左側の片麻痺、痙攣、言語障害、自制の欠如、…………これは)

「すぐに近くの頭部画像診断が行える病院へ運んでくれ!一刻を争う事態かもしれない!!」

 

 五条の怪我に関しては、到底この場の簡易的な医療器具では対応できるものではない。リカバリーガールの予想では、おそらく脳に何らかの問題が起きている。

 

 近くのロボット達が五条の搬送を開始する。リカバリーガールはそれを見つめていた。

 自身は、あくまで今回の体育祭の救護が仕事である。五条の怪我に関しては、外部まで付き添うことが出来ない。それが、なかなかに苦しかった。

 五条とは、半年ほどの付き合いである。それでも、内四ヶ月は共にいたし、五条の呼び方もあって、彼には愛着が沸いていたのだ。

 

 ただただ無事を祈るしかない。無力感のまま、リカバリーガールは杖を握りしめた。

 

「……っそ、がぁ……」

 

 ふと、弱々しい声が部屋に響く。見れば、既に治癒を施した爆豪のものだった。ここまで来て喋る元気が残っているとは。まだ全身が痛くて辛いだろうに、忍耐強いというレベルではない。

 

「いい、無理して喋らないで。ゆっくり寝ていなさい」

「っざけん、なや…………。お、れは……完膚なきまでの……一位……を……」

「…………」

 

 治癒を行ったとはいえ、肋骨が定着するまでは、安静にしていなければならない。少なくとも、今日一日はそうなるだろう。

 垣間見える、勝利への異常な執着。彼にとって、体育祭のこの結末はおそらく不本意なものとなるのだろう。…………いや、爆豪に限った話ではないか。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

『表彰式に移る前に、先ほど発生いたしました事故につきまして、雄英高校より皆様にお詫び申し上げます。今回、準決勝第二試合において、安全管理が行き届かず、その結果、観客の皆様の中から、負傷される方が生じる事態を招いてしまいました。皆様には多大なご迷惑とご心配をおかけしましたこと、心よりお詫び申し上げます。誠に申し訳ございませんでした』

 

 放送でそう告げるミッドナイトの顔は、明るいものではない。なにせ、雄英体育祭史上、内因的な理由でこれほどまでの事態が起きたことはなかった。

 若干客数が減った観客席からは、困惑の声が上がっていた。

 

「おい、アレって……」

「……スッカスカじゃん、表彰台」

 

 去勢を張るかのように流れる明るいファンファーレとは裏腹に、せり上がってくる表彰台に見える影は、たった一つだけ。1位の位置に元気なく立つ轟の姿だった。

 

『3位確定の飯田くんは、家の事情で早退。そして同じく3位と決勝戦進出を争っていた五条くんと爆豪くんは、双方怪我によってこちらも早退となりました、ご了承ください』

 

 いつになくミッドナイトの口調が真面目なものとなっている。だがしかし、観客にまで怪我人が出ている現状。下手な茶化しなどはできないのだろう。余計に空気が重たくなってきていた。

 

 形式だけだ。この体育祭を終わらせるためだけの表彰式。誰も、祝勝ムーブなどをする者もいない。あまりに寂しく、虚しい終わり方。

 

『それでは、メダル授与に移ります。今年メダルを贈呈するのは──』

『私が、メダルを持ってきた!!!』

 

 響いたのは場に合わない張りのある元気な大声。しかし、それでよかったのだろう。

 表彰台の前に現れたのは、オールマイトだった。その顔にはいつも通りの笑顔が浮かんでいる。若干鬱々とした雰囲気が漂うこのスタジアムの中で、彼だけが唯一輝いているようだった。

 

 しかし、依然会場の空気は暗いままである。その不安と困惑の顔を見回して、改めてオールマイトは真摯な表情でマイクを握り直した。

 

『……皆様!本日の体育祭では思わぬ混乱と怪我を招いてしまい、大変申し訳ありません。まずは負傷された方々に心からお見舞いを申し上げます。私たちヒーロー側も、今後一層の安全と指導に力を尽くします』

 

 彼の声は、先ほどまでの朗らかさに加えて、確かな真剣さが滲んでいる。場内は静まりかえっていた。

 

『雄英体育祭とは、未来のヒーロー達が力を示し、成長する場です。その力の使い方を学び、時に過ちを知り、仲間やライバルと切磋琢磨する場所でもあります。そして何より、──自分の限界や壁を知ることで、如何にそれを超えていくべきかを見つける場でもあるのです』

 

『若さとは未熟で、時に危ういものです。しかし!その未熟さこそが、成長の余地でもある。今日の彼らの戦いは、ただの失敗ではありません。彼らが力の重みを知り、次の一歩へ進むための大切な経験なのです!!』

 

 オールマイトの声の、迫力が大きくなっていく。会場はすっかり彼の雰囲気に飲まれつつあった。

 

『ヒーローへの道は、数々の失敗と試練を乗り越えた先にあるものです。だから今は、どうか彼らの未来を、成長を見守ってあげてください!!!』

 

『────彼らはきっと、最高のヒーローへと成長していきます』

 

 オールマイトが言い切って、数秒間の静寂が流れる。そうして少しずつ、パラパラとした拍手が広がり始めた。開会式の時と比べれば、あまりにおとなしいその音。だが、確かに暖かさのようなものが流れていた。

 

 しばらくそうして、オールマイトは改めて表彰台の方へと向き直った。そこには変わらず、浮かない顔の轟が一人立っている。その前へと立ち、手にした金メダルを静かに掲げ、オールマイトは話し始めた。

 

「……さて、轟少年。優勝おめでとう」

「…………」

「……君自身、納得のいく終わり方じゃなかったと、そう思っているんだろう」

「…………緑谷にキッカケを貰ってから、自分の今まで信じてたものが、よくわからなくなってしまいました。そうして、曖昧な意識のままいる内に、……決勝戦が不戦勝になった」

 

 轟は活気のない声で、淡々と続ける。

 

「元からあった信念も、後から迷った選択肢にも、どちらにもなりきれず、選ぶこともできなかった。……結局、体育祭で俺は何も為せてない」

「……そう悪く考える必要はないさ。むしろ、その緑谷少年との試合で、何か気づけることがあったんだろう?」

「……」

 

 オールマイトは穏やかな声色で、そう諭すように話す。

 

「悩むことは決して悪いことじゃない。君たちはまだまだ成長できる!これから先、沢山悩んで考えて、そうして自分なりの結論を出せればそれで十分だとも。今はそのスタートとして、この体育祭を考えたらいい」

「…………はい」

 

 そうして、オールマイトは轟の首にメダルをかけた。再び起きた穏やかな拍手が、二人を包んでいた。

 

『さァ、様々な要因もあって、今ここに立っているのは轟少年ただ一人だが、この場に立つ資格があったのは彼だけじゃない!!どの生徒も、それぞれの場所で全力を尽くし、素晴らしい戦いを見せてくれた!!!』

 

 再び観客席に向き直ったオールマイトは、声を弾ませて、そこにいる人々へと視線を巡らせた。彼の声が、広大なスタジアムの中を駆け抜けていく。少しずつではあったが、そこには確かに活気が戻りつつあった。

 

『勝った者も、負けた者も、全員が自身の力を試し、壁にぶつかり、そしてそれを乗り越えようとした!その努力こそ、未来のヒーローとしての一歩にふさわしいものだ!!てな感じで最後に一言!!皆さんご唱和下さい!!せーの』

 

『おつかれさまでした!!!』

 

 そこはプルスウルトラだろ。

 オールマイトに軽くヤジが飛ばされつつも、ここに雄英体育祭は閉幕を迎えたのであった。




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