最強じゃない五条のヒーローアカデミア   作:せり

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6.個性把握テスト

 個性把握テストは全8種目。ボール投げ、50m走、持久走、立ち幅跳び、握力、長座体前屈、反復横跳び、上体起こしである。

 この中で、長座体前屈以外の種目は、シンプルな呪力強化の恩恵を受けることが出来る。

 

 クラスの面々が次々と競技を行う姿を見ている限り、おそらく"個性"が強力でもそれを生かす事の出来る場面は限られる。大半の者の"個性"より、呪力は汎用性が高い。五条がこのテストで最下位になることはまずないだろう。

 

 ただ、あくまで全員がそうでないというだけで、1位になれるかといえばそれはまた別の話だ。呪力強化による全体的な平均値の底上げは出来ても、無下限術式を用いた方法がとれる種目は少ない。

 ボール投げや立ち幅跳びなどに引き寄せる反応が使えるのではないかとも思ったが、前者はそれよりも普通に全力で投げた方が良さそうであるし、後者は制御を失敗すれば五条自身の体が吹っ飛びかねない。

 

 純粋な身体能力強化のみでは到底敵わない特化した"個性"持ちが一種目に少なくとも一人はいるはずだ。各種目の1位はとれない。

 

 脳が出したその結論が気に入らなかったのか、五条の眉間には軽く皺が寄っている。理屈ではしっかり理解しているのだが、どうも感情ではあまり納得がいかない。

 このテストにはそれぞれの個性によって向き不向きが大きく異なる。だからといって、「これは負けてもいい」などと捨て置くのはまた違うことだ。

 たとえ不向きなことであっても、全力で頑張ったらどうにかなるだろう。五条はそう捉えてやる気を入れ直した。

 

 つまるところ、根性論というやつである。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 第一種目である50m走は、何事もなく終了した。五条は呪力で身体能力を向上させ、A組の中でも上位の成績を残していた。

 

 そして、第二種目。握力。五条には秘策があった。

 「蒼」は引き寄せる力。握力計の仕組みからして、無下限術式を生かすチャンスになるのではないかという予想。たしかにボール投げや立ち幅跳びで使えないとはいえ、いや、寧ろ使わないことで現状の全力を持って呪力のコントロールに臨める。

 術式を有効に使えるチャンスはここだけ。自身のプライド的にもどうにか一種目くらいは絶対に1位をもぎ取りたいと五条は息巻いた。

 

「すげぇ!!540キロて!!あんたゴリラ!?タコか!!」

「タコって、エロいよね………」

 

 クラスメイトの一人である、普通の人間とは大きく異なるシルエットをした男──障子が大記録を叩き出したのが五条の目に映る。

 実のところ、呪力を使用しての握力測定などしたことがないのでどこまでいけるかは不明だが、一先ずあの記録を超えることを一つの基準とするべきか。

 

 気を取り直して五条は握力計を持つ右腕に呪力を込める。まずは基礎的な筋力の向上である。限界まで強化された右手で思い切り握力計を握りしめた。この時点で通常の人間に出せる力を優に超えているが、ここからが本番である。

 

 五条は握力計を握る手の指と平との間に極小の「蒼」を発生させた。この時点では特に対した影響はない。そこから段々と五条は出力を上げていく。

 

 少しでも制御を失敗すれば握力計はおろか、近くの五条自身の手も無事では済まない。細心の注意を払い、慎重に慎重に呪力操作を行う。

 握力計はその反応点に引っ張られ、その画面の計測値はどんどん上昇していった。そうしてこれ以上は危険だというギリギリの出力まで迫った後、数秒おいて腕の力と術式との両方を消した。

 

 五条は深く息を吐く。だが休む間もなく握力計を今度は左手に持ち替える。左、それからもう一度左右どちらも。計三回、先ほどと同じ事を繰り返さなくてはいけない。一度だけでも相当気力がいるものだった。改めて五条は気合いを入れ直す。深く集中する。

 

 無事に同じ様に三回行い、一際大きく息をついた五条はようやく自身の記録を確認する。握力計の画面に映っていた数字は1000と幾らか。障子の結果を大きく超えることが出来たようだ。

 

「1000キロ!!?1tかよ、すっげえ!」

 

 そんな声が横から響く。横に振り向けばいつの間にか金髪の少年が五条の横にいた。

 

「誰、オマエ?」

「上鳴電気!よろしくな!」

 

 そう軽やかにあいさつする上鳴に、五条も同様にあいさつと自己紹介とを返したところで別の方向から大きな声が響いてくる。

 

「八百万、5t?!!!ヤッベー!!!」

 

 振り返れば、ポニーテールのクラスメイト──八百万が信じられない記録を出したようであった。彼女の傍らには、油圧バイスが置かれている。恐らくアレで握力計を挟んだのだろう。

 しかし、このテストにおいて道具を使っているというのは、つまるところあのバイスは八百万の"個性"によるものだろうか。本人のピンピンした様子を見ていると、構築術式持ちの術師が相当羨ましがりそうである。

 

「あー、まあ、なんだ。………………ドンマイ!!」

「うるせぇ」

 

 思わずそちらを向いたまま固まっていた五条に対し、横の上鳴が励ますように声をかけてくる。褒めたばかりの手前気まずくなったのだろうか。そんな言葉に対し、余計なお世話だと拗ねたように五条は悪態をついた。

 

 折角一位をとろうと奮起して行ったのに、あっさりと記録を越えられた。僅かな苛立ちから五条の眉間に再び皺ができる。この種目で駄目であれば他などもっての外である。

 さあ、どうするか。五条は体育館の天井を見上げて考えていた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 第三種目。立ち幅跳び。

 

 五条は本来この競技を呪力による身体強化のみで済まそうとしていた。無下限を使うことも出来るが、前にも言ったとおり制御を失敗して最悪大けがする可能性があったためだ。

 しかし、握力で一位を逃し、内に秘めたモヤモヤな気分をどうにか払いたかったがために急遽予定を変更した。腹いせのようなものだ。きっとどうにかなる。

 

 出席番号が一つ前の口田が飛び終えたのを確認しながら気持ちを集中させる。

 事前準備が妙に長い五条のことを、クラスメイトたちは何かすごいことが始まるのではと期待を込めた目で見つめている。

 実のところ、彼らには五条の"個性"がどういったものなのか、まだよくわかっていない。そのことも五条に対する注目を加速させていた。

 

 自身の周囲に誰も人がいないことを再度確認し、五条は飛ぶために大きく腕をふりかぶる。そうして何度か前後させた後に大きく両足で地面を蹴った。

 呪力で強化された脚力によって空中に投げ出された体は、それだけでも常人から大きくかけ離れた結果を叩き出せそうであった。だが、五条はその程度の記録に興味はない。

 

 空中に飛び出した五条は素早く掌印を組む。その瞬間五条の体が斜め上に勢いよく引き寄せられる。前方に出現した「蒼」によるものだ。

 出力操作は想定範囲内に収まった。「蒼」出現位置も角度的に問題ない。上手くいった。そう、大半は五条の思うとおりに上手くいったのだ。

 ただ、問題があるとすれば。

 

 ──五条の視界に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()か。

 

「っっっだぁ゛!!!!」

 

 想定されている着地用の砂場の範囲を大きく超え、その先の通常のグラウンドの地面に盛大に不時着をかます。

 なまじ術式で勢いづいていた体は着地の際に数メートル引き摺られ、特に露出していた肘より先の手は、呪力強化にも関わらず軽く擦り傷がついている。

 

 無下限で体を守れればよかったが、記録を伸ばすことばかり考えすぎて「蒼」との併用が出来ないことが頭から抜け落ちていた。いや、そもそもまず着地についてろくに考えていなかったこと自体が問題か。勢いのみで突っ走った弊害である。

 

 全身の軽い痛みにまだ起き上がったばかりの五条に対し、クラスメイトたちは大丈夫かと心配して駆け寄ってくる。五条はだいじょーぶーと気の抜けた声を返しながら、ゆっくり立ち上がった。

 

「大丈夫って……。いやでも勢いヤバかったぞ!!ホントに大丈夫かよ?!」

「一応保健室とか行っといた方がいいって!」

 

 しかし、それでもなおクラスメイトたちは心配をやめない。

 五条には、そんな彼らの様子が、少し()に見えた。だがそれは、いままで五条自身がこのように心配されるような立場でなかった故の、ズレに対する違和感ゆえのものだろう。

 そういえば、六眼を半分無くすまではこんな擦り傷程度の怪我を負うこともほぼなかった、と五条は想起する。

 

 これを弱くなったと捉えるか。はたまた周囲の人間に近づいたと捉えるか。どちらかなどという思考は五条の頭の中にはなかった。しかし、本人も気づいていない無意識下で、彼らの心配に僅かに喜びを感じていることだけは確かだった。

 

「五条、怪我は大丈夫か。あまり無理をしすぎるな」

「うん、平気。ちょっとヒリヒリするくらい?でもこの後のテストにも大して影響ないと思うわ」

 

 自身の問いかけにもそう問題ないと返す五条に、相澤は先ほどの盛大な事故の様子を思い出して本当かと訝しんだ。

 雄英入学の際に提出された個性届によれば、五条の"個性"は身体の強度を高めるものとは書かれていなかった。先ほどの事故で大きな怪我をしていてもおかしくはない。

 

 しかし、実際の怪我の様子を見てみれば、確かに負傷は軽微に留まっている。

 相澤は軽い違和感を頭に抱えつつも、たいした怪我が無かったことを喜ぶべきか、と一度区切りをつけた。テスト後に一応リカバリーガールに見てもらえ、ということだけ伝えられ、五条は個性把握テストをそのまま続行することとなった。

 

 なお、実際のところ、個性届に書かれている五条の"個性"は、五条が中途半端かつ適当に自己申告したものとなっているため、相澤が違和感を覚えるのは当然の話であった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 反復横跳び、ボール投げと順当に競技をこなしていく五条だったが、少し気になっていることがあった。同クラスの緑谷のテストの様子である。

 

 今までの4種目をこなしている様子を見ていても、一向に"個性"を使う様子がない。素の体は鍛えられているのか、普通の人間としての記録としては悪くない結果が出ているが、逆に言ってしまえば、そこまでだった。

 入試試験の尖った結果からして中々ピーキーな"個性"なのではと予想しているが、ここまで音沙汰が無くては流石に異常なのではないだろうか。

 

 緑谷の顔を見れば、そこには焦りの表情が浮かんでいる。

 それも当然だろう。テストはもう半分を回っている。他の者たちが全部とは言わずとも、少なくとも何かしらの種目で自身の"個性"を生かし、大きく記録を伸ばしているのだ。ここら辺でどうにか大きな記録を出しておかなければ、除籍は緑谷になってしまう。

 

 緑谷もそれを把握しているのか、焦りの中に決意したような顔が若干表れている。恐らくこのボール投げで何かしらするつもりだろう。緑谷を心配するように見る他のクラスメイトと似た様に、五条は緑谷の競技の様子を観察していた。

 

 緑谷が大きく腕を振りかぶる。ボールを持つ手に力を込め、足を踏み込み、そして勢いよくボールを投げる。

 全力で投げたのだろう。何か"個性"を使おうとしていたのも表情で読み取れていた。だが、それらとは全く反比例するように。

 

「46m」

 

 無慈悲な声がグラウンドに響いた。

 

(使わなかったのか?……いや、違うな)

 

 五条は少し驚いていた。この場面で必ず緑谷は"個性"を使用してくると思っていたからだ。まだ何か使わない理由でもあるのかと考えたが、立ち尽くす緑谷の、青ざめたような顔を見て、そういうわけでもなさそうだと考えを改めた。

 

「"個性"を消した」

 

 呆然とする緑谷の横から声が飛ぶ。そちらを見れば、重く降りていた前髪を上げた相澤がいた。その視線はずっと緑谷から外れていない。

 

「つくづくあの入試は……合理性に欠くよ。おまえのような奴も入学出来てしまう」

「消した……!!あのゴーグル……、そうか……!抹消ヒーローイレイザーヘッド!!!」

 

 緑谷が言ったそのヒーロー名に、五条は聞き覚えがなかった。だが、そこまで有名なヒーローというわけでもないようで、他のクラスメイトたちの中でも反応はまちまちなようだ。

 

 彼らの会話を聞いた限りだと、相澤は"個性"を消す"個性"を持っているようだ。緑谷のボール投げの記録がああなったのも、個性が消されたためだろう。

 

 あの"個性"は、術式には効くのだろうか。

 流石に"個性"とは全く系統が異なるモノであるから、効く気はしない。ただまあ、術式の無効化にはいい思い出がないので本当に効かないでくれるとありがたいのだが。

 

 脳内でそんなことを考えている内に、なにやら相澤と緑谷の話は終わったようで、緑谷が二球目のボールを手に円の中に再び立っていた。俯いていて表情は窺えず、何やらブツブツと呟いているようである。

 相澤に何を言われたのかは知らないが、以前緑谷の状況が崖っぷちであることに変わりはない。アイツは一体どうするのか。五条は無言で緑谷を見ていた。

 

 緑谷は再び投げる体勢へと入った。踏み出した足、振りかぶる腕。どれも一度目と全く同じようなものだ。

 ──だが、表情だけは。以前の焦りや向こう見ずな様子というよりは、何か模索するような、最適解を最後の最後まで掴もうとするような、そんな執着が表れているようであった。

 

「SMASH!!!!!」

 

 空気を切る音と共に、一瞬にして緑谷の持っていたボールが遙か空へと消える。衝撃で周囲に強風が発生し、五条も反射的に顔の前へと手を動かす。

 

 再び目を開け緑谷の方を見れば、その右手の人差し指が歪み痛々しい色に変色しているのが目に入る。五条はその指の状態に既視感があった。

 入試試験の時に満身創痍で倒れていた緑谷。その左腕以外の四肢が大きくひしゃげていたのが、今の緑谷の指とそっくりなのである。

 

 五条はようやく合点がいった。入試の時の大怪我も、このテストで"個性"を出し渋っていたのも、そういうことだったのだ。

 

 前からのちょっとした疑問点が晴れて、少しスッキリした気分の五条の前を人影が横切る。派手な爆発音と共にそのまま緑谷へと向けて突進していくそれは、爆豪だった。

 

「どーいうことだこらワケを言えデクてめぇ!!」

「うわああ!!!」

 

 相変わらずの口汚さのままそう叫ぶ爆豪。その異常にキレ散らかした様子に五条は、そういえば緑谷の一投目の前に"無個性"のザコだのなんだの言っていたことをボンヤリ思い出した。なにか勘違いでもあったのだろうか。

 

 そのまま緑谷に殴りかからんとする爆豪の動きが布のようなもので止められる。どうやら相澤の捕縛武器とやらによるものだった。爆豪の"個性"は当然のように消されている。

 そのまま、相澤が場を収め、再びテストが再開された。爆豪は何かをかみ殺すような、納得のいかない顔をしていた。

 

 そうして残りの持久走、上体起こし、長座体前屈も特に大きなこともなく終了し、ついに結果発表の時間が来た。どうやら結果は一括で開示されるようだ。

 五条の予想では、恐らく緑谷が最下位である。というか、ほぼ確定だろう。ボール投げでいい記録を出したとはいえ、それ以外の種目では結局大して記録は伸ばせていなかった。

 

 仕方がないこととはいえ、これで別れだとなると、短い間ながらも惜しく感じてくる。反動の大きいその"個性"を初めとして中々悪くない奴だった。

 

「ちなみに除籍はウソな」

 

 感傷に浸っていた五条の思考をぶった切る様に、相澤の爆弾発言が投下される。

 

「……………、!?」

「君らの最大限を引き出す、合理的虚偽」

 

 軽く笑いながらそう話す相澤に、五条たちは思わず叫んでしまった。

 

「「「「はーーーーーーーーー!!!!??」」」」

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