「良いじゃないか、皆!カッコイイぜ!!」
グラウンド
先ほど周りより若干遅れてきた緑谷の様子も見えたが、五条からしたらいまいちダサいと言わざるを得ないコスチュームだった。本人の性格的にこういうものは何かこだわりがありそうなので、何かしらの感情が籠もってはいるのだろうが。
全身を白いアーマーで覆った生徒、もとい飯田がオールマイトに質問を投げかける。
「先生!ここは入試の演習場ですが、また市街地演習を行うのでしょうか!?」
「いいや!もう二歩先に踏み込む!屋内での
そうしてオールマイトは詳しいルールを説明し始める。「
ここまで聞いたところで飯田がもう一度質問をする。
「2対2に別れるとのことですが、A組は21人。奇数で一人余りが出てしまわないでしょうか!」
「良い質問だ、飯田少年!確かにこれから分けるチームには一つだけ三人のところがある!だがそこは人数分ある程度ルールにハンデをつけてなるべく公平にするつもりだ!さ、早くやろっ!!」
出席番号順になってくじを引いていく。早い段階でペアが決まった者もいれば、相方が現れるのをまだかまだかと待つ者もいた。出席番号がちょうど真ん中ぐらいの五条が取り出した紙には、「E」の文字が書かれていた。
「Eって誰ー?」
「あ、こっちこっちー!」
そう適当に声をかけてみれば、すぐに大きく手を振る姿が五条の目に映る。見ればピンク肌で白目と黒目が反転し、触覚のようなものが頭から生えている、なんとも人間離れした見た目の女子生徒が笑顔でこちらを手招いている。
その隣には金髪で照り輝くマントを翻す男子生徒もいた。たしかこないだのテストでヘソからビームを出していた男だ。
しかし、そうなると。五条は二人に近づきつつ話しかける。
「もしかして三人チーム?」
「多分そう!私、芦戸三奈!!よろしくね!」
「僕は青山優雅、よろしく☆」
「二人とも「あ」から始まるって出席番号はっやいね。あ、俺五条悟」
まだ、他のチームが決まり切っていない内に既に集まった三人の会話は弾む。
「そーなんだよ!番号が1,2番で二人ともEだからさ、もうこれで決まったと思い込んでた。結果的にはさらに一人増えてもっと賑やかだね!!」
「まぁ僕さえいれば何人だろうと素晴らしいチームにな……」
「三人のが絶対おもしれーよな」
「それでもやっぱり僕がいると……」
「うんうん、だよねー」
そうして話していると、ようやくチーム分けが終わったのか、オールマイトの声が響いた。
「続いて、最初の対戦相手はこいつらだ!!……Aチームが「ヒーロー」!!Dチームが「
色の違う箱から取り出されたボールにはそれぞれA、Dと文字が載っていた。それぞれのチームを見てみれば、Aは緑谷、麗日、Dは飯田、爆豪の組み合わせだった。
(緑谷と爆豪って、たしか……)
相当仲が悪かったはずだ。五条は二人の表情を窺ってみるが、位置も悪くどちらの顔もよく見えない。ただ、少なくとも何やら緊張状態であるような、どこかひやりとするような空気感を感じる。
第三者の五条ですらそう思うほどなのだから、当事者の内ではどれほど擦れているのか、それはもう計り知れない。
そのまま五条たちは地下のモニタールームへ向かう。大量の画面には緑谷たちが待機している様子が映し出されていた。どうやら向こうの音声はこちらには聞こえないようで、彼らが恐らく作戦を話し合っているようでも、その内容はわからない。
"個性"的に直接的な攻撃手段を持たない麗日と、使えばその分反動が大きく諸刃の剣の緑谷。相手と比べれば不利としか言いようのない彼らが、はたしてどうやって立ち回っていくのか。五条を始めとしたクラスメートたちの目は皆画面に釘付けだった。
「それでは、Aチーム対Dチームによる──屋内対人戦闘訓練、
そうして、オールマイトの開始の声が響いた。
それからの展開は怒濤だった。
折角の組み合わせ有利も作戦もかなぐり捨てたような爆豪による奇襲から始まり、Aチームは二手に。核を見つけるも膠着状態となった麗日と飯田の二人とは裏腹に、ビルの下部では度々轟音が響いた。
緑谷と爆豪。相変わらず現場の音声は聞こえなかったが、彼らは戦いの途中たびたび何かを叫んでいる様子だった。それはまるで子供の口喧嘩のようだった。
この戦いは、結局"個性"を核奪取のために使った緑谷の機転によって、Aチームの勝利となった。"個性"の反動か、緑谷は気を失い救護室に運ばれていった。
終了後の講評途中、戦いの際の苛烈さとは大きく変わり、俯いて一言も話さなかった爆豪の姿が、五条の印象に残っていた。
***
「それでは次の試合の対戦相手を発表するぞ!!……Eチームが「ヒーロー」!!Fチームが「
最初の試合からいくらか試合が行われた後、ついにその時はやってきた。
「お!ついに私たちの出番か!!頑張ろうね!!」
「フフ……僕の華麗さを見せつける時が来たみたいだね」
「それは知らねえけど。とにかく、待ちくたびれたぜ」
Eチーム、つまり五条たちの番が来たのである。三者三様にやる気の満ちた様子で、待機のために地上へと階段を上り始めた。
一方のFチームである砂藤、口田は彼らのそんな姿を見ながら後に続いていく。その目には、特に口田の方は、いくらか不安げな表情を除かせていた。
「っていうわけでとりあえず核の前まできたわけだけどよ。……どう考えても不利だよな、俺ら」
そう言う砂藤の言葉に同意するように、口田は首を縦に振る。
全試合唯一、3対2となる今試合。事前にオールマイトから特別ルールについては聞いていた。
今回はヒーローチームの数的有利であるため、彼らに不利になるようにいくらかハンデが作られている。まず制限時間が12分まで短縮されること。それから、
しかし、それらのハンデをもってもどうしようもない問題というのはある。
「あいつらが三人全員で真正面から来られんのが一番キツい。シンプルに数の有利で押されるしな。ていうか余程気をてらうでもなきゃ多分その作戦で来るだろ。いやマジでどうすべきなんだろうなコレ……」
一人多いというのは相手方の最大のアドバンテージである。いくら制限時間が短くなろうと、素早く突破されてしまえば何の意味もない。
加えて先日のテストで見た限りだと、3対2で余裕で勝てるなどと言えるようなほど"個性"的有利があるわけでもない。砂藤は頭を抱えたくなった。
そんな彼の肩を口田がつつく。振り返れば、何かを思いついたような口田の顔がある。
「……なんかいい作戦があるのか?」
口田は再び首を縦に振る。一度目とは異なり、僅かな力強さを芯から滲ませて。
***
「私の"個性"はねー、体から溶解液を出せるんだ!ほら、こんな感じにっ」
「ふーん、いいね。中々強そう」
「ああっ!!!僕のマントが!!」
「あれ?かかっちゃった?ゴメンね」
一方Eチーム。ビルの外で大気中の彼らは、ゆるゆるとした雰囲気のまま、互いの"個性"の紹介をしていた。それはそうだ、Fチームが危惧していたとおり、作戦など立てなくとも、勝てる可能性が元々高いのである。
「じゃあ次俺ね。自分の周りにバリアみたいなやつ貼ったり、ものを引き寄せる反応作ったり、身体能力向上させたりとか、いろいろ出来るよ」
「えっ、めっちゃ強くない?すごい万能じゃん」
「長時間使うと頭痛がするとか欠点、はあるけどね」
「なるほどなるほど……。それで、青山は?いじけてないでさー」
「ネビルレーザーが、だせるよ……」
「ネビ……、ああ、ヘソか。めちゃくちゃ拗ねてんじゃん。どうすんの?芦戸」
「私もここまで落ち込むとは……。青山、ゴメンってば」
「マント………」
「ダメだ五条!!これ多分ずっと根に持たれるヤツだ!!!」
緊張感の欠片もない会話は続いていく。
「ともかく、これで三人とも紹介し終わったな。まあ"個性"的にも問題ないし、最初に考えた通り三人で正面突破でいいか」
「さんせーい。あんまり作戦考えるとか得意じゃないしよかったー」
「僕も賛成」
「よっしゃ、じゃあそういうことで」
戦闘経験のない二人はともかく、何度も呪霊と戦った経験ある五条までもがこのような始末なのは、ひとえに彼がこの訓練を舐めているからだった。正確に言えば、負けることがないと確信していた。
最強のアイデンティティが崩れたとはいえ、現状であってもA組の者達と比べると実力的にはかなり高いままだ。そして五条も、そのことにハッキリと自覚を持っていた。
他者との実力差を正確に測ることが出来るのは良いことだ。そこからおおよそどちらが勝つか予測を立てることも。通常であれば、それで事足りるのだから。
しかし、今回の戦闘訓練では、そう単純な話にはならない。五条はそれに気づいていなかった。そのズレは自覚のないミスという形となって姿を現していく。それを彼らが経験するのは、僅か数分後のことであった。