英雄の末弟と英雄を目指す白兎   作:ケツアゴ

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エステルとフレアが好きなキャラでした

アンギルタンとデルガドも


迂闊

「あの、アイシャ様。少しご相談が……」

 

 そろそろ客を呼び込む時間帯、後輩達を引き連れて男を漁りに行こうと思った時に話し掛けて来たのは色んな意味で目を離せない妹分の春姫だった。

 

 一応娼婦……なんだけれど男の鎖骨見ただけで気絶しちまうポンコツだ。

 その癖、夢の中ではバッチリ経験済みなのはムッツリなのか追い詰められているのか……。

 

「どうせ『運び屋』の事だろう? さっさと話せ」

 

「ええっ!? 何故お分かりにっ!?」

 

 そんなポンコツ娼婦の此奴だが、ちょっと気になる男が出来たんだから驚きだ。

 

 見抜かれて驚いたのか口元に手を当てているが、分からいでか、って奴さ。

 何度も話をする為だけに来ているので他の妹分達の間で何時手を出されるかって賭けの対象になってる注目の新米冒険者。

 

 ダンジョンの奥だろうが一瞬で行き来出来るって魔法の持ち主で、イシュタル様が興味を持って近付いたと思ったら、ちょっとだけ不機嫌になりながらも手を出さずに戻って来ちゃったんだ。

 

 神への認識としちゃ間違ってないが面倒臭い、だって言ってたが、あの誇り高い女神を下がらせるとか変わった奴だねえ。

 

「じ、実はギル様ともう少しお近付きになりたくて……」

 

「そうかい。恥ずかしさで失敗しない様に目を閉じて誘惑すりゃあ良いさ」

 

「その胸で頭を挟むとか? 服は無しで」

 

「裸で出迎えなさいよ。それで私を食べてとでも言えば?

 

「薬でも盛って……あれ? 動かない……」

 

 他の妹分たちも続けて色々言ってやるが、正直面倒だってのが全員の本音だ。

 欲しいんなら迫れば良いってのに。

 

 急に動かなくなったから顔の前で手を振っても反応無し。此奴、この程度で気絶してやがる。

 

「おーい。誰かこのウスラトンカチを部屋に放り込んでおきな。『運び屋』が来るなら素っ裸に剥いて……無駄か」

 

 この場の全員が頷いて同意する。歓楽街に来てそれなりの頻度で金を落とす癖に膝枕をしてもらうのが精々な奴だ。

 素っ裸にして放置してても手を出せないだろ、絶対。

 

「にしても急に相談とか大胆になったもんだよ」

 

「多分ディアンケヒトの所の団長と仲が良いって聞いたんじゃない? 寝取られるかも、とか心配してたし」

 

 あの噂ね。借金があるからとも言われちゃいるが、ダンジョンで一緒に採取したり治療院で一緒に働いたりしてるとは聞いてるよ。

 

 あの魔法とディアンケヒト・ファミリアが持つ医療系としての影響力を考えれば知らん振りは出来ないだろうさ。

 

「せめて添い寝してから言えって言っときな。キスすら未だとか餓鬼の恋愛ごっこじゃないんだ」

 

 色々な意味で目を離せない妹分……その一番重要な部分を考えりゃ一度位は経験してても良いんじゃないかと思うんだけれどね。

 

 夢の中でさえ体の関係を持たない相手との恋愛ごっこに夢中になる馬鹿に真実を教えてやるかどうか、ちょっとだけ迷うものだねぇ。

 

 

 

「今更ですが“リルビー”とはどんな意味だったのですか? 私みたいな者の事だって言っていましたが……」

 

「小柄で可憐って意味ですよ?」

 

 今日はアミッドとダンジョンでの採取の約束をした日、だから近くに神が居ないのは助かったが、思わず敬語になっちまった。

 

 えっとな、昨日ミアハに指摘されて間違いを知ったんだが、アミッドって種族的な特徴で小さいんじゃなくって普通に小さいヒューマンだったんだな。

 

 童顔だし小さいんで最初はリルビーなのかって聞いちまったが、どう伝えるべきか。

 

 いや、エルフとハーフエルフみたいに迫害の関係じゃないから大丈夫か?

 

「いや、小人(パルゥム)だと思ってた」

 

「成る程。かの種族への蔑視はしていませんが要するに私をチビで童顔だと思ってた訳ですね」

 

 あっ、怒らせた?

 

 腕を組んで背を向ける姿に失敗を悟るも時既に遅しって奴だ。困った、どうすれば……うん?何か震えてねえか?

 

 肩を押さえてプルプルと震えて、次に前屈みになって口元を押さえる。一体なんだと思う暇もなく、聞こえて来るのは吹き出した音。

 

 

「ぷっ! あははははは! い、一体何時になったら言い出すのかと思ってたんですよ? ギルさん、ちょくちょく私の種族を間違っている風の事を言ってて、普通に合わせてたのに」

 

 うん? あー、成る程。前からバレてた訳ね。うん……言えよ!?

 

 色々と言いたい事は多いんだけれど、悪いのは俺なので何とも言えない。なんだろう、このモヤモヤした感じは。

 

 この大陸の常識を完全に理解していない俺はタブーに触れているんじゃないかと心配している時があるんだが、それを既に相談しているってのに、この友人はっ!

 

 してやったりとドヤ顔をしているアミッドの額を軽くペチンとしてやろうか迷うも、グッと堪える。当のアミッドはニマニマと笑みを浮かべ、至近距離から俺を見上げている。

 

 あっ、爪先立ちなせいでプルプル震えてるよ。無理すんなって。

 

 

「ええ、ですが私としても思う所がありまして……一緒に買い物に行きましょうか。勿論支払いは貴方持ちですよ?」

 

 え? 俺って何を買わされるの?

 

 オッタルからもらった素材なんだが、実は換金出来ずに倉庫に放り込んでいる状態だ。リヴェラで換金するの良いんだが、それでも大金になる。

 リヴェラへの配送の料金は公開していないが、あの量を一気に換金するのは不味い。

 

 弱小ファミリアに大金が転がり込んだ、なんて狙って下さいと喧伝するのと同じだからな。

 

 ……俺がアミッドに手を貸すのも借金の負い目って事にしておけば手を組む事への警戒を減らせるからローンは今まで通りに返すってミアハ達と話して決めた。

 

 借金完済の援助をするって近付く奴が警戒して動き出した敵だと判断出来そうなのもある。

 

 いやさ、それにギルドが俺の魔法が便利だからってファミリアへの税金をあげるっつってんだよ。あの豚エルフふざけんなって!

 

 あと、頻繁に行ってる娼館の料金が割と馬鹿に出来ない。会いに行ったら春姫が喜んで出迎えてくれるし、膝枕されながら話をするのが本当に楽しいんだ。

 

 

 

「……別に良いが加減は頼むぞ?」

 

 うん、だから急な出費は痛い。薬品の材料を採取で節約しても売れるかは別だし、二人じゃ調合出来る数にも限度があるしな。

 

「いえいえ、値段を気にしてケチケチしていては駄目な物ですから」

 

 なので一応頼んだが駄目か……。

 

 値段を抑えていたら駄目な物? 一時期姉ちゃん(そう呼ばされていた)になったヴァイライラとヴェアリアリの二人は姉貴に服とかアクセサリーで着飾らせたがってたが、そんな所か?

 

 まあ、友人へのプレゼントと思えば? 普段の仕事上、多分着飾れないだろう。調合や治療を考えれば邪魔になったり汚れたり、そんな理由で着飾れないし、他に回す為と節約している可能性を考え、俺は受け入れる事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……買い物って装備か。それも俺の……」

 

「当然でしょう? 少し無頓着過ぎます。……素手でダンジョンに潜り続けるなんて心配させる真似は止めて下さいね?」

 

 やって来たのは服や装飾品の店、それか食い物かと思いきやバベル内部のヘファイストス・ファミリアの店舗。

 それもファミリアの名を刻む事を許された団員じゃなく駆け出し中の職人の装備が置かれた場所だ。

 

 なーるほど、俺って普段着と素手で潜ってるからな。

 

 旅の最中は魔法を使うのが主で、ナックルを補助武器にしていた。姉貴は竜破っつーう強い剣を洞窟で見付けてからは愛用しちゃいたが、俺はそんなに拘りが無かったからな。

 

 どうも俺みたいに拳主体で戦う奴は少ないらしく、大型のモンスター相手に戦うなら武器も大きくなって行くのは分かるんだが……。

 

 慣れてるから支給品すら着けずに潜っていたが、友人が心配するのは当然か。

 

 

 うわっ、恥ずかしい。

 

「流石に殴った相手を麻痺させたり魔力を封じたりする力は無いか」

 

特殊武装(スペリオルズ)、いえ、呪武器(カースウエポン)じゃないですか。そんなに普通に売っていませんよ?」

 

「そうなのか……」

 

 鍛冶屋に頼んだら普通にその効果付けてくれたけれどな、防具に防ぐ機能も普通に。

 

 だが、こっちの大陸ではそうは行かないらしく絶対に壊れない武器とかは可能らしいが……。

 

 メタルラビットの素材を使ったらしい軽防具に軽く触れてみるが、少し力を入れたら壊れそうだ。

 壊して買い取りは勘弁だな、職人に失礼だし。

 

 ナックルの代わりにナックルガード付きのガントレッドも付けてみたがどうもしっくり来ない。

 

 いや、アスカロンと一緒にしちゃ駄目なんだろうけれどよ……。

 

 迷宮に何故か配置された宝箱、オルファウスさんによれば古代の戦士達から無限のソウルを持つ有能な後輩達への置き土産らしく、相性が良ければ普通に出会えるが、縁が無ければ何度同じ場所に行っても出会わない。

 

 尚、罠付き。強いモンスターだって出る事もあるから解除に失敗すれば普通に死ねる。

 

 そんな宝箱で見付けた愛用の武器も今じゃ実家で埃を被っている状態だが……。

 

 所で無限のソウルって結局何だったんだ? マジでさっぱりだし、皆揃って普通に言ってるから逆に聞けなかったじゃんかよ。

 

「うん? こっちの品は割と良いな」

 

「それ、ですか……?」

 

 幾つかの品を見て回ったが、気になったのは隅の方にポツンと置かれた品だ。

 無骨なデザインのガントレッド……まあ、俺からすればこの程度の素材製は有っても無くても大きな違いは無いんだが見た目が良いのと着け心地も悪く無い。

 

 アミッドが戸惑ってるのは名前が理由みたいだが……。

 

「セラの奴が持ってた日光……月光だっけか? アレみたいに相手の精神にダメージを与える効果とかあれば面白いんだけれどな」

 

 まあ、魔法が苦手な彼奴じゃ威力はお察しだけれども。

 

 それでも技術の発展で大きな分岐があったのかそれらしい物は見掛けない。

 もっと上の鍛冶屋に品の店なら置いてるか?

 

「あら、少し興味深い話ね」

 

「主神殿がそう言うなら本当の話か。よし! その話、手前にも聞かせてくれ!」

 

 俺の話が気になったのか話し掛けて来たのは眼帯の女神と眼帯の色黒な女、多分鍛冶屋だな。

 デルガドの爺さんが言うのは職業病みたいな物らしいし。

 

「これはヘファイストス様と椿さん」

 

 ああ、この女神が主神で、女……椿の方は結構強いな。単純な力だけなら豊穣の女主人の店員より少し上か?

 

 聞いてみれば団長であり、試し斬りの為にダンジョンに潜っているらしい。

 

「此方の視察に来てみれば興味深い話が聞こえてな。状態異常のエンチャントとやらもお主の大陸では普通なのか? 実に興味深い」

 

「ちょっと椿、落ち着きなさい」

 

 主神の方は少し興味深いって程度みたいだが、椿の方はグイグイと前に乗り出して至近距離で食い気味だ。

 金と素材出せば普通に打ってくれていたが、マジで技術体系が違うんだな。

 

 早速向こうで話せとばかりに腕を引っ張られる。勿論行く気が無いから軽く足に力を入れれば動かないんだが。

 

 あー、何か懐かしいな、この状況。姉貴が面倒に巻き込まれてイザコザに誘われて、俺と兄貴が止めようとするんだよな。

 

「む?」

 

「ちょっと待って下さい。彼は私と買い物の最中なのですが?」

 

 そんな事を思い出しているとアミッドが俺の腰に手を回して引っ張って止めようとして来る。

 ちょっとだけ不満そうなんだが、もう少し恥じらいを持たないか?

 

 人前で抱き付くとかどうかと思うぜ? 悪いのは椿だけれど。

 

「ほほう。これは失敬。逢引き中であったか。野暮な真似をした」

 

 パッと手を離した椿だが、今度はアミッドを弄る方向に舵を切ったのか目線を合わせながらもニヤリと笑っている。

 ゼネテスの同類だな、この女。真面目なアミッドじゃ相性が悪そうだ。

 

「いやいや、ついにお主にも春が来たか。うむうむ、これはめでたい」

 

「なっ!?」

 

 ほら、餓鬼みたいな煽りに負けて口をパクパクさせて固まってしまったし、何なら俺にくっ付いたのも我に帰ったらこうなるんだろうに。

 

「悪いがその辺にしておいてくれ。アミッドも落ち着け。友達として装備選びに付き合ってくれただけって言えば良いだろ?」

 

 ヘファイストスの方に視線を向けて椿をどうにかしてくれと頼んだら溜め息と共に彼女の腕を掴んで引っ張った。

 

「ほらほら、行くわよ。お客様の邪魔をしないの」

 

「仕方無いか。だが、話への興味は尽きぬから今度お邪魔さえてもらうぞ!」

 

 俺の手を離した椿はヘファイストスに引っ張られるままに店の外へと出て行き、暫しの沈黙の後でアミッドも我に帰ったのか俺から離れる。

 

「んっんー。今の事は忘れる様に。良いですね?」

 

「あっ、はい。……俺、あの女苦手だわ。取り敢えずこれを買って何か食いに行こうぜ。奢るから好きな物言えよ」

 

 うん、疲れた。あの手のタイプ苦手だわ。なのに多分ホームまで来るんだよな。

 

 目立っている上に店だからホームの場所は割れてるだろうし、考えるだけでも疲れが押し寄せる。

 これならリザードデヴィルの群れでも相手にしている方がずっとマシだぜ。

 

 

 

「何でも好きなのをって言ったのに露天で良かったのか?」

 

 買い物後、邪魔になるから装備をホームに置いて出向いたのはバベルとギルドの間の大通り。

 露店が軒を連ね、ダンジョン帰りで気が大きくなった冒険者を待ち構えている。

 

 命懸けで金を稼いで腹が減った時に漂う食い物の香り、懐が暖かくなった時に眼にする装飾品等々、日々の必要経費なんて忘れて財布の紐を緩めてしまうもんだ。

 

 そんな露店を軽食を口にしながら見て回るのは悪くないんだが、もう少し普通の店でも良いんだけれどな。

 

「いえ、こういうのも楽しいですよ? ……どちらにしましょうか」

 

 今はクレープを食べ終えた所で並べられたアクセサリーを見ているんだが、アミッドは赤と青の二種類の髪飾りを手にして悩んでいる。

 

 姉貴は装飾品とかは特殊な物以外に興味無いって感じだったが、ルルアンタとかエステルはこういうの見るの好きだったよな。

 

 

「……ちょっと悪いな」

 

 アミッドの手から二人とも取り上げて店主に金を差し、二つとも手渡す。

 

「ほら、今日付き合ってくれた礼だ。じゃないと俺の意思で行ってないだろうし」

 

「ですが……いえ、大切にしますね」

 

 そうしてくれたら俺としても嬉しい、そんな風に伝えた時に急に周囲に広がるざわめき。

 

「なにやってんだ、あの馬鹿」

 

 ざわめきが広がり始めた方を見ればベルが赤い液体を周囲に飛び散らせながら笑顔で向かって来ていた。

 頭から足の先まで真っ赤で、周囲の状況なんて気にしていない様子。レアモンスターからドロップアイテムでも出たのかと問いたいご機嫌っぷりでこっちに向かって来る。

 

 

 なので足を引っ掛けて倒した。

 

「へぶぅっ!?」

 

 おーおー、派手にスライディングしたな、おい。

 

 刻まれたばかりでも恩恵持ち、それが全力で走ってる所で足払いだ。結構な勢いを乗せて前にぶっ飛んだベルは勢いを殆ど殺せないまま顔面から着地、そのまま結構進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「主神殿、確かあの男はランクアップしていない筈だな?」

 

「ええ、最近オラリオに来た筈よ。検問だって受けているし間違いないわ」

 

「……手前は最初は軽くだったが、それで動かんから少し力を入れたのだ。それでも微動だにせんがな。佇まいもそうだが、普通の下級冒険者とは何かが違うぞ」

 

 

 

 

 




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