英雄の末弟と英雄を目指す白兎   作:ケツアゴ

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試練

「神様……。僕、強くなりたいです……」

 

「ベル君っ!?」

 

 ベルを夜中のダンジョンに連れ込んだ翌日、歩く気力すら無くなったのを背負って帰るとヘスティアが慌てた様子で出迎えた。

 飯食いに行くって出掛けたのが朝帰りだ、そりゃ心配する筈だ。

 

 夢中になって鍛えてたからな。伝言だけでもしに行けば良かったか?

 

「ギル君、何があったんだい!?」

 

「酒場でロキ・ファミリアの酔っ払いがベルの事を馬鹿にしたら奮起した様子だったし、俺の連れだった第一級冒険者の強さを体験してもらおうと思ってダンジョンに向かったんだが……」

 

 うん、最初は椿の戦いを見せつつ、浅い階層で戦いながら軽く指導する予定だったんだが、間近で自分は到底敵わないモンスターを圧倒する姿に目をキラキラさせてされて

 

「どうせなら経験値を稼ぐ為に格上に挑もうってなって。防具着けてないけれど、俺の魔法なら欠損以外は治せるし……」

 

「何をやってるんだい!?」

 

「悪ノリ?」

 

 うん、そうとしか答えられないな……。

 

 

 

「えっと、此処って……」

 

「十一階だ。余り離れるなよ? ほれ、やって来た」

 

 周囲は霧が立ち込め、大型モンスターが出現し始める階層。疎に生える木もモンスターの武器になる。

 今のベルのステイタスじゃ普通に死ねる場所、朝から適正な階層で戦って溜まった疲労と今の装備を考えれば挑むなんて馬鹿の行いなんだけれど……。

 

「む、無理じゃ……」

 

「おいおい……お前が憧れた英雄ってのは困難を前に逃げ出すのか?」

 

「っ!」

 

 一度決まった覚悟だが、先ずはと手本を見せている間に揺るぎ掛ける。別に良い、無茶と無謀と蛮勇を勇気とはき違えるのは命を無駄にする行為だよ。

 

 まあ、それはそうとして無謀な目標の為には死線を越える必要が有る訳で、死んだら駄目だけれど瀕死程度は問題無いよな?

 

 ベルの覚悟が決まった辺りで現れるのはオーク。木を武器にしようと手を伸ばした辺りで俺の蹴りが左目を抉り取った。

 そのまま落下のついでに右腕をへし折り、着地と同時に足払いで左足を潰せば初心者育成用オークの完成だ。

 

「まあ、多分何度か骨が折れて皮膚を突き破ったり内臓がやられたりするけれど、換えのナイフは用意しているし瀕死でも俺の魔法なら一瞬だから。……もうちぃっと簡単な方が良いかい?」

 

「いや、良いよ。やる!」

 

 良い覚悟だな。冒険って呼ぶにはちょっとばかり簡単だが、冒険ごっこと呼ぶには少しだけ厳しい。

 新米用の研修メニュー初日って所か、冒険者体験コースってのが妥当だろうさ。

 

 迷わずナイフを構えたベルの為、周囲のインプやらシルバーバックやらも似た様に弱らせて行けば、見ているだけで良かった筈の椿も参戦し始めた。

 

 俺が打撃でへし折るのなら椿は手足の腱を切り裂き、逃げ出せない様に回り込む。

 

 おっと、ベルが殴り飛ばされて血を吐きながら宙を舞っているから【キュア】と。

 

「頑張れよ。即死じゃないなら欠損以外は無事だなんて贅沢、本当の冒険じゃ味わえないぜ?」

 

「う、うん」

 

「良い返事だ。じゃあ、一匹に慣れたらインプとか追加な。取り返しの付かない状態以外なら、心が死ぬか朝になるまで続行だ!」

 

「……うん」

 

 二度目の返事は少し元気が足りなかったが、俺は気にせずに初心者コースの準備に勤しむ。

 

「おっと【キュア】」

 

 さてと、体力も魔法でどうにかなるが、どれだけ倒せるもんかね?

 

 俺も弱い頃は姉貴と一緒に迷宮に篭ってモンスターと戦い続けたっけな。

 なーに、困難を越えれば確実に成長出来るのが神の恩恵なんだし、それに比べれば簡単簡単。

 

 

「お主、やはり普通の下級冒険者ではないであろう?」

 

「おいおい、検問の検査だって通ったし、アビリティの成長だって全然なんだぜ? 多分数字は別の方が上だぜ? 俺はちょっとばかり鍛えてるだけさ」

 

「……作業のついでに話の続きは頼むぞ?」

 

 ファミリア間のステイタスに関する詮索は厳禁だ。椿は少し訝しみながらもそれ以上の言及はせず、結局朝が来るまでベルは何度も瀕死の重症を負いながらも復活の度にモンスターへと向かって行く。

 

 

 

 

「それで朝になったって訳。流石に終わりだって言ったら気が抜けたのか気絶しちまった」

 

「うん、本当はお礼を言うべきなんだ。だから最初に言わせてくれ。ベル君が助かった、ありがとう。それはそうとして….本当に何をしているんだい!?」

 

「……悪ノリ?」

 

 昔の自分を思い出して気合いが入っちまった、反省はしている。必要なら繰り返すけれども。

 

 まあ、防具無しにあれだけ攻撃喰らったんだし、多分耐久の成長が途轍も無い事になってそうだな、うん。

 

「本当は俺にナイフの教え方の知識があったら良かったのにな。それと新しい武器が必要だと思うぞ。椿が一応新人向けのをくれはしたけれど……」

 

「そうか。うん、タケの方に何とかお願いしてみるとして、武器の方は……」

 

 流石にやり過ぎたので、今後半年の間は月に一回程度ならタケミカヅチ・ファミリアの治療をしても構わない事だけを伝えてヘスティアとは別れる。

 

 ああ、倒したモンスターの魔石とドロップアイテムは渡しておいたぞ。担当アドバイザーへの説明は知らん。厳しい人だと聞いているし、頑張れ。

 

「もう朝か……」

 

 その気になれば連日連夜戦い続けた冒険者時代、農夫に戻ってからは規則正しい生活を心掛けていたのにも関わらずの今の生活。

 戦い続ける体力はあるけれど体は習慣として睡眠を欲している。

 

 なら、帰って寝よう。起きたら帳簿を軽く見て、その後で飯を作る。最近は新薬の研究に夢中らしい主神と団長の為にも調合には関われない分の働きを示したいものだ。

 

 それとだが、仮にも一晩中戦いとは呼べないまでもモンスターを倒しつつ魔法を使い続けたのだし、少しはステイタスが成長しても良いのではないのか?

 

 

 

 

 

「……すまぬな。全く成長しておらん」

 

「だろうな。予想してたよ、チクショー」

 

 もう虚しいだけなのでステイタスの書き写しもしてもらっちゃいねぇ。良いよ、俺には恩恵で得た力やスキルや魔法が無くたって、ソウルで得た力やスキルや魔法が沢山有るんだし。

 

 ……自分だけの魔法とか凄く羨ましい。どうせ畑仕事には使えないから死蔵するんだろうけれど、魔法の腕が俺の誇りだったし、暇潰しに自分なりの改良とか加えてたからな。

 爆発の色が変わるとか、その程度だけれども……。

 

「もういっそ魔導本《グリモア》でも手に入れるか? 平気で億以上するから趣味に使う金額じゃねえけれど」

 

 そんな金があったら春姫に会いに行く頻度上げるし、急に行っても無駄足にならない様に予約で埋め尽くすっての。

 

 

「すいません。ギル君はいらっしゃいますか?」

 

 予想通りだったし落胆は少ないので上着を羽織りふて寝しにベッドに向かおうとしたんだが、何か急に店の方で俺を呼ぶ声がした。

 えっと、聞き覚えがあるような無いような……誰だっけ?

 

 半分寝ぼけた頭で出てみれば客人は狼の獣人でギルドの制服を着ている……あっ。

 

 

「ローズさん? どうしたんだよ、ホームまで来て」

 

「ええ、本来ならギルドまで来た時に話すのだけれど、この前は私が席を離している時に来て、戻った頃には帰っていたでしょう?」

 

 俺の担当アドバイザーのローズさんだ、思い出した。相談とか特にしに行かなかったんだよな、故郷ではなかった制度だし、聞きたい事を教えてくれる知り合いが他にも居る以上は担当への相談に使う時間を他に譲った方が良いだろうからな。

 

 基本的に採取した物はファミリアで使ったりが殆どだし……最近手に入れたドロップアイテムとかは買取価格が高いだろうから換金に行けていない。

 俺が居ない間に店に何かされたら困るしな。

 

 これはお説教でもしに来たか? それとも別の話?

 

「前にこのファミリアのランクを上げるかも知れないって話が出たでしょう?」

 

「俺の魔法が便利だからって理由だろ? ぶっちゃけ理不尽じゃね?」

 

「ええ、ギルド内でも意見が割れていて、どうにかギルドがダンジョン内部に深く関わる為にも管理したいというギルド長が推し進めたがっているんだけれど、今回は見送りになったわ。……その代わり強制任務(ミッション)が出たのだけれど……」

 

「ふぅん。分かった分かった。任せときな」

 

 だから申し訳なさそうな顔しなくて良いし、頭下げる必要も無いんだよな。

 

 ローズさんから受け取ったのは鉱石の採取系、複数の場所を回れば数日ですむ程度だ。ピッケルとかは用意してくれるみたいだし、後は俺一人で……うん? 数日必要?

 

 ダンジョンから採れる鉱石は決まった場所を掘れば絶対に出てくるって訳じゃない。運が良ければ一日で終わらない事もないんだが、そんな簡単にはいかないんだよな。

 

 いや、良いんだよ。最悪、金ならボールスに換金頼むから。でも、問題は……。

 

 

怪物祭(モンスターフィリア)に間に合うか微妙だな……」

 

「期限は暫くあるわよ?」

 

「仕事が残ってると落ち着いて楽しめないタイプなんで……」

 

 今回のは噂だけでは判断出来ない俺の【テレポート】についての調査も兼ねている気がするんだよな。じゃあ手を抜けば良いかってなるけれど、ちょっと嫌だ。

 

 仕事はちゃんとこなす。姉貴ならそうしてた。複数の依頼一度に受けて、ヒィヒィ言いながらもこなしてたからな。

 

『ねぇ、姉貴。この前も大変だったよね? 討伐しつつ採取しつつ配達をギリギリの日程でこなすとか馬鹿なの? 無限のソウルって何かは知らないけれど、記憶の置き場が無限になって逆に見つからないとかなの?』

 

『うっ……。だ、大丈夫じゃない? スケジュールとかちゃんと立てれば?』

 

『俺が立てるんだよね? 俺が!』

 

 さてと、そうと決まれば早速行くか、仲間探し!

 

 

 

 

 

 

「へぇ。リリはソーマ・ファミリアなんだな。……酒造してるファミリアに言うのもアレだが、酒とか飲む奴の気が知れないわ」

 

「うーん、リリは酒造には無関係なのでなんとも。お酒も好んで飲むわけではありませんからね、ギル様」

 

 俺みたいに一人、もしくは少人数のファミリアの心強い味方である雇われサポーター。 

 

 魔石の回収や余分な荷物持ちをしてくれる生命線、団長が怖くてダンジョンに行けないからと採取の手伝いが欲しかった俺は募集中の看板を掲げて立っていたんだが、今話してるリリはそんなサポーターだ。

 

 様付けとかむず痒いし、ちょっと何かを企んでるっつーか、微妙に敵意を感じるんだが気にしない。

 仕事さえしてくれりゃ別に良いさ。

 

 目的のポイントに【テレポート】で飛び、ピッケル振りつつたまにやって来るモンスターは俺が倒すの

 その代わり、回収はリリの仕事だ。

 

「別に日雇いだからって様付けしなくて良いんだぜ? 俺も知り合いの貴族相手に禿げろとか言ってたし、冒険者としてはそっちが先輩だろ?」

 

「いえいえ、リリはサポーターですから。冒険者様にはちゃんと敬語を使っていないと仕事に困るのですよ」

 

「まあ、それがこっちの考え方か。俺の故郷では..いや、そもそも前に冒険者やってた頃は兄弟で旅してたからな。今後に差し障るなら別に良いさ。でも、雇用条件は変えないからな?」

 

 怪我した時は俺が回復、矢とかの消耗品は自己負担、基本的に戦わない、換金額とミッション報酬反応折半。

 

 後で揉めない様に契約書を二枚用意して拇印だって押している。向こうじゃ幻術や犯罪歴の有無を確かめる道具さえあったが、こっちはそうもいかないからな。

 

「仲間だからな。結構褒めてくれるが、それはそうとして取り分は山分けが基本だ」

 

「あはは……。むしろサポーターとしては破格の扱いですよ?」

 

「仲間を見下して分け前減らすとか、そんな真似したら俺の故郷じゃ同業に袋叩きだぞ? 治安終わってんな、オラリオ」

 

 暗黒期とかがあったらしいし、人望無くてコミュ力乏しいオッタルがそれなりの実力でトップになってる辺り、実力主義の弊害か?

 

「サポーター居なきゃ困るだろ、普通。一昨日も妙な酒を無理に飲ませようって連中が居て、親しくしてるリヴィラの連中が回収してたわ」

 

 あれ? そういやリリも同じ処の所属だって言ってたっけ? まあ、人数多けりゃ色んなのが居るか。

 

「先に言ったが採取量で俺が五割増しじゃなければ昼飯奢ってやるからな。まあ、負ける気がしない……ちぃ!」

 

 音に誘われたのかゴブリンやらデカいカエルやらが向かって来る。直ぐに終わるが鉱石が二つ同時に出たらしいのが声から伝わって来た。

 

 負ける気は……そんなにしない。

 

「あっ、こっちも出た」

 

「こっちもです」

 

 尚、雇ったサポーターは他にも居るので普通に負けそう。だって向こうの合計だから。

 

 そんな少しダサい事になりそうな時、後ろの方から来た奴が居るが、漸く追い付いたのか。

 

 さっきから【テレポート】で場所を変える度に遠くから怒鳴り声が聞こえて四回目で追い付いたからかブチ切れ寸前だな、此奴。

 余裕無ぇな、それが率直な感想だ。

 

「おい、女神の意思だ。あの脳筋が言っていた力、どの程、ど……」

 

 途中、目付きの悪い猫人(キャットピープル)が少し離れた場所から槍を構えて出て来たが、リリ達サポーターが気が付く前に振り向かず軽く腕を振って小規模な衝撃波を顎に叩き付ける。

 

 本来は読んでいる相手への攻撃スキルである【ロングスナイプ】だが、当然離れてる地上の敵相手にも有効で、ピッケルが壁を削る音に紛れて顎を打ち抜く音は届かず、倒れた音には気が付いたリリが振り向いた。

 

「おや? 誰か倒れてますね」

 

「そうか。放置してても死ぬだけだろうし、一旦休憩ついでにギルドに送って行くわ。皆はダンジョン前に送るから集まってくれ」

 

 リリの視線が男の高そうな武器に向けられるが、見ない振りして入り口に一旦送り、続いてギルドのとある場所に送った後で置き手紙を目の前に貼って戻って行った。

 

 

 

 

「……うっ。一体何が起きやがった? それに此処は……掃除用具入れ? どうしてこんな所に……は? “女性用トイレだから注意しろ”?」

 

 

 

 

「確か掃除の時間って十分後だったよな。どんな顔してるんだろう」

 

 まあ、利用者が来るから分かるだろうが……。

 

「どうかされましたか? ギル様」

 

「この感じなら明日には終わりそうだし、祭りを楽しめそうだと思ってな。さっきの鶏のドロップアイテムだって高く売れるって話だし」

 

 襲って来たから男性用トイレのロッカーに閉じ込めておいたが、こんな使いっ走りさせられる程度の相手なら大丈夫だろ、多分。

 

 まあ、これで祭りを楽しめそうだな。

 

 

 

「俺って一応目立つし、それに関わった上で大金持ってるのが不安なら終わった後でホームまで送ってやろうか? 物騒だしな」

 

 え? リリは寄る所があるから遠慮する? まあ、無理にとは言わないけれどさ。

 

 

 問題も解決したし、明日の夜には娼館行こうっと。春姫と見て回れないのは残念だよな。

 

 もうこれ以上の問題は起きないだろ。あとはさっさとエルファスが合流してくれたら良いのによ。

 

 

 

 

「ふぅん。お前がギルか。こうして会うのは初めてだね。私が美の女神イシュタルだ」

 

「あっ、どうも。噂通りにお美しいな」

 

 そんな翌日、春姫の所に行く最中にアマゾネスみたいな女神が現れた。

 所でドワーフや獣人、エルフの見た目の神とか見ねえな。

 

「チッ。本心だってのに魅了されないのが腹が立つ。おい、一つ答えろ。私とフレイヤのどっちが美しい?」

 

 なーんで面倒事がやって来るかねぇ! 

 

 

 にしてもどっちが美しいとか……エロいのはこっちで親しみやすさなら向こうじゃね? ぶっちゃけ好みと時風だろ、そんなの。




この後、所用でギルドに来ていたヘディンが不審な物音に気がついて扉を開けて遭遇しました。

何で女用トイレにいやがるっ!? 変態か、テメェ

此処が女性用トイレに見えるのか馬鹿猫。そう思って忍び込んだなら変態は貴様だ


 こんな会話があったかも

ベル君は原作に似たスキルは多分持ってる 一途にではない 二人の分、一人当たりの効果半減

好感度

アレン −30

リリ +10
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