英雄の末弟と英雄を目指す白兎   作:ケツアゴ

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再会

 春姫が先輩から聞いた話を更に聞いた話だが、イシュタルはフレイヤが持て囃されるのが気に入らなくってちょっかいを出しているとか。

 

 いや、嫉妬ってのは誰でも何処でもどの時代でも存在するもんだが、それに眷族を巻き込むなよってのが正直な感想だけれどな。

 

「どっちが美しい? 確かにあっちの方もバベルに居るのを見た事はあるけれど……」

 

「なら答えられるだろう? 神に嘘は通じないんだ。直ぐに答えな」

 

 どっちも美の女神なんだし、甘い辛いのどっちが美味いとかと同じ不毛な争いじゃね?

 

 それとバベルって言った辺りで目尻が釣り上がったし、見下ろされてるみたいで気に入らないのね、余裕無いな。

 

 さて、多分味に例えたら怒るんだろうな、じゃあ前みたいに自然に例えるか。

 

「険しい山を登り切って漸く拝める一面の銀世界がこっちなら、向こうは春の花が咲き乱れる山が映し出された湖。どっちが美しいなんて問いの答えは地方と時風で選ばれる物は変わるんじゃないですかね?」

 

 口には出さないが、アマゾネスを思わせる肌とか戦士っぽい空気とか、暗黒期から抜け出した民衆からすれば怖いんじゃねえの?

 一応フレイヤの方はバベルから街を見てるとかしているしな。

 

 そんな感じの事を相手は店主だから出禁にされては大変だと敬語で話すんだが、腕組みをして無言で聞いているだけ。

 

 これは怒らせたか? 流石に神とタイマンはキツいんだが?

 

「惚れた娼婦の所に通いながら手を出せないヘタレにしちゃ言うじゃないか」

 

「その話、外にも漏れてるのは客商売としてどうなんですか?」

 

 今の所はアミッドだけしか知ってる奴を知らないが、よりにもよって女友達に教えるとか困るんだけれどな!?

 

 それと惚れてるかどうかは微妙。

 

「はんっ! それが嫌ならさっさと抱いちまいな。使い物にならないなら別だがね。そうだね、一億ヴァリス持って来い。そうすれば春姫をお前専用……要するに他の客を取らせない様にしてやろうじゃないか」

 

 ……あれ? 答えが気に入られた?

 

 俺の抗議の声なんて気にせず鼻で笑い飛ばしたイシュタルは酷い事を言って去って行く。

 え? 一晩分の金を払ってるのにあんな用事で呼び止めたのか?

 

 いや、最後の提案は答えがお気に召したからだろうし、別にあの女神を間近で見たいとは思ってなかったけれどな。

 

 エロいしセクシーだったけれどな。少し無理してる感じの女神に比べて良いけれど、それよりも春姫の方が良いし。

 

 

 

「あー、心地良い。お前の膝枕は良いな、春姫」

 

 少し時間は無駄にしたが春姫が待ってる部屋まで来れた俺は早速だが膝枕をしてもらってる最中だ。

 

 ガツガツ行く男は嫌われるって? 勘弁してくれ。

 

 春姫の歌を聴き、頭を抱えられながら顔を見上げる。マジで綺麗だよな、此奴って。

 

「綺麗だよな、此奴って」

 

「はわっ!?」

 

 おっと、心の声が漏れた。それで歌が止まったのは残念だが、今日は未だ話してないし丁度良いか。

 

 話たい事もあるしな、うん。

 

「なぁ、触って良いか?」

 

「は、はひぃ!? つ、遂にこの時が……。どうぞ、今から準備を……」

 

 俺の頭を抱えていた手が襟元と帯に掛かり、胸元が徐々に見え始める。意を決した表情の春姫は真っ赤になりながらも……って、違うから!?

 

「待て待て待て待てっ! 落ち着け、春姫! 触りたいのは尾……髪だって」

 

「え?」

 

 正直言ったら胸を見たいし触りたいが、それは早いと慌てて止める。春姫も数秒間固まり、そそくさと緩めた場所を元に戻したんだが、気まずいから互い言葉も出ない。

 

 これ、触って良いんだよな? うん、きっと大丈夫だ……。

 

 尾っぽって言いそうになったが、獣人にとってどうなのか分からないから言い出せない。

 コーンスの場合はツノが折れたらショック死するから触るの絶対駄目なんだっけ?

 

 顔が熱いし、多分春姫みたいに真っ赤になっているんだろう。鼓動と息遣いだけが聞こえる中、俺は意を決して指を伸ばす。

 

 指先に触れる絹みたいな手触りの髪を指の間に通し、春姫の肌にそっと触れると彼女は少し驚いた後で静かに目を閉じる。

 

 今日は盗み聞きされてないか……。

 

「なあ、春姫。例えばの話……これをどうにかして、それからお前を外に連れ去る方法があったとして、どうする?」

 

「……イシュタル様はそれを許しません。きっと貴方とその周囲の方以外も巻き込みながらの逃走になるでしょう」

 

「そうか……」

 

 春姫が訳有りでこの店で働いているのも、それを苦悩しているのも俺は察している。周囲の巻き添えを無視すれば助けられる事もだ。

 だが、それを選んだら別の理由で彼女を苦しめる事になる。分かっていた事だが、差し伸べた手を取らない事でそれは確信に変わった。

 

「なあ、春姫。詳細は省くが、お前の主神が持ち掛けて来た契約があるんだ。指定した金額を払えば俺以外には客を取らせないってよ。まあ、俺も会いたい時に確実に会えるのは嬉しいんだが、お前には伝えておきたくってな」

 

 これは俺のエゴだ。もしかしたら客の中に意中の相手が居るかも知れないのに、その男との合瀬を邪魔するんだからな。

 幾ら友人だろうと怒られても仕方の無い行為だが、俺が彼女を助ける方法は他に無い。

 

「ま、まあ、今後もこうやって話をしに来る程度だし、変な真似をする気は無ぇから安心しろ。他のお……友達と会いたい時は協力してやれるかもだし? 情けない事に確約は無理だが」

 

 今彼女がどんな顔をしているのか、人生を金で買い取るみたいな真似をする気だって伝えたばかりで顔を直視できない俺には分からない。

 

 今にも失望されたり、ショックで泣かれるんじゃないかと思うと心が痛むんだ。ティアナ様が心の中で言ってくる。私を見捨てたお前が誰かをちゃんと助けられるものか、ってな。

 

 俺の言葉への返事は無し。声も出ないってか? ああ、しゃーないか。じゃあ、金稼いでエゴを通した後は会いに来るのを……。

 

「……なあ、春姫。お前は俺に何をしてやれる? お前は俺に何をして欲しい?」

 

 これは俺の最後の悪あがき、何を言ってるんだと自分でも馬鹿馬鹿しく思いながらも春姫の顔を見る。見ないとか逃げだよな。

 

 エゴを通す気なら逃げちゃ駄目だよ。そんな中途半端な覚悟じゃ誰も救えないんだから。

 

 俺が知る英雄は二人、姉貴とネメアさんだ。あの二人は自分の行いから目を逸らさない、絶対に逃げたりしない。それが俺が向けるべき友への誠意って奴だ。

 

 

 

「あわ、あわわわわ……。そ、そそそ、それって、けっ、結……」

 

「け?」

 

 良かった、軽蔑も失望でもない普段の普通の春姫だ。何か普段以上に顔を真っ赤にしてプルプル震えているし噛みまくっていて何を要求したいんだ?

 

 

 

 

「結……毛繕いをお願いいたしても宜しいでしょうか? ……尻尾の」

 

「いや、別に良いが。逆に春姫は良いのか?」

 

 え? 寧ろ歓迎? ……なら、もっと前から触らせて欲しいって言えば良かったかもな。

 

 その尻尾はパタパタと上下左右に激しく動いていて、起き上がって触ってみればモコモコフワフワ。ヤバい、女の体の一部なのに触り続けたい。

 

 もっと強く触りたいとか顔を埋めたいって要求を圧し殺し、無言で差し出されたブラシをそっと当てる。うん、多分出来るな。

 

 

「ぁ……。んっ……。ひゃっ……」

 

 俺に背中を向けた春姫の尻尾に触れ、ブラシを動かす度に春姫の口から漏れでる声には妙な色気がある。手で口を押さえている様な声を出しながら震えているし、後ろ姿が妙に色っぽい。

 

 

 

「大丈夫か……?」

 

「へぁっ!? 春姫はギル様になら何をされても構いません。だって専用の娼……あっ、いえ、毛繕いならこのままお願いします。お上手ですし……」

 

「まあ、慣れてるしな」 

 

 姉貴が髪の手入れとか気にしないタイプだったし、俺が仕方無しにやってたら慣れちまったんだよな。普通に髪を気にしてる仲間も俺に任せないと駄目な奴だと認識していたからな。

 

 あれ? 今の姉貴大丈夫か? 無理にでも同行した方が良かったかも知れない……。

 

 

「慣れているって、女性相手ですか?」

 

「そうだぞ」

 

「……むぅ」

 

 この後、春姫が少し拗ねた態度だったのは困った。さっきまで上機嫌だったよな?

 

 

 今後も毛繕いをする約束で機嫌を直してくれたんだが、何を間違えたんだよ、俺って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……へぇ。フレイヤ・ファミリアの副団長と幹部がギルドのトイレで喧嘩してたんだ」

 

「うん、ビックリよね」

 

 モンスターに対する公開調教ショーを行うという祭り当日、この日も団長達は新薬の調合に勤しむから俺一人で楽しむ事にしたんだが、飯時の話題が問題だった。

 

 急に女神の意思がどうとかって襲って来ようとしたし、それを返り討ちにしたのは悪くない。襲って来たのと彼奴が弱いのが悪いんだ。

 

 気絶した後に放置せずにギルドに装備込みで連れて行ったのだって感謝されても良い筈だろう? あんな場所じゃ死なないにしても装備を盗まれる可能性は高かったし、高ランクの敵対相手なら殺せる状況だった筈。

 

 

 その後、掃除用具入れに押し込んで女性用トイレと騙す張り紙を残していた事は……ちょっと駄目か。あんな状況で襲われたらサポーター達に被害が出るだろうから少しお仕置きしたつもりだったんだが……。

 

 幸い、トイレで喧嘩したって事が不思議がられない程度には仲が悪いんだな、派閥か?

 

 エルフの方はオッタルを団長として尊敬しながら支える立場で、彼奴は敵対派閥のトップ。ゼネテスの部下とレムオンが仲悪いみたいなものか。

 

 あのオッさん、人望あったのか。大手ファミリアの幹部が揃って仲悪いとか有り得ないしな。

 

 

 じゃあ、問題は今後だ。店に襲撃が無いって事はお礼参りの対象がファミリアにはなってないんだろうが、俺個人に復讐する可能性は有り得るんだ。

 折角の祭り、邪魔をされずに楽しむには……。

 

 

 

 

 

「クハハハハ! これに限るな。我が知謀、深淵の闇よりも深い」

 

 そんな訳で変装完了、ベルゼーヴァ登場! 役作りの為にも誰も居ない場所から表通りへと歩き出す前に演技を始める。

 

 裏声、仮面、そしてフード、ついでに香水。 これで俺の正体が分かる筈が無いから思う存分楽しめるぞ。

 

 

 

 

「まあ、あの時の少女と出会いでもすれば面倒……」

 

「あの時の……」

 

 お洒落なカフェから出て来たアイズと遭遇、後ろにはロキまで居るよ、最悪だ。

 

 

「アイズたん、知り合いか?」

 

「うん。この前遭遇した魔法を二つ同時に使っていた人。それも詠唱も魔法陣も無しに長文詠唱級のを……」

 

 途端、ロキの目が険しくなる。魔法の同時使用にじゃなく、風の精霊云々が隠し事みたいな反応だったし、見抜いた俺を警戒してだろうが……。

 

「おう、兄ちゃん。ちょっと話を……」

 

「【スキップ】」

 

「逃げたっ!?」

 

 ああ、逃げるさ、そりゃ逃げる。速度を倍にして瞬時に離脱、このまま適当な物陰に入れば逃げ仰せる……とは行かないみたいだな。

 

 

「あの、ちょっとだけ話を……」

 

 少し離れた場所から聞こえて来る声、チラッと見れば少しずつ距離が開いちゃいるが風を纏って追い掛けて来るアイズの姿。

 ちょっと所か結構無理した出力だが、物陰に隠れて消え去れる距離に達する迄にオラリオを出てしまいそうだな。

 

 仮にも大手の幹部が謎の男を追い掛けて爆走、都市外に出たとあれば大騒ぎ、この姿気に入ってるから別コーデで魔法を使うのはちょっと嫌だし、あの状態を続けさせるのもな。

 

 最大出力を越えて限界出力に達しそうな姿を見ていると迂闊な発言が過ぎたのだと自覚させられる。

 

 

「ちょっとアイズ!? 何やって……」

 

 おっと、仲間か?

 

 

「さて、どうすべき……」

 

 それは俺達の魔法に誘われたかの様だった。突如盛り上がる地面、飛び出して来たのは巨大な緑の蛇……いや、植物のモンスターだ。

 

 途端、俺達の追走劇を見て騒いでいた一般人がパニックになって逃げ始める。幸いだったのは出て来た場所が広場で押し合い圧し合いの二次被害が出なかった事と……巻き込む心配が無い事だ。

 

「【ホーリー】」

 

 選んだのは聖なる力を行使する魔法。ミアハが抑え込んでる神の力に似た性質の光がモンスターの根本から立ち上ってその身の多くを消滅させた。

 長い胴体を真上に伸ばしていたからか先端部分と僅かな部分だけは残って地に落ち、着地して無理に開くと鮮やかな色をした花のモンスターだった。

 

「魔石も普通なる者共とは違うか。奇妙な色だ。何処の深淵から参ったのか……」

 

「ちょっと今の魔法は何!? 神の力……とは何か違ったけれど……」

 

「貴方、さっきアイズさんに追い掛けられてましたよね?」

 

「大人しくしなさい。痛い目を見たくないならね」

 

 やべっ、さっさと逃げれば良かった。エルフにアマゾネス……の多分姉妹。胸の差は父親が違うとかか? 

 

 

「話を聞かせて下さい」

 

 そして俺を挟むように降り立つアイズ。反動が来たのか少し辛そうだし、無茶をさせたくないんだがな。

 

 今さらながら別の魔法を使えば良かったと後悔し始めた時、再び地面を割って飛び出した花のモンスター。大きな口を開けて涎を滴しながら歯をガチガチ鳴らす姿は食人花って感じだな。

 

 それも俺と彼女達を挟む形で計三匹。

 

 

「新手っ!」

 

「レフィーヤ! こっちは私達で食い止めるから魔法お願い! あっちはアイズに任せるわよ!」

 

 アマゾネス達は自分側の二体に向かい、エルフは詠唱を始める。だが、二人が殴った瞬間に響いたのは硬質な物を叩いた様な音。

 

「「硬っ!」」

 

 そして自分達を攻撃した二人を優先して攻撃するかと思いきや、蔦で動きを阻害しながらエルフへと向かう二体。残りの一体はアイズへと向かい、それを撃退しようとして剣をとりおとした。

 

「っ!」

 

 あーもー! 反動かよ! こんな時に!

 

 大口を開いてエルフへと食い付く寸前の二体、膝から崩れそうなアイズに襲い掛かる一体。アマゾネスは咄嗟に助けに行けそうにない。

 

 

 【デュアルスペル】発動。

 

「【サンダーボルト】【フリーズ】」

 

 咄嗟に選んだのは発動と攻撃の速度を重視した雷の嵐の魔法、そしてアイズを余波にすら巻き込まない様に食人花だけに力を集中させた氷の魔法。

 

 冷気はモンスターのみを凍らせ氷像へと変え、嵐は三人と周囲の建物こそ避けたが地面に深い傷跡を残しながら対象になったモンスターを灰すら残さず消し去った。

 

「そん…な……。長文詠唱級の威力を無詠唱で? しかも私達を避けて……」

 

「また二つ同時に……」

 

 エルフは腰を抜かして呆然として、アイズは信じられない物を見る目を俺に向けている。

 

 今がチャンスか。新手は出ないみたいだしな。

 

 

 

「縁の導きあらば再びの会合もあるだろう。さらばだ!」

 

 一旦オラリオの外まで出てから【テレポート】で戻るか。あー、散々だな、おい。

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、レフィーヤ。魔法って三つまでだったよね?」

 

「え、ええ。あの人、三つ使ってましたよね。それも二つは同時に……」

 

「それだけじゃないの。前にダンジョンで会った時、竜巻を起こす魔法と足を速くするらしい魔法も使ってた。あの人、少なくても五つの魔法が使えるよ」




旅してる最中はしっかり者だったのに、平和に農作業しているうちに少しポンコツになりました 鈍ってます色々と


リリとベルはどうなるか

春姫好感度 信頼→熱愛  
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