英雄の末弟と英雄を目指す白兎   作:ケツアゴ

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目的による弊害

「やっちまった……」

 

 

 やはり平和は戦士をただの餓鬼に戻してしまうのか、最近の俺は少しばかり気が抜けている。

 

 たった四年、それでも世界の命運すら左右する事件に何度も関わって死に掛け、姉貴の行動力に振り回されていた頃の俺が今の俺を見たら無言で床を指差すんだろうな。

 

 正座しろ、って感じで。

 

 元はと言えば謎の相手からの依頼を裏に誰が居るのか見当を付けたとはいえ受けたのが要因だったからな。姉貴がそれで大変な目に遭ったの最近人に話したばかりだろうによ。俺、姉貴みたいになってない?

 

 平和ボケは良いんだよ、素晴らしい事だ。学の無い餓鬼が地頭の良さだけで英雄の仲間の一人で頭脳労働担当だったのがおかしいんだし。

 

平和ボケ出来ない世界の為に戦ったんじゃないんだよ、平和ボケしつつ畑を耕すために臭かったんだ。

 

 厄介だらけの日々に戻った時に苦労してるけれど!

 

 

 俺、田舎の農夫ぞ? 密偵とか職業軍人とは別ぞ? 姉貴は貴族で騎士だが、俺は英才教育とか受けてないぞ?

 

 そんな訳でだ、神格者でこっちの大陸の常識にも神にも精通しているミアハに相談してみた。秘密の依頼は極秘なので受けた事は秘密だが、新種のモンスターやシャリが絡んでいる事を話せば良い案を出してくれそうだからな。

 

「ロキの所の眷属に顔を見られてしまったか。ふむ、天界に居た頃なら不味い事になったが、今の奴ならば大丈夫だろう。それに剣姫がお主をちゃんと認識したか、したとしてもどう出るかは分からぬだろう?」

 

「神なんてウン億年生きてるんだろ? 初期から来ていても千年程度、その程度で変わる……事もあるか。ウルグの奴も恋人殺されて人間を憎んだらしいし、愛ってのは救いにも呪いにもなるんだな」

 

「こらこら、お主は未だ十六だろうに。もう少し子供らしくしても良いだろう?」

 

 経営者としては落第、でも神って言うよりは近所の相談役みたいな相手としては頼れる。うん、そうだそうだ、俺だけで考える必要は無いんだ。

 エルファスも来ているし、姉貴が居ないってのが気が付かない内に焦りに繋がってたのかねぇ?

 

 

 

「ついでにヘルメスは?」

 

「人前では一応先に神を付けるのだぞ? ヘルメスは……まあ、敵ではないが信用には値しない相手と思っておきなさい」

 

 成る程、そうしよう。

 

 少し話しただけで結構楽になった気がするし、もう少し気を抜いてみようかね。……さて、気分転換に娼館にでも行って来るか。

 何時も通りに誤魔化してっと……。

 

 

「じゃあ、ちょっとリヴィラに行ってくる」

 

「うむ。問題が起きたばかりだ、気を付けてな。……それと年頃故に仕方無いだろうが程々にな?」

 

 あれ? もしやバレてる? 娼館に通ってるの見抜かれてた?

 

 

 

「それとタケミカヅチが少し思い詰めた様子でお主と話がしたいと言っていたのでな。ホームではなく屋台でこっそりと話がしたいそうだ」

 

 ……彼処も貧乏そうだったしなぁ。

 

 ベルの指導の代わりに月一で治療を行うという契約をヘスティアへの義理的な奴で結んだが、聞いた話じゃバイトが終わってベルがダンジョンから戻った辺りで行っているらしい。

 

 治療のついでって感じにホームで稽古の様子を見学したが、流石は武を司る神だけあって技の冴えも教え方も上手だってのが感想なんだが、溜まった疲れや酷使した体の不調も一発で回復する中、一番喜んでたのは女性陣。

 

 風呂に入ろうにも故郷への仕送りもあって生活がカツカツ、肌や髪の手入れをする余裕なんて当然なかったからな。

 姉貴の場合は気にする性格じゃなかったし、俺が【キュア】覚えた時に喜んでたのはポンコツ魔法使いやフェルムさんだった。

 

 垢とかは我慢するにしろ肌荒れや髪の痛みが気になるってな。恩恵で丈夫になろうがお湯を沸かして浸けたタオルで拭いたり水を被ったりばかりのせいで肌はカサカサの髪はキシキシだったもんな。

 

 嫁入り前の年頃の娘達だからってタケミカヅチさんにゃ感謝されたわ。うん、普通にさん付けすべき神だったな、第一印象は。

 

 

「取り敢えずカレー味一つと土産にするんでお勧めの二個」

 

「毎度あり。……それでだな、例の少女の事なのだが」

 

 何かヘスティアの所に比べて客少なくねぇかって感じの屋台の前、見た目と中身もお子ちゃまな女神と厳つい異人風の男神の集客率の差に親しみやしさって大切なんだなぁって思ったよ。

 

 イシュタルとフレイヤの方も民衆の味方っぽい印象なのが評判の差に出てるんじゃね?

 

「取引先の奢りで行った店で出会ってな。訳ありに詳しい話を聞くのも無粋かと聞いちゃいねえが、お家騒動で負けでもしたんだろうな」

 

「そうか……」

 

 

 

 それは兎も角、何処で誰の目と耳が有るか分からねえから固有名詞は避ける。

 

 何の店かも明言しないが、こっちに来て普通に働いているだけなら必要無い配慮だ。

 それをしたって事が何を意味するのか、タケミカヅチは神の頭で悟ったのか肩を落としていた。

 

 そりゃ知り合い、多分話からして眷属の友人が娼婦になってたら気になるだろうし、春姫自体が立場を気に病んでるのに友達には知られたくないだろうし。

 

「何処のウサギか紐が漏らしたかは知らねえが、お宅のお子さんが知ったら向かっちまうだろ? 話が早くて助かった。……言っておくが俺は常連だが話をしたり膝枕頼む程度だからな?」

 

 幸いなのは他の奴には聞かれてない事。じゃなけりゃ今頃は突っ込んで来てたであろうよ。

 ちょっと話しただけで分かる。

 

「そうか……」

 

 知ってる子を金で抱いてますとか顔合わせるの気不味いって事で教えたが、浮かべたのは安堵と同情。

 

 ……いや、良いけれどな? 俺、今の関係が楽しいから手を出さないだけだし。

 

「それと向こうの雇い主に気に入られて所定額を払えば今後俺以外に接客させないって」

 

「そうか! なら俺達も……と言いたい所だがな。うーむ、どうしようも無いのが情けない」

 

「気にすんな。孤児の為だろ? 無茶して潰れたら元も子もないって奴だよ。俺は周囲や姉貴兄貴が助けてくれたが、そんな余裕が無い地域だってあるんだから仕方無いさ」

 

 既にランクアップ済みがいるのにタケミカヅチ・ファミリアが貧乏な理由は故郷で孤児を育てているからだってな。

 

 俺は恵まれていたんだと周囲への感謝を確認しつつ、未だ一日に相手出来るモンスターの数を考えれば仲良くなってもベルと組んでダンジョンに行くのは無理だろう。

 

 暫くはソロか。弱いのに大変だな。……ステイタスの成長は異常だが。

 

 俺も上位のソウルを宿せる様になってからグングン成長したのを感じてたし、経験値増大のスキルでも目覚めたって所だろうさ。

 

 相変わらず俺は全く成長してくれねぇけれど……。

 

 

「じゃあ、こんなもんで俺は失礼するよ」

 

「……ああ、あの子を頼む」

 

「友達だからな。力になってやりたいさ」

 

 だから神が気軽に頭を下げるなって感じだぜ?

 

 深々と頭を下げたタケミカヅチさんに手をヒラヒラ振りながら屋台から離れて行く。

 さてさて、タケミカヅチさんには知られてる事は言わない方が良いよなあ……。

 

 故郷から手紙が来ないのか、貧乏な孤児と恐らく貴族とからしいサンジョウ家じゃ個人的付き合いは別として情報が入って来ないのか、どっちにしろ知らないなら知らないで……。

 

「さてと、どうなるかね。ベルも大変な時期に夢を追って来たもんだ」

 

 シャリの奴の企みが分からねえ。あの時、俺が普通に戻ってたら死人が大勢出るって言ってたし、そうなっただろうが、人助けに見せて破滅へ誘うとかやってたしな……。

 

 今回は純粋で綺麗な願いの為に頑張ってると思いたいよ。こっちの大陸の強者じゃ精々闇の円卓の騎士程度みたいだし……。

 

 もう主神の顔を立てての義理建ては済んだ、此処からは彼奴の夢で人生で責任だ。

 手を差し出してアンヨが上手って時期は終わってるもんな。

 

「相変わらず凄い人だよな……」

 

 右を見ても左を見ても人だらけ、リベルダムもエンシャントも此処まで人は居なかった。

 人が集まれば金も集まる、儲かる奴も居れば割を食う奴も居るってね。

 

 すれ違い様に俺からサイフをスろうとした奴の腕を避け、目配せしていた路地道を見れば如何にもって感じの連中。

 

 旅の途中で遭遇した盗賊やらスラムのチンピラはしていた目、世の中やら幸せそうな他人が妬ましく恨めしいって目だ。

 

 はいはい、俺を誘い込んでって感じか。

 

 どうせ今をやり過ごしても狙って来るんだろうし、そんな軽い気持ちで路地裏に入ってみればバレバレの隠れ方をしていた連中が武器を構えて出て来るんだが、少し酒臭い。

 

 この前のソーマ・ファミリアの奴の仲間か?

 

「同じ下級冒険者の癖にどうしてテメェだけ!」

 

「折角の稼げる仕事だったってのに畜生!」

 

「……成る程」

 

 大体目的が分かった、俺の仕事で割りを食った連中って事だな。リヴィラの街への物資の配送、それに必要な諸々に道具や人件費。

 

 俺が何時迄もやれる訳じゃないとは伝えてるから元請けには別の仕事を回しちゃいるが、元請けが雇ってた連中やらまで今まで通りに金が行くかって言うと違うからな。

 

「分かってるな? 魔法を使われる前に掴んじまえ。そのまま神酒(ソーマ)を流し込め!」

 

「本当なら俺達が飲んじまいたい所だが……」

 

「此奴に飲ませさえすりゃ褒美にたらふく飲ませてくれるって言われただろうが! でも、一口だけなら……」

 

 三人がチラチラ視線を向ける先には酒瓶が置かれていて、この前ボールスが本物がどうとか言ってた物と同じ臭さだ。

 

 酒を飲ませるのがどうして俺への復讐になるんだ? 酔わせて水にでも落とすとかか?

 

「行く、ぞっ!?」

 

 ナイフを両手に構えた奴の右目に向けて指を突き出し、そのまま潰す。続いて片手剣を上に振り上げてドタドタ走って来た奴の手首を掴んで雑に地面に叩き付け、右手の甲を踏み抜いて骨を踏み砕く。

 

 

「く、来るなっ!? わ、わぁああああああっ!?」

 

 声も出せない程に悶絶して倒れ伏した仲間の姿に最後の一人の手斧を持った男は泡を吹く勢いで叫び始めた。

 もう刃を当てる事も考えず、餓鬼の喧嘩みたいに手に持った物を振り回すだけ。

 

「おいおい、家主に迷惑だろうが。壁傷つけんな」

 

 斧が壁に刺さろうが知った事ではないとばかりに暴れ、来るなと言いつつ自分から向かって来る姿には呆れしかない。

 

 此奴は足でもへし折ろうかと思って構えようとしたが、その必要は無いみたいだな。

 それなりの速度で俺の横を通り過ぎた奴が大怪我しない程度に威力を抑えた蹴りを叩き込んで気絶させていた。

 

「雑魚が鬱陶しいんだよっ! ビビる程度なら最初から武器なんて向けるんじゃねえ!」

 

 乱暴な物言いの見た目チンピラっぽい狼の獣人の男の子。何処かで見た覚えがあるんだが思い出せない。

 

 いや、待てよ? 確か雑魚はどうとか叫んでいたよな、何処かで……あっ!

 

「あっ、酒場で悪酔いしていた奴だ」

 

「ぶははははっ! ベート、酷い覚え方されとるで!」

 

 俺の言葉に固まった男は怒りでかプルプルと震え、顔だけ向けるが気弱な奴なら速攻で逃げ出す凄い形相だ。

 

 ただ、それを俺の背後からやって来た奴が笑い飛ばす。

 

 ロキ・ファミリア主神のロキ、男の方はベートだったか。

 

「うっせぇんだよ、ロキ! それとだ、テメェ! 雑魚の振りして寄って来た雑魚を痛め付けて満足かよ、糞が!」

 

「俺は多少喧嘩慣れしてるだけで、姉貴にさえ手も足も出ないんだぜ? 第一級冒険者からステイタス最低ランクの新人へ対する過剰評価は嬉しいけれどな」

 

 弱い振りをする意味なんか無かったし、訓練も受けてないから俺の動きは基本的に自然体。

 それでも見た目上の強さは抑えちゃいるが、どうも見抜ける奴には見抜かれるか。

 

 どれだけ強いかは分かっちゃいないが、最低でもどの位なのかは想定してるんだろう。

 噂じゃ最高幹部のドワーフが恩恵無しでも結構強かったって話だし、例外が身内に居るんじゃな。

 

「はいはい、その辺で終わりにしとけや、ベート。ステイタスが最低値ってのは嘘やないで。そんな事より『運び屋』。ウチはお前と……うん? え? まさか本当に……」

 

 自分の眷属が俺に絡むのさえ予定通りとばかりに割って入ったロキは俺の顔を見上げ、即座に壁際に置かれた酒瓶に目を向ける。

 

 顔を向け、鼻を忙しなく動かして徐々に瓶に近付いて行って、一瞬固まると瞬時に叫び声を上げた。

 

 

 

「本物の神酒(ソーマ)やぁあああああああっ!!」

 

「おい、ロキ!?」

 

 主神の奇行に俺への敵意さえも忘れた風なベートが慌てて手を伸ばそうよするが、本当に能力封じてるのかって勢いが乗ったロキは止まらない。

 瓶の蓋を開け、美味そうに喉を鳴らして飲み始めた。

 

 

「美味っ!? これがマジもんかいなっ! そりゃソーマの所の子達もああなる訳や。……こないなもん未熟な子供に飲ませるなや、あのアホが」

 

 飲んだ直後に見せたのは恍惚の表情だったのに、直ぐに口元を袖で拭うと不愉快そうに吐き捨てる。

 あの酒がどれだけだってんだ? ボールスも金になるみたいな事を言ってたがよ……。

 

「どうなってんだ?」

 

「五月蝿え。話し掛けんじゃねぇよ。俺は雑魚の次に雑魚を調子に乗らせる奴が嫌いなんだ」

 

 急に現れて何が何だかって感じなのにベートは俺への敵意を隠そうともしない。

 怖い怖い、マジで何をしに出て来たんだか。

 

 ……まさか謎の魔法使い(こっちでは魔導士だっけ?)ベルゼーヴァの正体が漏れたとか?

 

「にしても自分、随分と派手にやったなぁ。こりゃ冒険者を続けるのは無理とちゃう?」

 

「別に冒険者以外にも恩恵を受けた体があれば多少は稼げるだろうし、問題ねえだろ? 武器向けて来たんだ、向こうが悪い」

 

「そりゃそうなんやけれどなあ。……まあ、ええやろ。この連中が襲い掛かったんはウチも見とったし、ガネーシャ・ファミリアにでも任せるとして飯一緒に行かんか?」

 

 奢ってやるから、そんな気安い感じで言って来たが神威は微妙に漏れていてベートも油断無く俺を睨んでいる。誘ってる様で下級冒険者の俺には断らせる気は無いって事ね。

 あくまでも飯に誘う感じでの連行とか酷いな、マジで。

 

 パッと姿を消せるし、文字通りに一歩も動かずに倒せるけれどよ、ロキって元はヤバい神だったんだろ? じゃあ、後々付きまとわれても面倒だし、此処は話を聞きに行くとするか。

 

「別に良いけれど何処に行くんだ? ロ……神ロキ」

 

「そりゃ豊穣の女主人に決まっとるやないか。ベート、その酒は証拠品や、三本共……二本共にギルドかガネーシャの所に持っていくから運んでや。……一本はウチの部屋に頼むで」

 

「じゃあ、俺がギルドに運ぶな。逃げられるのが不安なら袖でも掴んでいてくれ」

 

「こ、この悪魔っ!? ウチがソーマの本拠地に乗り込んで求婚しても飲めなかった酒なんやでっ!」

 

「おう。さっさと行け。時間が勿体無い」

 

 ロキが泣きそうだが知った事か。ベートもそれで構わないって感じで俺の肩に手を置いてるしな。

 

 

 あー、ローズが絶対五月蝿いよな。事情だけ話して速攻で逃げるか。

 

 

 

 

 

 

 

「えっと、大丈夫ですか? オッタルさん?」

 

 一方その頃、お昼の時間で店員が忙しく動き回る豊穣の女主人の裏庭にてオッタルは大の字に転がって宇宙の話をされた猫みたいな顔をしていた。

 

「腕試しがしたいからって腕相撲をしましたけれど……別の方法が良かったでしょうか……」

 

 そんな彼の側でオロオロしているのは別の酒場の制服を着てフライパンの様な何かを横に置いた女であり、オッタルが今の状態に陥った原因である。

 

 フェルム、酒場の給仕から世界を救った最強クラスの戦士にまで成長した女だ。因みに今年で二十一になる。

 

 

「もしかして私ったらやっちゃいました? アルテミスさんに警告されてたのにどうしましょう……」




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