英雄の末弟と英雄を目指す白兎   作:ケツアゴ

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聴取

 本来ならば伝説級のモンスターであるアンタレス。それが何か雑に雑魚モンスターかキッチンの害虫か何かみたいに倒されてから少し経った頃。

 

 人知れず自覚も無しに本来の歴史の流れから女神を救い、知らず知らずの内にその恋愛フラグを消し折って数万年後の恋を消し去ったフェルムはオラリオまでやって来ていた。

 

『私では君の力にはなれない。だが、オラリオなら帰る術があるかも知れん』

 

 文字も数字も別物であり、邪竜の頭を余裕で砕く戦闘能力以外は普通の女性、魔法だって才能が無かったのか殆ど使えない。

 

「うーん。もしかしたらジルさんと会えるかも?」

 

 危険なほどに強くなった事で生まれ故郷を後にした親友との再会の可能性に胸を弾ませ、多少のトラブルが有りつつもオラリオまでやって来られた。

 

 大抵は少し気合を入れて、フライパンで殴ればどうでもなるのは幸いだっただろう。

 

 検問所だって恩恵を持たず持っているのは普通の旅の荷物、持っているフライパンは実際には神の所有物に匹敵する武器なのだが、そんな事を言った奴の頭が疑われるので調べられなかった。

 

 こうして伝説のフライパンとエプロンドレス(一回鍛えた全身鎧と同程度の強度)を装備した酒場の娘だったが、順調だったのは此処まで。

 

 今日は女神がバベルに居る日、道行く人々の中に黄金に輝く魂(三人目)を見付けてしまったのだから興奮を抑えきれないフレイヤはオッタルに命じたのだ。

 

 あの子の力を確かめてちょうだい、と。

 

 え? どう見ても普通の町娘を? そんな疑問は飲み込んで引き受けたオッタルではあるが、流石にどうすべきか迷った。

 

 その結果……。

 

「申し訳ないが力を試させてもらえるだろうか?」

 

 オッタルは寡黙で忠誠心の強い武人ではあるのだが、女神に問題がある場合は拳骨をロキから叩き込まれる事を黙認するし、酒場の面接に参加するのなら敬語だって使える。

 

 力を追い求めるが常識だって普通にあるのに、見るからにか弱い女性の力を試せと言われても困るだろう。

 

 ……この時、フェルムの強さを彼は見抜けなかったのは一種の才能による物だ。

 

 ギルが一部に見抜かれているのと違い、フェルムは何処まで行っても一般人、戦闘時に無意識で切り替わるが佇まいも身のこなしも天然の擬態によって町娘のままだ。

 

 それは本人の自己認識が何時迄も町娘(21)から変わらないからなのであるが、そんな彼女が大男に急に挑まれてどう反応するか。

 

 それはちょっと町娘には難しそうな話だが、周囲が遠巻きに見守る中、当の本人は困惑とまでは行かず、酒場の仕事で遭遇する困った客程度の反応だった。

 

「えっと、じゃあ腕相撲でもしますか?」

 

「……あれか。此方としても助かる」

 

 感謝の意を会釈で示しつつフェルムを案内したのは豊穣の女主人の裏手、裏口から声を掛けてミアに何やら交渉して、怒鳴られながらも場所を借りる事に成功したらしい。

 

 

「悪い……」

 

「大丈夫ですよ。私、慣れていますから」

 

 その慣れていると言うのは服装からして酔っ払いの対応だろう、そう判断したオッタルは自らの行動が側から見ればウェイトレスに絡む酔っ払いでしかない事に気落ちさせられる。

 

 女神のご意志故に後悔も迷いも無いが、変な噂になるのはそれなりの嫌だった。

 

「すまない。直ぐに終わらせよう」

 

「はい! 私も探し物があるので助かります」

 

 相撲が何かは知らないが、勝負方法だけは知ってるオッタルが用意してもらったのはアダマンタイト製の頑丈な作業机。

 その様な貴重な物で机を作るなと憤慨する者も多いだろうが、議論が白熱した上級冒険者が拳を叩きつけても壊れないのだから割りと必要だ。

 

「怪我はさせない様にするし、治療院まで連れて行き費用も出そう」

 

 相手は大人しそうな町娘、怪我をさせぬ様に細心の注意を払いながら相手の手を掴み、開始の合図と共に力を込める。

 店の中からはミアの指示なのか店員が数名顔を覗かせる中、オッタルは違和感を覚えた。

 

 この場に留める気などなかったにも関わらず二人の手は開始場所から微動だにしていない。

 

「……成る程。侮っていたか」

 

 腕に伝わるのは巨岩を押しているかの様な錯覚。怪我をさせない程度の力加減では都市最強である彼でさえ動かせないだろう感覚に、相手が見た目通りのか弱い町娘ではなかったのだと、自分の判断力に低さを恥じ、フレイヤの目の力の高さに感服して更に力を込め……視界が回転した。

 

 背中から地面に倒れ、大の字で空を見上げている理由が分からない。フェルムが力を入れた勢いで足が宙に浮き、そのまま巨体が一回転したなど理解出来なかったのだ。

 

「えっと、もう良いでしょうか?」

 

 オッタルの様な大男、それも途中から力を込めたにも関わらずフェルムには腕を痛めた様子すら見えず、地面に叩き付けても動揺すら見せないの

 慣れている、その言葉の通りに何度も見た光景でしかなかった。

 

 

「……俺の様な奴の相手は何度もして来たか?」

 

「は、はい。勝ち目があると思われているらしくって……」

 

 大陸を救った英雄と仲間達、世界の危機である決戦を前に逃げ出すか参戦する力を持たなかった者達は危機がどれだけの物だったか身を持って体験していない。

 

 故に少し力が上がり自信を持てば名を上げる為に挑もうとするのは当然であった。

 無論、その程度の者達が挑む対象にするのは英雄の仲間の中でも弱そうなリルビーの二人か着いて行っただけの小間使いに見えるフェルムに挑んで名を上げようと、そういう訳だ。

 

 実際の所、彼女は仲間の中でも戦士としては筆頭候補、何なら持っている武器に宿る闇の力のせいで最終決戦の強敵相手に本来の力を発揮出来ないネネアよりも活躍した。

 

 あれは相性が悪い、相性が。

 

 

「そうか。未だ未熟だな、俺は……」

 

 此処で立ち上がり正式な戦いを挑むという考えが浮かんだが、オッタルはそれを恥だとして切り捨てる。

 思い返すのは何度も泥を舐め這いつくばる事になった最強達。

 

 その片方が弱った所を倒して都市最強と称される今があるが、オッタルの中で強敵に挑む事への渇望は収まらない。

 

 潤う事の無い渇き、強くなる事を邪魔する格下達、女神への忠義のみが今の糧になっているオッタルにとって今日の敗北は生涯忘れられぬ物となるだろう。

 

 

 

 

「俺は更に強くなる。その時には正式に戦って欲しい」

 

「え? 嫌です、困ります。私、ただのウェイトレスですよ!?」

 

 お前の様なただのウェイトレスが居るか、その言葉を飲み込むオッタルであった。

 彼は礼儀を忘れないのだ。脳筋なだけで。

 

 

 

「いや、貴女の何処が普通のウェイトレスなんですか……」

 

 その姿を見ていたリオンは呟く。他の皆は他人から見れば自分達も同じなので言わなかった。

 

 

 

 

 

 

「ミア母ちゃーん。ウチの奢りで此奴にガンガン飯持って来てやー」

 

 ロキに連れられて飯食いに来たのは良いんだが、どうも店員数人の様子が妙だってのが印象だ。

 

 俺の正面に二人が座り、ずっと俺から目を離さないままのベートと違ってロキの方は呑気に見えるんだが、目は笑ってない。

 多分俺への警戒以外に店の数人が妙だって分かってるんだろう。

 

 

 具体的におかしいのを挙げるとあのエルフにアーニャにシルって呼ばれてる店員。

 店の裏手の方をチラチラ気にしていて、仕事に障りがない程度に上の空って奴だ。

 

 裏には……確か店員の寮があるんだったな、裏庭も。

 

「おい、アーニャ。住み込みの誰かが寝込みでもしたか?」

 

「いや、違う違う。おミャア、驚くなよ? なんと……」

 

「くっちゃべってないで働きな、馬鹿娘っ!」

 

 ヒソヒソと周囲を憚る感じでもでも誰かに話したくって堪らない様子のアーニャだったが途中で邪魔されて終わったが、店員以外の誰かに何かが起きた、それは店長が話すのを邪魔する様な事って訳ね。

 

「じゃあ、取り敢えず厚切りステーキ三皿に極大特盛りパスタにコーンサラダの大で」

 

「いや、自分結構食うなっ!? 残したら拳骨叩き込まれるで?」

 

「食おうと思ったら消える量だろ? それで俺に何が聞きたいんだ?」

 

 店で何があったか、関係者が黙りなら聞き出すだそうとするだけ無駄だろうとメニューを開いて食いたい物を好きに頼む。

 奢るってのは実に良い。値段を気にしないから飯が三割増しで美味くなるからな。

 

 

「……自分、この間街中に出現したキッショい色した花のモンスターを持ち込んだか?」

 

「いーや? 喋って友好的なら別として、花のモンスターってのは大暴れしたんだろ? じゃあ送り迎えしてやる義理は無いわな」

 

 ヘラヘラしていた表情が一瞬で切り替わり、その表情は成る程、天界じゃ悪神の類いだったってのも納得の迫力だ。

 細い目を薄く開いて俺を睨め付け、神の能力が無くても嘘は許さないと無言で語り掛けて来る。

 

 まあ、別に俺は何もしてないから正直に答えるけれどな。

 

「おい、ロキ」

 

「嘘やない、少なくとも持ち込んだのは別の奴として、もう一個聞いてええか?」

 

「持ち帰り頼んで良いか?」

 

「……ええで」

 

 流石は大手ファミリアの主神、他の店で食う事を考えたらボッタクリもいい所だって値段なのに太っ腹だな

 実際は腹にも胸にも肉は皆無だがよ。

 

 っと、睨まれてら。心読んだのかよ?

 

「自分、ベルゼーヴァって奴知っとるか? お前が現れたのと同時期に姿見せた凄腕の魔導士なんやけれどな」

 

「……」

 

 俺だとバレているのか、それとも関係が有ると思われているだけなのか、同時期にイレギュラーが多発したせいで疑われるのは分かるんだが、そのせいで無言になっちまった。

 

「その反応からして何か知っとるな? 教えてくれへん?」

 

 拒否は許さない、大手ファミリアの力をフルに使ってでも聞き出すぞ、今度は目以外は笑ったまま甘える様な声で暗に告げる。

 ベートは何時でも動ける体勢だし、どうとでもなるが、どうすべきだろうな。

 

 向こうの真意が分からねえし、此処は正直に話しておくか、うん。

 

 

 

「大体千年以上前なんだが、神と並ぶ『新人類』になろうとしたシャロームってのが居るんだよ。魔法の力で栄華を極めたラドラスって国を作ったは良いけれど野望を危険視されて神の代理に封印された不死の存在だよ。ベルゼーヴァはシャロームが体を乗っとる為にとある男の体を借りて作った息子。ついでに俺の祖国に侵攻した帝国の宰相だ」

 

「マジかいな……」

 

「嘘じゃないなら妄言だと思って切り捨てれば良いさ。少なくても俺は封印されて壁から生えてるシャロームと会っているぜ?」

 

 神には嘘は通じない。だから本当の事を話してやった。ベルゼーヴァが凄い魔法を使えても不思議じゃないって話をな。

 

 俺とは帝国で自分の直属の部下に誘われる程度には仲が良いし、本人が居ない所ではベルベルとか玉ねぎとか呼んでいるのは言わないし、実際魔法剣士として優秀だから問題は無い。

 

 お前がベルゼーヴァか? の質問じゃなくって助かったぜ。

 

「……それで帝国はどうなったんや? お前の国滅ぼして次はこっち狙っとるとかは……」

 

「皇帝が色々あって戦争辞めたし、和平結んで復興に向けて動いてるから大丈夫だろうさ。まあ、ただの農夫の俺に政治は分からねえけれど」

 

「うん、そうか。リヴェリアとかレフィーヤがどうも興味持っとるみたいやし、フィンも警戒しとるから……うん」

 

 ロキは考えるのを辞めた。正体が何となく分かった気がするが、少し面倒な感じだったからだ。尚、ベルゼーヴァを名乗ってるだけで俺である。

 

 「ご注文の品、お待たせしましたー!」

 

 ガクッと突っ伏して意気消沈のロキだが、大手ファミリアってのは大変だねえ。謎の天才魔導士のバックに国が付いてるかもって感じだしな。

 

 そんな事よりも肉だよ、肉! 俺の前に置かれたのは更に置かれた焼きたての分厚いステーキ、焼き方はこんがりと焼いたウェルダンだ。カリカリのニンニクやら、皿を傾けたら肉の上で動くトロトロのバター。ナイフで切り分けて口に運べば口の中でとろける脂。

 

 うん、美味い! 肉の質も良いけれど焼き方も良いんだよな、此所の肉って!

 

 

「……なあ、所で耳にした噂なんやけれど、お前の魔法って美肌美髪に効果あるってホンマか?」

 

「まあ、俺の使う魔法は生命力とかに関わってくるみたいだからな。欠損は無理だが病気にも効くし、肌や髪だって荒れたのが元に戻る程度だがな」

 

 だから元が駄目なら其処まで効果がある訳じゃないが、それでも普通に過ごして手入れしている程度には綺麗にはなる。

 まあ、冒険者である以上は寝不足やら肌や髪に悪影響出るだろうし、アミッドも疲労や薬負けしてるから治してるんだよ、それを嗅ぎ付けられたか?

 

「ならウチのファミリアの女連中に使ったら美少女や美女が更に綺麗になるって事やな!」

 

 アミッドがペラペラ話すとは思えないが、俺が回復させてる連中の肌の調子が良くなったとか噂になってるって所だろう。

 ロキはベルゼーヴァ関連なんて完全に忘れ、俺の肩を掴んで揺さぶってくるんだが、飯の邪魔なんだが?

 

「そうだな。やらねぇけれど」

 

「なんでや!?」

 

「面倒だから」

 

 リヴィラでの奴は契約のついでのサービスだし、アミッドは友達でタケミカヅチさんの所の連中は契約だから。それでロキ・ファミリアの連中の美容の為に使う理由は無い。

 

「悪いが縁が無かったって事で諦めてくれ。オッタルを下層まで送ったのは深層までの護衛って対価をもらったからだし、だからって報酬払われても金次第で動くと思われるのも嫌だしな」

 

 ディアンケヒト・ファミリアとの事でも医療を支配するとかって今後色々ありそうだし、ロキの所にしているなら自分の所もとか言い出すのが出るだろうさ。

 

 それに金次第で動くって認知されたら厄介な案件を持ち込まれるだろうし。それで顔見られた可能性が出たんだから。

 

 

「んぎぎぎ。お肌スベスベになったのをスリスリしたりして確かめたかったんやがなぁ」

 

「ケッ! 髪や肌を磨く暇があったら腕磨けってんだよ」

 

「その腕を磨く時間に当てられるやろがい! 大体、アイズたんの美貌に夢中で酒の席でセクハラかました奴が何言っとんねん!」

 

「あっ、この料理を二人前ずつ持ち帰りで頼む」

 

 拳を握り締めて悔しがるロキと、それを馬鹿にした目で見るベート、二人の間で口喧嘩が勃発したけれど俺知ーらねっと。

 勝手にやってりゃ良いさ、人様の事情に口出すのも面倒な事だしよ。

 

 俺が飯食ってる間も二人の喧嘩は続いたが、全然気にしないで食べ進める。あっ、デザートも頼むとするか、こっちも持ち帰りで。

 

 

 

 

 

 

「……漸く帰って来たわね。それで私がわざわざこうして来た理由が分かっているのかしら?」

 

「げっ! ローズ!?」

 

 ホームに帰って来たら腕組みしたローズが立っていた。えっと、此処まで来た理由?

 

 

「襲って来た連中を酒と一緒に渡して速攻で消えた事か?」

 

「ええ、そうよ。神ロキの証言もあったけれど、本人からの聴取だって詳しくしないといけないのにご飯に行くからって消えちゃって、担当の私が他の冒険者の相談から戻ったら後始末を命じられたってワケ。それで、今日は残業確定だけれど言うことはあるかしら?」

 

「えっと、ごめんなさい? それと過労で荒れた肌は俺の【キュア】で疲労と一緒に治るけれど……」

 

 あっ、はい。正座ですね。

 

 ミアハに視線で助けを求めるも首を横に振られた、畜生! この人でなし!

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