英雄の末弟と英雄を目指す白兎   作:ケツアゴ

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薬神と正義の眷属

「恩恵は……無いな。じゃあ、この書類にサインしてくれ」

 

「あっ、俺文字書けないんで」

 

 この大陸の識字率はそんなに高くないらしい。いや、俺の故郷もど田舎だし、そんなに高くなかったけれどな。

 両親が早く亡くなって村の人達の世話になってる時に村長が教えてくれて、旅の帳簿も一番読み書き算術が出来た俺が管理してたんだ。

 

 ……いや、デルガドさんとか学のある人が早々に仲間になって良かったわ。

 俺に足りてない部分もちゃんと教えてくれたし、あの爺さん。

 

 クリスピー……レルラ・ロントンさんとか帳簿関連はサッパリだったし。

 あの人、綺麗探しとか言って家族放って旅に出てたのに割と駄目な人だったからな……。

 

 そんな訳でサインの方は受付の人、ガネーシャ・ファミリア所属の団員とやらに代筆してもらって完了、こっちの文字を最低限覚えるって課題が増えましたとさ。

 

「さて、どうすっかね」

 

 テレポートで一旦塀の外に出て入り直したが、世界最大の都市を名乗るだけあって活気付いている。

 それでも端の方は何処も同じでさびれちゃいるが……まあ、そんなもんだよな。

 

 ダンジョンに蓋する様に建てられたバベルから俺を見ていた相手に視線を送り、愛想良く手でも振ってやろうかと思うが止めておく。

 凄い美人だが、ありゃ関わったら面倒なタイプだわ。

 

 知ってるもん、俺。知り合いや旅の仲間にも敵にも、美人だけれど厄ネタ満載なのが結構居て知ってるもん。

 

 魔神に寄生されてるキツい系のお姉さんとか、実は死んでいるけれど恋人のソウルのお陰で生き続けてる姉御系のお姉さんとか、実は成人した孫がいる吸血鬼とか!

 

 ああ、それと視線の主含めて人間じゃないのが結構居るな。成る程、これが神か。

 姉貴の体を乗っ取ろうとして返り討ちにあったウルグとか人間絶対滅ぼす系女神のティアとか神には関わってきたが、こうして近くで何人か観察していると似た気配を感じる。

 

 何か胸のデカいちびっ子からも感じるんだが、何で神が屋台で働いてるんだ?

 

「おや? お主はオラリオに来たばかりか? 神が大勢いて驚いただろう?」

 

「あ、ああ。今まで会ったのは人間への殺意と悪意だらけの二名だったもんで……。退けるのに苦労したのなんの」

 

 魔王だの女神だのとの連戦とかマジでふざけんなっつーの! その後で世界のバランスを保つ竜王とか、特盛りにも程があるだろっ!?

 

 こうして俺に話しかけて来たお人好しそうな男も同じだ。さっきから薬らしき物を配ったり、神に絡まれている女を助けたりと善寄りなんだが……。

 

 シャリの奴も最初は盲目のお姫様に光を与えたいって感じだったからな。その後の闇堕ちを狙ってなのが目的で。

 

「それは何というか大変だったな……。では、冒険者の様なものだったか?」

 

「まあ、此処の冒険者とは結構違うけれど大陸中を旅してモンスターと戦ったり、戦争に参加したりして、一年程前からは故郷で畑仕事をしてたんだが、当時争った奴の魔法で別の大陸まで飛ばされたらしくって……」

 

 知り合った誰も名前さえ知らない場所なので帰る術が無くて困っている、と嘘は挟まず少し端折って答えれば男は少し悩んだ様子だ。

 

 神には嘘が通じないし、なんか企んでいても見抜かれるんだっけか?

 厄介この上ないな、信用していない相手に口先が通じないってのは。

 

「ファミリアは決まったか?」

 

「いや、それがまだ」

 

「そうか。ならばついて来るが良い。貧乏で良ければミアハ・ファミリアが歓迎しよう」

 

 貧乏ね。旅の最初は路銀使い果たして街の隅で野宿だったり、街道近くで順番で寝てモンスターや野党を警戒しながら野営したりと慣れてるよ。

 

 途中から姉貴がギャンブルで連勝してからは裕福だったけれどな。あの魔法の宝箱凄ぇ。入れた金が倍になり続けるんだもん。

 

 まだ信用しちゃいないが取り敢えず着いて行くとするか。ヤバくなったら即退散する準備だけは整えて……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ、あの輝きを放つ魂を見られるだなんて本当に久し振りね。懐かしいわ」

 

「懐かしい、ですか?」

 

「ええ、そう。一面の穂波の様な黄金の輝き。でも、それは太陽に照らされ続けて得た物。あの輝きは英雄と呼ばれた子達の側に居続けた者が得る物よ。太陽みたいに輝く魂の英雄なんて久しく現れていないのに」

 

「ご要望とあらば連れて来ますが」

 

「いえ、今は良いわ。あの子をあそこまでの輝きに染め上げた英雄には興味があるけれど、今は観察に留めておくから」

 

「はっ」

 

 

 

 

「具体例を挙げると勇者と一緒に旅立つ武闘家と盗賊と僧侶みたいなものよ。盗賊と僧侶は途中で賢者になるんだけれど」

 

「はぁ……」

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ行って来るよ」

 

 俺がミアハ・ファミリアに入団して一週間程が経った。最初は反対していた団長のナァーザ(獣人って種族らしい)だが、最初の更新で発現した(事にしている)テレポートが儲けに繋がると知って文句は言って来ない。

 

 ミアハの方には俺の大陸独自の技術らしいと伝えて納得してもらったが、普通は魔法なんてエルフ以外は恩恵を得て独自の物が最大三つまで出て来るから知られない様にしろって事だ。

 

 神様の玩具にされかねないって怖いねえ。

 

「そうだ。団長、注文の品はいつ頃完成するんだ?」

 

「リヴェラに卸す分は今日中に仕上げるわ。お店は閉めてミアハ様と二人っきりで頑張れば終わるもの。あっ、それと危なくない程度で良いからこのメモの材料お願い」

 

 この一週間で分かったが、ミアハは随分なお人よしっつーか、善意の塊で後先考えないタイプだ。

 団長の義手のためにファミリアが衰退するレベルの借金拵えたり、新人に商品配ったり、アホかと言いたい。

 

 帳簿も少し見させて貰ったが、材料費と純利益の部分が途中から不自然だったりして、尻拭いに何してるのか丸分かりだ。

 団長も団長でミアハ目当ての客を追い返したりしてるから同罪だがな?

 

 え? 商売舐めてる? 

 

 俺がボールスと交渉して値引きする代わりにポーションとかの定期的な大量購入したから業績が改善したの忘れるなよ?

 今もこうして二人で作業出来るのそのお陰だからな?

 

 ミアハと堂々と二人きりで居られる事に上機嫌な団長からメモを受け取り、続いて向かうのはボールスが所属するファミリアだ。

 

「おう。今回も頼むぜ『運び屋』」

 

 既にリヴィラで売る予定の商品や食料が何台もの龍籠(カーゴ)に入れられている。

 これをリヴィラの街まで運び、夜に完成する商品を配達するのが俺の仕事だ。

 

 それにしても運び屋ねぇ。配達なんて駆け出し冒険者の仕事だってのに懐かしい事だ。わざわざそんな二つ名で呼ばれるなんてな。

 姉貴なんて竜殺しだぜ? うっかり蘇った竜を殺した結果ってのが笑えるけれどよ。

 

 俺が使用していた武器を発見した屍竜の洞窟。そこに救助の依頼で向かったんだが、奥に何かあるっぽいからって直ぐ帰らずに見に行ってみれば竜がゾンビになって襲い掛かって来たんだから驚きだ。

 

 吟遊詩人にうっかり竜殺しになっちまったって歌われてるのを笑ったら拳骨喰らったんだよな。

 

「おい、彼奴か?」

 

「ちっ! 偶々便利な魔法を手に入れただけなのによ」

 

 ホームの前を通る何処ぞかの冒険者が俺を指差して敵意を向ける。夢を持って冒険者になったは良いが伸び悩んだ実力じゃ小銭しか入ってこない。

 そんな中で安全に金を稼げる魔法を手に入れた俺を見たら当然の反応だわな。

 

「気にすんなよ。お前の力には代わりないんだ」

 

「気にしてないさ。あの程度は聞き飽きてる」

 

 俺の学んだ魔法は努力で手に入れる物だ。精霊の力が強い場所で戦う事で精霊の力の一部を取り込んで漸く魔法を得る為の器を得る。

 

 その上で精々一日程度掛かる距離が最大な俺と十日以上の距離でも平気で飛ぶネメアさんみてぇな違いが出るし、だから偶々才能があったって思われてる俺が嫉妬されるのは分かるのよ。

 姉貴だって短期間で有名になった事で同業から妬まれてたしな。

 

 あっ、でも範囲は別として魔法の威力だけなら俺って大陸でもトップクラスだったからな? 俺が妬まれる才能の持ち主ってのは変わらねえか。

 

「じゃあ、早速配達を……」

 

 十八階層とオラリオを往復してる事は既に知られているし、戦闘能力は隠す予定だから大っぴらに魔法は使えないけれどな。

 畑守るのに竜巻やら爆発使わねえし、ダンジョンから脱出する【エスケープ】は【テレポート】だと誤魔化すとして、通常の魔法数が三つまでってんなら残り二つは何にするかは迷い中。

 

 ミアハが言うには呪文の詠唱によって魔法が変わるのがいるらしいし、キュア系は全部似た奴だって言えば良いんだが……。

 

 脳筋な姉貴や兄貴と違って魔法主体の俺にとっちゃ手札が制限されるのは困り物だ。

 

「悪い。酒が未だ積み終わってないんだった。ソーマ・ファミリアに依頼して朝には届く筈だったんだが。ちょっと適当にブラついて待っていてくれ」

 

「りょーかい」

 

 何と言うか、利益で繋がる関係ってのは家族や仲間とは別の居心地の良さがある。年期の長さとか年齢とか面倒な物は考えなくて表面上の仲良しをやってりゃ良いからな。

 いや、この人は割と良い奴なんだろうけれど、うん。

 

 それにしても納品に遅れるって何やってんだよ。冒険者も商売も信用第一だろ。団長も商品の経費削減でやらかしてたけれどな。

 

 この辺りは朝から開いてる店が幾つかあるし、配送を終えたら軽く運動する予定だった俺は朝飯を追加で食うかと適当な店を探していたんだが、別の困り事に遭遇してしまった。

 

「見付けたぜ『運び屋』ちゃん! さあ! 俺のファミリアにおいで!」

 

「いやいや、俺の所にこそ相応しい!」

 

 俺を取り囲む様に現れる神の勧誘、凄く鬱陶しい。このままダンジョンの奥に放置したら駄目かな? 眷属が力失ってしまうし、ダンジョンに居たら死活問題だから駄目か。

 

「【テレポート】」

 

「逃げたっ!」

 

 送還覚悟で力出したらティアとかを相手にするのと同じ感じなんだろ? じゃあ、逃げの一手だな。無駄に争う必要はねえよ。

 

 但しシャリ、テメーは駄目だ。ボールスには願いを叶えるって言ってから追い詰めて、負の感情が高まった奴をモンスターにする魔法を使うって言ってる(タルテュバとかティアナ王女とかそんな感じだったし、嘘ではない)。

 面白がった神が騒ぐのが目論見って事も有り得るから大勢には話せないんだけれどな。

 

 この一週間で会った神見てるとその可能性は高いだろうし。

 

 面倒な勧誘から逃げた先は建物を挟んだ反対側の通り、ボールスから値段は高いが飯は美味いし店員が美人揃いだって聞いた『豊穣の女主人』の前。

 飯には興味有るんだが、ミアハも団長も行かないって言ってるし、俺だけ高い飯を食うってのも気が咎める。

 

 仲間ってのは分け合うもんだろ? 少なくても俺の所はそうだった。

 

「……げっ」

 

「急に失礼な方ですね」

 

「悪い。故郷で会ったエルフやらダークエルフにヤベー奴が多くてな」

 

 冒険者に妹を殺されたからと冒険者狩りをしてたダークエルフの姉ちゃんや、傲慢で千六百歳過ぎた世間知らず、エルフのダークエルフ狩りで幼い頃に家族を殺されたからって当時の自分以下の子供は殺さないけれど他は殺しまくる奴とか、竜王の狂信者とか……極端なのが多い印象なんだよなぁ。

 

 店の前で掃除をしていた緑髪のエルフに軽く謝り、その場を去ろうとしたんだが……。

 

「待ちなさい。貴方が噂の『運び屋』ですね?」

 

「そうだが。……言っとくが悪さはしてねえぞ」

 

 俺を呼び止めたエルフの姉ちゃんはどうも狂信者に少し近い感じがするんだよな。アレよりは多少融通が効くんだろうが、信念の為に前が見えなくなる感じの奴。

 

 

「貴方は何をしにオラリオに来たんですか?」

 

「いや、来たっつーか連れて来られて困ってるんだ。さっさと帰って畑の世話をしたいんだが……連れて来た奴が予想通りならヤベー事になりそうでな」

 

 これ以上の悲しみを生まない為に世界を滅ぼそうとか考える奴だぜ? 頼れる装備も無い上に少し鈍ってる俺一人で勝てるかどうかは微妙なんだけれどな。

 

 放っておけないだろ? 姉貴ならそうしただろうし、迎えの連絡来たら何人か逆に呼ばねえと駄目だ。一週間も滞在したら顔見知りも出来るし、放置する気は失せちまった。

 

 

「悪用し放題の魔法使える俺を警戒するのは分かるが、英雄に拳骨喰らう様な悪さはしねえさ。あの人を怒らせるのは勘弁だ」

 

 兄貴は結構拳骨喰らってるが、と言って俺は再び遠くに転移する。納得してない顔だったねぇ。まあ、この店には多分行かないから大丈夫だろ。

 

 

 

 

 ……襲って来たら反撃するけれどな。そういやボールスが面白い所に案内してくれるっつってたけれど何処だろうな?

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