「つまり仕事を失った腹いせに襲って来たけれど、神ソーマが作った麻薬みたいな酒を飲ませる気だったらしい、と」
早く飯に行きたかったから後回しにした事態の説明、それをわざわざホームまで聞きに来てくれたローズが何故か胃の辺りを押さえているが、胃痛でもするのなら【キュア】要るか?
「こんな事まで仕事とかアドバイザーも大変だな。回復しておくか?」
「そうね、有り難く回復してもらうとして……誰の! せいだと!」
「ソーマ・ファミリアの連中?」
仕事にあぶれるにはこの業界じゃ珍しくもないだろ? モンスターは無限に湧くんだろうが、それでも大量発生を続ける訳じゃないなら大勢でパイを切り分けているみたいなもんだし、クエストなら尚更だ。
まあ、事後処理をちゃんとせずに丸投げしたには俺だし、その辺はちゃんと反省すべきか?
一応謝っておくか、実際普段クールなのにテンションがおかしくなってるし。
そんな訳で一応非がある事は認めて謝ったんだが、返って来たのは額に手を当てての盛大な溜め息だった。
「巻き込まれた側ってのは分かるけれど、お願いだから丸投げは勘弁してちょうだい。神ロキの証言が無かったら厄介な事になってたわよ、貴方」
再び盛大な溜め息と共に向けられたのは反撃にしても少しやり過ぎじゃないのかって言葉。
一人は片目を潰したし、もう一人は手の骨を踏み砕いたから今後冒険者を続けるのは難しいだろうって怪我らしい。
「武器持ってたし、俺って全ステイタスが未だに最低値だぜ? それに冒険者としてダンジョンに潜るばかりが人生じゃない。裏方だってファミリアに貢献可能だし、冒険者以外にも仕事は多いじゃねえか」
「そうね。確かに怪我の具合やアドバイザーとしての立ち場ばかり見れて重要な部分を忘れていたわ。それは謝罪するとして……あれだけ派手に動いていて最低値? 詐称疑惑まであるのに?」
「なんなら五十も行ってねえぞ?」
何ならオール0だ。恩恵貰っても微妙に変わった程度だったが、 その後も全然上がらないとか酷くねえか? スキルとか魔法欲しいって。
そもそも俺にそんな疑惑があったのかよ。そりゃ俺が強いのは認めるけれどよ。
それを俺に伝えて良かったのかどうか、咄嗟に口を押さえたのを見ると駄目だったぽいな。
俺もローズも何も言わず居た堪れない空気だけが沈黙と共に流れる。
扉の隙間から団長がこっちを覗き見してたが目を合わせずにそっと消えるし、ミアハは読まなくて良い空気を読んで黙ってる。
おう、普段の無自覚口説き文句はどうしたよ? 口説いてどうにかしてくれよ。
「ソーマ・ファミリアには前々からの事もあって立ち入り検査があるでしょうね。今回みたいにならない様に道は選びなさい。恋人だって居るんだから」
「え? 誰に恋人が居るって?」
「え?」
「え?」
俺? 俺の恋人が居るって噂されてんの?
俺もローズも、何言ってんだ、此奴、みたいな顔を互いに向ける。そもそも俺の恋人の有無がどうして担当アドバイザー迄届いてるんだ?
「ああ、多分私の事ですね。あの噂、更に広がっているみたいなので」
ソーマ・ファミリアとの間に起きるであろう今後の揉め事、具体的に言うと更なる逆恨みによる襲撃についての注意を受けた事もあり、治療院での手伝いの休憩時間にアミッドに相談してみたら即座に発覚だ。
因みに団長はミアハに張り付いてる口実になるので少しだけ上機嫌だ。火には注意すべく店に水を張ったバケツは常備しているけれどな。
それにしても勝手に恋人云々の噂を流されてどうとも思わないのか?
紅茶を啜りながら平然と教えて来たが……うーん、俺みたいに出自もハッキリしない余所者とだぜ?
幾ら友達でもそんなのと噂になって平然としているとか……。
「これが大手ファミリア団長の余裕って奴か」
「何を考えているか分かりますから言っておきますが、もう少しどう見られているかを自覚すべきでは?」
俺がどう見られているか? 便利な魔法は使えるがダンジョンにはそんなに行かない新人、そんな所だろ?
「……ふぅ。グダグダ言いつつもダンジョンで重傷者を見掛けたら無償で癒し、治療院の仕事も熱心。それなりの高評価ですよ? ですから私との関係が噂になっても気にしていませんので」
「お、おう……」
「まあ、側から見れば恋人に見えるのでしょう。変な男の人が寄って来るのを避けられますし、強く否定はしないで下さいね?」
いや、俺としては別に良いんだよ。こっちは仮の住処だし、よっぽど変な噂が流れない限りさ。
だから娼館通いだって平気で出来るんだけれども、こっちで地位を持ってるアミッドはそれで良いのかなって気になったんだ。
「アミッドは凄い美女だし性格も良いからな。悪い虫除けになるなら協力するが。俺のせいで良縁が遠ざかるのが不安なんだが……」
「別に結婚ばかりが幸せではありませんよ? それに私は十九、そんな心配をされずとも大丈夫ですから。……それとも美人のお姉さんとの結婚を遠回しに意識して言ってますか?」
アミッドはわざわざ俺の隣まで来たが。行き遅れの心配に聞こえたのか少し怒った風。
だが。不意に俺に横から抱きつくと耳元で囁いて来た。
直ぐに冗談だと笑って言って来たが、正直心臓に悪い。そういう冗談でガキンチョの初恋とか奪ってんじゃねえのか?
ああ、本当に立場とか面倒だわ。世界の危機とかにも無関係だった頃は良かったよ。
俺を知ってる奴が多い場所でも少ない場所でも色々と考えて動かなけりゃならないんだからな。
「聞いてくれよ、ギルくーん! ベル君が、僕のベル君がサポーターの子に取られちゃったんだよー!」
かと思いきや、神って立場の癖に気苦労とかなさそうなのが俺の目の前で酔っぱらっている。
「これが神、それも高位だってんだから驚きだよな。神としての権威なんて紙みたいにペラペラなのに」
「ちょっと君ぃ!?」
どうもベルがサポーターを雇ったんだが、それが女の子なのとキャッキャウフフ? とかしてるのを見て店に泣きながら突撃して来たのが目の前の駄女神だ。
溺愛した娘に男が出来た時の近所のオッちゃんもこんな感じだったけれど、一応神なんだよな?
「別にベルと恋人って訳じゃあるまいし、別に良いんじゃねえの? 彼奴と組んでるサポーターだが、俺も一回だけ雇ったけれど手際は良かったぞ? 色々と入り用なんだし、強くなる為にも必要だろ?」
地下室はそれなりの作りにしてもボロボロのホームの新調、新しい防具、より先の階層に行くなら金はあればあるだけ良い。
それと飯だな、ど田舎の農夫だった俺の家の方がもう少しバランス考えて食ってたぞ?
「まだ恋仲じゃないけれどさー! ヴァレン某とかリオン某への憧れが恋心になったり、サポーター君と親密になる前に僕に夢中にさせるんだよー!」
既に何杯も飲み干したグラスをテーブルに叩きつけながら手足を激しく動かす姿には神の威厳を感じない。見るからに餓鬼の姿だし、神の力を封印してるなら肉体も相応なんじゃねえの? 一応後で回復させておくか。
ソーマ・ファミリアの件もあるし俺が材料探して来たから新薬は調合の段階だからって俺が愚痴を聞く事になったんだが、適当な所に放置しとくんだったな……。
「でも、ベルってアンタへの感情って恋愛的なのは含まれてないよな。そもそも処女神とか言ってただろ? 恋人になったとして、生涯純潔を守らせるのか?」
「そ、そりゃ僕達神は君達人間との間に子供は作れないし、そもそも僕は処女神だけれど、性欲ばかりが愛の満たし方じゃないだろ?」
「さてね。人生経験の浅い十六歳の小僧にその辺は分からねえよ」
初恋の相手の矢印は大好きな家族に向けられていて、そんな風に自分以外に恋する人に恋をしてたって気が付いた俺にはな。
背もたれに体重を預けてヘスティアの話を適当に聞き流し、ベルもこれじゃあ大変だろうって思わされる。見るからにスキンシップが激しい露出
仮に今は恋仲になったとして、十年後二十年後はどうするんだよって話だ。面倒だな、この話題。
「それでダンジョンの方は順調なのか?」
「タケの所にも世話になってるし、順調に強くなってるよ。最近どうもオラリオの様子が妙だし、無理はしないで欲しいんだけれどね」
前から問題視されていたソーマ・ファミリアへのギルドの立ち入りや、十八階層で起きた新種モンスターの出現と諸々、ついでにイシュタルの所の団長が暫く表に顔を出していないとか。
問題が多いタイプで身内にも嫌われているみたいだったけれど、こりゃ荒れそうだ。シャリの奴も犠牲を減らす真似をしたりとか全然動きが読めねえし……うん?
「今、何処かで大きな音が鳴らなかったか? それに少し揺れた気が……」
「ベルくーん! 僕は、僕は……すぅ」
オラリオの何処かで激しい揺れと轟音が発生した気がするが、広い街だから詳しい場所は全然だ。ヘスティアなんが酔いが回って机に突っ伏して寝始めてるし、よだれ垂らして男の名前呼んで、マジでこれが女神だってんだ、ティラとは別物過ぎるな。
駄女神王ヘスティアと呼ばせてもらおうか。
いや、彼奴も自分の子供である自然を破壊するのが気にくわないってタイプだったし、似てるのか?
「あれ? これって支払いどうするんだ?」
目の前には散々飲んで酔い潰れた駄女神、安酒だろうし付き合いだろうと嫌いな酒なんざ飲まないから会計もそれ程は行ってないんだが、流石に寝てる奴の懐漁って財布を取り出すってのは抵抗が些か。
そもそも財布何処に持ってんだろ、鞄とかないし、隠せる所は……。
「一旦立て替えるか……」
俺の分だけ払って放置してやりたいが、ミアハにも今後迷惑掛け続けるのを考えたら顔を潰す真似はしたくねえし、納得は行かねえが仕方無いのか……。
「取り敢えず追加注文でも……」
割り勘なら多く食ってた方が得だし、串焼き肉にサラダに海老に……どうせならデザートも持ち帰りで注文しとくか。
別に体動かしたら甘い物が食いたいだろうしな。
ヘスティアは食い終わった後でホームに転移してベッドにでも投げ込んどきゃ良いだろ、多分。
道行く人に醜態を晒しながら別の名前を寝言で呟いちゃいるが、本当に自由な奴だよ。
天界の仕事は置いて来てるんだし、縛られる物が無いってのは羨ましさすら感じるよ、此奴は流石に反面教師だが。
「そして此奴はこんな所で寝ているって訳ね」
既に行った事があるから【テレポート】の範囲内だが、見れば疲れてソファーに倒れ込んだまま寝ているベルの姿があった。
ヘスティアの襟を掴んで持ち運んで来たが、俺が声を出しても起きる様子が無い。
ダンジョンが終わったらタケミカヅチさんの指導受けてるんだから当然だが、尚更こんな所で寝るなって感じだぞ?
「……別に良いか」
聞いた話じゃ酒場のエルフもアイズも強くて綺麗な先輩冒険者としての憧れで恋愛一歩手前って事らしい。姉貴がネメアさんに抱いた憧れみたいなものか、じゃあ女神と一緒に寝ても問題無いな。
ヘスティアを雑にベッドに雑に放り捨て、ベルは普通に抱えて置く。間に枕でも挟めば問題無いだろうし、上から毛布を掛けてやれば十分だ。
「【キュア】」
ちぃっと昔の自分と重ねて肩入れし過ぎな気もするが、誰かに見られて自分もって感じにねだられる訳でも無いし、この程度は自由だろ。
……偶には夜の散歩でも行ってみるか。
思い返せばダンジョンに行くか治療院や孤児院で手伝いをしたり、歓楽街に行くばっかりで夜の市内を普通に散策するなんて数度だけだろう。
何か新しい発見があるかも知れない。
「どうせやる事をやって帰還方法が分かれば家に帰るしな」
兄貴一人でも収穫には困らないだろうが、畑を守るのは俺の役目でもある。
友達も増えたし楽しい場所も見付けたが、俺の家はノーブルにあるからな。
まあ、それまでは楽しむとするか。
「あー! ギルさんじゃないですかー!」
「えっと、アミッド?」
財布を持って適当に飲み屋街をブラブラと歩き、屋台でもやってないかと思っていたら横から掛けられた随分とテンションの上がった様子の声。
横を見ても一瞬姿が見えず、まさかと思って視線を下に向ければ酒臭いアミッドがニヘラニヘラとご機嫌な様子だ。
「こんな所で会うだなんて奇遇ですね!」
「お前、酔っ払うとそんな風なのな」
普段の大人のお姉さん、時々ぶったって付けたくなる態度は何処へやら、ご機嫌な酔っ払いで声が大きい。
短い付き合いとはいえ、こんな姿は初めてだな……。
「何ですかー! 団長で見た目お子様の私がお酒飲んだら駄目ですかー!」
「いや、別に?」
「ギルさんのお陰で余裕が出来たし、偶には飲み歩きたくもなりますよー! あっ、二日酔いになったら回復お願いしますねー! お礼にチューしてあげても良いですからー!」
多分記憶が飛ぶタイプだな、此奴は。それか急患に備えて酒は自重してたか。
正気に戻ったら真っ赤になって悶えそうなテンションのアミッドはしっかりとした足取りで俺に近寄ると手を差し出して来る。
うん? 感謝の握手でもしようってのか?
「一緒にお散歩でもしましょーよー! そんな訳でお手て繋いで歩きましょー! あははははは!」
言われるがままに差し出した指にアミッドの指が絡められ、そのまま腕に抱き付かれる。
普段なら絶対にこんな事をしないだろうし、相当酔ってんな。
「ギルさんは未だオラリオに来たばかりですから、私がお勧めスポットを案内してあげますよー! 迷子にならないようにお手てがちゃんと繋ぎましょうねー!」
この状態のアミッドを放置して何処か行くのも問題だよなぁ。ヘスティアに続いて酔っ払いの相手をするのはちょっと面倒だが、今後弄る材料にはなりそうだし、別に良いか。
「奇遇だな。俺も色々見て回りたかったんだ。アミッドが案内してくれるなら助かる」
「オラリオをもっと好きにして、ずっと居たいって思える様にしてあげますねー。魔法もそうですが、ダンジョンの安全領域の拠点作りが捗れば更に多くの命を救えるんだから貴方は重要なんですよー!」
「そうかい? 過大評価だろ」
俺に出来る事だが、俺にしか出来ない事でもない。オルファウスさんの力で行き来が可能になったらディンガル帝国もロストール王国も他の都市国家だって国交を結ぶ可能性があるし、俺が残る必要性はないんだけれどな。
俺の能力に期待してくれるのは嬉しいが、俺の居場所はあの黄金の畑なんでな。
「……酒場で噂を聞きましたよ、ダンジョンで危ない目に遭った人を助けているって。貴方、自分が思っているよりもずっと立派な冒険者です」
口調が急に元に戻ったアミッドを見れば酔いは少し残っているが、それでも少し醒めて冷静になったのか恥ずかしそうに顔を逸らしていた。
成る程、ちゃんと覚えてるタイプか。
うーん、認識してるより立派な冒険者って言われてもな。
俺は最強最高の英雄の弟で旅の仲間だぜ? 命が危ない奴を見掛けたら助けて回復して安全な場所まで送り届けている程度の評価よりそっちの方が上だろ?
魔法なんてハイエルフの長よりも威力が上なんだぜ? 他は負けるけれども。
「……些か女性の割合が多いのは不思議ですが」
「俺は区別せずに助けれるがな。野郎が野郎に助けられたって言えないんだろ、プライド的に」
アミッドは少し不満そうだが、別にそこまでの事でも無いだろ?
俺も未熟だった頃は素直に礼も言えない捻くれた餓鬼だったよ。夢見て自分は凄い奴だって自負の下でダンジョンに来てるんだし、仕方が無いだろ。
恩を仇でって事なら思う所もあるが、その程度で少し拗ねた風になってくれなくても良いんだがな。
「私、貴方にオラリオに残って欲しいのは魔法だけが理由じゃないですよ? 理由は他にもあります。知ってましたか? この手の繋ぎ方って恋び……はあっ!?」
え? 急にどうしたんだ!?
言葉の途中で大声を上げたアミッドが見ながら固まった方向に視線を向ければ、そこに建っているのはフレイヤ・ファミリアのホーム。
「一体何が……」
大勢の団員が所属する大きなホームの一部が内側から吹き飛ばされ、半壊状態に陥っていた……。
執着ってよりは当然って感じで故郷に戻ろうとしています
感想待ってます