英雄の末弟と英雄を目指す白兎   作:ケツアゴ

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発覚

 私はフェルム。邪竜や精霊王の封印を守護する巨人を倒せる程度に強いだけで、何処にでもいる酒場のウェイトレスです。

 

 最近になって漸く酔っ払ったお客さんのあしらい方や腕試しに来た方を怪我を抑えながら追い返せる様にはなりましたけれど、まだまだお母さんには叱られてばかり。

 

 うーん、女神ティラや竜王とのタタカイ方が大変だったし、頑張れるかな? 大切な大切な親友でもあり、私の英雄と何時か再会するって約束もしていますしね。

 

 私、彼女が帰る港になるって決めたんです!

 

 

「えっと、ですね。私、何処にでも居る普通の街娘なのですが、どうしてこうなっているんですか?」

 

 目の前には殺気立った大勢の達が武器を構えて私を睨んでいる上に、ちょっと怖いエルフやダークエルフ、リルビーの四つ子らしき子達(黒子が無いから子供だよね?)と猫の獣人? さん達。

 

 私に挑んで来たオッタルさんと酒場のミアさんが何か話し合い、一旦の棲む場所とお仕事を紹介して下さるって話だったのに……。

 

「其処の脳筋に力で勝てる街娘が何処にでも居るなら世界はとっくに滅びてるだろうが。テメェも脳筋か、ボケ」

 

「え? 初対面で酷くないですか?」

 

 獣人……アレンさんが槍を構えて私を睨むんですが、幾らなんでも酷くないですか? 私がちょっとムッってなって彼を睨むと冷や汗を流しながら後ろに飛び退いたのですが、後ろにいたオッタルさんが睨んだのかと思いきや、凄く綺麗な女神様が来ていました。

 

 あっ! 美の女神様のお家だって聞かされて来ましたし、この方がフレイヤ様ですね。多分雇い主になるんでしょうし、挨拶を。

 

「……えっと、オッタルさん。この場合、私から挨拶するのがマナーなんでしょうか?」

 

「ふふふ、面白い子ね。それに貴女も私に魅了されていない。本当に面白いわ。お名前、貴女の口から聞かせてもらえるかしら? 私はフレイヤ、このファミリアの主神をやっているわ」

 

「フェルムです、女神様!」

 

 あれ? 偉い人との会話ってこれで良いんだっけ? どうしよう、その辺は全部任せて来たし、ゼネテスさんやレムオンさん達は仲間だったりで気軽に話せたから全然分からない。

 

 でも、今回は失敗だったのかも。だって眷族の方々の表情が険しくなってしまっていますし、礼儀知らずだって思われた……?

 

 多分寛容な上の方の許しが出ても、下の方は無礼を許さないってパターンですかね、これ。

 

「あの、えっと、暫く滞在する為のお仕事と宿を紹介して下さると聞いたのですが……」

 

「ええ、その通りよ。だから貴女の力を見せてもらえるかしら? オッタルは私のファミリア最強の団長。それを破った貴女の力を把握しておきたいもの」

 

 ……成る程! 全て理解しました。

 

 此処は冒険者が中心の都市、リベルダムみたいに夢を追って来た人だって多いし、あの酒場の店員さん達だって街で見た冒険者さん達より強そうでした。

 

 酔っ払った冒険者に大きな怪我をさせずに悪さを諌める力があるのか証明しろって事なのだろう、私が今までやってる事をすれば良いんだ。

 

 

「えっと、オッタルさんは倒しましたし、あとは此処に居る人達全員を倒せば良いんですね?」

 

「ええ、その通りよ。それで武器なのだけれど……」

 

 既に集まっている大勢と、少し高い所から此方を見ている少し強そうな人達を含めて全員、それを伝えた途端に彼等から向けられる怒気が強くなりましたが、気にせずに取り出したのは愛用のフライパン。

 

 ただの街娘だった私が世界を滅ぼそうとする野望に立ち向かう切っ掛けになった物、そして私の愛用の武器。

 

 それを掲げて見せたのですが、何故か微妙な反応でした。

 

 ええっ!? これって闇の神器に匹敵する凄い武器なんですよ!?

 

「えっと、それってフライパンよね?」

 

「はい。御伽話にもなっている伝説のフライパンです」

 

「伝説の…フライパン……」

 

 フレイヤ様は目を丸くして、オッタルさん以外の人達からは怒声が飛び交いますが、エルフのヘディンさん? だけは指で眼鏡をクイっと上げながら油断せずに伝説のフライパンを見ていますし、秘める力を見抜いたのでしょうね。

 

 

「何というか本当に面白い子ね。じゃあ、始めてちょうだい。さて、どれだけ持つかしらね。皆、死なせちゃ駄目よ?」

 

 フレイヤ様の合図と共に幹部の皆さんを先頭に一斉に押し寄せて来るのを見て、私は伝説のフライパンを数度素振りして感覚を確かめる。

 

 戦闘なんて久し振り、才能が無かった魔法はどうやって使うのかさえ忘れちゃいましたが、誰一人として殺しちゃ駄目だなんて当然です。

 先頭の七人が壁になる程度に威力を抑える事を意識して、大きく振り被ります。

 

 

「【オールアタック】!」

 

 最強の前衛向けソウル『シャイニングレオ』に何故か適性があったから会得出来た攻撃用スキル。

 少し大雑把になりますが目の前に立ち塞がる敵の群れを一網打尽にする広範囲の衝撃波。

 

 それは一番先頭を走っていたアレンさんが咄嗟に跳んで避けるよりも早く皆さんを纏めて吹き飛ばし、ついでにとばかりに後方の壁も部屋も幾つも吹き飛ばし外に繋がる壁まで丸々吹き飛ばしちゃって、綺麗な夜空が見えちゃってました。

 

「あっ! や、やっちゃいましたっ!?」

 

 【ロングショット】を害虫退治に使ってただけで普通に生活していたから力加減が……。

 

 し、死んでませんよね?

 

「安心なさい。誰も死んでないから。うふふふ、それにしても凄まじいわね。オッタル、同じ事が出来るかしら?」

 

「いえ、魔法やスキルを重ねたとして大きく見劣るでしょう。これで恩恵を得ていないとは……」

 

「そうね。まるで私達が地上に降りる前に存在した太古の英雄達みたいだわ」

 

 ホームがこんな事になっているのにお二人は呑気な様子で話していますが、採用試験に参加しなかった人達は随分と大慌てで動き回っています。

 死んでいないなら大丈夫ですよね? 回復魔法程度は練習続けていれば良かったなあ……。

 

 それで建物を壊しちゃったし、不合格の上に弁償なんて事には……。

 

「合格よ、フェルム。貴女なら他の子達も文句は言わないでしょうし、今日から宜しくお願いね」

 

「は、はい! じゃあ、早速酒場に戻って制服に着替えます。えっと、私って別の大陸出身で此方の文字を未だ覚えていないんですけれど……」

 

 

「酒場……? えっと、ウェイトレスの試験だと思っていたのかしら?」

 

「え? 違うんですか?」

 

 何故かフレイヤ様もオッタルさんも救護に慌ただしく動き回る人達も一斉に視線で同じ事を告げて来ます。

 

 

 マジか、此奴。そんな言葉を感じ取りました……。

 

 

「貴女、そんなに強いのに冒険者には興味が無いの?」

 

「冒険かぁ……」

 

 今から約五年前、私が広い世界に憧れているだけの十七歳だった頃、後に親友となる英雄を騙しての四年間。

 色々な出会いも別れも経験して、世界の広さを知った。御伽話だと思っていた伝説のフライパンだって本当にあって。

 

 

「はい。私の最高の冒険は終わりましたから。世界を知ってドキドキも沢山感じて、無敵で素敵な英雄の誕生を目にして、今はその冒険の末に守った日常を守りたいと思っています」

 

「そう。じゃあ、仕方が無いわね。恩恵を授けたかったけれど、本人の意思が重要だもの。じゃあ、暫くはミアに預けるけれどあの店のシルって娘は目を掛けていて、是非とも友達になってあげてちょうだいね」

 

「シルって確かあの子がそう呼ばれて……」

 

 思い出したのはエルフの店員さんに大切にされていた女の子で……目の前の女神様の変装ですよね?

 相手の持つ属性をみやぶるスキルのお陰で神様だって分かったし、そうしたらシルがフレイヤ様だって……あっ!

 

「はい、喜んで! 是非ともお友達になりたいです!」

 

 これって“今の私は立場があるけれど、お忍びで働いている間だけでもお友達になりましょう”って事ですよね! 

 アストレア様が身分隠して貧民街で歌ったりしていたらしいですし、何となく分かります!

 

「そう。じゃあミアの所に使いを出すから頑張りなさい」

 

「はい! 宜しくお願いします、シ……フレイヤ様!」

 

「ええ、宜しくね」

 

 知らない大陸に来ちゃって少し大変だけれど、まさか女神様からお友達になりましょうって誘われるなんてビックリです。

 これはジルさんと再会した時にお話しすべきですね。

 

 フレイヤ様がその場で紹介状を書いてくれたので急いで酒場の方まで向かって行く。

 ……建物弁償とか言われないでしょうか。友情と経営は別問題よって感じで。

 

 

 ううっ、凄い借金したって知られたらお母さんに怒られちゃう……。今となっては闇の巨人より怖いんだもの。

 

 

 それにしても親友がジルさんで、友達になれそうな女神様の偽名がシルって凄い偶然でビックリしました。

 

 

 

 

「うふふふふふ。エルファスやギルに続いてフェルム。最近は退屈している暇なんて全然無いわ。オッタル、あの子を眷族にしなかった事に何か問題は有るかしら?」

 

「いえ、全てはフレイヤ様の意思のままに」

 

「そうね。それに実は安心しているでしょう? 実力主義で貴方が団長になった以上、フェルムが入団したら団長になってもらわないといけなかったもの」

 

「それもご意思であらせられるならば受け入れるまでです。無論、文字は覚えてもらわないと困りますが」

 

「そうね。あの子、文字が分からないなら先生が必要よね。……それは良いとして、暫くはバベルの部屋で暮らさないと駄目だわ。ゴブニュに修理を依頼しておくとして……オッタル?」

 

「申し訳御座いません。あの娘が無敵とまで評する英雄に少し興味が湧きまして」

 

「……神に嘘は通じないわ。貴方、少しなんてものじゃ無いでしょうに」

 

 

 

 

 

 

「そんな風にフレイヤ・ファミリアのホームが吹っ飛んでててな。何が起きたかは知らねえが、多分荒れるから気を付けろよ?」

 

 アミッドと夜の散歩をした日から数日後、あの後多分忙しくなるだろうからとホームまで送って、俺も急いで戻って行ったんだが、ベルは知らなかったらしく驚いてやがる。

 

 おいおい、情報収取は冒険の基本だぞ?

 

「荒れると言えばリリ、団長とかから何か言われてるか? 俺、多分逆恨みされていると思うんだけれど」

 

「い、いえ、ギルドの査察が入ってから色々と暴かれてそれどころではないみたいです。ソーマ様もお酒造りを一旦禁止される始末だし……」

 

 俺の問い掛けに気まずそうなリリだが、団員がやらかした事を考えりゃそりゃそうだ。

 

 下っ端の団員が普通なら持ってる筈のない神酒(ソーマ)を使って他人を操ろうとしたんだし、酒を管理している団長の関与、つまりファミリア全体の犯行だって疑われて当然。

 

 大手の主神の口添えもあっちゃ内情は知ってたロキも実物を飲んで随分と腹立てていたみたいだし、ギルドだって弱小ファミリアへの反抗だからって軽く扱えない。

 

「その上、大量の神酒(ソーマ)が倉から消えたとかで……いえ、これは余計な話でした」

 

「それはそうと【キュア】」

 

 どうも体の痛みを我慢しているみたいだし、ダンジョンで手酷くやられたってのも考えたが、どうもベルはサポーターを雇ってから順調だって言ってたし、ポーションの類いは支給しそうなもんだからな。

 

「ギル様?」

 

「ちょっと疲れてるみたいだったからな。ちゃんと寝ないとお肌の敵だぜ?」

 

 十中八九、ロキが言ってた儲けの横取りか上手く行かない事への八つ当たりを受けたって所だろ。

 あー、嫌だ嫌だ。ここで乗り込んでぶっ飛ばしてやるとか出来ない自分が嫌だよ。

 

「疲れてるって言えばベル。ポーションで誤魔化しちゃいるが朝から無茶なトレーニングでもしたか? 疲れが見えてるぜ?」

 

 こっちの回復は要らねえな。自業自得の範囲だ。それに随分とご機嫌な様子だし、悪い事が起きたんでも無いだろ。

 

 

「そうなんだ。実は豊穣の女主人のリューさんが週末だけ朝に稽古を付けてくれる事になってさ!」

 

「憧れの相手に目を掛けてもらえて嬉しいってか? そりゃ良い事だ。英雄になるのは力が必要だしな。リリ、此奴っていい歳して御伽話の英雄に憧れてオラリオに来たんだと」

 

「わー!?」

 

「あぁ……」

 

 夢見がちなお人よしだからダンジョンで騙されない為にも注意しておけよ、と冗談めかして伝えりゃベルは恥ずかしかったのか大慌てだし、リリは思い当たる所が多いって様子だ。

 

「にしても夜は武神に稽古を見てもらって、週末は憧れの先輩に鍛えてもらうとか恵まれてるな。まっ、死に物狂いで強くなれよ? ボロボロになって人を助けても、向けられるのは感謝じゃなくて謝罪だ。自分のせいでって心も追い詰めるし、英雄としちゃあ三流以下だぜ」

 

「う、うん。分かった……」

 

 ちょっと厳しすぎたか? でも、英雄ってんなら厳しい条件は当たり前、妥協の先に栄光は存在しないだろ?

 

 ああ、それと……。

 

 

 

「やらかした事があったらケジメはちゃんと付けろよ? 幸せになった時こそ清算を求められるもんだからな。お陰で俺も散々でよ……」

 

 こっちはベルじゃなくてリリにだ。どうも入ってくる噂とか雇った時の態度とかから考えるとやらかしているっぽいんだよな。

 

 それを見抜くのも雇った冒険者としての仕事の内だし、確信がある訳じゃないが、反応からしてクロだとは思う。

 

 だから今回みたいに忠告だけしておこう。所詮は自己満足だ。中途半端だよ、まったく。

 

 

 

 ちょっぴり自己嫌悪をしながら路地裏に。ローズやミアハからは人の少ない場所は避けろって言われたが、俺相手のお客さん、それも少し厄介な顔見知りとあっちゃな。

 

 懐に忍ばせた手鏡で後ろを見れば物陰からチラチラ見える金の長髪、何ならベルと話してる時も高い場所からこっちを覗き見していたが、ベルは気が付いてなかったよな、リリは気が付いてたみたいだが。

 

 

「【テレポート】」

 

「あっ……」

 

 瞬時に相手の背後に移動。俺を見失って困っているが、尾行の才能無さ過ぎるな、この天然。

 

 

「俺に何の用だ? アイズ・ヴァレンシュタイン」

 

「……教えて欲しい事がある。貴方、一体どうやって強くなったの?」

 

 まさか尾行がバレているとは思っていなかったのか、背後から掛けられた声に一瞬ビックリした顔になったアイズだが、直ぐに真剣な顔になって問い掛けを返す。

 少し警戒した様子だし、まさか危惧していた通り、って奴か。

 

「随分と抽象的な質問で困るな。俺は一般的な雑魚ステイタスの下級冒険者だぜ? それに何を……って通じないか。どうせ見えたんだろ、仮面の下」

 

 問い掛けに今度は無言の頷き。うん、天を仰ぎ見るしか出来ないっつーか、実力や正体隠して行動とか慣れない事とかするもんじゃねぇな。

 その具体例がバレバレの尾行してた天然娘だよ。

 

 

 

「ロキから聞いた。貴方は一国の宰相だって。帝国に強くなる為の秘密があるなら教えて欲しい…です。対価は払うので……」

 

「対価ねぇ……」

 

 まあ、良いや。これで脅して来たとかなら敵だと認識するだけだが、ちょっと違うし、ナッジとかオイフェを思い出すんだよな。

 

 復讐者、それが今のアイズから受けた印象だ。前に会った時はそうでもなかったのに、幸せを塗り潰す程の恨みって事か。

 

 

 

 

 

 

 いや、強くなる秘密って言われても、強いソウルを宿す為に才能に合わせて経験を積めとしか言う事が無いし、そもそもソウルについてミアハに聞いても知らないみたいだし、どうなってんの?

 

 

 ウルグを倒す為にソリアスが異世界から喚ばれたって神話にあったが、実は異世界だったりしてる? 

 

 

 

「いや、ねーな」

 

「?」

 

 

 あっ、気にすんな。さてと、どうすっかな。

 

 

 

 




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